なぜ日本企業のデジタルシフトは失敗するのか。社内に生まれ始めた「デジタルシフトの芽」を潰すな!

これまで企業にとって、売上・利益を拡大するためには、労働人口を増やすことが前提となっていました。しかし現在、日本では人口減少に歯止めがかからず10年連続で減少しています。労働人口に左右されない経済発展を叶えるためには、企業のデジタルシフトが必須です。

そんな中、デジタルシフトを通じてすべての企業を支援するため、「デジタルシフト」を新たな中核事業に据え、2020年7月に商号をも変更したデジタルホールディングス。事業転換に至るまでの想いや、今後提供していくサービスについて同社代表取締役社長 グループCEOの野内 敦氏に話を聞きました。

ざっくりまとめ

- 商号をデジタルホールディングスに変え、デジタルシフトを通じてすべての企業の支援を目指す
- 企業がデジタルシフトを推進するには、新しい組織を作ることが大切
- コスト負荷を抑えたデジタルシフトを実現するには、SaaS導入が鍵となる

「デジタルを、未来の鼓動へ。」ミッションステートメントに込めた想い

ー改めて、社名やビジョンを刷新した背景を教えてください。

弊社は創業当初から大事にしている価値観があり、それをもとに、これまでもミッションを創り変えてきました。そして、最近になって、時代とともにそのミッションが分かりづらくなってきていると感じていました。ミッションをもとに売上1兆円など、数字目標は出せるものの、我々がどれだけ社会に貢献できるのかを言い表すことができず、モヤモヤしていたんです。改めてミッションを見つめ直し、自社の成長だけにこだわるのではなく、社会課題を解決する会社、未来の繁栄を築き先導する会社であるべきと考えていたのです。

とはいえ、一口に社会課題と言ってもたくさんの種類があります。我々が取り組むからには、自社の強みを活かせる分野を選択すべきです。そう考えたとき、これまでデジタルマーケティングを行なっていた我々ならば、今度は企業のデジタル化を牽引できると思い至ったのです。デジタルを活用することで、企業は生産性を上げるだけに留まらず、人が介在する価値を追求することができる。そして、デジタルの力ですべての企業の挑戦を支えていくことができる。そうすることで、日本の未来に貢献できると確信したのです。そうした想いをもとに生まれたのが、現在掲げているミッションステートメント「デジタルを、未来の鼓動へ。」でした。

ー社会課題と自社の強みの両方を考え、たどり着いたのが「デジタルを、未来の鼓動へ。」というミッションだったのですね。

そうです。

我々はここ5年ほど、多くの企業さまがデジタル化に苦戦している様子を見てきました。苦しんだ企業の中には我々も含まれます。デジタルの世界に身を置いてきた企業ですら苦しんだのです。お客さまをはじめ、他の企業はさらに困難な状況にあると想像することは簡単でした。

そんな中で着目したのが「労働生産性」というキーワードでした。これなら我々が蓄積してきたノウハウを活用することができ、ここにソリューションを提供することができれば、これから先何十年にもわたって日本を苦しませるであろう課題を一挙に解決できると思ったのです。

ーなぜ企業のデジタル化は難しいのでしょうか?

まず前提として、デジタル事業に取り組んだ経験がある企業はほとんどありません。やり方が分からず二の足を踏んでしまう上に、デジタル事業はやってみないと、うまくいくかどうか分からないところが難しいポイントなのです。

例えば企業の中で、社員がデジタルシフトに取り組みたいと提案をしても、提案された経営陣側に、そもそもデジタルについての知見が無ければ、自社の強みを活かす方法もわからず、せっかくの提案を却下するほかありません。

昨今では、オープンイノベーションと称して、ベンチャー企業と一緒に事業を立ち上げる大企業も多くありました。しかしこの取り組みも、大企業とベンチャーの利害関係を一致させるのが難しいために、なかなかうまくはいきませんでした。

そして、この5年間は多くの企業が、自ら新規にデジタル事業の立ち上げにチャレンジをした期間だと思っていますが、うまくいったケースは少ないとも感じています。

デジタルシフトを成功させるための秘訣

ーデジタル事業の立ち上げが難しいとのことですが、どうすればスムーズに行えるのでしょうか。

まず前提として、新しい事業を立ち上げるためには、新しい組織を作らなければならないと思っています。実際に、弊社でも企業のデジタルシフト実現を支援するために、新しい事業会社を設立させています。

先述のように、企業内でデジタル事業をやりたいという提案が生まれても、却下される場合がほとんどでしょう。何度も却下されると、いくら志を持った人でも提案できなくなってきます。企業は社内に生まれはじめた「デジタルシフトの芽」を潰さないためにも、デジタル事業部を新しく作り、決裁権限を渡してしまった方が良いのです。新たな部署の立ち上げだと大ごとに捉えるのではなく、「デジタル事業の立ち上げぐらい軽いもの」と考えることがうまく進めるための秘訣だと思います。

そのために、我々としては、新規事業立ち上げにあたって必要な、世の中に出回っていない、デジタル事業のビジネスモデルや、競合が取り組んでいる事例を提供し、企業が新しくデジタル事業を立ち上げる時にかかる試行錯誤の時間を短縮したいと考えています。


組織ができ、いざ新しいサービスを作るとなった際は、いわゆるSIer(*1)に委託をして大規模なシステム開発を行うよりも、アジャイル型(*2)の小さな開発をコツコツ進めるのが良いでしょう。要件定義から時間を要するウォーターフォール型で、且つ基幹システムを前提に構築するといった従来型の開発工程では、開発に時間がかかり、せっかく新規性を持ったサービスでも競合他社に市場を奪われてしまう可能性が出てきます。
何よりデジタル事業は、お客さまなどの利用データ等をもとに、日々チューニングしていく必要があります。毎日、もっと言えば1時間ごとにでもシステムをアップデートできる体制整える必要があります。

こうした情報やサービス開発といった面で、企業を支援するだけでなく、事業がグロースしていくタイミングでは、人財や金融面でのサポートもしていきます。

ヒト・モノ・カネ・情報といった経営のあらゆるところでデジタルシフトの実現を支援していくことが、我々のデジタルシフト事業の特徴です。

ー現在は広告事業の売上が、売上比率の多くを占めていますが、ゆくゆくはデジタルシフト事業の売上が勝っていくのでしょうか?

おっしゃる通りです。具体的には、2030年までに利益の8割がデジタルシフト事業で生み出される状態にしたいと考えています。

*1:​System Integratorの略称。ITシステムの企画、構築、運用など、システム開発に関するあらゆる業務を請け負う開発会社のこと。

*2:​システムやソフトウェア開発において、大きな単位でシステムを区切ることなく、小単位で実装とテストを繰り返して開発を進める手法。

開発コストを抑え、デジタルシフトを実現するために

ー現在、デジタル化の領域は非常に盛り上がっている市場であり、参入企業も多いのではと思います。意識している競合他社はありますか?

あえて言えば、これまでの主事業であったデジタルマーケティング領域の会社が競合になり得ると考えています。

デジタルマーケティングは、企業にとって売上や利益を上げるために重要な手段であり、ゆえにお客さまの経営戦略に関わる情報がたくさん入ってきます。最前線でお客さまと向き合う営業の担当者が、お客さまから新規事業について相談されることも多くあります。我々も、日々のコミュニケーションの中でデジタルシフトを相談される機会が多くあります。約20年に渡り、多くのお客さまとデジタルマーケティングを通した顧客接点があるという点は我々の強みでもあるのです。

デジタルマーケティングは、お客さま独自の課題に向き合うことも多かったと感じていますが、ここから先はその領域を超え、社会課題や、お客さまの事業成長そのものに直結するデジタルの力が求められています。その市場規模は非常に大きく、一社二社で争うものではないとも考えています。

ー注力する領域はありますか?

特に領域を絞ることはしていませんが、まずはより大きな市場にいる企業のデジタルシフト実現をサポートすることが重要だと考えています。プレイヤーがたくさんいるということは、業界課題が明確な可能性が高く、デジタルによって生み出される新しい価値を、広く浸透することができるという期待もあります。

ー具体的に今後提供するサービスはどのようなものになるのでしょうか?

すべての企業がデジタルシフトに着手しやすくするためのサービス・ツールをSaaS(*3)で提供していきます。

企業がデジタル事業を立ち上げる際に、システム構築に費用と時間をかけてしまうことが大きな問題だと感じています。その点、SaaSであれば最初にかかるコストが安く済みます。自社で開発できない場合、コストがかかり続けると疲弊してしまうので、開発コストを抑えることは非常に重要なのです。

SaaSには大きく2つのモデルがあります。1つはバーティカルSaaSと言って、とある業界に存在するバリューチェーン全体に入り込むものです。とはいえ、業界全体を変えるのは難しいので、まずは重要なバリューチェーンに特化してSaaS化していく場合が多いです。

もう一つがホリゾンタルSaaSで、他の業界の同じようなモデルにも応用できるシステムを指します。現在世に出回っているSaaSのほとんどはホリゾンタルだと言えます。しかし、そのほとんどはバックオフィスで使われるシステムです。

我々としては、まずは特定の業界にフィットしたバーティカルSaaSの提供を始め、複数の事例ができた段階で、共通項を分析し、ホリゾンタルSaaSの開発に移っていきたいと考えています。

目下、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、対面でのビジネスが制限を受ける中、我々が主事業とする「デジタルシフト事業」への必要性と緊急性はより高まっています。

今が変化の時であり、現時点の施策が日本のすべての企業の未来に大きく影響していきます。

当社グループは、デジタルホールディングスという新たな商号のもと、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源のあらゆるところで、すべての日本企業のデジタルシフトと挑戦をサポートし実現していくことで、日本の未来を共に築いていまいります。



*3​:Software as a Serviceの略称。利用者側でソフトウェアを導入するのではなく、インターネット等のネットワーク経由でサービス提供者側にて稼働しているソフトウェアを、利用者がサービスとして利用できるのが特徴。サービス導入までの納期が短縮できるほか、多くの場合、利用者側での自社構築と比べて、設備投資の削減による利用料金のコストダウンが見込める。
野内 敦
株式会社デジタルホールディングス
代表取締役社長 グループCEO
株式会社デジタルホールディングス 代表取締社長 グループCEO。Bonds Investment Group株式会社 代表取締役。1991年森ビル入社。1996年オプトに参画。共同創業者として、グループ経営、組織運営、新規事業設立など、グループ成長拡大に一貫して携わる。2020年4月より現職。

Special Features

連載特集
See More