「WHILL」が日本の「近距離モビリティ」マーケットを変える。免許返納後のシニア利用も

「すべての人の移動を楽しくスマートにする」というミッションの元に開発された近距離モビリティ「WHILL」。デザインとテクノロジーの力で、従来の車椅子が持つイメージから、新たな歩行領域のモビリティとして注目されています。デザインだけでなく、高い走破性と操作性、その場で一回転ができる小回り能力などを備えていることにより、利用者は移動することの楽しさをも感じているようです。今回は、WHILL株式会社 日本事業本部 執行役員本部長 池田朋宏氏に、未来のモビリティとしてWHILLが持つさまざまな可能性についてお話を伺いました。

ざっくりまとめ

- 車椅子ユーザーが抱える物理的・心理的なハードルを解消するために開発された近距離モビリティがWHILL。日本で休みなく500mを歩行することに困難を抱えている65歳以上の高齢者は1,200万人と予想されるが、1年間で流通する電動車椅子は2万台ほどしかない。

- WHILLは外出のモチベーションになるデザイン性に加え、直感的で簡単な操作性などを備えている。Model C2の場合は5cmの段差乗り越えや悪路での走行も可能な高い走破性、Model Fでは折りたたみも可能なので、車や電車に積み込めば移動先でも利用できる。

- 現在はカーディーラーがメインの取扱店舗となっている。それはWHILLを「電動車椅子の一種」ではなく「近距離モビリティ」として市場に認知させることを目的としている。免許返納後の高齢者の移動手段としてもWHILLは活用されている。

- 今後は旅行先などでの短期利用、気が向いたときにその場で利用できる一時利用のニーズに対してもWHILLを展開する予定。また、自動車ディーラーではWHILLの認定修理店制度を設け、修理や定期点検にも対応し全国にネットワークを広げていく。

歩行領域の移動手段の普及が遅れる日本の課題を解消するために誕生した近距離モビリティ「WHILL」

――従来の電動車椅子と比べてWHILLはどのような点が異なるのでしょうか? 開発意図を含めて教えてください。

日本において車椅子ユーザーが感じる物理的なハードルと心理的なハードルは非常に高く、車椅子に乗っているからという理由で、100m先のコンビニに行くことすら諦めてしまう人がいます。整備されていない歩道やちょっとした段差が越えられないという物理的なハードルに加え、車椅子に乗っていることで感じる周囲からの視線という心理的なハードルの二つを解消できるモビリティが必要と考えたのが開発のきっかけです。

WHILLの定義は、デザインとテクノロジーで従来の車椅子が抱えていた課題を解消した「近距離モビリティ」です。日本では電車やバス、飛行機などの公共交通機関は充実していますが、歩行領域においては徒歩以外の移動手段があまり充実していません。世界的に見てもイノベ-ションが起きていないのです。

1億2,000万以上の人口がいる日本において、500mの歩行に困難を抱えている65歳以上の方は1,200万人いるといわれています。しかし、1年間で流通する電動車椅子は2万台ほどで大きなギャップがあります。そういった方にWHILLをご利用いただければ普段の生活が変わり、より充実したものになるでしょう。

――歩行が困難な高齢者は人口の一割ほどもいらっしゃるのですね。

そうなのです。でも、人は自分が困っていても、その困っていることに気づかないケースが多々あります。500m以上の歩行が難しい高齢者に「困っていることはありますか?」と聞いても実は気づいてないケースがけっこうある。そこをターゲットに、「近距離モビリティ」としてWHILLのラインナップとサービスを充実させることで普及を狙っています。

――海外における電動車椅子はどのような位置づけなのでしょうか?

グローバルマーケットでも電動車椅子へのネガティブイメージが完全に払拭されているわけではありませんが、日本に比べれば弱いものです。そういった社会背景が異なるので圧倒的に日本よりも普及していますし、合理的な近距離移動のために電動車椅子を利用するケースが多くあります。

日々の外出を楽しくするデザインと機能性を実現

――WHILLのデザインは全体的に丸みを帯びていて、かわいらしい印象です。デザインにおけるこだわりを教えてください。

意識したのは、実際に乗ってみたいと思わせるデザインです。やはり人が乗らないことには意味がありませんから。「デザインがかわいくて、外出のモチベーションになった」「かっこいいと声をかけられるようになって、毎日出かけたくなる」というユーザーの声もいただいており、デザインの力の大きさを実感しています。

――私も実際にWHILLに乗ってみましたが、片手でレバーが操作できて方向転換も簡単でした。移動手段としてだけでなく、単純に広いところで乗れたら楽しいなという感想を持ちました。

デザインに加えて機能性も重視しています。誰でも使える簡単な操作性で、小回りも利くのでその場での一回転も楽にできます。デザインと機能性を両立することでユーザーの心理的障壁がなくなり、外でも乗ってみたい気持ちになると考えています。

――WHILLの側面につけるカラープレートも取り替えができるようになっていますが、なにか意図があるのでしょうか?

TPOで洋服を選ぶように、WHILLのユーザーにもその日着ているファッションや、行き場所、状況に応じて色味を変えられる機能を持たせました。その日の気分に合わせてカラーを変更できれば、WHILLに乗る楽しみも増えます。

――WHILLには「Model C2」と「Model F」の二種類がありますね。「C2」はオムニホイールを搭載して悪路も走行可能とのことですが、オムニホイールについて教えてください。

オムニホイールは走破性と小回りを両立したホイールです。小さなローラー10個で構成されており、5cmの段差を越えることが可能な上に、それぞれのローラーが横回転するので軸を変えずにその場で方向転換ができます。最小の回転半径は76cmです。オムニホイールはもともと倉庫などでで荷運びのために使われていたロボットなどに採用されていますが、それを人が乗るモビリティに応用しています。

高齢者用のモビリティとしてハンドル操作の電動シニアカーもありますが、走破性に優れていても小回りは難しい。WHILLの「C2」はその二つを可能にしています。

――もう一つのモデル「F」は折りたたむことでタクシーや新幹線にも乗せられるんですね。

WHILLには、他の手段と組み合わせて移動をスマートにするというコンセプトもあります。モデル「F」は車載できるので、例えばどちらかが歩行に不安を抱えているシニアの夫婦であれば、車に積むことで旅先でもお互いが快適に移動できるようになります。自宅やその周辺だけでなく、他の移動手段と組み合わせることで移動体験を向上させます。

――今秋リリースされる新モデルの「S」はどんな特徴を備えているのでしょうか?

イメージしたのはバランスが取れる安全な自転車です。今までの車椅子タイプのモデルと異なり、WHILL社として初のスクータータイプとなります。二輪の自転車は転倒するリスクもありますが、こちらは四輪で安全性を高めています。時速は6キロで日本においては歩道を走れますので、歩行者としての扱いになります。自転車よりも安全で歩道を走れるスクーター、それがコンセプトです。

免許を返納した高齢者の移動手段として

――現在WHILLはカーディーラーを中心に販売されていますが、その理由を教えてください。

WHILLは電動車椅子の一種というより、近距離移動用のモビリティというパーセプション(認知)を根付かせるために、現在はカーディーラーや大手自転車販売店を中心に展開しています。高齢者が免許を返納してしまうと、そこでカーディーラーと顧客というつながりが切れてしまいますが、免許不要で操作できるWHILLがあればその関係を維持することができます。また、免許がなくて出不精になってしまう高齢者もいますが、WHILLがあれば手軽に外出を楽しむことができます。双方にとってメリットが大きいのです。

我々としても、カーディーラーに車の点検などで日常的に足を運ぶ顧客にWHILLの存在を知ってもらえるので、マーケットを広げることができます。自動車と同様にWHILLも試乗のニーズが高いですが、カーディーラーであれば店舗で試乗がいつでも可能ですし、購入前の相談にもスタッフさんが丁寧に答えてくれます。そういったカスタマージャーニーの面で質の高いサービスを提供していただけるカーディーラーは、近距離モビリティのマーケットを創造するために欠かせない存在です。

――WHILLは家電量販店でも取り扱っていますが、カーディーラーと量販店で客層に違いはありますか?

現在WHILLを取り扱っている家電量販店のビックカメラ有楽町店は駅近ということもあり、気軽に立ち寄りやすい点が強みです。高齢になった両親のためにWHILLの購入を検討している若い世代の方が仕事終わりの平日に足を運んで、週末に親御さんを連れてくるケースも多いです。カーディーラーと違って、普段車などの乗り物に馴染みがなくても、また事前に問い合わせなどしなくても行きやすいといった、敷居の低さも特徴の一つですね。

WHILLを手軽に利用できる日常のシーンを増やし、マーケットを拡大する

――海外に比べてまだまだ小さいという日本の近距離移動用のモビリティ市場は今後どうなっていくと予想しますか?

日本でも近距離モビリティに対する潜在的なニーズは確実にあるとにらんでいます。ユーザー数も着実に増えているので、これから活性化していくでしょう。さまざまなプレーヤーの参入も増えつつありますが、我々としては市場を盛り上げる仲間が増えることは大歓迎です。マーケットが大きくなれば注目も集まるし、ユーザーがより身近に感じてくれるようになりますから。

――では最後にWHILLの今後の展望を教えてください。

まず短期的な展望として、2022年末までにカーディーラーにおけるWHILLの取扱店舗数を現在の700店舗から1,000店舗にまで拡充します。中期的には製品の販売だけでなく、アフターサポートを充実させます。具体的にはWHILLの認定修理店の設置ですね。購入後の定期点検から修理まで対応できる店舗を増やして、全国にネットワークを広げていきます。それ以外にも保険や納品サービスなどのアフターケアも充実させて、エコシステムを構築することを視野に入れています。

現在のWHILLのユーザーは、長期的に日常利用される方、旅行時などに数日間利用する短期利用の方、一日の限られた時間にだけ使う一時利用の方という三つに分類が可能です。日常利用の方は毎日使うのでご購入をされる方が多いでしょう。対して短期利用、一時利用の方は主にレンタルやシェアリングの形態になるかと思います。現在WHILLは購入以外にもModel C2は月額、Model Fは3日間から借りられるレンタルサービスを行っていますが、特定の場所で借りて一時的に乗れるシェアサイクルのようなレンタルも広げていきたいと考えています。例えばタクシーとセットでレンタルできるとか、レンタカーや飛行機のチケットを取ると同時にレンタルできて空港で借りられるとか、短期のレンタルシステムの接点を他の事業者と連携しながら増やしていきます。

日常利用、短期利用、一時利用の接点をつくり近距離モビリティのマーケットを拡大していきます。

池田 朋宏

WHILL株式会社 日本事業本部 執行役員 本部長

1978年生まれ。立命館大学卒業後、大手印刷会社の企画営業を担当。スポーツ商材の輸出入で世界各国を回る。WHILLの製品性や会社の成長スピードに惹かれ、2017年にWHILL社に入社。西日本拠点の立ち上げや販売網の拡大に携わり、現在は日本事業本部全体を統括する。近距離モビリティWHILLをもっと気軽に、かつ安心して利用してもらえるような環境づくりやサービス展開などに日々邁進している。

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