専用のゴーグルを着用して、仮想現実の世界に没入するVRですが、その技術を応用したVRChatというサービスがあるのをご存知でしょうか?アバターを使い、仮想空間で生活するVRゲームのような見た目ですが、集まったユーザーたちと交流するのが目的です。そんなVRChatの人気の理由を分析します。
VRとは
VRとは、「Virtual Reality」の略で「仮想現実」と訳されています。近年、VR技術を使ったゲームソフトも販売されているため、その言葉くらいは聞いたことのある人も多いかもしれません。専用のVRゴーグルなどを着用することで、実際に目の前にある現実とは異なる映像が映し出され、限りなく実体験に近い体験が得られるというテクノロジーです。
VRではスクリーンやディスプレイの前で鑑賞する映画やテレビとは違い、VRゴーグルによって視界が360度、映像で覆われた状態で視聴します。右を向けば右に、上を向けば上に、頭の向きや視線の動きにあわせて映像も動いていきます。また、映し出される映像は立体的に見える工夫が施されているのも特徴です。通常、私たちは右目と左目の二つの目で対象物を捉えて、それを脳のなかで合成することでモノを立体的に認識することができます。VRでも同様に左右のディスプレイで別々の映像を出力するなど、人が映像を立体的に認識し、没入感が高まる工夫がされています。まるで映像が実体験であるかのようなリアルな感覚が得られる仕組みになっているわけです。
VRChatとは
そんなVR技術は新たな映像体験のひとつとして、ゲームや映像作品の視聴に採用されていますが、VRChatと呼ばれるサービスがあるのをご存じでしょうか?VRゲームの一種と捉えることもできるこのサービスは、VRとSNSを組み合わせたもので、シナリオのクリアや高得点を競い合うといったテレビゲームの楽しみ方ではなく、世界中の人とのコミュニケーションを目的にしているため、VRゲームとは差別化されています。
VRChatを開発・運営しているのはアメリカに拠点を置くVRChat Inc.で、2017年にサービスを開始しています。PC向けゲームを販売・配信しているSteamやVRChatの公式ページから無料でダウンロードすることができます。
VR空間で世界中の人と交流
VRChatに登録し、ログインすると、仮想空間が出現し、そのなかでユーザーは世界中の人たちとコミュニケーションができます。インターフェイスは基本的に英語になっていますが、中にはアニメや漫画を通じて日本語を勉強したいと考えている外国人ユーザーも利用しており、彼らと日本語でやりとりをすることもできます。
また、ユーザーはアバターを設定し、VRChat内で行動します。実際の自分の顔や個人情報は公開されることがなく、別の人格・キャラ設定などで、さまざまな交流をすることができる仕組みになっています。操作はVRヘッドセットやコントローラーを使って行い、実際の身体の動きとアバターの行動を連動させることもできますが、VRを持っていなくても、VRChatの世界を楽しむことができるデスクトップ版も開発されています。
なお、アバターはVRChatにあらかじめ用意されているものから選んで使用しますが、一定時間プレイするなどの条件を満たし、ユーザーランクが上がると、プレイヤー自身が用意した3Dモデルをアップロードして、それを使うこともできます。
VRのイベントも開催
またVRChat内では定期的に公式が主催するイベントも開催されています。たとえばハロウィンイベントといったようなイベントのほか、フレンド同士しか参加できない小規模なイベントをユーザーが主催することもできます。こうしたイベントに参加しながら、気の合うユーザー同士で交流を楽しむのが、ひとつの遊び方です。
様々なワールドに参加
またVRchatの遊び方のひとつとして、ワールドを作成し、そのなかでコミュニケーションをするというものがあります。VR内に自分専用の空間ができるようなもので、装飾を自分好みにすることもできます。公式サーバーに素材をアップロードすることで、このようなワールドを作成し、世界中の人たちと交流するのが、VRChatならではの楽しみ方です。
VR空間内でユーザーが参加できるゲームも
VRChatはゲームではないという説明をしましたが、中にはミニゲームをプレイすることができるワールドも存在しています。ユーザーが作成したファイル・素材をアップロードすることで可能になり、たとえば、VR空間で麻雀をプレイして配信するといった遊び方をしているユーザーもいます。
VRChatが人気の理由とは
VRゲームとも少し趣が異なるVRChatですが、なぜユーザーから支持されているのでしょうか? 人気を博している理由を考えます。
無料で始められる
VRChatはVRのグラフィックを再現できる程度のスペックを持つPCがあれば、サイトから無料でダウンロードして遊ぶことができます。VRゴーグルが必要にはなりますが、無料ではじめることができる点が敷居の低さとなっています。新規ユーザーが気軽にトライアルできることが、人気の理由のひとつとなっています。
接触機会のない交流
新型コロナウイルスの流行によって、ライブやイベントなど、他人と接触する機会が大幅に制限されるようになりました。そんななか、直接、会うのではなく、仮想空間でコミュニケーションするというVRChatのコンセプトが受け入れられたと考えられます。感染のリスクを考えてステイホームする一方で、誰かとつながりたいという人々が持つ欲求がVRChatのサービスとリンクしたわけです。
ユーザーが主体となったコミュニティ
コンセプトやテーマを自由に設定した自分だけのワールドを作成したり、アバターも条件をクリアすれば好きな3Dデータをアップロードして着せ替えることができます。決まったストーリーや世界観のなかで行動するゲームとは違い、ユーザー同士が気軽に交流できる点もVRChatの大きな魅力です。ユーザーがカスタマイズして楽しめる自由度・余白が魅力になっています。
VRヘッドセットが無くても参加可能
VRChatはその名の通り、VR(仮想現実)のなかで交流するサービスですが、VRゴーグルがなくても参加できます。デスクトップモードというゴーグルがなくても、ログインできるサービスがあるため、まだまだニッチなVRですが、間口の広く設計されています。そのため、ユーザーが世界に広がっており、結果的に活発な交流が生まれる状況になっています。
VRChatのワールドとは
カスタマイズできる自由度が特徴のVRChatですが、それを象徴するのが、ワールドです。VRChatのワールドとはいったい、どんなものなのか。あらためて解説します。
公式のワールド
VRChatのワールドがどんなものなのか、知りたいユーザーはまず、公式が設定したワールドに入ってみると良いでしょう。そこにはプロフェッショナルたちによって作りこまれた世界が広がっています。ユーザーがアイテムのデザイン(スキン)を変えたり、アバターの色や形を変えることができるユーザーフレンドリーなゲームは他にもありますが、仮想空間のVRだからこそ、見たこともない独特の世界観やビジュアルに入り込むことができるわけです。
コミュニティが作成したワールド
ユーザー自身がUnityと呼ばれるゲームエンジンを使って、オリジナルのワールドを作成。それをVRChatのサーバーにアップロードすることもできます。ワールドはバラエティに富んでおり、たとえばご飯を食べながら話しているかのようなワールド、寝室になっているワールド、または研究発表会のようなワールドなどが作られています。アイディア次第で、誰でも人気のワールドを作成することができます。
VRChatのアバターは
また、VRChat用のカスタムアバターを販売しているサイトもあります。こうしたサイトからアバターを購入して、それをVRChat内で使用することもできます。自分の好きなキャラクターやデザインをモチーフにしたアバターを自作できれば、よりVRChatの世界を楽しむことができるようになるはずです。
ユーザーが自由に作成可能
Unityと呼ばれるゲームエンジンを扱える人なら、自分好みのアバターを作成して、それをサーバーのアップすることも容易にできます。欲しいファッションアイテムや好みのデザインにカスタマイズして、自分だけのアバターを作ってみましょう。無料でダウンロードできる素材も多くあるため、楽しみ方はひとそれぞれです。
お気に入りのアバターを売買できる
もし、自作のアバターを作成できるスキルがあれば、マーケットプレイスに参加して、自作のアバターを出品してみてはいかがでしょうか?世界のユーザーがあなたの作ったアバターでVRChatに参加してくれるかもしれません。
VRChatの収益は
VRChatは無料でダウンロードし、課金せずに利用できるサービスです。コミュニティ内で有料のアバターを売買する行為は行われていますが、それが運営しているVRChat社に分配されるわけではなく、今後、どのように収益化していくのかに注目が集まっています。
VRChatは無課金
VRChatではソフトをダウンロードして利用したり、VR内のミニゲームもすべて無料で利用することができます。マーケットプレイスでアバターの売買が可能になっていますが、あくまでユーザー間のやり取りとなっています。そのため、基本サービスの大半は無料で利用でき、それがユーザーの確保にもつながっています。
今後の収益化に注目
VRChatは無料で利用でき、VRゴーグルがなくても遊べるなど、敷居の低いサービスとしてユーザーが拡大していますが、今後、さらにサービスを拡大していくためにはマネタイズの必要性が指摘されています。サーバーを増強したり、さまざまなサービスを実装するためにはコストがかかっていきます。ユーザーが増えれば増えるほど、マネタイズが必要となっていきます。有料プランの導入が検討されているという指摘があるものの、まだ実装されていません。今後どのようにして収益モデルを作っていくことができるかが、VRとSNSを組み合わせた新しいビジネスが定着するのかの試金石になるはずです。
VRChatの活用例
VRChatは世界からユーザーが集まるコミュニティとして発展していますが、ユーザーの増加にあわせ、PRを行いたい企業などからも注目を集めています。代表的なVRChatの活用例をご紹介します。
バーチャルマーケットへの出展
バーチャルマーケットとはユーザーが3Dアバターや3Dモデルなどを試着したり、購入することができるバーチャル上のフェスティバルです。期間限定で開催され、VRの関連企業やゲーム会社、クリエイター、Vtuber企業などがブースを出展していますが、今後はVRChatに関心を持つ、一般企業が出展することが予想されています。実際、2020年4月29日から5月10日まで開催されていた「バーチャルマーケット4」では、ソフトバンクやセブン&アイホールディングスといった日本企業がブースを出し、新商品や新サービスの展示を行なっていました。今後もこのような企業が増えると考えられます。
公式アバターを無料配布
また公式のアバターを無料で配布する企業もあります。たとえば、「ニコニコ」公式マスコットキャラクターもVRChatで無料配布されていました。キャラクターを有する企業はアバターを制作して、世界への認知を広めるなど、広告媒体として利用したいと考える企業が増える可能性が指摘されています。
VRChatは全く新しい体験型のソーシャルコミュニティ
以前、セカンドライフという仮想空間が人気を呼び、ユーザー同士のコミュニケーションはもちろんのこと、企業のPRや宣伝の場として活用されることがありました。VRChatではより世界をカスタマイズできる点が人気を集めており、ひとつのVR世界として認知される可能性があります。誰でも参加できる敷居の低さも魅力のため、どんな世界なのか一度、のぞいてみてはいかがでしょうか?