上場した洋服サブスクのエアークローゼットが目指す、「物流基盤の提供」および「時間価値の最大化」の勝機

2014年に創業し、月額制でパーソナルスタイリングを提供するサービス「airCloset」をリリースした株式会社エアークローゼット。スタイリストの提案で、これまで自分では選ぶことがなかったような洋服との出会いがあるだけではなく、返却期限なし、クリーニングの必要なしと、徹底的にユーザー体験に寄り添ったサービス形態が話題になりました。
創業から8年を経て、2022年7月に東証グロース市場に上場。市況も人々の洋服への向き合い方も大きく変化するなか、上場を決めた理由はなんだったのでしょうか。今回はコロナ禍がファッション業界やairClosetに与えた影響や、エアークローゼットの今後の展望について、代表取締役社長 兼 CEOの天沼 聰氏にお話を伺いました。

ざっくりまとめ

- コロナ禍の影響でファッション業界は、市場売上が10%以上も落ち込む打撃を受けた。

- airClosetでも新規会員獲得の鈍化など影響はあったものの、既存会員の退会や休会は少なかった。

- リモートワークの定着が進んでも、対面コミュニケーションの価値は変わらない。airClosetは時代の機微にも柔軟に対応していく。

- 2022年7月、コロナ禍での東証グロース市場への上場は、あくまでビジネスを成長させていくための新たなスタート地点。

- 今後も多くの人の「時間価値の最大化」に寄与するため、サービス創出を行っていく。

アパレル業界のコロナ苦境における、airCloset利用者の変化

——コロナ禍において、アパレル業界にはどのような影響がありましたか?

アパレル業界では、新型コロナウイルスの流行はかなりネガティブな影響がありました。約9兆円規模の市場売上が、7.5兆円ほどにまで落ち込んでしまったのです。特に大きな影響を受けたのが中間価格帯のファッションを取り扱う企業です。指名買いが多いハイエンドブランドやファストファッションとは違い、中間価格帯のファッションの消費ルートはウィンドウショッピングが多く、コロナ禍でそれがほぼなくなってしまう時期があったことが原因です。

——airClosetにおいても、やはり影響があったのでしょうか?

我々の予想に反して、休会や退会はさほど多くありませんでした。既存会員の方々が利用を継続してくれた理由としては、「買い物に行けないなかでもファッションとの新しい出会いがつくれる」ということに価値を感じていただけたようです。

しかし、新規会員の獲得に関しては、やはり当初の想定よりも鈍化してしまいましたね。コロナ禍での外出制限やリモートワークの影響から、今は登録を控えようという心理が働いたようです。また、このコロナ禍を経て、会員の方が選ぶプランにも変化がありました。これまでは1回あたり3着借り放題のレギュラープランがメインで選ばれていましたが、ここ数年は月に1回、3着のお洋服が届くライトプランの比率が高くなっています。

——コロナ禍のさまざまな影響があるなかで、どのような対策を行ったのでしょうか?

感染拡大を起こさないための対策が第一でした。airClosetはこれまで休会という選択肢を設けていませんでしたが、会員の方が退会を希望する理由が、コロナ禍における緊急事態宣言などによるものであれば、休会という形で受け入れることにしました。というのも、退会手続きを行うには、まず手元にあるお洋服を返却しないと退会ができないのです。外出するということは感染リスクが高まることになります。そこで、一旦休会という形で受付をして、次の再開の機会までお洋服を持っておいていただける選択肢を設けることにしました。

コロナ禍で変わる、人々とファッションの向き合い方

——リモートワークが一般化したことで、対面でなくても仕事ができるようになりました。人と会うために服を選ぶニーズは減ってくるのではないでしょうか?

コロナ禍での緊急事態宣言や外出制限を経た結果、リモートワークなどが一定の範囲で定着し、継続することはあると思います。しかし、自宅のなかに居続ける生活が優先されるとは考えていません。実際、コロナ対策が進んでいるアメリカやイギリスにおいて、先進的なイノベーションを生み出している企業などは次々と「原則出社」に切り替えています。テスラなどがよい例ですね。

過去の歴史を振り返っても、人間が進化する過程で“組織であること”をやめた歴史はありません。リモートワークにもメリットはありますが、やはり、誰かと一緒に何かをするとき、対面でコミュニケーションを取ったほうが、スピード感があって精度が高くなるのは明白だと思っています。

——今後、多くの人がまた出社のために、airClosetを利用するという可能性も高いということですね。

そうですね。事実、最近はまたレギュラープランの契約が増え始めています。ただ、多くの人にとってリモートワークがしやすい環境が整ったことを受けて、我々もその変化に対応してサービスの中身を変えている部分があります。例えば、オンライン会議で存在や表情を分かりやすくするために、ビビットなお洋服を多めにそろえるようにしたり、仕事ではなくプライベートでの外出比率が高くなったことからカジュアルなお洋服の比率を高めたりしています。

コロナ禍での上場と独自の物流基盤が持つ価値

——この市況の変化が大きいタイミングで上場した理由を教えてください。

あえてこのタイミングを狙ったわけではなく、あくまでサービス開始時の事業計画に沿った結果、このタイミングでの上場になりました。airClosetが提供する、スタイリストの選んだお洋服が月額制で借り放題、返却期限もクリーニングの必要もなし、というサービス形態はリリース当時、同じビジネスモデルがないものでした。

たしかに、新型コロナウイルスの流行やウクライナでの戦争など、さまざまな外的要因で市況はネガティブな方向に向いていますが、そのなかでも我々のサービスが持続可能なビジネスモデルであると示す指標まで成長させられたことが、上場を決断した大きな要因です。上場はあくまで次の成長のためのスタート地点です。スケジュールをずらす必要はなく、このタイミングでの上場がむしろ最適だと踏み切りました。

——上場後の展望について、どのような戦略を考えていますか?

上場したことを理由にあえて展望に掲げることはないですね。先にお伝えしたように、上場はあくまで最初に組み立てたビジネスを成長させるための一つのスタート地点です。これまで成長させてきたものを、上場を経てそのまま継続的に成長させていくことをイメージしています。

具体的なところでいうと、我々はレディースファッションの分野で成長してきたのですが、以前から考えていたとおり、今後はメンズやシニアなどでの成長も拡大させていきたいですね。レディースにおいても実は、いまだに全国女性のサービス認知度が4%ほどです。ポテンシャルが残っている分、これまでと同じように成長する伸び代は多くあると考えています。

また、実際に会員の方が触れるサービス面でもユーザー体験を重視した機能やオプションを追加していきたいですね。日本はパーソナルスタイリングに慣れていない方が多く、初回にお洋服が届くまではワクワクよりも「何が届くんだろう、合わなかったらどうしよう」という不安のほうが勝ってしまう方も多いと思います。現在はその不安を払拭するために、初回のみお届けするお洋服を先にお見せするというサービスを行っています。このようにサービスを利用するにあたって感じる不安をなくして、よりワクワクを感じてもらえる時間を長くできるような機能を増やしていきます。

——2021年には在庫管理システムも自社開発していますね。BtoC以外の分野での展望などはありますか?

自社で物流の管理システムを開発したことで、これまでに構築と改善を繰り返してきた循環型の物流システムのノウハウをそこに集約することができました。具体的にいえば、お洋服や小物などの在庫を持って、それを貸し出し、返却されたらクリーニングに回して……というような流れに関するノウハウです。このような物流のシステムを一からつくろうとすると、必ず一定期間赤字が発生することになります。投資をするにも二の足を踏んでしまうことも多い事業なのです。そこで、我々の循環型物流のノウハウが集約されたプラットフォームを他社に貸し出すことで、同じようなサービスをリリースしたいと考えている企業様にも貢献できるのでは、と考えています。

エアークローゼットが目指す“時間の価値”の最大化

——エアークローゼットの物流プラットフォームが浸透することで、消費者行動はどのように変化すると考えていますか?

ファッションはこれまで、消費者が自分自身でトレンドを勉強して、それに応じた着こなしを理解してお洋服を選ばなければいけない側面が大きかったと思います。新しいブランドに出会うことも、1年に二〜三つほどではないでしょうか。多くの人が「時間が取れないから」と諦めている部分もあります。

しかし、そのような実態がある反面、時間があったらもっと買い物がしたい、さまざまなブランドに出会いたいと思っている人は多いです。我々の物流プラットフォームを浸透させることができれば、すべてを能動的に行わなければいけなかった消費行動を、受動で行える部分が多くなっていくと考えています。

——受動的にファッションを楽しむことができるようになる、ということでしょうか?

現在あるものでいえば、Instagramなどでインフルエンサーが提案するものを受け取って、そのなかから選ぶ、という消費行動はパーソナルスタイリングを受けてお洋服を選ぶことと近い行動です。

現在は情報過多な社会です。自分自身に最適化された情報を得ることが重要視されることと同じで、ただでさえ忙しい現代人が持つ時間を有効活用することは、消費行動にも取り入れられていくと考えています。これまで、ファッションを楽しむためには情報収集などに多く時間を費やす必要がありました。その消費行動の一部で提案型のサービスを利用することで、短い時間でこれまで以上にファッションを楽しむことができるのです。

——エアークローゼットは企業理念のなかでも「ひとりひとりの時間価値の最大化」に言及されていますよね。

そうですね。効率的に使われた濃度の高い時間は、その時間の価値が非常に高くなっている状態だと考えています。しかし、ただ単に“時間価値の最大化=時間の効率化”というものではなく、その時間をワクワクして過ごす、という状態も時間の価値が高い状態です。時間を有効活用することと、ワクワクを抱きながら時間を過ごすことは、一見まったく違うことのように思えますが、「その時間の価値が高い」という点においては同じです。

コロナ禍の影響によって、多くの人が自分自身と向き合ったり、時間の価値に対して考えるきっかけが増えたりしたことで、我々のサービスが人々の時間価値を最大化することに寄与できるシーンはますます増えていくと思います。今後も「人々の時間の価値を高めていきたい」という軸をぶらすことなく、多くの人たちのライフスタイルに寄り添ったサービスづくりを推進していきたいですね。

天沼 聰

株式会社エアークローゼット 代表取締役社長 兼 CEO

1979年生まれ、千葉県出身。高校時代をアイルランドで過ごし、英ロンドン大学コンピューター情報システム学科卒。2003年アビームコンサルティングに入社し、IT・戦略系のコンサルタントとして約9年間従事。2011年に楽天株式会社に転職し、UI/UXに特化したWebのグローバルマネージャーを務めた後、「ワクワクが空気のようにあたりまえになる世界へ」をビジョンに、2014年7月に株式会社エアークローゼットを設立。日本で初めての普段着に特化した月額制ファッションレンタルサービス『airCloset』を立ち上げ、その後もパーソナルスタイリングを提供するサービスを中心に複数の事業を展開。

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