RPAが経理業務に与える影響とは?導入事例や注意点について説明

経理は入力や仕分け作業など、単純作業が多い業種です。RPAはロボットにルーティンワークの自動化させるツールですが、経理の現場でも採用されつつあります。RPAで実際にどんな処理が可能なのか? RPAを経理業務に導入する際の注意点とともに解説します。

経理業務の中心はパソコンを使った入力作業やデータの確認という会社も多いのはないでしょうか? また、毎週、毎月、同じような処理を繰り返すことになります。こうした繰り返しの処理や仕分けのルールが決まっている経理の業務を自動化しようという動きがあります。とくにアメリカでは経理業務にRPAという自動化ツールを採用する企業が増えています。日本でも人材不足や働き方改革が叫ばれる中、自動化ツールに関心を持つ経理担当者も増えています。ただ、ロボットが入力することへの抵抗感や、間違って処理されてしまった場合のリスクなどから、否定的に捉える人も少なくありません。そこで、経理業務に自動化ツールのRPAを導入したら、どんな効果があるのか? あるいは導入する際の注意点など、RPAが経理業務に与える影響を解説します。

RPAの概念を知っておこう

RPAはRobotic Process Automation(ロボティックプロセスオートメーション)の略で、「ロボットによる業務の自動化」と訳されています。命令に従って自動的に処理を行うロボットを使って、業務を効率化させる試みは、工場の生産ラインなどを中心に、古くから行われてきました。一方、オフィスワークではファックスやパソコン、e-mailなどスムーズな業務を手助けするコミュニケーションツールなどは普及するものの、事務作業の多くは長らく人力に頼っていました。事務的な作業の中には単純なルーティーンワークもあり、量が膨大になれば、手間も時間もかかります。人手不足などを背景にソフトウェアを使って自動処理しようというのが、RPAの発想です。なお、RPAでは一度、人間が行なっているオフィス業務の手順をソフトウェア型ロボットに覚えさせることで、自動的に実行できるようになります。人間による作業とは異なり、正確でミスがなく、なおかつ大量の処理をスピーディに行うことができるため、人件費の削減や業務の効率化が期待できます。そのため「デジタルレイバー(Digital Labor)」や「仮想知的労働者」とも呼ばれることもあります。

経理にRPAを導入するメリットとは?

経理業務は入出金の管理から財務諸表の作成まで、さまざまな内容がありますが、大半はパソコンを使ったデータの入力や確認作業です。しかも、毎日発生する現金出納のような処理から、月末に行う取引先への請求書の作成、売掛金の回収あるいは従業員への給与の支払など、サイクルの決まったルーティン業務が多くあります。こうしたパソコンで完結し、サイクルが決まっている業務はRPAが得意とする領域です。経理にRPAを導入すると、どんなメリットがあるのでしょうか?

圧倒的に業務が早く進む

RPAによって自動処理を行うロボットは、一度実行すると、処理が完了するまで、ひたすらルールに沿って、動作を繰り返します。インストールしたサーバーやデスクトップが稼働しているなら、24時間365日、処理をすることも可能です。人間のように疲れて処理が遅くなったり、休憩をする必要もありません。そのため業務の処理スピードが圧倒的に速くなります。

ミスを抑えて仕事を進められる

経理業務はミスとの戦いです。他の部署の業務とは違い、数字や仕分けを間違えたとしたら、発見し、必ず正す必要があります。その点、RPAのロボットはシナリオ化された業務を正確に遂行してくれ、事前の設定に誤りやバグなどがなければ、ミスのない経理業務が可能となります。ミスがほとんど起こらないRPAでの自動処理は経理業務にとって、非常にありがたいメリットではないでしょうか?

人材不足の解消につながる

膨大なデータを扱えるサーバー型のRPAなら100体以上のロボットを同時に稼働させることも可能です。人間のように一人前に育つまで、つきっきりで面倒をみる必要もありません。RPAを導入すれば、複数の人間で行っていた入力作業でもロボットは同時に進めてくれます。人材不足が深刻になっている現場でも、生産性の高い仕事を維持することができます。

人件費を削減できる

RPAによって経理事務が自動化されると、人件費が削減できます。処理する規模が大きければ、それだけメリットが大きいと言われ、大企業を中心にRPAが採用される一因となっています。RPAツールにもライセンス料などコストが発生しますが、人件費と比べると、大幅にコストを削減することができます。なお、平均的なRPAを導入すると、コストはフルタイムで働く人件費の約1/3程度に抑えられると言われています。RPAを導入すれば、人件費を抑えながら健全な事業運営を続けることができるというわけです。

特別なプログラミング知識が不要

RPAでは、日頃、人間が行なっていて自動化させたいオフィス業務の手順を「シナリオ」と呼んでいます。この「シナリオ」をソフトウェア型ロボットに覚えさせることで、自動的に実行させるという仕組みになっています。シナリオの作成方法はRPAツールによって異なりますが、同じく自動化ツールとして知られるVBAなどと異なり、プログラミングに関する専門知識は必要としないと言われています。こうした取り扱いのしやすさもRPAが普及する要因となっています。

経理におけるRPAの導入事例を紹介

日本国内のRPA市場は右肩上がりで、大手企業を中心に導入が広がっています。経理の現場では、どのような処理をRPAで自動化しているのでしょうか? 導入事例を紹介します。

クレジットカード入金の自動処理

クレジットカード会社では、毎月、個人からの入金に際して、膨大な量の消込作業が発生します。ひとつひとつの入金を人間が目視で確認し、消込を行っていると、時間も手間もかかってしまいます。口座からの引き落とし日も決まっているため、RPAでの自動処理に向いていると言えます。

所定のファイルの自動送信

経理書類に限らず、RPAではメールの送受信を自動化できます。たとえば、請求書をメールで送付する際の件名や本文入力、ファイル添付と送信をひとつの手順としてRPAに記憶させておけば、自動で送信してくれます。送付したい書類を共有フォルダなどに入れておけば、送信が可能となります。

請求書や領収書を帳票に反映させる

請求書や領収書が電子データ化されていれば、帳票に反映させる作業もRPAで自動化できます。計上すべき金額を自動で取得して、会計システムに反映できるので、ひとつひとつ入力していた作業負担がなくなります。企業の規模が大きくなればなるほど、請求書や領収書の量は膨大になるため、自動化の恩恵は大きいはずです。

顧客ごとの売上伝票管理

顧客ごとにIDをつけておけば、売上伝票と紐づけて管理することも容易になります。顧客数が多いほど処理が早く終わらせることができます。また売上伝票を振替伝票として起票する、いわゆる転記業務も自動化できます。

経費計算の自動化

交通費の精算も頻繁に発生する事務処理です。手順も決まっているため、シナリオ化しやすい業務だと言えます。たとえば交通費の領収書を特定のフォルダで管理しておけば、自動的に経費の精算システムに登録するような指示もできるでしょう。

RPAの導入で経理の仕事なくなる?

数字の入力や消込のようなデータの付き合わせが多い、経理業務はRPAとの相性が良い分野のひとつです。それだけに本格的に導入されると、自分の仕事がなくなってしまうのでは?と不安になる経理担当者もいるかもしれません。ただ、それは杞憂です。ある程度、経理スタッフが減る可能性はありますが、RPAで経理スタッフが不要になることはありません。

ロボットは疑問を持つことがない

経理業務を自動化させたとしても、ロボットは命令されたことしか遂行できません。必ず事前に設定したシナリオに基づいて動作し、また勝手な動作をすることはありません。そのため、あくまでRPAは人間の補助的な役割に過ぎません。たとえば目の前の事象に対して疑問や改善点を見出すことができないというデメリットもあります。効率化や改善が求められる経理業務では、人間の知恵や考え方が不可欠だと言えるでしょう。

会計情報を事業運営に役立てられない

ロボットには、情報やデータを整理して一定の業務として自動化することはできますが、会計情報として集まったデータから、どんな事業に注力すれば良いか、業務の改善点はどこにあるか、など分析し、経営判断に生かすことはできません。

RPAを使いこなせる経理は重宝される

RPAを導入することで経理の仕事が効率化されるため、導入や検討を進める企業も増えています。そのため、RPAを使いこなすことができ、さらに経理に精通している人は重宝される時代に来るはずです。問題点や改善点を発見してRPAのシナリオを改善したり、会計業務としての専門性を高めていくことで、将来的に必要とされる経理スタッフになることができます。

RPAで経理業務を自動化させる際の注意点

一方で経理業務をRPAで自動化させる際に、注意が必要な点もあります。思わぬトラブルによって、経理処理が停滞してしまわないよう、事前に把握しておきましょう。

自動化する経理業務を可視化する

自動化が進むと、ロボットの処理に疑問を持たず、任せてしまいがちです。そのため業務マニュアルや日々の仕事の進め方を記載したフロー図など、きちんとこれまでの業務とロボットの処理が一致しているのか、可視化しながら確認する必要があります。

RPAツールごとの特徴を比較する

RPAツールを提供している企業が増えており、製品ごとに特徴を持っています。経理処理に向いているかはもちろんですが、自社のやり方を最適化できるRPAツールはどれなのか、比較検討しながら、導入を進めていくと良いでしょう。

常に業務改善の意識を持ち続ける

RPAによるロボット処理が当たり前になると、日々の業務がスムーズに進むため、あまり疑問を持たなくなってしまいがちです。ただ、もっと改善できるポイントはないか、常に業務改善の意識を持ち続けることが大切です。RPAを活用してもっと効率的な事業運営ができるかもしれません。

エラーが発生したときの対応を考えておく

RPAを導入したあとに困るのが、エラーやトラブルが発生したときです。エラーを修正するのはもちろんのこと、なぜエラーが発生したのか、同じミスを繰り返さないためにも原因を追求することが大切です。素人ではわからないこともあるので、カスタマーサポートが整っているツールを導入するのが良いでしょう。同時にRPAに強い人材を育成したり、配置することも考えておきましょう。

無料でツールを試せるかどうかを確認する

可能なら自動化ツールを本格的に導入する前に、トライアル期間として無料で一部機能が試せるサービスを選択すると良いでしょう。本当に経理を自動化すると、効率が上がるのか? 効率が上がったとして、経理スタッフは次に何をすべきか? さまざまなシミュレーションをするためにも、無料で試せるツールを選択すべきです。

コストパフォーマンスを考えてツールを導入する

自動化すれば、経理担当者の負担は軽減されますが、自動化にかかるコストが人件費よりも大きければ、ツールを取り入れる意味がありません。導入費用や維持管理にかかる費用は人件費と比べて、どれくらいコストパフォーマンスが良いのか? 便利さにのみフォーカスするのではなく、費用対効果を考えることでRPAのメリットを存分に活かすことができるはずです。

RPAが経理業務に与える影響を知っておこう

経理は入力や仕分け作業など、単純作業が多い職種のため、RPAによる自動化を検討したくなるはずです。とはいえ、メリットだけではなく、デメリットもあります。RPAによって経理業務がどんな影響を受けるのか、事前にじっくりと考えてから結論を出しても遅くはないでしょう。

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