CES2020現地レポート④ 【対談】立教大学ビジネススクール田中道昭教授×NewsPicks副編集長 後藤直義 トヨタ、SONYの発表から感じた日本のモビリティビジネスの未来

米ラスベガスで開催されている世界最大級の家電・技術見本市CES(Consumer Electronics Show)の開催初日。今回は、NewsPicksで配信されている中田敦彦氏の企業研究番組「NEXT」で共演する二人が登場。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授と、グローバルにハイテク産業を取材し続けているNewsPicks副編集長兼サンフランシスコ支局長である後藤氏との対談を現地からお届けする。CES2020にて注目されているトヨタやSONYの動きをどう見ているのか、後藤氏が注目しているブースはどこなのか、存分にお話いただきました。
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【CES2020現地レポ―ト】立教大学ビジネススクール田中道昭教授×NewsPicks副編集長 後藤直義

トヨタがついに街づくりへ。CES2020の中でも際立つ大胆なビジョン

田中:今回はNewsPicksの副編集長兼サンフランシスコ支局長である後藤さんに友情出演いただいております。後藤さんと私はNewsPicksで中田敦彦さんがメインMCを務める企業研究番組「NEXT」でご一緒しております。改めてこの度は貴重な機会をいただきありがとうございます。

後藤:ありがとうございます。よろしくお願いします。

田中:この対談は1月7日に収録していますが 、昨日1月6日のプレスカンファレンスではトヨタ、ソニーの日本企業が非常に大きな発表を行い、話題になりました。

まずはトヨタ自動車が最新技術の実証都市「コネクティッド・シティ」を来年着工すると発表しました。この発表はどう捉えられましたか?

後藤:前提として、CESはお祭りです。世界中から20万人以上が集まり、次はどんな面白いものが出るのか大騒ぎする一種のフェス。だいたいハードメーカーが多いので、こんな車作るよ、こんな家電作るよ、こんなスマホ作るよ、が多いんですが、そんな中でトヨタは「街を作る」と発表した。みんな「おお」と、どよめきましたね。車じゃなくてついに街を作るのかと。豊田章男社長がステージに立って、トヨタの様々なプロダクトが街の中の実験材料としてどんどん動いていきますということを美しい映像とともに発表して、Twitterでも結構バズっています。

田中:相当話題になっていますよね。僕がすごく感銘を受けたのが、ビジョンの大胆さです。この10年くらい、大きなビジョンや計画を発表するのは米中のテクノロジー企業に限られていた。そんな中で今回のCESの中でも、トヨタは最大規模の大胆なビジョンを発表したと思うんです。

後藤:素晴らしいのは、トヨタが本気だということですよね。来年から2000人が住むという数字まで明確に出している。発表の後、幹部だけ集めた特別なメディアのラウンドテーブルがあったんですが、なるべくオープンに進めて、パートナーやトヨタの社員、リタイアした方など色々な人たちにそこで楽しく住んでもらいたいと言っていました。こういう発表って初夢のように、翌年にはなくなっているということが結構あるんです。でも、今回は保持している土地もあって、現実性が高い。やるという決意がすごいですね。

田中:ビジョンの大胆さも、来年からやるというスピード感も、米中のメガテック企業並みです。そういった意味では、この撮影の背景に置かれている、MaaS専用次世代電気自動車の「e-Palette」についても、2年前に東京オリンピック・パラリンピックで社会実装するという発表を社長がされて、実際この1月に実現する。言ったことをやる会社がトヨタだとすると、コネクティッド・シティも実現しそうですね。

後藤:トップが断言するのは重みが違いますよね。スマートシティで言えば、カナダのサイドウォークや、中国の北京・天津の間など、世界中に事例はあるのですが、実際に実験を始めようとすると、住民に確認を取る必要がある。今回のケースが素晴らしいのは、トヨタが持つ土地で実施するので、好きな実験ができること。そして、パートナーも募集していて、様々な起業家や会社がアイデアを持ち込めるようになっていることです。アイデアがどれだけ集まるかも非常に注目だと思います。

田中:今回のアイデアは、オープンプラットフォーム感がありますよね。

後藤:豊田章男社長のプレゼンの最後に、Welcomeと出てくるんです。誰でもトヨタのスマートシティに入っていって、自分のアイデアをぶちまけてくれというわけです。国内にも事例がありますが、自社だけで囲い込んでミニチュアな街を作ろうというのは盛り上がりません。個人的な願望としても、ぜひ車だけでなく、ライフスタイルそのものが面白い街にしてほしい。ユニークな働き方ができるとか、美味しいものが食べられるとか、いい学校があるとか。人が雪だるま式に集まるようなコンテンツを、車以外で作ってほしいですね。

田中:今回、スマートシティでなく、コネクティッド・シティという表現を使ったのは、まずは静岡県裾野市の自社の所有地から始めるものの、いずれは日本の各地、グローバルに広げていくという目論見を感じました。この十数年間なかったような大胆なビジョンなので、本当に期待しています。

後藤:田中先生は、あの街に住みたいですか?

田中:コンテンツ次第でしょう。私はおかげさまで息子と娘が大学卒業して社会人になっていますが、お子さんがいらっしゃる方であれば、小学校中学校は非常に重要。そういう意味では、コネクティッド・シティには3つの重要な要素があると思います。

まずは仕事をする事業環境が整っていること。やはりそれがないと移り住めないと思います。2つ目は生活環境。3つ目が子どものための教育環境です。大学教育というより、むしろ幼児教育とか小学校教育とか。子どもと一緒に過ごす時期に必要になる教育の質です。その3拍子が揃っていると、トヨタのコネクティッド・シティにもグローバルな優秀人材が移り住んで来ることがあり得るのではないかと思います。

せっかくなので、そこに住んで通勤するのではなく、街で衣食住が揃い、教育環境も事業環境も優れているようなコネクティッド・シティを作っていただきたいです。

モバイルからモビリティへ。ソニーが20年越しに車に参入。

田中:次はソニーの動向に移りたいと思います。今回、CES2020にて電気自動車「VISION-S」が発表されましたが、いかがでしょうか。

後藤:まさに先ほど、特別に試乗させていただきました。まず、居心地がよかったですね。EVはガソリン車よりも座席周りが広いことに加え、上が全面ガラス張りで光が差してくる。そして、元々の本業であるスピーカーも素晴らしい。音楽をかけてもらうと、自分がアコースティックギターの中に入ったかのような、包み込まれる感覚を味わいました。インターフェイスも、スマホをいじる感覚で運転できるんだろうなと感じ、とても楽しかったです。

田中:そういう意味では今年のCESのキーワードの「アンビエントコンピューティング」、要するにコンピューターを使っていると思わせないような快適なコンピューティングの世界を表現していますよね。

後藤:はい。私自身、車に乗っていて地図を間違えてイライラすることがあるんですが、「VISION-S」は前面に綺麗な液晶パネルがついていて、行きたい場所を言うと助手席からスクリーン上に綺麗な地図がきて、パパッと入れ込むと運転席の前に現れる。ネットへの常時接続が常態化されたような雰囲気でした。

田中:アンビエントコンピューティング、5G、バーチャルリアリティ、音声認識AIアシスタント、この辺りがオーバーラップして環境のコンピューティングが成立していますね。スマートフォンはコンピューターを使っている感覚がありますが、人が使っている感覚がない、新鮮な感覚でコンピューティングが受け取れるような時代が既に来ていますね。

後藤:サムスンで、自分の後をコロコロついてくるボール型のロボットが発表されたんですが、そのプレゼンが面白かったです。これまで、リビングやキッチンはハードウェアとして便利になってきたが、次は一種の生き物のように進化していくと言っているんです。例えば、人がお腹が空いているとか、もう眠たいなどの感覚を知的に認識して、変容するのが次の居住空間だと。これはすごく納得感がありましたね。人が意識しないうちにテクノロジーが新しいものを生み出してくれる。そう言ったコンセプトが実現することを感じました。

できればこれからは、スマホを出してアプリを使ってではなく、様々なテクノロジーが環境的に動くことで生活を豊かにしてほしいですよね。

田中:そういう意味では、スマホの次に来るハードはもしかしたら次世代自動車、自動運転、EV車と言うこともあり得るでしょうか。

後藤:アメリカでは特に車は第二の家です。ずっとそこに住んでいて、まさに仮想の自分のスマートホームになる。新しい自分を包むガジェットとしては、確実に来る未来だと思います。

田中:昨日の発表では「VISION-S」はコンセプトカーで、販売するわけではないということでした。僕は実際に販売するのではないかと考えていますし、売ってほしいなと思っているのですが、いかがでしょう。

後藤:ドアの下に小さく「Sony Design」と入っているのを見つけたんです。これを見て、いつかSONYのロゴが書かれた車をどこかで世間に出したいんだというメッセージを感じましたね。

ソニーは、ウォークマンやPlayStationなど、コンシューマー向けの優れたデザインや最終製品を出して人々を感動させてきたメーカーです。だからこそ、俺たちは最終製品で世の中を驚かせたいという気持ちは、確実にあるでしょう。このチームはロボットペットのaiboも一緒にやっていますし、必ず野望として持っていると思いますね。

田中:CMOSセンサーが一番重要な部品として搭載されているわけですから、今回はEV車という建て付けでしたが、完全自動運転車まで狙っているでしょうね。

後藤:ソニーは20年前から水面下で電気自動車の開発を進めていて、何度も頓挫しているんです。車って事故が起きたら人が死ぬ。人が死ぬものをソニーが作ってはならないという教えから、何度も断念しているんですよね。それがついに完成車を出したということは、ソニーが自動車という領域を放っておくことはできないという決断をしているのだと思います。

田中:昨日のカンファレンスでは、「今まではモバイルの世界だったが、モビリティの時代になる」と社長自身が明言されていました。人の死に関わらないということを明言してきたソニーが、試乗車とはいえ、ハードの車を作ってきたというのは、一つの呪縛から完全に逃れた面白い展開ですね。

ソニーは営業利益でいうと、トップがゲーム、次に音楽、金融、半導体。残念ながらプラットフォームになっているものはゲームなどに限られます。サムスンも昨年からEVを作っていますが、見た目はコンセプトカー止まりの中、ソニーは水面下で開発を進めて、ここまでの精度で発表したということはものすごく嬉しい。一方で、発表された内容だけ聞くと、正直、ソニーがスマホの世界で陥ってしまったのと同じように、一番重要な部品でないニッチな領域で儲けるという印象も受けました。CMOSセンサーを中核とする部品とハードで展開したとしても、モビリティの市場の中ではやはりニッチに止まってしまう。

そう言った意味では、プラットフォーマー、ズバリ言うと車載OSや音声認識AIアシスタントなど、いろんなOSの階層が次世代自動車の中にもありますよね。日本を代表するテクノロジー企業であるソニーには頑張ってほしいと思うのですが、いかがでしょう。

後藤:もちろんソニーもそう考えていると思います。吉田社長は非常に勉強熱心で有名な方で、テスラが出た時も、真っ先に乗りに行ったと聞いています。自動運転やOSレイヤーで、プラットフォーマーがどれだけ強いのか知って考え抜いて、ソニーがどこだったら勝てるのかというのを、あの車を通して実験していると思うんです。そこは私もすごく興味がありますね。

田中:僕はぜひ、ソニーの車がプラットフォームとしてもトヨタと争うようになり、日本からプラットフォーマーが出てほしいと思います。

後藤:そうですね。テスラとソニーが道で並ぶ日がきたら凄いなと思いますね。

田中:毎年CESに来ていますが、今年凄く嬉しかったのは、日本のプレゼンスが上がったこと。正直、最近は年々下がってきていた印象だったのですが、今年はトヨタのコネクティッド・シティ、ソニーのEV車で完全に盛り上げましたよね。

後藤:CESはお祭りなので、面白くてなんぼのところがあります。そういう意味では日本企業から良い発表がいくつもあったと思います。

人々の価値観の変化が次のサービスを生み出していく

後藤:無数のベンチャー企業が集まるユーレカ(Eureka)という所に行ったんですが、テクノロジーをどう活用するかのアイデアが山のように転がっているので、ぜひ日本の方にも見ていただきたいですね。

田中:確かに、大企業の展示だけではなく、ベンチャー企業のブースも面白いですね。そういえば、人工の豚肉が凄く美味しかったとおっしゃっていましたね。

後藤:はい、僕が個人的に盛り上がったのは、Impossible Foodsという、人工の牛肉で市場を席巻しているベンチャーです。アメリカはハンバーガーの国ですから、まずは牛肉だったんですが、昨日、人工の豚肉を発表したんです。豚挽肉ですね。世界で一番人気があるのは豚で、その豚肉を全て人工豚肉に取り替える、という熱弁を聞いて、人工豚肉を大量に食べたんですが、美味しかった。

田中:何でできているんですか?

後藤:大豆などの植物性のタンパク質でできています。要は、動物からタンパク質を摂るよりも、植物から摂る方が、地球環境的には圧倒的に効率が良いんです。マックのビーフは環境に悪い。もっと美味しくて植物から出来ている、より環境負荷の低いタンパク質を食べようぜ!と言うメッセージに、若い世代がグワーっと付いて来ているんです。こういう新しいムーブメントも起きているというのがよくわかりました。

田中:10年前のアメリカはジャンクフード、高カロリーで身体に悪い食品が有名だったのが、今アメリカにくるとむしろ日本よりヘルシーです。そして、決定的な違いは、日本は社会貢献を事業と別でしていますが、アメリカは会社の事業そのもので地球環境問題に対処している。その辺り、日米の違いについてはどうお考えですか。

後藤:おっしゃるとおりですね。いわゆるフェアトレードとか、金持ちが道楽的に言っていたり、企業がCSRでボランティア的にやっているものとは全く違う。本流として、エコフレンドリーで本当に身体に良いものを摂取したいという経済クラスターが出来上がっているのを肌で感じます。それが一番わかりやすかったのが、人工豚肉。これ絶対流行ると思います。

田中:日本でも流行りそうですね。CESはテクノロジーショーではありますが、やはり一般の人の価値観の変化の結果サービスが起きているということを見逃さないで仕事をしていきたいですよね。

後藤:あと一個だけ、面白かったベンチャーを紹介させてください。人口知能は色々な分野に使われていますが、そのベンチャーが取り上げたのが「蚊」なのです!

部屋の中の蚊を自動追尾してAIで捉えて、赤いレーザーポインターで追いかける。蚊って世界中の感染病、感染症の元になっていて、アジアやアフリカの国では、恐れられているんですよ。刺されて子どもが死んでしまったりするんですね。

こういった課題に対し、コンピュータビジョン技術を使って、常に蚊を発見してくれる1万円くらいのデバイスがある。手ごろな価格で暮らしを守ってくれるデバイスが他にもいっぱい転がっているんですよ。こういう所が面白いですね。

田中:身近な問題を解決すると同時に社会課題を解決しているんですね。後藤さん、今日は改めて貴重な機会をありがとうございました。

後藤:ありがとうございました。
対談した二人はNewsPicks 企業研究番組「NEXT」で共演

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後藤 直義(Naoyoshi Goto)
1981年東京生まれ。青山学院大学文学部卒業。毎日新聞社を経て、週刊ダイヤモンドにて家電、通信、IT業界を担当。グローバルにハイテク産業を取材し、アップルが日本の電機産業を呑み込む様子を描いたノンフィクション「アップル帝国の正体」(文藝春秋、2013年共著)を執筆。
田中 道昭(Michiaki Tanaka)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。株式会社マージングポイント代表取締役社長。「大学教授×上場企業取締役×経営コンサルタント」という独自の立ち位置から書籍・新聞・雑誌・オンラインメディア等でデジタルシフトについての発信も使命感をもって行っている。ストラテジー&マーケティング及びリーダーシップ&ミッションマネジメントを専門としている。デジタルシフトについてオプトホールディング及び同グループ企業の戦略アドバイザーを務め、すでに複数の重要プロジェクトを推進している。主な著書に、『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)、『2022年の次世代自動車産業』『アマゾンが描く2022年の世界』(ともにPHPビジネス新書)『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)、『ミッションの経営学』(すばる舎リンケージ)、共著に『あしたの履歴書』(ダイヤモンド社)など。

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