AI活用

【最新AI事情】画像生成AIだけじゃない。世界を震撼させた三つのAIコンテンツ

2022年8月、アメリカで開催されたアートコンテストの公募展デジタルアート部門において、画像生成AI「Midjourney」で生成された作品が1位に選出されるなど、AIの得意領域と対極にあると思われていた人間のクリエイティブな仕事を脅かす出来事が頻発しています。この数ヶ月間で起こった画像生成AIの進化は、Diffusion Modelsと呼ばれる新しい学習モデルをベースに発展しており、今後は画像だけでなく、動画、テキストなどさまざまなコンテンツにも波及していくと思われます。そこで今回は、画像以外のAIコンテンツがクリエイティブな仕事に衝撃を与えた事例を、株式会社デジタルレシピ 代表取締役の伊藤 新之介氏にご紹介いただきます。

完成度が高すぎるオバマのフェイク動画

2018年、アメリカのニュースメディア「BuzzFeed」がFacebookに投稿した、オバマ前大統領の演説動画が大きな話題を呼び、動画は瞬く間に500万回以上再生されました。まずは実際の動画をご覧ください。

You Won’t Believe What Obama Says In This Video! 😉

この動画は、映画監督兼俳優であり、アカデミー脚本賞の受賞経験もあるジョーダン・ピールによって作成されたフェイク動画です。この動画はFakeAppという動画編集アプリを使って作成され、オバマ前大統領の映像も声も、すべてフェイクだといいます。

ピール氏は動画の作成意図を、フェイクニュースへの注意喚起と説明しており、当時社会問題になっていたフェイクニュースへの対策として挙げられていた、「テキストだけではなく映像による証拠も必要」という論調に対する批判の意味も込められていました。

AIが書いた記事がニュースサイトで1位に

2020年、アメリカで有名なニュースサイト「Hacker News」に寄稿された、ある記事がアクセスランキングで1位になりました。モチベーションに関する有益な記事でしたが、翌日、その記事の作成者がとんでもないカミングアウトをし、アメリカで大騒ぎになりました。
Hacker Newsでアクセスランキング1位になった「非生産的だと感じていますか? 考えすぎるのはやめたほうがいいかもしれません。」のスクリーンショット
出典元:https://adolos.substack.com/p/feeling-unproductive-maybe-you-should
記事の作成者は、カリフォルニア大学に通う学生。彼は自身のブログで、Hacker Newsで1位になった記事はすべてAIが作成したものだと告白しました。彼がAIに与えた指示は、記事のタイトルのみで、本文はすべてGPT-3と呼ばれるAIが作成したというのです。

記事は「GPT-3は人間に成りすませるのか」という軽い気持ちで始めた実験であり、この種明かし自体も軽い気持ちで投稿したとのこと。しかしこの記事がきっかけとなり、AI脅威論が沸き上がり、AIに対する大きな賛否を巻き起こすこととなりました。

前述のオバマ前大統領のフェイク動画と同様、この大学生がAIに書かせた記事も、人間とAIの区別がほとんどつかないほどの完成度だったことから、2年経った今もなお、継続的に議論されているトピックの一つです。

エミー賞を受賞した映画の台本をつくったAI

2020年、アメリカのテレビ業界ではお馴染みのエミー賞のVR部門を受賞した「Wolves in the Walls」がアメリカのテック業界で話題になりました。

Wolves in the Walls | Oculus Quest + Rift Platforms

話題の理由は、「Wolves in the Walls」を制作したFable Studioが、主人公ルーシーのセリフのほぼすべてをGPT-3というAIで作成したためです。さらにFable Studioは映画祭で、リアルタイムに観客とルーシーが会話するショーを実施し、AIによる全く違和感のないコミュニケーションを披露。映画制作の新しい可能性への喜びとともに、感情を持った人間となんら変わらないほどのコミュニケーションがとれてしまうルーシーに、多くの人が恐怖を感じたといいます。

2022年にGoogleエンジニアが、Googleの開発するAI「LaMDA」が感情を持ち始めていると告白したことが世界中で大きな話題になったように、AIが自律し、感情を持って思考し、人間のような振る舞いをできる世界が徐々にでき始めています。事実、Fable Studioが作成したAIルーシーと会話した映画祭の観客は、人間の子どもと話しているのと変わらなかった、とコメントしています。

Fable - AI Generated Scene 1

今後AIコンテンツはどのような進化を遂げるのか

2022年6月ごろから世界で盛り上がっている画像生成AIの学習モデル「Diffusion Models」をはじめとする手法は、画像に留まらず、今後動画やテキストなどさまざまな業界で活用され、さらにAIコンテンツの高品質化が進んでいくでしょう。AIの活用によって、社会の生産性が向上し、経済がより発展していく明るい未来がある一方で、私たちが思っているより早く、AIは、人間だけができると考えられていたクリエイティブな仕事を攻略しつつあります。この事実を踏まえて、人間はどう立ち回るべきなのか。今後、より一層考えていく必要があります。
伊藤 新之介
株式会社デジタルレシピ 代表取締役

同志社大学生命医科学部医情報学科中退。同大学在学中に学習塾の立ち上げなどを行い、2013年株式会社ラフテックを創業。同社を株式会社ベクトルに売却後、2018年に株式会社デジタルレシピのCEOに就任。
AIライティングアシスタントサービス Catchy(キャッチー)をリリース。GPT-3を活用したマーケティングの効率化を研究中。

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