「モノのインターネット」と訳されるIoT(Internet of Things)ですが、概念や考え方は広がりつつあるものの、普及させるためのさまざまな課題が指摘されています。私たちの生活を大きく変える可能性があるといわれるIoTの基本について触れながら、改めてメリットや普及に向けた課題を解説していきます。
IoT導入でできることを知っておこう
IoTの課題を学ぶ前に、まずはIoTを導入することによって可能になることを整理しておきましょう。
モノを動かす
PCやスマートフォン、プリンタ、あるいはゲーム機といった機器には、通信機能が搭載され、データの送受信ができます。そんな機器以外のあらゆるモノにセンサーや通信機能を搭載することで、インターネットへの接続やモノ同士の通信を可能にするのが、IoTです。通信機能を持っていなかったモノがインターネットと繋がることで、遠隔操作するなど、モノを自在に動かすことができるようになります。
モノの動きや状態を察知する
モノに通信機能を搭載すれば、動作を制御することができますが、効果はそれだけではありません。IoTでは通信機能に加え、「センサー」を搭載することによって、位置情報はもちろんのこと、重さや圧力、速度、温度、湿度などさまざまな情報を取得することを目指します。そのようなデータを収集することで、あらゆるモノの動きや状態を察知することができるようになります。集めたデータをビッグデータとして蓄積し、活用すれば、さまざまなサービスの開発につながります。
モノ同士で通信する
モノが通信機能を持ち、インターネットと接続することは人が介在しない制御にも発展します。現在はモノの制御の多くは、人を介することで行っています。ですが、モノ同士が通信できれば、人が介在しなくても、制御できる可能性があります。たとえば自動運転で考えてみると、そのメリットが理解できます。自動運転車は車に搭載されたカメラやセンサーで周囲の情報を収集しながら走行します。そして、もし他の車や人が接近したら、緊急停止を行いますが、人が介在するなら、対処が遅れるだけではなく、そもそも自動運転ではなくなってしまいます。こうした人を介さないモノの制御は、IoTによってモノがお互いに通信することで可能になることで、実現できるようになります。
IoTが普及するメリット
IoTが普及することによって、従来は不可能だったサービスが生まれたり、新たなモノの使い方が可能になるという指摘があるなど、さまざまなメリットが指摘されています。IoTが浸透することによって、どんなメリットがあるのか、見ていきましょう。
日常生活がより便利になる
IoTでは、モノに通信機能やセンサーが搭載されることで、遠隔操作や人が介在しない自動的な動作が可能になります。たとえばエアコンに通信機能がセンサーが搭載されることで外出先から帰宅時間に合わせて快適な室温になるように起動させたり、消耗部品が機能停止になる前にエラーなどを検知し、自動的にショッピングサイトから追加注文するような仕組みを作ることも可能です。このようにIoTを日常生活に活用することによって、私たちの生活がより便利になると考えられています。
新しいサービスの開発につながる
モノとモノ同士の通信、モノのインターネット化によって、従来では実現ができなかったサービスや商品の使い方が生まれる可能性があります。IoTを活用した新たなアイディアがサービス化されれば、より多くの人々が豊かな生活を送れるようになるはずです。とくにビッグデータの活用は大きな可能性を秘めています。センサーを搭載したモノから膨大なデータを収集し、それをAIなどを使って分析することで、さまざまな傾向やいままでは得られなかったデータを手にすることができます。
企業の課題解決につながる
IoTによるデータ分析で得られるのは、消費者ニーズだけではありません。工場やオフィスをIoT化することで、人々の働き方を細かく見える化することができるようになります。たとえば、製品の生産現場にある設備や機器からデータを集め、生産管理システムなどと連携させることによって、より最適な生産体制を構築することもできるようになります。従来は当たり前だと考えられていたことが、データを分析してみると、思い込みや偏見に基づくものだった可能性もあるしょう。IoTを理論的に活用した働き方を取り入れることで、多様な働き方や効率的な生産工程に変えることができるはずです。
IoTが普及するまでの課題とは?
一方で、IoTが普及するには、いくつか課題があると指摘されています。社会がより便利で豊かになると言われるIoTの普及を妨げる問題とはいったいなんでしょうか?
IoT人材が不足している
IoTによってモノからあらゆるデータを収集したとしても、それだけでは意味がありません。どんなデータを集めるべきなのか? 集められた膨大なデータをどうやって分析するのか? そして、分析結果からどんな施策や対策を導き出すのか? IoTはあくまで情報を集めるためのツールでしかありません。分析にAIを活用するにしても、その仕組みを構築するのは人です。したがって、高度な分析スキルを持った人材が不可欠ですが、IoTの分野で優秀な人材は価値が高騰しており、採用することが非常に困難になりつつあります。どのようにIoTに精通した人材を確保するのか? あるいは育てていくのか? 大きな課題になっています。
幅広い分野に対応しなければならない
IoTに精通した人材が不足する理由として、IoTがカバーする知識・スキルの範囲が広いことが挙げられます。たとえば、情報通信に関する知識、セキュリティに関する知見、さらに収集したデータを扱うためのデータベースに関する知識など、幅広い分野に精通する必要があります。そのためIoTを学び始めた人も、マスターするまでに時間を要するという問題も指摘されています。
ヒューマンエラーに対応しなければならない
IoTが普及しても、すべてをモノやロボット、AIなどが動作や通信を行うわけではありません。作業の一部を人間が行うケースがあり、人間が必ず起こすと言われるヒューマンエラーにどう対応するかが、課題となっています。たとえば想定外の事態に直面したときのプログラムなどは人間があらかじめそれを予期して、対策などを設定しておく必要があります。モノは自分で考え、判断することはできないからです。その設定にミスがあれば、さらに深刻なトラブルに発展するかもしれません。人為的なミスはどのような現場でも常に課題になりますが、IoTの業界でも同様です。
大量の電力が必要になる
意外と見過ごされてしまうのが、電力供給に関する課題です。IoTによって、従来は装備されていなかった通信機能やセンサーが搭載されれば、それだけ動作するときに必要とされる電力消費量は増えます。こうした電力をどのように通信機器に供給するかが大きな課題となっています。また災害などによって、電力の供給が滞れば、重要なライフラインが完全にストップしてしまう可能性もあります。
ネットワークの負荷が過剰になっている
携帯電話やスマートフォンの台数が増えてことによって、ネットワークにかかる負荷が以前よりも増大しています。IoTによって、通信する端末が飛躍的に増えれば、これまでのネットワークシステムでは対処しきれないと言われています。こうしたリスクはシステムの脆弱性を生み出す可能性もあり、サイバー攻撃のリスクを増大させることにもつながります。通信が集中しないよう、システムへの負荷を分散する「分散型ネットワーク」の重要性が議論されているのも、そのためです。ネットワークの負荷を分散させて、自律的に制御できれば、トラフィックの混雑解消や通信経路の最適化を実現することができるかもしれません。
セキュリティリスクが増大する
IoTのデバイスが劇的に増えることは、セキュリティリスクが増大することも意味しています。数が膨大になれば、従来のシステムでは管理しきれないでしょう。しかも通信するということはそれだけハッキングや情報の漏洩というリスクも必ず孕んでいます。すべてのIoTのデバイスで、高度なセキュリティを持った通信機能を持たせることはコストは数の多さの面で、現実的ではなく、どのようにして安全な通信を確保するかも課題となっています。
IoTをビジネスに取り入れる際の課題
IoTは生活家電や日用品が対象になるだけではなく、それを開発する企業や生産工程、オフィスなど、あらゆる場所・地域が対象になります。続いてはIoTをビジネスに取り入れる際の課題について考えていきましょう。
まずは経営者の判断が必要
IoTは従来からあるモノに通信機能やセンサーを搭載させることですが、その結果得られる効果は多岐に渡ります。一方で得られたデータを活用したり、新しいビジネスを創造する発想の転換も求められます。企業によってはいままでのビジネスモデルや構築してきた生産工程からの大きな転換を迫られる可能性もあります。したがって経営者がIoTを導入した未来を見据え、価値を見出すことができばければ、効果的にIoTを活用することができるわけがありません。まずは経営者がどんな判断を下すかによって、IoTをどこまで導入するのか、その効果を最大化することができるかが決まります。
予算を把握する
従来のモノをIoT化するためには、従来の生産工程を見直し、場合によっては巨額の投資が必要になる可能性があります。もし、IoTに参入するなら、どれほどのコストがかかるのか? どこまでIoTに注力するのか。明確な基準を持って、取り組むことが必要となります。
長期的な視野で計画を立てる
IoTを取り入れたからといって、すぐに売り上げがあがったり、効率的な働き方が手に入るとは考えにくいでしょう。膨大なデータを収集し、それを分析することで、新たなサービスや商品を生み出す場合も、年単位で事業計画を立てることが必要となります。長期的でマーケットの動向を見ながら、なおかつリスクをおかしてでも、新しいビジネスにチャレンジできるのか、経営者の手腕が問われるところです。
IoTを導入することが目的にならないようにする
IoTはビジネスに取り入れれば、生産ラインや働き方を効率化させることができますが、ただ導入するだけでは、あまり意味がありません。効率化を求めた結果、IoTの導入に行き着けば問題ありませんが、闇雲にIoTに飛びついても、思ったほどの効果は得られないでしょう。なぜIoTを導入するのか? 何を解決するためのIoTなのか? IoTを導入すること自体が目的になってしまわないように注意する必要があります。
IoTの課題を把握しておくことも大切
IoTは話題のビジネスキーワードだけに、深く理解せずに飛びついてしまう可能性もあります。確かに新しい概念でうまく活用することで大きなメリットが得られることは否定しませんが、デメリットもあります。IoTにはどんな課題やリスクがあり、それをどう回避していくのか。きちんと把握してから動いても遅くはありません。