立教大学ビジネススクール 田中道昭教授の熱血講義『世界最先端のデジタルシフト戦略』Vol.1 最速10分で商品が手元に。「ダークコンビニ」に学ぶ、未来のコンビニ像
2021/8/30
コロナ禍で大きな打撃を受けている日本のコンビニ業界。その一方で、アメリカで生まれた「ダークコンビニ」は、コロナ禍において三密回避ができる新しいビジネス業態として注目されています。店舗を持たずに取扱商品を厳選して、オーダーが入れば30分以内という超短時間で商品を届けるサービスが支持を集め、いまでは各国で同業態が生まれているほど。そのターゲットは一般消費者のみならず、B2B業界にも拡大中です。三密回避が求められる時代において、コンビニはどのように変化していくべきなのでしょうか。アメリカの事例も踏まえながら、AIやDXを活用した未来のコンビニの姿について、GAFA等メガテック企業の戦略にも詳しい、立教大学ビジネススクール田中道昭教授に徹底解説いただきました。
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ソフトバンクグループも投資するダークコンビニ業態。「gopuff」とは何か
また、ソフトバンクグループが今年の5月に行った2021年3月期の決算発表で、ソフトバンクグループの投資先として紹介されたのが、「gopuff」という企業です。 gopuffとは「AI×デリバリー」を基軸にしたオンラインコンビニのこと。日用品をオンデマンドで配送するサービスを行っているのですが、この企業が非常に特徴的なのは、商品数を売れ筋上位の3000点に絞っている点です。Amazonのロングテール戦略に対して、商品数を厳選することで配送時間を20分~25分に短縮し、送料は$1.95という低価格に抑えています。定額制のサービスも行っており、毎月$5.95で指定の場所まで配送してくれます。さらに配送拠点は米国650都市に展開し、数々のグローバルブランドと提携しています。
デリバリーテックは世界各国で誕生しています。アメリカではgopuff以外にも、「Ohi」というD2C事業者における迅速なローカルデリバリ―を支援する企業が注目されているほか、オランダには「Bringly」というローカルデリバリーテックが存在します。またターゲットを一般消費者だけでなく、B2B事業者にも拡大しており、アメリカの「Curri」、オーストラリアの「GETTER」の2社はともにB2B事業者間の配送に特化した建設資材を扱う迅速なデリバリーテックです。
デリバリーテックの中にあって、新たに生まれている概念が「ダークコンビニエンスストア」です。通常のコンビニにはもちろん店舗があり、人は店舗に買い物に行くわけですが、ダークコンビニには店舗がありません。「ダーク」とは「倉庫」を意味しており、ECで注文を受け、倉庫から顧客に商品を配送するビジネスモデルのことを示しています。まさに、冒頭で紹介した、gopuffもダークコンビニのカテゴリに入ります。
三密回避需要のトレンドを受け、ダークコンビニのビジネスが増加していることに伴い、さらなる超高速デリバリーサービスも拡大しています。先ほどのgopuffが20分〜25分で配送をするのに対し、トルコの「Getir」は10分以内でグロサリーを届け、イギリスの「Weezy」やフランスの「Cajoo」も15分という短時間のデリバリーを実現しています。
Amazon Goはコンビニの強みをどうアップデートしているのか
その「便利×おいしい」という価値を進化させた店舗が、Amazonが運営する「Amazon Go」です。Amazon Goは、「便利」という価値に対して、デジタルによってただ立ち去るだけで買い物ができるという形でアップデートしています。一方で「おいしい」という価値に対しては、デジタルではなく別の形でアップデートしています。Amazon Goは、日本では店員のいない無人コンビニという認識があるかもしれませんが、私が実際に行って驚いたのは、Amazon Goは有人コンビニだということです。通りから見える場所にはオープンキッチンがあって、そこで人がサラダやサンドイッチを作っているのです。これは、AIやDXの急先鋒であるAmazonが「人が人に求めているものはなにか?」を定義した結果といえるでしょう。実際にはロボットが作ったサンドイッチの方がおいしいかもしれませんが、どんなにAIやDXが進んでも人が人に求めるものは「目に見えるところで人が作っているサンドイッチ」だということです。なんでもAIやDXに頼るのではなく、人力でおいしさをアップデートしている点に注目すべきでしょう。
コロナ禍で日本のコンビニ業界はなぜ苦戦しているのか
*下図参照
いずれ上陸する「ダークコンビニ」、日本のコンビニの勝ち筋は
いずれにしても、gopuffに代表される、海外で成長するダークコンビニが日本に上陸する際には、誰もが利用したくなる料金でサービスを提供するでしょう。日本企業の大きな問題は、大企業病に陥って形だけのデリバリーサービスをやろうとしていることです。先ほど紹介したgopuffの配送料は月額で$5.95。この料金で25分以内に届けてくれるならば多くの人が利用したくなるでしょう。配送料についてもアメリカのダークコンビニ並みにしなければ利用者は増えません。それは簡単なことではありませんが、いずれダークコンビニは日本にも上陸してきます。そのときに日本のコンビニはどうするのか。
ビジネスで重要なのは事業の本質です。コンビニの本質は「便利×おいしい」にあります。この本質は10年後も変わらないでしょう。現状はコロナ禍で相対的にコンビニの価値が落ちたから業界全体が厳しくなっているのです。重要なのはすべてをデジタルに置き替えることではありません。Amazon Goでサラダやサンドイッチを人が作っているように、デジタルとリアルでアップデートすることです。
Amazonのジェフ・ベゾスが大切にしている「Day 1」とは、毎日が創業の日だということです。「Day 2」は創業から2日目のことですが、その日から大企業病になりイノベーションは起こせません。ですから日本のコンビニ業界も、形だけ整える大企業病から決別すべきです。gopuffのようなデリバリーテック・ダークコンビニ企業は全て、スタートアップです。これまでAmazonを攻略できるなんて誰も思わなかったと思いますが、gopuffをはじめとするダークコンビニのように売れ筋のトップヘビー3000点に注力してビッグデータとAIを活用すれば、一部のニッチな領域においては、Amazonを打ち負かすことは可能です。今こそ日本のコンビニ業界は「Day 1」を忘れず、スタートアップのようなスピーディな企業DNAを取り戻して、大企業病から脱することが求められています。