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MaaSを日本で導入するメリットとは?今後の課題についても説明

世界中で移動を効率化するMaaSの実証実験が行われていますが、日本でも導入に向けた議論が盛んに行われています。日本にMaaSが導入されると、私たちはどんなメリットを得ることができるのでしょうか? MaaSの導入に向けた課題についても説明します。
日本では政府が2018年の成長戦略でMaaSについて検討を進めると宣言するなど、MaaSの実現に積極的な姿勢を見せています。また、国土交通省も日本版MaaSのあり方や、バスやタクシーにAIや自動運転を活用する際の課題や方向性を議論する有識者会議を開催したり、「都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会」を定期的に実施するなど、検討課題の洗い出しに動いています。

さらに国土交通省は2019年6月に、日本版MaaSの展開に向けた地域モデル構築を推進するため、新モビリティサービス推進事業の先行モデル事業として19 事業を選定しています。これにより北海道から沖縄まで、さまざまなエリアで企業や自治体が参加した実証実験が行われています。

一概にMaaSといっても、地方や都市、あるいはエリアによって抱えている課題が異なり、どんなMaaSを目指すのか、議論を深める必要があります。ここでは日本にMaaSが導入されると、どんなメリットがあるのか? そして、日本版MaaSの導入に向けた課題について説明していきます。

そもそもMaaSとは?

MaaSはMobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)の頭文字を取った略語ですが、「サービスとしての移動」と訳されています。目的地までの移動をICT(情報通信技術)やAIを活用しながら、極限まで効率化することを目指す考え方です。これまで自家用車以外の手段を使ってどこかに移動する場合、どんな経路で、どの交通手段を使って目的地まで辿り着くかは、時刻表や地図を頼りにしていました。アプリやウェブサービスによるルート検索が登場すると、目的地や現在地を入力するだけで、簡単にルートを調べるだけではなく、最短ルート、交通費が安いルートなど複数の行程が提案され、ユーザーが選択することもでき、利便性が高まっています。ただ、検索の対象が鉄道・地下鉄やバスに限られていたり、検索後にチケット予約や決済をしようと思うと、ルート案内アプリでは完結できず、別のアプリやウェブサイトを通じて行う必要がありました。そこで登場したのが、MaaSという概念です。MaaSは移動することをサービスの一環だと捉え、徹底的に効率化・最適化を目指すことで、移動を便利にするものです。

MaaSアプリでの検索では、鉄道や地下鉄、バス、タクシーはもちろんのこと、シェアサイクルやレンタカーなど、あらゆる移動手段を考慮して、もっとも効率的な移動ルートを考案してくれます。さらに検索結果からそのままチケット予約や決済もシームレスで利用者に提供してくれるのが、MaaSの大きな特徴になっています。

さらに従来からある交通網を横断的に検索して、最適なルートを提案するだけではなく、最終的には都市計画に組み込むことも視野に入れています。交通網を再構築し、利用者の要望に応じて自由に運行時刻やルートを変更するオンデマンド交通の活用、自動運転車のモビリティの配車サービスなど、新しい移動手段も積極的に開発・導入することで、移動の効率を追求していきます。その結果、都市部で発生している交通渋滞の緩和、自動車の削減や電気自動車の導入による排気ガスの低減、衰退する地方交通の再興など、現代社会が抱える諸問題の解決が期待されるため、世界中で研究や実証実験が進められているわけです。

日本でMaaSを導入するメリット

MaaSの概念は2016年にフィンランドではじまった実証実験をきっかけに世界中に広がりました。そんなフィンランドで生まれたMaaSを日本で導入すると、どんなメリットがあるのでしょうか?

渋滞の解消につながる

MaaSは電車やバスの時刻表、リアルタイムの運行状況、バスやタクシーなど車両の現在地情報、リアルタイムの渋滞情報など、あらゆる交通データを取得し、それをICT(情報通信技術)やAI(人工知能)で分析することで、移動の効率化を目指していきます。交通機関を使った移動の効率化が飛躍的アップすれば、維持コストのかかる自家用車を利用するメリットがなくなり、街を走る自動車の数が減少すると言われています。また、各車両がインターネットとつながることで、混雑情報をリアルタイムで受け取り、渋滞を避けるルートで走行することも可能になります。その結果、渋滞が大幅に減少・解消すると考えられています。

環境に与える負荷を軽減できる

MaaSによって渋滞が解消すると、アイドリングによって発生していた排気ガスも減少していきます。また自家用車から公共交通機関に切り替える人が増えるため、自動車の台数も減り、排気ガスがさらに減少します。法整備や技術革新が進み、自動運転の電気自動車や、車を共有して利用するカーシェアリングや相乗り型のオンデマンドバスといったサービスも活用されるようになれば、環境に与える負荷も軽減できるはずです。

公共交通機関の利用者数が増える

MaaSの先進国として知られるフィンランドでは、2016年から実証実験が進められていますが、首都ヘルシンキはMaaSの導入以後、移動に占める公共交通の割合が48%から74%に大きく伸びたという調査結果が出ています。反対に自家用車の利用は20%近く減少し、MaaSによって公共交通機関の利用者数が増えることが実証されています。

また、台湾の高雄市では定額制の乗り放題プランを採用したMaaSの実証実験が行われましたが、これにより市民が支払っていた月々の交通費が減少した一方で、交通事業者の収益が拡大したというレポートが発表されています。MaaSの導入によって、交通機関も健全な事業運営が可能になるため、赤字経営が続く日本の地方公共交通機関にとっては朗報だと言えます。

利用者の動向をデータ分析しやすくなる

MaaSが導入され、移動に関するさまざまなデータが集まれば、混雑予測や最適な移動経路の提案に関する精度が高まるのはもちろんですが、いつ、どこに、どんな状況で人々が移動するのか、行動そのものを分析することが可能になります。そのデータを元に、一人ひとりの行動履歴に合わせたショッピング情報の提供や、住まいに関する提案、あるいは保険の案内など、さまざまな分野で消費者にとって利便性の高い情報を提供することができるようになります。

スマートシティの実現につながる

MaaSは移動の最適化に関する概念ですが、リアルタイムの混雑状況や、車両の位置情報など、乗客や公共交通に関する膨大なデータを取得していきます。それらを最先端の情報通信技術やAIなどを使って、分析・予測していきますが、得られる効果は人の移動をスムーズにすることだけではありません。道中にある観光スポットや商業施設と連携し、割引クーポンを提供したり、イベント情報を流すことも容易になります。ただ単に移動を効率化するだけではなく、生活に関連した施設やレジャー施設・観光スポットなどと連動させることで、より付加価値のあるサービスを提供することができ、利便性の高いスマートシティの実現につなげることができます。

高齢者の外出機会が増える

地方では都市部への人口流出によって、公共交通を利用する人が減ったことで、路線を廃止したり、交通事業から撤退する企業も増えています。公共交通が衰退すれば、バイクや自家用車、自転車といった移動手段がメインとなりますが、高齢者の運転リスクが叫ばれており、免許証を自主返納する高齢者が増えています。移動の足を奪われた、高齢者世帯は孤立しがちになり、社会との接点がなくなっていきます。MaaSによって移動手段が確保されれば、高齢者の外出機会も増え、コミュニケーションの機会を増やすことにつながります。ドライバーや街の人との交流が生まれることで、うつ病認知症などのリスクを低減させることができると考えられます。

日本におけるMaaSの3つのタイプ

日本にMaaSを導入するといっても、都市部や地方都市、あるいは郊外や過疎地、観光地など、地域によってニーズや抱えている課題はまったく異なります。そのため、MaaSをいくつかのタイプに分類することで、目的や実現のイメージを整理する動きがあります。代表的な日本版MaaSのタイプをご紹介します。

大都市や地方都市型

大都市の交通手段は主に鉄道や地下鉄ですが、地方都市では交通事業者の採算性が低下しており、自動車への依存が高まっています。また大都市の場合、人口が密集しているため、日常的な渋滞や混雑が発生しており、MaaSも混雑の緩和が主な目的になります。地方都市でも朝夕の通勤・通学時間帯には駅の周辺や、幹線道路を中心に混雑が発生しますが、鉄道網が張り巡らされているわけではないため、路線バスやLRT(路面電車)など、他の交通機関との連携が重視される面があります。

そのほか、大都市では移動する人の数に対して、タクシーの台数も不足しがちなため、混雑を緩和する相乗りタクシーの導入や、駅間などの短距離移動に最適なシェアサイクルの拡充なども想定されます。一方、地方都市ではピーク時に路線バスの本数が不足したり、居住エリアが点在しているため、運行時間やルートをユーザーの要望に応じて自由に設定できるオンデマンド交通の活用に見込まれます。

郊外や過疎地型

地方の郊外や過疎地では、地域交通が衰退しており、公共交通の利便性が極端に悪い交通空白地帯も拡大しています。そのため移動の主体は自動車で、自家用車への依存は年々高まっています。一方で運転免許を返納する高齢者や、自動車を持たない世帯の移動をどのように確保するかも課題となっています。こうした地域では新たな交通網を構築するのはコストもかかり難しいという現状があります。そこで病院や道の駅・郊外型の商業施設といった、すでにある生活拠点を中心とした自動運転サービスを開発したり、貨物の運搬・配達と乗客の輸送を組み合わせた新しい輸送サービスの創造が求められます。

観光地型

地方の観光地では空港や主要駅からの移動手段である、二次交通が不足しがちです。そのため、観光地型MaaSでは空港アクセス交通や都市間幹線交通との連携がカギになります。また増える訪日外国人の移動をサポートする必要があります。そのほか観光スポットが点在するエリアでは観光客の回遊性を向上させて、域内をスムーズに移動できるようサービスの連携や新しい輸送サービスの開発も課題となります。したがって、柔軟にルートを設定するオンデマンド交通あるいは環境に配慮したスローモビリティといったサービスとの相性が良いと考えられます。

MaaSが普及するまでの5つのレベルとは?

実現すれば飛躍的に移動の効率がアップするMaaSですが、現実には公共交通といってもさまざまな事業者が参入しています。また、飛行機、鉄道、バス、タクシー、シェアサイクルなど、あらゆる移動サービスをシームレスにつなぐ必要があり、利用しやすいようひとつに統合するには多くの障壁があります。そんななか、スウェーデンにあるチャルマース工科大学の研究者が、MaaSの実現に向けた統合レベルを0〜4に分類し、公表しており、MaaSの進捗度合いを示す指針として活用されています。

レベル0

MaaSに向けた統合が、まったく進んでいない初期の段階がレベル0です。鉄道やタクシー、バスなど、それぞれの事業者が独立して、独自のサービスを提供している状況を指します。目的地までの経路検索や時刻表検索も、事業者をまたぐような横断的な検索はできず、その事業者の交通機関に限った乗り換えや案内になります。また、料金の支払いもそれぞれの事業者に対して行うため、乗り換えるごとにチケットを購入したり、予約も各自のウェブサイトやサービス窓口を通じて行うことになります。

レベル1

レベル1ではMaaSの実現に向けて「情報」が統合された状態を指します。複数の交通事業者の運行情報や運賃に関する情報が統合され、それをひとつのアプリで検索することができます。たとえば、乗り換え案内サービスやマップアプリによる経路案内がこれに当たります。出発地と目的地を入力すれば、最適なルートが複数提案され、それぞれの料金や所要時間も確認することができる状態です。現状の日本は、このレベル1にとどまっていると言えます。

レベル2

レベル2は「予約・決済の統合」です。情報が統合され、複数の交通事業者を使ったルート検索が実現するレベル1から進み、予約と決済までが、ひとつのプラットフォームで完結する状態がレベル2になります。現在の日本でもSuicaやPASMOといった交通系ICカードを利用すると、JR線や私鉄線、バスやタクシーなど異なる事業者での支払いが可能ですが、ルート検索との連携が不十分だったり、交通系ICカードでの支払いに対応していないレンタカーやシェアサイクルといった交通手段もあり、予約・決済が統合されているとは言えない状態だと考えられています。

レベル3

続くレベル3は、「サービス提供の統合」になります。事業者同士が連携を取ることで、複数の交通機関を使って目的地まで移動したとしても、料金が統一されていたり、あるいは定額の乗り放題サービスが利用できるプラットフォームが整備されるなど、利用者が複数の事業者が存在していることを意識することなく、まるでひとつの交通機関を利用しているかのようなサービスを利用できる段階のことを指します。Whimが普及しつつあるフィンランドが、この段階にあると言われています。

レベル4

MaaSの最終到達点は、事業者のレベルを超えて、国や自治体が都市計画や政策にMaaSの概念を組み込むことによって、渋滞解消、地球環境の保護、高齢者や過疎地での移動改善など、さまざまな社会問題の解決に向かうことにあります。いち事業者の企業努力だけでは実現不可能で、場合によっては法律や社会システムの変更も必要となります。

日本でMaaSを普及させるための課題

まだレベル1にあると見られる日本のMaaSですが、今後、計画を進歩させていくためには、どんなハードル超える必要があるのでしょうか? 日本版MaaSが抱える問題点を整理していきます。

交通事業者のデータのオープン化

鉄道、地下鉄、路線バス、タクシーだけではなく、高速バスや飛行機、フェリー、シェアサイクルなどあらゆる交通手段を連携させて移動を効率化するMaaSでは、最適なルートを提案するために交通事業者が持っているデータをオープン化し、共有することが欠かせません。時刻表やリアルタイムの混雑状況はもちろん、車両の位置情報、乗客の行動履歴など、膨大なデータをやりとりします。現状では各事業者がそれぞれデータを保有し、データの形式も異なるため、どんな情報をオープンにするのか? データの形式や取り扱い方はどうするのか?など、交通事業者だけではなく、データの分析やアプリ開発に関与するIT企業とも協議を重ねる必要があります。どこまでデータをオープンにできるかで、提供できるサービス内容や効果的な移動が実現できる可能性が変化します。

料金体系の設定

MaaSでは公共交通の利用を促進するため、料金体系も柔軟に設定する必要があります。たとえばタクシーも事前に運賃が確定する仕組みを導入したり、利用頻度が高い人ほど費用を抑えて移動できるよう、すべての交通機関が定額で乗り放題になるサブスクリプションサービスも導入するアイディアもあります。実際、MaaSを世界に先立って導入しているフィンランドではサブスクリプションや、移動手段を問わず利用するエリアによって料金が変わる制度を組み合わせ、効果をあげています。

各種法律の整備

MaaSでは、従来の交通網を使った移動だけではなく、オンデマンド交通やライドシェア、自動運転のバスやタクシーなど、新たな交通手段との連携も視野に入れ、移動の効率化を追求します。しかし、アメリカで人気となっているUberのような一般のドライバーが自家用車に乗客を乗せてタクシーのように目的地まで運ぶライドシェアサービスを日本で実施するためには法改正が必要となります。こうした行為は「白タク」と呼ばれ、道路運送法第78条で禁止されているからです。また道路運送法第4条でも、タクシー事業には国土交通大臣の認可が必要であると定められています。

さらに現行の道路運送法では、バスは任意のルートやダイヤで走ることができずに、事前に運行ルートや時刻表を届け出る必要があります。要望があった地域にその都度、乗合バスを走行させるオンデマンド交通が法律の壁によって、不可能となっているわけです。運賃及び料金の設定・変更についても、国土交通大臣の認可と届出が必要なため、サービスにあった料金を任意で設定して実証実験を行うことも事実上、不可能となっています。

MaaSを導入する地域の施策と整合性を図る

日本では人口の減少と高齢化に直面しており、医療・福祉施設、商業施設や住居などをまとまって立地することで、コンパクトで利便性の高い街づくりに都市計画を見直す機運が高まっています。そこで都市再生特別措置法が改正され、行政と住民や民間事業者が一体となったコンパクトなまちづくりを促進するための立地適正化計画制度が創設されていますが、MaaSによる移動の効率化も大きな影響を受けます。この制度と整合性を図りながら、どのように交通網の再編や新しい交通サービスを創造していくのか、検討を重ねる必要があります。

日本でのMaaSの普及状況を把握しておこう

日本でも政府や国土交通省、地方自治体、そして交通事業者を中心とした民間企業がMaaSの導入に向かって議論を重ねています。一方で、都市部や地方、観光地などそれぞれ抱える問題や交通ニーズが異なるため、どんなMaaSを導入し、進めるのか調整が必要です。また法改正や交通データのオープン化など課題もあり、引き続き議論や実証実験の進捗を見守っていくことが大切です。

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