ドイツのアウディが2017年に「Audi A8」で口火を切り、ホンダが2020年11月に自動運転システムのTraffic Jam Pilotで自動運転レベル3の型式指定を取得し、レベル3をめぐる競争が激化していますが、レベル4をめぐっては限定された領域内での自動運転が対象となるため、バスやタクシーなどの移動サービス会社の参入も目立っています。「高度な自動運転」と呼ばれる。自動運転レベル4の技術や、国内外の開発状況について解説します。
国土交通省が定める自動運転レベルとは?
レベル4について語る前に、自動運転レベルの全体像を把握しておくことが大切です。現在、多くの国ではアメリカの民間団体であるSAE(Society of Automotive Engineers)が公表している6段階の自動運転レベルを参考にしながら、議論が進められています。これはドライバーと車が担う運転動作の比率や、テクノロジーの到達度、走行可能エリアの限定度合いなどから、自動運転を定義づけたもので、レベル0からレベル5までの6段階で分類されています。
自動車の自動化レベルを分類したもの
自動運転レベルは、ドライバーと車が担う運転動作の比率や、テクノロジーの到達度、走行可能エリアの限定度合いなどから、自動車の自動化レベルを示しています。かつて日本では、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)の定義を用いるケースが多く見られましたが、現在はSAE(Society of Automotive Engineers)の6段階の自動運転レベルが用いられています。
自動運転技術はSAEが標準化している
SAEはSociety of Automotive Engineersの略で、1905年に設立された学術団体が母体になった組織です。自動車に限らず、航空宇宙や産業車両など、幅広い輸送技術にかかわる研究者や技術者が会員になっており、あらゆる乗り物の標準化・規格の制定を行っていますが、自動運転レベルの定義も公表しています。米運輸省道路交通安全局(NHTSA)が2016年にSAEの基準を採用したことから、世界基準として定着しつつあります。
自動運転と見なされるのは「自動運転レベル3」以上
6段階の自動運転レベルにおいて、レベル0〜2とレベル3以上では、その内容が大きく変化します。レベル0〜2では運転の主体が人間で、自動運転の技術はあくまで運転の補助や支援にとどまります。しかし、レベル3になると運転の主体がシステム側に変わり、ここからレベル5までが実質的な「自動運転」になります。なお、レベル0が自動運転なし、レベル1が運転支援、レベル2が部分的自動運転、レベル3が条件付き自動運転、レベル4が高度な自動運転、そしてレベル5が完全自動運転と、それぞれのレベルを表現することができます。
自動運転レベルのごとの特徴を解説
自動運転では、SAEによる6段階の自動運転レベルが基準になっています。各レベルには定義があり、それぞれどんな状態を示しているのか理解しておくと、自動運転への理解が深まります。自動運転レベルのごとの特徴や違いを解説していきます。
自動運転レベル0
現在、路上を走っている車の多くはレベル0です。ドライバーがすべての動的な運転タスクを実行している状態を指します。従来の車にも速度超過やライトの点灯など、さまざまな予防安全システムが搭載されていますが、システムが警告を発するだけのものは、車の制御に影響を与えないため、自動運転レベルは0とみなされます。
自動運転レベル1
レベル1は、運転支援技術が搭載された車を指します。アクセルとブレーキ操作による前後の加速や減速をシステムが制御、もしくはハンドル操作による左右の制御のどちらかの監視・対応をシステムが担っており、残りの監視・対応はドライバーが行うような車です。たとえば、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)という高速道路などで使用されるような、あらかじめ設定した速度で自動的に加減速を行うことで、前を走る車に追従する技術がありますが、これはレベル1に相当します。また、緊急自動ブレーキや、車線を逸脱したことを検知するとステアリング操作をアシストする車線維持支援(LKAS)もレベル1に該当します。
自動運転レベル2
レベル2は、部分的に運転が自動化された車両で、アクセルとブレーキ操作による前後の加速や減速の制御と、ハンドル操作による左右の制御の両方をシステムが担うことになります。ただ、運転の主体はドライバーで、システムはあくまで運転を支援する役割に止まります。そのため、ドライバーは常にハンドルを握って、運転状況を監視操作することが求められます。こうした事故を未然に防いだり運転の負荷を軽減したりするための先進運転支援システムは「ADAS(Advanced driver-assistance systems)」と呼ばれており、ADASの機能が向上して、障害物を100%検知し、100%正しい判断を下し、100%正確な制御を行うレベルに達すれば、完全なる自動運転技術が確立したことになると言われています。
Toyota Safety Sense(トヨタ自動車)
TOYOTA Safety Senseはトヨタ自動車が開発する安全技術です。カメラとレーダーを使って周囲の情報を取得。そのデータをもとに危機回避の警告やアナウンスをすることで、ドライバーの運転負荷を軽減します。
Teammate(レクサス)
レクサスに搭載されているTeammateは、AI技術を活用した高度運転支援技術です。高速道路や自動車専用道路での速度調整や車線維持、車間維持をサポートする「Advanced Drive」という機能のほか、スイッチ操作で駐車を支援する「Advanced Park」といった機能を搭載しています。
Lexus Safety System(レクサス)
レクサスに搭載されているLexus Safety Systemは、メンテナンスに始まり、事故回避や事故被害の軽減を目的とした予防安全、事故が起きてしまったときの被害を軽減する衝突安全、そして事故後の迅速な救護支援までをトータルでサポートする「予防安全パッケージ」です。街中での安全運転を支援する技術として、プリクラッシュセーフティや、ロードサインアシストなどがあり、高速道路での運転支援にはレーダークルーズコントロール、レーントレーシングアシストなどがあります。そのほか駐車場での安全をサポートする安心後車アシストやパーキングサポートブレーキなどがあります。
アイサイト・アイサイトX(SUBARU)
スバルの先進運転支援システムはアイサイトシリーズです。高速道路などでアクセルやブレーキ、ステアリングの操作をアシストしてくれる「アイサイト・ツーリングアシスト」のほか、新型レヴォーグなどに搭載されている最新の高度運転支援システムで、渋滞時のハンズオフや発進をアシストする「アイサイトX」があります。
プロパイロット(日産自動車)
プロパイロットの第1世代では、一定速度域でのインテリジェントクルーズコントロールやハンドル支援が搭載されていました。2019年9月に発売されたスカイラインには第2世代のプロパイロット2.0が搭載され、高速道路走行中に一定条件下ならハンズオフが可能になりました。また、ナビと連動することで、目的地を設定するとアクセルやブレーキ、ステアリングを制御して、ルート上にある高速道路の出口まで運転支援を行ってくれる機能もあります。
Honda SENSING(ホンダ)
Honda SENSINGには、アダプティブクルーズコントロール、車線維持機能、道路標識認識機能、自動ブレーキシステムなどの機能が搭載されています。アダプティブクルーズコントロールとは、アクセルやブレーキをコントロールし、事前に設定した速度で走行しながら、先行車との車間距離を維持する機能です。
i-ACTIVSENSE(マツダ)
マツダのi-ACTIVSENSEは、ミリ波レーダーやカメラを使った先進運転支援システムです。ドライバーの安全運転をサポートする「アクティブセーフティ技術」と、衝突回避などの事故リスクを軽減する「プリクラッシュセーフティ技術」の大きな二つの技術が搭載されています。走行速度を自動コントロールする「マツダレーダークルーズコントロール」や、車線キープを支援する「レーンキープアシストシステム」などの機能があります。
自動運転レベル3
レベル3は条件付き運転自動化を意味し、運転の主体がドライバーからシステム側に変わる点で、レベル0〜2と大きく異なります。厳密にいえば、このレベル3からが自動運転です。ただ、一定の条件下ですべての運転操作をシステムが行いますが、緊急時にはドライバーが運転操作を担うことになっています。海外ではドイツのアウディが2017年に「Audi AIトラフィックジャムパイロット」というシステムを搭載した「Audi A8」を発売しています。同システムは高速道路や中央分離帯のある片道2車線以上の道路で、時速60キロメートル以下の低速で車がスムーズに流れているときにドライバーに代わってシステムがすべての運転操作を引き受けることができるというもので、レベル3に相当しますが、各国の法整備がレベル3に追いついていなかったため、レベル2に相当するADASを実装して販売されています。
Audi AIトラフィックジャムパイロット(アウディ)
Audi AIトラフィックジャムパイロットは、一定の条件下での運転の完全な自動化を実現したレベル3の自動運転システムです。高速道路や自動車専用道路で、時速60km以下で走行しており、前後に車両が詰まった運転の状態になった場合に、システムが運転操作を引き受けてくれるというものです。自動運転の条件が満たされると、ビジュアルサインで、ドライバーにシステムが作動可能であることが伝えられる仕組みになっています。
同一車線のなかであれば発進から加速、ステアリング、ブレーキまで、すべての運転操作をドライバーに代わって引き受けてくれるため、アクセルペダルから足を離し、一定の状況下であれば、ハンドルから手を離すこともできます。
Traffic Jam Pilot(ホンダ)
ホンダは台数を限定する形でしたが、同社のレベル3システムである「Traffic Jam Pilot」を搭載した「LEGEND(レジェンド)」を市販しました。システムによる制御によって、ハンズオフでの操作になります。このTraffic Jam Pilotが作動するには条件があり、高速道路や自動車専用道路で、渋滞または渋滞に近い混雑状況で、前後に車がいる状態、さらに速度が時速30キロ未満(作動開始後は時速約50キロ以下)となっています。
HiPhi X(Human Horizons)
HiPhi Xは、中国のスタートアップ企業であるHuman Horizonsが開発する電気自動車です。自動運転レベル3の先進運転技術を搭載していると言われ、周囲の環境やドライバー、そして車両のパラメーターと連携しながら、自ら学習する「自己学習スマート車両」だと説明されています。ソフトウェアは自動的に常に最新バージョンにアップデートされると言います。
自動運転レベル4
レベル3では緊急時にはドライバーが運転操作を行うため、ドライバーはすぐにハンドルを握れる体勢を取ったり、安全に走行できているか、道路の状況や周囲の車などに注意を払っておく必要がありますが、レベル4になると「限定領域内」という言葉がつきますが、すべての操作はシステムが行います。限定領域内とは“高速道路内”や“平均時速50キロメートルの都市環境”など、自動運転が走行できるエリアを限定することを意味しており、あらかじめルートが決まっている路線バスや、空港内など特定の地域内を走行する送迎用のバス、広大なテーマパークなど商業施設内の交通手段となる小型タクシーといった移動サービスとの相性が良く、開発が進められています。なお自動運転レベル4は「高度な自動運転」と呼ばれています。各社の開発状況は後述します。
自動運転レベル5
自動運転レベル5は完全な自動運転を指し、走行エリアの限定がなく、いまの車と変わらず、どこを走行しても問題ありません。運転はすべてシステムが担当するため、ドライバーが不要になるだけではなく、ハンドルやアクセル、ブレーキなど運転席を設置する必要がなく、車内の空間デザインの自由度が格段に増すと言われています。
テスラ
テスラはアメリカの電気自動車メーカーですが、独自のコンセプトを持つ自動運転レベル5のシステムを開発していると言われています。現在、各社が開発する自動運転技術の主流は、カメラやセンサーが外部情報を取得し、それを解析することで、アクセルやブレーキ、ステアリングをAIが制御します。またGPSや高精度3次元マップのデータも拠りどころにしているのが特徴です。こうしたシステムではマップデータが整備されていないエリアでは、完全な自動運転を実現できないと言われています。そこで、テスラでは地図を使わずに自動車が得たセンターデータだけで自動運転を行う手法を模索していると言われています。
日本の自動運転レベル4解禁はいつ?
日本では、各社の開発が計画通りに進み、法律やインフラの整備など、環境が整えば、レベル4の解禁は2025年ごろとなると予想されています。自動運転に対する国民の理解が深まり、高精度3次元マップ・ダイナミックマップをはじめとした、インフラ協調システムの確立も欠かせません。そのほか情報センターや各車両がやり取りするデータの基準作成など、高度な自動運転であるレベル4の実現に向けた課題はまだまだ残されています。
海外における自動運転レベル4の開発状況
海外ではレベル2からレベル3を飛ばして、一足飛びにレベル4の開発を目指すメーカーが多いというのが特徴です。欧州ではドイツを中心に開発が進められ、アジアでは中国がEVや自動運転の開発に力を入れています。
ボルボ
スウェーデンの自動車メーカーであるボルボも、一足飛びにレベル4の開発に力を入れており、2018年6月には、2021年にも自動運転技術を搭載した新型SUV「XC90」を発売すると発表しています。この新型XC90には「Highway Assist」と呼ばれる自動運転機能が搭載される予定で、クラウド上にある情報をもとにシステムが車をナビゲーションし、LiDAR(ライダー)と呼ばれる装置や車載カメラ、車間探知レーダーを駆使して、車両を目的地まで走らせると言います。さらに2030年をめどに完全自動運転の実現を目指すという計画も発表しています。
GM
GMは傘下の自動運転開発会社クルーズを中心にレベル4のEVの開発を進めています。一時は無人運転の量産車を2019年にも実用化すると、計画を発表していましたが、延期されており、まだ新たなスタート時期についての発表はありません。
Google系の自動運転車開発部門「ウェイモ」
レベル4のサービス提供において、先行しているのが、Google系の自動運転車開発部門「ウェイモ」です。同社は米アリゾナ州フェニックスで2018年12月から自動運転タクシーの有料配車サービス「waymo one」をスタートさせています。当初は安全を確保するために、セーフティドライバーが同乗してサービスを提供していましたが、オペレーターなしでのサービス提供も試験しています。
日本でも自動運転レベル4の開発が進んでいる
最後に日本での自動運転レベル4の開発状況をいくつかご紹介します。自動車メーカーだけではなく、ロボットベンチャーのZMPなども参入しているのが特徴です。
トヨタ自動車の「e-Palette」
トヨタ自動車は2018年1月にラスベガスで開催されたCES 2018で「e-Palette(イーパレット)Concept」を発表しています。e-Palette(イーパレット)はAutonomous Vehicle(自動運転車)とMaaSを融合させたトヨタが掲げる自動運転車を利用したモビリティサービスを示す造語「Autono-MaaS」を具現化するコンセプトカーで、低床の箱型デザインで、室内空間が広く取られるなど、ドライバーのいらないレベル4を強く意識した車両構造を採用しています。
DeNAと日産自動車が開発する「Easy Ride」
ディー・エヌ・エー(DeNA)と日産自動車が共同で開発する自動運転車両を使った新しい交通サービスが「Easy Ride(イージーライド)」です。2020年代の早期に本格的なサービス提供を目指し、実証実験を繰り返しおこなっています。遠隔地になる管制センターのサポートを受けながら、無人でタクシーが自動走行するサービスです。
ロボットベンチャーのZMPも開発に取り組んでいる
ロボットベンチャーのZMPはタクシー会社などと共同で自動運転サービスの実用化を2020年にもはじめる計画を持っています。まずは空港の制限区域をターゲットに事業化をスタートさせる計画です。
UDトラックスはトラックの自動運転化に注力している
スウェーデンのボルボ・グループの子会社であるUDトラックスが日本国内でレベル4技術を搭載した大型トラックの走行デモンストレーションなど、各地で実証実験を行っています。自動化や電動化を2020年にかけて徐々に実用化し、2030年には完全自動運転と大型フル電動トラックの量産化を掲げています。
自動運転レベル4の開発状況を注視しよう
ホンダによる自動運転レベル3の型式指定取得に関するニュースにわいたのも束の間、次なる自動運転レベル4に向けた開発競争が水面化で行われています。レベル4とはどんな技術なのか、自動運転への理解を深めながら、開発の進捗を見守っていきましょう。