顧客接点・メディア・インフラ提供。DX時代のコンビニの新たな可能性。ファミリーマート社長 細見研介氏×立教大学ビジネススクール田中道昭教授【後編】

コーポレートカラーの緑と青のライン入りソックスが空前の大ヒットとなったファミリーマート。2021年に創立40周年を迎え、新プライベートブランド「ファミマル」の評判も上々の業界売上2位の巨人は、コロナ禍を経てどのように進化していくのでしょうか。あらゆる業種・業界でDXが進み、コンビニにも大きな変革の波が押し寄せる今、親会社の伊藤忠商事からファミリーマートの社長に就任した細見研介氏と立教大学ビジネススクール田中道昭教授が、日米の事例を交えながらコンビニの未来の姿について意見を交わしました。

後編は、メディアとしてのファミリーマートの可能性、アメリカのウォルマートが成功させたリテールメディア戦略、伊藤忠商事が掲げる商いの三原則、2022年の展望などについてお話を伺います。

*本稿は対談の要旨であり、実際の対談内容は動画をご覧ください。

顧客とのデジタル接点構築と店舗のメディア化、ファミマのDX戦略

田中:次にお伺いしたいのが最近のファミマの広告戦略です。画期的だと思うのはメディア広告事業の可能性です。私は、コロナ禍の2020年5月に出した著書『2025年のデジタル資本主義 「データの時代」から「プライバシーの時代」へ』の中で、「これからすべての会社がメディアカンパニーになることを求められている」という主張をしています。昨年の2021年6月には『世界最先端8社の大戦略「デジタル×グリーン×エクイティ」の時代』という著書を出しました。その第一章ではウォルマートを徹底的に分析しています。ウォルマートはコロナ禍で顧客とデジタル、スマホでつながることで成功し、「Walmart Connect」というリテールメディア事業を本格的に立ち上げました。店舗だけではなく、ウォルマートはデジタルで顧客とつながって、デジタルでの広告事業を本格的に始めています。ファミリーマートの場合は、店舗のデジタルサイネージ等を活用することになると思いますが、リテールメディアとしてのファミマの可能性についてはどのようなことをお考えですか?

細見:3年ほど前からいろいろ手を打ち始めていて、決済と販促アプリが一体になった「ファミペイ」を既に導入しており、現在は1,000万規模の方にダウンロードをしていただいています。それとは別に一昨年、NTTドコモさんと「データ・ワン」というターゲティング広告の会社をつくりました。私たちのデータ量だけでは足りない部分もありますので、ドコモのデータとサイバーエージェントの代理店のノウハウを取り入れ、Cookieを使わずに、情報を立体化させて広告に活用していくという仕組みを構築しました。

メディアという側面については、デジタルサイネージを急ピッチで、可能な店舗にできる限り設置していきたいと思っています。さらにリアルのお店のパーツとパーツをどう組み合わせて新しいサービス、新しい事業を作っていくのか。リアルの店舗は日本国内だけで約16,600店あり、そこには約1,500万人の国内外のお客様が日々訪れます。これはリアルの顧客接点になります。「ファミペイ」でリアルの顧客接点と、1to1のデジタルの顧客接点を持っていますので、このあたりをどうシンクロナイズ(同期)させ、インテグレート(統合)させるのか。それが私たちの新しいビジネスモデルの課題です。

田中:私のオフィスは半蔵門にあるのですが、半蔵門はファミマのドミナント戦略(※1)のど真ん中だと思います。たくさんの店舗が半蔵門にあり、一部の大型店舗ではメディアコーナーで化粧品会社の取り組みがなされていました。広告事業はBtoBの事業ですし、ファミマの事業自体もBtoBとBtoCの事業がマッチングしてきたビジネスだと思います。2年ほど前にAmazonの本部長とデジタルシフトタイムズで対談をしたのですが、Amazonはビジネス上でBtoBのクライアントの利害とBtoCの消費者の利害が対立した場合は、社内のルールとして消費者の利益を優先することが定められているそうです。非常に難しい質問かもしれませんが、事業をしていると利害が対立することがあると思いますが、そこはどう調整していますか?
(※1)特定のエリアに経営資源を集中し、市場の独占を狙う戦略のこと

細見:ファミリーマートのコーポレートメッセージである「あなたと、コンビに、ファミリーマート」の「あなた」とは常に消費者です。これは私たちにとって常識化していますので、そこはあまり議論の余地はないと思います。

田中:広告事業というよりは、消費者がなにをどこで買うのかに対する購買支援事業という捉え方でしょうか。

細見:そうですね。

日本の小売業が参考にすべき、ウォルマートDX成功の秘訣

田中:リテールメディアとしてのウォルマートが非常に強いと思うのは、デジタル、そしてスマホで顧客とつながったことによって、Amazonと同じように顧客がなにを検索しているのかという情報を持っていることです。そして普通の広告のプラットフォームと決定的に違うのは、なにを買ったのかというデータがあることです。そこから逆算して購買の支援をする、あるいはBtoBの事業者に対して広告の支援をすることもできます。デジタルとスマホで顧客とつながることの重要性と課題についてはどのようにお考えでしょうか?

細見:すでにデジタルでのマーケティングを始めておりまして、消費者の購買傾向を商品開発に活かすという取り組みをしています。それを商品開発だけではなく、販促にも活かしたり、モノだけではなくサービス機能、例えば金融などと、どのような形で連携していくのかはこれからのチャレンジになるかと思います。

田中:昨年は、日本郵便との連携で無人決済システムを活用した省人化店舗の展開も発表されました。さまざまな組み方の可能性があるのがファミマだと思います。メディアカンパニーについて、他にどのような可能性が、ファミマというコンビニの業態としてあるのでしょうか?

細見:確実に言えることは、ECはもっと広がっていくと思います。大企業がECに進出して、ものづくりをしている企業が直に消費者に商品を売っていく。それが究極の目的ですが、その過程でさまざまな難しさが出てくるのではないかと思っています。大企業ではなくて中小企業、それから個人がものづくりをしたり、もしくは持っているものを売ったりするようになる。その過程でコンビニは、商品を実際に見て、販促ができるプラットフォームになれる可能性があります。受け取り拠点としての役割も担えるかもしれない。またサイネージのある店舗を持っているということは、既存の動画系のSNSとも連携が可能になるということです。より発展していくECに対して、一部の機能を提供できる可能性はあると思います。

田中:コンビニのデジタル化の一丁目一番地は、引き続きECをいかに成功させるかということで、ECが成功できたということは、デジタルかつスマホで顧客と繋がったということですよね。

細見:モノを売るというECではなくインフラを提供すると考えると、大きな可能性があると思います。

田中:アマゾンも書店、スーパーというリアル店舗の出店に続き、いよいよアパレルにも進出したということは、リアルは不可欠だということのなによりの証左だと思います。一方、デジタルネイティブの会社からリアルに出るのと、デジタルネイティブではない会社がデジタルをやるのはそれぞれ長所が全然違います。

細見:ウォルマートがアマゾンに追いつけ追い越せという精神を持って、ジェット・ドット・コム(※2)の買収をし、受け取り拠点化をして、サイネージをたくさんつけ、最近はその機能も外部に開放し始めています。そういった方向性は一つあるのではないかと思います。

(※2)マーケットプレイスの「Jet」を運営していた米国企業

田中:私はウォルマートを徹底的にベンチマークしていますが、非デジタルネイティブ企業のウォルマートがデジタル化を成功させたという事実は、ファミマを含む日本の小売業にとってデジタル化成功の事例として参考になると思います。

細見:私たちはもともとリテールから始まっているのですべて一緒とは言えませんが、デジタルの世界からはじまった企業よりは、考え方の思考回路は似ていると思います。

田中:ウォルマートがどうしてDXで成功できたのか、戦略を分析する中で一番見逃せないのは経営者が最初に、企業文化の刷新から手をつけたことです。それまでも顧客中心主義とは言ってきましたが、Amazon並み、デジタルネイティブ企業並に、「顧客をその人の宇宙の中心に置く」カスタマーセントリックにシフトしようとしてきました。さらに「企業文化をスタートアップのようなスピーディーなものに刷新しよう」というところまで手をつけたからこそ成功できたのだと思います。その辺りは今後どのようにチャレンジされるでしょうか?

細見:スマホが登場したのが2000年代後半です。スマホと一緒に育った人たちの思考回路、人生経験というのはそれまでの人とはまったく違うはずで、それがますますこれから加速していきます。その人たちは生活者でもあり消費者でもあります。そういう人たちの考え方を取り入れないと、これからの企業、ファミリーマートの未来はないのではないかと社内では常に言っています。役職者とも話をしますが、若い人たちの意見を取り入れること、耳を傾けることが一番大事だと思います。ウォルマートは少し違うかもしれませんが、弊社の場合はそこから始めていったらどうかと思っています。

「稼ぐ・削る・防ぐ」の三原則で描く、ポストコロナのファミリーマート

田中:そういう価値観を持つ細見社長が着任されて、業界の中でも期待の持てる会社だと思います。大切なのは形式的なデジタル化というより、経営者一人ひとりがどれだけ聞く耳を持っているのか、価値観に合わせられるのか、ということだと思います。

次にお伺いしたいのは、やはり細見社長は伊藤忠ご出身で、生粋の商人でいらっしゃいます。まさしく強調されているのも「商いの三原則」である「稼ぐ・削る・防ぐ」です。「稼ぐは商人の本能。削るは商人の基本。防ぐは商人の肝。」とありますが、2022年のファミリーマートに求められている「稼ぐ・削る・防ぐ」とはそれぞれどのようなものでしょうか?

細見:「稼ぐ」はおいしさの追求ですね。昨年「ファミマル」というプライベートブランドを導入しましたが、今年はこれが本格稼働する1年になります。徹底してファミリークオリティのおいしさを追求していきたいと思います。そして、ファミリーマートらしい「コンビニエンスウェア」に代表される商品も強化をしていきます。今年はポストコロナになっていくと思いますし、消費活動も活発になって欲しい。その上で新しい価値観をどうやって追いかけていくのか。まず、新しい価値観を探っていかないといけない、というのが今年の1年です。

田中:では、今年「削る」ものはなんでしょうか?

細見:昨年末ぐらいからサプライチェーンの問題が出てきています。私たちはタイからチキンを輸入しているのですが、年末にはコロナの問題で輸入が滞り、船から飛行機に切り替えて輸送しました。サプライチェーンをどう効率化していくのかが重要です。さらにファミリーマートだけでも1日約4,500台ほどのトラックが走っています。これは環境への負荷でもありますし、これをどう削っていくのかが重要な課題だと思います。

田中:2022年ファミマの「防ぐ」とはなんでしょうか?

細見:全般に言えるわけですが、サプライチェーンの維持やチェーン店舗の維持ということを考えると、今年から本格的に始まるのが契約更改です。多くのフランチャイズの契約更改が今年と来年にあります。店舗の皆様にファミリーマートの将来像をお見せしながら丁寧に、一人ひとりの加盟者さんとお話をしてチェーンを維持していく。それが「防ぐ」という文脈では大事だと思います。

田中:2022年はコロナも一服してくると思いますし、してほしいと思います。そんな中で、グローバルマーケットではいろいろな資金流出が見られました。金融業界出身の私としては、今年は大きな変化の1年になると思っています。ビジネスの環境としてはさらに激変が予想される2022年、「商いの三原則」である「稼ぐ・削る・防ぐ」を日本の実業界全般に当てはめるとしたらどうなりますか?

細見:オミクロン株が拡大中でなかなか思い切った発言は憚られますが、欧米諸国を見るとすでにポストコロナになってきています。グローバルな競争環境を考えると「稼ぐ」モードに軸足を置いていくべきだと思います。

田中:アメリカでは金利が上がり始めています。グローバルでサプライチェーンがタイトになって、いろいろな所でモノの値段が上がる大変な1年になると思います。最後に、このメディアを見ている経営者、若いリーダーの皆さんに向けて、メッセージをお願いします。

細見:コロナの2年間、非常にご苦労も多かったと思います、しかしこの2年間は必ず将来のビジネスのテコになってくると信じています。幸い政府の支援もあって家計が傷んでないというところが日本では大きな支えになり、チャンスを広げてくれるキーポイントではないかと思っています。ファミリーマートは2022年も明るく元気に、おいしさを日本に届けられるように頑張ってまいります。ぜひご支援をお願いいたします。

田中:どうもありがとうございます。個人、まわりの地域社会を鼓舞するファミリーマートであり続けていただきたいと心からお祈りしております。細見社長、本日はどうもありがとうございました。

細見:どうもありがとうございました。

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