2020年11月11日、Hondaが世界初となる自動運転レベル3の型式指定を取得したというニュースが世界を駆けめぐりました。日本では2020年4月に改正道路交通法と改正道路運送車両法が施行しており、自動運転レベル3の公道での走行も問題ありません。『技術のホンダ』と言われ、独創性にあふれた技術で世界をリードしてきた同社がふたたび世界を驚かせようとしています。そんな同社の自動運転社会に向けたコンセプトや今後の方針を解説します。
自動運転の普及が求められる社会的な背景とは?
衝突被害軽減ブレーキや、車線逸脱防止支援システム、あるいはアダプティブ・クルーズ・コントロールなど、自動車には先進運転支援システムが搭載され、年々、安全性が高まっています。そんななか人からシステムへと運転の主体を変える自動運転の研究に着手する自動車メーカーも増えています。どうして人々は自動運転の普及を求めるのでしょうか?
交通事故の多発
交通事故は年間47万2165件発生し、約58万人(ともに2017年)が負傷しています。減少傾向にあるとはいえ、まだ非常に多くの交通事故が発生していることになります。また、交通事故が起きる原因として、安全不確認や脇見運転、動静不注視が上位で、大半がドライバーの不注意・判断ミスによるものです。ミスをしがちな人間からシステムへと運転を担う主体が自動運転の普及によって交代することで、交通事故の件数を大幅に削減すると、期待されているわけです。
都心部の交通渋滞の深刻化
自動運転によって効率的な運転ができるようになれば、渋滞問題を解消することにつながると言われています。とくに都市部の交通渋滞は深刻化しています。アメリカのミシガン大学によると、自動運転による車両が一台走行するだけで、渋滞が緩和すると言います。先行する車が減速すると後続車がそれを見てブレーキを踏みますが、それが連鎖することで渋滞が発生します。このとき車間距離が短く、より強くブレーキを踏む車がいると、通常よりも早く渋滞が発生するそうです。自動運転車は常に適切な車間距離を取りながら走行しているため、減速のタイミングやブレーキの掛け具合も、迅速で最低限になると考えられています。そのため、自動運転が普及すれば、渋滞が解消されることになります。
環境汚染の拡大
交通渋滞が深刻化すれば、排出される二酸化炭素や排気ガスが増え、環境汚染が深刻化することにつながります。自動運転の普及による渋滞の解消は、環境汚染を抑制することにもなるわけです。
運転負担の増加
少子高齢化による生産労働人口の減少や給料の安さなどが原因で流通を支える、長距離トラックのドライバーが慢性的に不足していると言われています。長時間運転をする必要があり、ドライバーの運転負担の増加が問題視されています。トラックにも自動運転が搭載されることによって、無人で荷物を輸送することも可能になります。
移動コストがかかる
車の運転中は、運転に集中しなければならず、非効率だと言えます。電車やバスでの移動なら、乗客は本を読んだり、パソコン作業をするといった過ごし方で目的地までの時間を有効活用することができます。もし、完全な自動運転が実現すれば、車での移動でも、運転にとらわれない時間の過ごし方ができるようになります。
地方都市の過疎化
日本では東京への一極集中が加速しており、地方の過疎化が問題視されています。人口が減ることで地方交通の収支が悪化しており、路線の廃止や事業からの撤退を決断する事業者も珍しくありません。公共交通がなくなれば、自家用車での移動にますます頼らなければ生活できなくなってしまいます。高齢者にとって運転は大きな負担で自動運転に期待する声があります。
Hondaの目指す自動運転社会とは?
Hondaでは自動運転の技術開発が行われていますが、自動運転の普及によって、どんな社会の実現を目指しているのでしょうか? Hondaのコンセプトを読み解きます。
Hondaの自動運転コンセプト
Hondaでは、すべての人に事故ゼロと自由な移動の喜びを提供するために「ドライバーが心から信頼でき」「思わず出かけたくなる」をコンセプトに自動運転システムの研究開発を行っています。減少傾向にあるとはいえ、年間47万件を超える交通事故が日本で起こっています。そのため、車に乗ることは必ず事故のリスクがつきまとっていることになります。この事故のリスクを極限までゼロに近づけることがHondaのミッションです。
リスクに近づかない、作り出さない
Hondaは事故ゼロのモビリティ社会を実現させるために「事故ゼロシナリオ」を想定しています。まずはエアバッグやコンパクティビリティ対応ボディ、歩行者保護ダミーといった技術を駆使し「衝突安全」を実現し、続いて事故回避としてCity-Brake Active Systemや進化型衝突軽減CMBSなど「ぶつからない」技術、「ぶつけられない」技術を普及させることで、その先にある「リスクに近づかない」という予知予測領域につなげます。
ドライバーと周囲の人双方に不安を与えない
HondaではHonda SENSINGを車に搭載することで予防安全性能を高めています。前を走る車に対して加速や減速をし、適切な車間距離のキープを支援し、安心・快適な運転を実現します。また、前走車が止まれば合わせて停車する渋滞追従機能を軽自動車にも採用しています。そのほか車両や歩行者との衝突の危険を、音と表示で警告するシステムや、緊急時にはブレーキをかけて、衝突回避を支援する衝突軽減ブレーキなど、ドライバーと周囲の人双方に不安を与えない予防安全性能を多数、装備しています。
滑らかで自然な 運転特性
Hondaでは、安全性能を高めることはもちろん、「心地よい乗車フィーリング」を大切に、自動車づくりを行っています。滑らかで自然な運転特性を持つ「心地よい乗車フィーリング」を備えることで、ドライバーが心から信頼でき、思わず出かけたくなる移動の楽しさを提供することを目標にしています。
乗って楽しい 快適な移動
Hondaでは車での快適な移動を実現するため、移動空間の最適化にもこだわっています。視野の確保や適切なシートポジションなど、ストレスの少ない乗車体験を目指しています。
2020年に自動運転レベル3の車を発売する予定
2020年11月に世界初となる自動運転レベル3の型式指定を取得したことで、年度内にも新しく開発した自動運転システムのTraffic Jam Pilotを搭載したレジェンドの発売を目指しています。高速道路での限定された条件下においてハンズオフ機能が確立できたと言われており、期待が高まっています。
2025年ごろは自動運転レベル4を普及させる方針
Hondaは2025年をめどに一般道でもドライバーが運転に関与せずに走行できる市販車での自動運転レベル4の実現を目指しています。高速道路での自動運転を2020年の実用化を目指しており、一般道についてはその5年後をターゲットにしています。
自動運転レベルのごとの特徴を確認しておこう
自動運転では、SAEによる6段階の自動運転レベルへの理解が欠かせません。各レベルには定義があり、それぞれどんな状態を示しているのか解説していきます。
自動運転レベル0
新型車をのぞく、現在、路上を走っている車の多くはレベル0です。ドライバーがすべての動的な運転タスクを実行している状態を指します。従来の車にも速度超過やライトの点灯など、さまざまな予防安全システムが搭載されていますが、システムが警告を発するだけのものは、車の制御に影響を与えないため、自動運転レベルは0とみなされます。
自動運転レベル1
レベル1は、運転支援技術が搭載された車を指します。アクセルとブレーキ操作による前後の加速や減速をシステムが制御、もしくはハンドル操作による左右の制御のどちらかの監視・対応をシステムが担っており、残りの監視・対応はドライバーが行うような車です。たとえば、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)という高速道路などで使用されるような、あらかじめ設定した速度で自動的に加減速を行うことで、前を走る車に追従する技術がありますが、これはレベル1に相当します。また、緊急自動ブレーキや、車線を逸脱したことを検知するとステアリング操作をアシストする車線維持支援(LKAS)もレベル1に該当します。
自動運転レベル2
レベル2は、部分的に運転が自動化された車両で、アクセルとブレーキ操作による前後の加速や減速の制御と、ハンドル操作による左右の制御の両方をシステムが担うことになります。ただ、運転の主体はドライバーで、システムはあくまで運転を支援する役割に止まります。そのため、ドライバーは常にハンドルを握って、運転状況を監視操作することが求められます。こうした事故を未然に防いだり運転の負荷を軽減したりするための先進運転支援システムは「ADAS(Advanced driver-assistance systems)」と呼ばれており、ADASの機能が向上して、障害物を100%検知し、100%正しい判断を下し、100%正確な制御を行うレベルに達すれば、完全なる自動運転技術が確立したことになると言われています。
自動運転レベル3
レベル3は条件付き運転自動化を意味し、運転の主体がドライバーからシステム側に変わる点で、レベル0〜2と大きく異なります。厳密にいえば、このレベル3からが自動運転です。ただ、一定の条件下ですべての運転操作をシステムが行いますが、緊急時にはドライバーが運転操作を担うことになっています。
これまで自動車の交通ルールを記載した「道路運送車両法」や「道路交通法」では、自動運転を想定しておらず、自動運転レベル3の車両が公道を走行することができませんでした。そこで日本政府が動き2019年3月に「道路運送車両法の一部を改正する法律案」及び「道路交通法の一部を改正する法律案」が閣議決定され、2020年4月になり両改正案が施行されたという経緯があります。これによって世界に先駆けて、2020年11月11日にホンダが世界初となる自動運転レベル3の型式指定を取得しました。
自動運転レベル4
レベル3では緊急時にはドライバーが運転操作を行うため、ドライバーはすぐにハンドルを握れる体勢を取ったり、安全に走行できているか、道路の状況や周囲の車などに注意を払っておく必要がありますが、レベル4になると「限定領域内」という言葉がつきますが、すべての操作はシステムが行います。限定領域内とは“高速道路内”や“平均時速50キロメートルの都市環境”など、自動運転が走行できるエリアを限定することを意味しており、あらかじめルートが決まっている路線バスや、空港内など特定の地域内を走行する送迎用のバス、広大なテーマパークなど商業施設内の交通手段となる小型タクシーといった移動サービスとの相性が良く、開発が進められています。なお自動運転レベル4は「高度な自動運転」と呼ばれています。
自動運転レベル5
自動運転レベル5は完全な自動運転を指し、走行エリアの限定がなく、いまの車と変わらず、どこを走行しても問題ありません。運転はすべてシステムが担当するため、ドライバーが不要になるだけではなく、ハンドルやアクセル、ブレーキなど運転席を設置する必要がなく、車内の空間デザインの自由度が格段に増すと言われています。そのため車内での過ごし方もいまとは全く異なることが予想され、テレビを見たり、打ち合わせをしたり、ひとつの居住空間のような形になると言われています。
ホンダの自動運転開発状況を注視しよう
国内自動車メーカーではホンダが他社に先駆けてレベル3の量産車を販売する見込みが高まっています。ホンダの動向を注視することで、日本の自動運転における技術レベルを把握することができるようになります。