立教大学ビジネススクール 田中道昭教授の熱血講義『世界最先端のデジタルシフト戦略』Vol.1 最速10分で商品が手元に。「ダークコンビニ」に学ぶ、未来のコンビニ像

コロナ禍で大きな打撃を受けている日本のコンビニ業界。その一方で、アメリカで生まれた「ダークコンビニ」は、コロナ禍において三密回避ができる新しいビジネス業態として注目されています。店舗を持たずに取扱商品を厳選して、オーダーが入れば30分以内という超短時間で商品を届けるサービスが支持を集め、いまでは各国で同業態が生まれているほど。そのターゲットは一般消費者のみならず、B2B業界にも拡大中です。三密回避が求められる時代において、コンビニはどのように変化していくべきなのでしょうか。アメリカの事例も踏まえながら、AIやDXを活用した未来のコンビニの姿について、GAFA等メガテック企業の戦略にも詳しい、立教大学ビジネススクール田中道昭教授に徹底解説いただきました。

ソフトバンクグループも投資するダークコンビニ業態。「gopuff」とは何か

アメリカのスタートアップやテクノロジー企業の最新情報を伝え、日本では日本経済新聞が提携するCB INSIGHTSの2021年第一四半期のリテールテック・レポートによると、デリバリーサービスをDXで提供するデリバリーテック企業の複数社が大型資金調達の中核にあり、今、デリバリーテックは大きな注目を集めています。

また、ソフトバンクグループが今年の5月に行った2021年3月期の決算発表で、ソフトバンクグループの投資先として紹介されたのが、「gopuff」という企業です。 gopuffとは「AI×デリバリー」を基軸にしたオンラインコンビニのこと。日用品をオンデマンドで配送するサービスを行っているのですが、この企業が非常に特徴的なのは、商品数を売れ筋上位の3000点に絞っている点です。Amazonのロングテール戦略に対して、商品数を厳選することで配送時間を20分~25分に短縮し、送料は$1.95という低価格に抑えています。定額制のサービスも行っており、毎月$5.95で指定の場所まで配送してくれます。さらに配送拠点は米国650都市に展開し、数々のグローバルブランドと提携しています。
出典元:ソフトバンクグループ 2021年3月期 決算発表 プレゼンテーション資料より
これまでECの世界においてはAmazonが圧倒的な低価格、豊富な品揃え、迅速な配達を売りにして最強のポジションを築いてきました。ECでAmazonを打ち負かすことは難しいと思われていたところに登場したのが、トップヘビーの売れ筋3000点に特化したgopuffです。20分~25分という短時間での配送の実現にはAIが不可欠です。地域性、ユーザー属性、需要、天候、配送地などのビッグデータをAIで解析して、適正在庫の把握、配送ルートの効率化、配送拠点の最適化を実現しています。
先ほども申し上げたように、CB INSIGHTSの2021年第一四半期のリテールテック・レポートによると、いくつかのデリバリーテック企業が多額の資金調達をしています。現在、アメリカでは新型コロナウイルスのワクチン接種がかなり進んでいますが、それ以前は世界最大の感染国であり、三密回避の需要はかなり高い状況にありました。三密回避の需要が高い地域であればあるほど、デリバリーテックが注目され、サービスは一気に加速しています。

デリバリーテックは世界各国で誕生しています。アメリカではgopuff以外にも、「Ohi」というD2C事業者における迅速なローカルデリバリ―を支援する企業が注目されているほか、オランダには「Bringly」というローカルデリバリーテックが存在します。またターゲットを一般消費者だけでなく、B2B事業者にも拡大しており、アメリカの「Curri」、オーストラリアの「GETTER」の2社はともにB2B事業者間の配送に特化した建設資材を扱う迅速なデリバリーテックです。

デリバリーテックの中にあって、新たに生まれている概念が「ダークコンビニエンスストア」です。通常のコンビニにはもちろん店舗があり、人は店舗に買い物に行くわけですが、ダークコンビニには店舗がありません。「ダーク」とは「倉庫」を意味しており、ECで注文を受け、倉庫から顧客に商品を配送するビジネスモデルのことを示しています。まさに、冒頭で紹介した、gopuffもダークコンビニのカテゴリに入ります。

三密回避需要のトレンドを受け、ダークコンビニのビジネスが増加していることに伴い、さらなる超高速デリバリーサービスも拡大しています。先ほどのgopuffが20分〜25分で配送をするのに対し、トルコの「Getir」は10分以内でグロサリーを届け、イギリスの「Weezy」やフランスの「Cajoo」も15分という短時間のデリバリーを実現しています。

Amazon Goはコンビニの強みをどうアップデートしているのか

デリバリーテック、ダークコンビニの台頭を踏まえて、リアル店舗を持つ日本のコンビニ、および日本のコンビニ業界をデジタルシフトでアップデートするということについて考えみましょう。ここでは、デジタルシフト社が提供するデジタルシフトアカデミーの中で、私が担当している「大胆なデジタルシフト戦略策定」の授業で実際に行っているプロセスを辿りながら、既存のコンビニをデジタルシフトでどうアップデートしていくかを考えていきます。デジタルシフトの目的とは「事業」、「カスタマーエクスペリエンス」、「データ分析」、「つながり」、「経営スピード」を進化させることです。中でも本質は「事業」の進化、アップデートにあります。
従来のコンビニの強みは「便利×おいしい」という価値にあります。コンビニエンスストアという名前のとおり、利便性に優れていたわけです。全国に何万件も店舗があって、小規模商圏に対応した家から最も近い店舗で、必要最低限の商品を扱っている。さらに、弁当やサラダなどはスーパーでも置いていますが、セブンイレブンを筆頭においしさには定評があります。「便利×おいしい」こそコンビニが提供する価値で、それは昔も今も今後も変わらないでしょう。

その「便利×おいしい」という価値を進化させた店舗が、Amazonが運営する「Amazon Go」です。Amazon Goは、「便利」という価値に対して、デジタルによってただ立ち去るだけで買い物ができるという形でアップデートしています。一方で「おいしい」という価値に対しては、デジタルではなく別の形でアップデートしています。Amazon Goは、日本では店員のいない無人コンビニという認識があるかもしれませんが、私が実際に行って驚いたのは、Amazon Goは有人コンビニだということです。通りから見える場所にはオープンキッチンがあって、そこで人がサラダやサンドイッチを作っているのです。これは、AIやDXの急先鋒であるAmazonが「人が人に求めているものはなにか?」を定義した結果といえるでしょう。実際にはロボットが作ったサンドイッチの方がおいしいかもしれませんが、どんなにAIやDXが進んでも人が人に求めるものは「目に見えるところで人が作っているサンドイッチ」だということです。なんでもAIやDXに頼るのではなく、人力でおいしさをアップデートしている点に注目すべきでしょう。

コロナ禍で日本のコンビニ業界はなぜ苦戦しているのか

コロナ禍によりコンビニの売り上げは2020年に初のマイナスを記録*しました。出店ペースも減速し、大手3社においても顧客離れが進んでいます。スーパー、ドラッグストアなどはコロナ禍でも好調な業績を維持していますが、コンビニは百貨店に次いで苦戦している業態です。これまで「便利×おいしい」の強みで他業態の優位に立っていたコンビニですが、そこに取って代わって現れたのがUber EATSとダークコンビニです。

*下図参照
Uber EATSは私も利用していますが、その強みは寿司でもステーキでも有名飲食店のメニューが頼める点です。それが早ければ10分~20分程度で自宅に届きます。スマホでオーダーと決済ができて、現金の受け渡しがなく、三密回避にもなる。利便性においてもおいしさにおいても、コンビニを超えてしまったわけです。日本にはまだダークコンビニは存在しておらず、取扱商品は3000点程度なのでおいしさでは従来のコンビニにアドバンテージがありますが、頼んだ商品が15分程度で届くのであれば利便性は非常に高いといえます。Uber EATS等の飲食店のメニューが頼めるデリバリーサービスは、従来のコンビニ以上に「便利×おいしい」という価値を提供しています。「便利×おいしい」の最も重要な基軸が崩れていることが、コンビニ低迷の原因でしょう。

いずれ上陸する「ダークコンビニ」、日本のコンビニの勝ち筋は

コンビニが立ち直るにはどうするべきか。それは「便利×おいしい」という価値を因数分解してアップデートすることです。具体的に利便性においては、プロセスの少ない早くて簡単な自動決済を採用して、一定金額での配送やストアピックアップを実施する。おいしさでは、キッチンセンターを複数箇所に設けて飲食店レベルの味をデリバリーするくらいのことをしなければ生き残れないでしょう。味と質には重点的に投資をして、品揃えを厳選して一定の戦略商品に特化します。そして、双方のアップデートに欠かせないのは、顧客とスマホでつながり、データを活かしてカスタマイズしたサービスを提供することです。
日本でもUber EATSと提携してデリバリーを実施しているコンビニがありますが、まだまだ配送料が高額です。近くにコンビニがあるのにこの料金で利用する人は少ないでしょう。先日、Zホールディングスが都内の一部地域で最短15分で商品を届けるサービスの実証実験をスタートさせました。また、セブン&アイ・ホールディングスも2025年を目処に、国内のコンビニエンスストアの全約2万店を活用し、宅配事業に参入することがわかっています。専用サイトやアプリで注文を受け付け、対象品目は店舗で扱う食品や日用品など約3000点。税抜き1,000円以上の注文を受け付け、330円(税込)の宅配料を徴収し、最短30分で商品を配送します。​さらに日本のスタートアップも「ダークコンビニ」の業態に注目しています。OniGO株式会社は、まさに「ダークコンビニ」の業態で、配送専用のスーパーを8月25日、東京都目黒区にオープンしました。特長は食料品や生活用品を、半径1キロのエリアに「注文から10分以内」で届けること。宅配料金は300円(税込、初回のみ無料)。年内に都内で25店舗の出店を目指しています。

いずれにしても、gopuffに代表される、海外で成長するダークコンビニが日本に上陸する際には、誰もが利用したくなる料金でサービスを提供するでしょう。日本企業の大きな問題は、大企業病に陥って形だけのデリバリーサービスをやろうとしていることです。先ほど紹介したgopuffの配送料は月額で$5.95。この料金で25分以内に届けてくれるならば多くの人が利用したくなるでしょう。配送料についてもアメリカのダークコンビニ並みにしなければ利用者は増えません。それは簡単なことではありませんが、いずれダークコンビニは日本にも上陸してきます。そのときに日本のコンビニはどうするのか。

ビジネスで重要なのは事業の本質です。コンビニの本質は「便利×おいしい」にあります。この本質は10年後も変わらないでしょう。現状はコロナ禍で相対的にコンビニの価値が落ちたから業界全体が厳しくなっているのです。重要なのはすべてをデジタルに置き替えることではありません。Amazon Goでサラダやサンドイッチを人が作っているように、デジタルとリアルでアップデートすることです。

Amazonのジェフ・ベゾスが大切にしている「Day 1」とは、毎日が創業の日だということです。「Day 2」は創業から2日目のことですが、その日から大企業病になりイノベーションは起こせません。ですから日本のコンビニ業界も、形だけ整える大企業病から決別すべきです。gopuffのようなデリバリーテック・ダークコンビニ企業は全て、スタートアップです。これまでAmazonを攻略できるなんて誰も思わなかったと思いますが、gopuffをはじめとするダークコンビニのように売れ筋のトップヘビー3000点に注力してビッグデータとAIを活用すれば、一部のニッチな領域においては、Amazonを打ち負かすことは可能です。今こそ日本のコンビニ業界は「Day 1」を忘れず、スタートアップのようなスピーディな企業DNAを取り戻して、大企業病から脱することが求められています。

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