経営者は「一番疎い人に合わせる考え方」を捨てよ。経営に好循環をもたらすデジタルシフト
2020/1/30
2019年12月に東証マザーズに新規上場したfreee株式会社。会計や人事労務、税務申告書作成のクラウドサービスを、中小・ベンチャー企業や個人事業主に提供しており、導入事業所数は100万社を突破したそうです。会計を中心とした経営のデジタルシフトを推進してきたfreeeが考える、これからの企業に求められるテクノロジーとの関わり方とはどういったものなのか。freee株式会社CEOの佐々木大輔氏に、ソウルドアウト株式会社代表取締役会長CGO荻原猛氏がお話を伺いました。
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会計のクラウド化が人材難や資金繰り課題にも貢献
佐々木:クラウド上で会計ソフトを提供する「freee」というサービスを展開しています。導入事業所数は100万を突破し、業種の偏りなく、従業員数300名以下の中小企業でよく使われています。
直近では、API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)を活用した外部サービス連携を強化し、よりご支援する幅を広げるための新戦略「freeeオープンプラットフォーム」に注力しています。この構想では、既に行なっていた会計の効率化・可視化に加え、freeeの持っている顧客基盤などのデータを活用して新しい価値を生み出すことを目指しています。
荻原:バックオフィス分野の効率化だけでなく、中小・ベンチャー企業の資金繰りの問題解決にも取り組んでいるとお聞きしました。
佐々木:はい。資金繰りの問題解決は、会計データと相性が良いため、新しくサービスを提供しています。現在、銀行など金融機関からの融資を選択肢に入れられるのは、一定の規模があり、経理や財務の選任がいる企業がほとんど。人手不足に悩む企業は、資金繰りが苦しくても、膨大な資料の用意を目の前にすると準備段階で止まってしまう。そのような企業のために、会計データを基に現段階で融資可能な金額や条件が可視化されるサービスを始めています。
目指しているのは融資の申込みプロセスを簡易化すること。まず、自社の資金繰り状況を明確化し、資金調達力を把握するという順番です。こういったテクノロジー活用の先には、「人工知能CFO」が経営課題にアドバイスをしてくれる世界に繋がっていくのではないかと考えています。
バックオフィス系ソフトウェアは、より進化していく
佐々木:デジタル化が始まったのは1980年代、パソコンの普及のタイミングです。会計ソフトを買ってきてパソコンにインストールして使う、という方式ですね。父が商売をしていたので、子どもの頃遊び半分で触っていたのを覚えています。
次に変化が起きるのは2010年代。freeeを含めたクラウド会計ソフトが出てきたタイミングです。逆に言えばその間の30年間、ほとんど変化がなかったんですよね。前職のベンチャー企業でCFOを務めていた時、会計ソフトを触ってみて驚きました。子どもの頃触っていたものと全然変わってないなって。
一方で、例えばゲームの分野は同じ30年で圧倒的に変化している。スマホでプレイをし、ネットワークで他の大勢と繋がって話しながら対戦することが当たり前になっている。会計などのバックオフィスも含め世の中のソフトウェアも、きっとそういった進化を遂げていくのではないかと思います。
例えば、今ビジネスパーソンにとって、エクセルで難しい関数を使えることは一つの基準になっていますが、もう10年経てばエクセルを触ること自体がすごく高度なスキルになると思います。大半の人はそんなことをしなくても勝手に分析してくれるようになるし、「今月のビジネス状況を報告してください」とスピーカーに言えばレポートしてもらえる時代になるかもしれない。今消費者向けに実現できていることは、10年くらい遅くなるかもしれないですが、ビジネスにも確実に応用されると思います。
佐々木:地方の場合は少し特徴的で、導入背景の一つに人材不足が挙げられます。例えば、経理部長が辞めてしまい、代わりの人を採用しようとしても専門知識を持った人材がなかなか見つからない。結果、業務に支障が出てしまう。そこで属人的になっていた業務をシステム化したいというニーズが発生し、クラウド会計ソフトのfreeeを使うといった流れです。
荻原:地方の中小・ベンチャー企業の採用に関する悩みは大きいですよね。ソウルドアウトでも人材難のご相談をいただくケースは本当に多いです。その際に、採用そのものを改善に走るだけでなく、業務の生産性向上、属人性排除が必要になるというのは重要な視点だと思います。
一番できない人に合わせる考え方を脱却できるか
佐々木:地方の製造業様で、freeeの導入によって、銀行の信頼を高めた事例があります。中小・ベンチャー企業では経理処理をどれだけ早く正確に締められるかによって銀行からの評価が変わり、それが資金繰りに影響するという現実があります。そんな中、元々手作業で経理作業をしていたところにfreeeを導入して、経理業務を自動化。その結果、毎月の経理を締める期間が圧倒的に早くなり、銀行からの信用が高まり、資金を回しやすくなりました。
自動化によってビジネスの改善にきちんと向き合えるようになることも、非常に大きなポイントです。freeeを導入する前は、データ入力に時間がかかっていて、試算表などを完成させるのがようやくという状況だった企業様が、実際に完成した試算表を分析して経営改善に活かし始めたという事例もあります。経理作業を簡易化することで、作業自体の目的化を防ぎ、数字と向き合うことに時間を使えるようになる。数字を管理していると段々と見えてくるものが増えるのは、経営にとって大きなメリットですね。
荻原:まさに、経営状況を分析できるようになると会社のステージは変わりますね。勘や感覚、どんぶり勘定ではなく、自社の状況を正確に把握し、経営判断ができるようになることは大きな価値になります。
では、反対に、企業のデジタルシフトが遅れてしまうのは、どのような背景があるのでしょう。
佐々木:組織の中で一番疎い人に合わせてしまうことが原因だと思います。例えば、一人でもスマホを持っていなければ、スマホを利用した仕組みを導入するのは不公平だからやめよう、というような考え方です。
それは人間を信じないマネジメントなんですよね。「できるからやってみようよ」ということの方が大事だと思います。例えば、高齢者の人にはインターネットは無理だと言われますが、銀行も電気屋さんもこちらの方が絶対に便利だからとネット経由の利用を促した結果、着実に利用人口は増えている。やっぱり、デジタルに疎い人に合わせるのは人間に対する諦めで、それによってもっと便利になる可能性のある他の全員を犠牲にしていると思います。
さらには、デジタルシフトしないことによって、社内のやり方が古いから人材の確保が難しくなっていく。そこまで考えると、一番疎い人に合わせる考え方を脱却できるかというのは、すごく大きなテーマですよね。多くの経営者はデジタルシフトしないことがもたらす弊害に気づいているけれども、周りに反対されて止まってしまうのではないかと思います。ただ、そこは反対されようが自分が正しいと思ったら経営者自身が行動に移していくべきです。
そうやって一歩踏み出すことが、採用の強化や組織の活性化など、好循環を作るきっかけになるのだと思います。
荻原:最近、地方でも特にHR領域のデジタル化を進める企業が増えてきているんですが、そういった企業は成長意欲が高くてベンチャー気質。まずやってみようという姿勢の方が多い印象ですね。
デジタルシフトで生産性を向上させ、組織活性化や人材確保を支援
佐々木:freeeは、アイデアやパッションやスキルがあればだれでも、ビジネスを強くスマートに育てられるプラットフォームを目指しています。実現のプロセスには三段階あります。
第一段階は現在取り組んでいる会計のクラウド化の領域です。今後はさらにカバーできる業務範囲を増やして、業務の効率化、経営の可視化を実現していきます。第二段階は、第一段階で実現したことをベースにプラットフォーム化すること。これにはユーザーと開発者を結びつけることや、ユーザーとユーザーの取引をより簡単にすることも含まれます。API連携を通じて、顧客関係管理サービスと連携したりPOSレジと連携したり、ご提供できる機能を広げていきます。そして第三段階は、freeeのデータを活用して、経営課題を直接解決できるソリューションを提供すること。会計データは資金繰り、人事データは採用などの課題解決に使っていくことを目指しています。
クラウド化によって生産性をあげるというと、小さなことだと捉えられがちですが、実は組織の活性化や人材の確保といった本当に解決したい課題に直結しているんです。
荻原:やはりITの使命は生産性向上ですね。ある調査では、中小企業の労働生産性は大企業の半分ほどだと言われています。生産性が低いためにいい人材が採用できないという状況はもったいない。佐々木さんが掲げているビジョンは、地方の中小企業のデジタルシフトが進むことによって実現されていくのではないでしょうか。中小企業の経営を強くするためのプラットフォームとしてfreeeが果たす役割はますます大きくなりそうです。
佐々木:テクノロジーを大企業しか利用できない時代は終わりました。テクノロジーを使って大企業との差を埋められる時代がもう来ています。現在は価格面でも中小企業が使える状況になっているのに、テクノロジー導入のメリットが知られていないのはもったいないことです。中小企業の明るい未来をもたらす鍵は経営のデジタルシフト。それを実現するためのプラットフォームとして、freeeをさらに発展させていきます。
一橋大学商学部を卒業後、博報堂や投資ファンドのCLSAキャピタルパートナーズ、Googleなどを経て2012年7月にfreee株式会社を設立。2019年12月に東証マザーズに上場。日経ビジネス 2013年日本のイノベーター30人 / 2014年日本の主役100人/2015 Forbes JAPAN 日本の起業家BEST10に選出、2019年殿堂入り。