英会話スキルはAIで高める時代!? 日本人特有の弱点、スピーキングはAI教材で強化できるか
2022/10/18
スピーキングに特化した、AI英会話アプリ「スピークバディ」。英語能力を伸ばす体系的なカリキュラムを、個人の能力や進度に合わせて提供してくれるため、日本人が苦手とするスピーキングの実践力を身につけることができるとあって注目されています。スピークバディはAIを活用することで、日本人特有の英語学習に関するハードルにアプローチしているといいます。今回は、株式会社スピークバディの代表取締役CEOである立石 剛史氏に開発の経緯や、AIが日本人の英語学習にもたらすメリット、“英語学習×AI”の未来についてお話を伺いました。
Contents
ざっくりまとめ
- スピークバディは日本人が苦手とするスピーキングに特化したAI英会話アプリ。
- 日本人特有の「間違えたら恥ずかしい」という心理的ハードルは、対人をなくしAIを活用することで越えられる。
- 日本人の発音のクセを解析して指摘する、独自の音声認識システムを開発。
- 英語が苦手な日本人だからこそ、世界でも役立つような質の高い言語学習サービスを提供できる可能性を秘めている。
- AIの力で、真の言語習得の実現と人生の可能性や選択肢を広げる、世界的な先駆者を目指す。
“喋れない”ことで日本人の選択肢が狭まるという現状を変えたい
我々が英語学習に関するサービスにフォーカスして開発・リリースを行っている理由には、私の外資系企業での勤務や海外駐在の経験が大きく影響しています。私自身、英語を身につけたことで人生の可能性が広がりましたし、逆に、能力は高いのに英語ができないだけでなかなか評価してもらえない方も多く目にしました。つまり、英語ができないことによって人生の選択肢が狭まってしまうともいえるのです。
そんな、英語によって選択肢や評価の幅が限られてしまっている方の手助けをしたい、という想いが、我々の掲げるミッション「真の言語習得を実現し、人生の可能性と選択肢を広げる」につながり、サービス内容にも反映されています。
——これまでも、さまざまな英語学習に関するアプリをリリースされていますが、スピークバディがスピーキングに特化している理由を教えていただけますか?
日本人の英語能力において圧倒的に足りていない部分がスピーキングだからです。多くの方が「日本人は英語が苦手」というイメージを持っていると思いますが、その原因の一つとして挙げられるのが、日本における英語の学習方法がアンバランスだったという点です。
コミュニケーションの現場で実際にフレーズを使えるようにするというのが、第二言語習得の主流なのですが、長らく日本は座学のみで、対面のコミュニケーションで使える英語を学んでこなかったという背景があります。しかし、逆をいえば、日本人は他国の方々に比べて文法や単語のレベルは高いのです。頭のなかに蓄積されている英語の知識をアウトプットする機会さえつくれば、日本人の英語能力は劇的に飛躍すると考えています。
日本人が英語学習でぶつかる心理的ハードルとは
そうですね。しかし、それだけが原因ではありません。日本語と英語の言語間の距離が遠すぎるということも、日本人が英語を苦手とする原因です。逆に英語話者が日本語を習得するのも、相当に難易度が高いといわれています。
また、日本人の性格も影響していますね。日本人は他国の方々に比べて、アウトプットすることへの心理的ハードルが高いのです。以前海外に留学していたときに気がついたのですが、他国の方々は文法に間違いがあるにも関わらず、堂々と英語を口にします。逆に日本人は、「間違っていたら恥ずかしい」と考えてしまうことで、なかなか英語を口にすることができないという印象でした。そういった日本人特有のさまざまなハードルを低くするために、英語学習にAIを利用することが効果的なのではないかと考えたのです。
——具体的にスピークバディは、日本人特有のハードルにどうアプローチしているのでしょうか?
まずは、対人ではなくAIを相手に話す環境を整えることで、圧倒的に羞恥心が軽減でき、アウトプットの心理的ハードルを下げることができると考えています。また、日本人が英語を習得する際にハードルとなるのが「英語を喋る機会がない」ということです。日本国内にいると、日本語だけで生活のすべてが完結できるため、英語を喋る相手を見つけること自体が大変なのです。AIを利用することで話し相手がいなくても、自分の好きな時間に気軽に英語のスピーキング力を鍛えられるというのも、スピークバディの大きなメリットですね。
人力では難しい、“日本人なまり”の矯正
そうですね。ただ、オンライン英会話では日本人にとって最も高いハードルである「間違っていたら恥ずかしい」を克服できない部分があります。また、スタート前にやや身構えて声のトーンも一つ高くして……という“テンションの高いキャラづくり”をして臨む方も多いのではないでしょうか。意外と、これがプレッシャーですよね。自宅で気軽にできるはずなのに、一応対人ということもあり、服装やメイクなど身だしなみを整えることも必要になります。
——たしかに、自宅で気軽にできるとはいっても細かい煩雑さが散在していますね。
実は、それ以外にも対人ならではのデメリットがあります。オンライン英会話だと、曜日時間を固定せず好きな時間に予約が取れる反面、毎回違う講師に教わることになるというスクールも多いのです。この場合、毎回自己紹介からスタートすることになりますし、講師がこちらの英語のレベル感や上達具合を理解することにも時間がかかってしまいます。つまり、学習効率が悪くなってしまう側面があるのです。
また、オンライン英会話だと、日本人の英語習得において一番必要な「発音の矯正」が難しい傾向にあります。というのも、日本人の発音のクセを指摘して矯正指導ができる講師が少ないのです。これは「なぜ日本人は英語を話すときにこのようなクセが出てしまうのか?」という原因を理解できないためです。仮に講師が発音のおかしさに気がついても、毎回指摘していたらレッスンが進まないし、雰囲気も悪くなってしまうことも。それを避けるために、講師のほうが忖度して意味を汲んでくれることがあり、なかなか自分の発音のクセに気がつけないということもありますね。
——スピークバディはそういったオンライン英会話だけでは補い切れなかった部分も、カバーしているのですね。
スピークバディでは、最初にユーザーのレベルチェックテストを行い、レベル感や趣向に合ったレッスンを提案しています。また、レッスンを重ねることで『Can-do機能』というリストに習得したことが蓄積されていくため、現在の能力に対して学習内容が逆行することがありません。ユーザーも自分の成長度合いを目で見て実感することが可能です。
真の言語習得のために音声認識システムから自社で開発
AIだと分析と指摘が忖度なく行われるため、自分自身の発音のクセに気がつくタイミングも早くなります。スピークバディでは、自社開発した、日本人の発音の認識に特化した音声認識システムを搭載しています。このシステムによって、日本語話者特有の発音のクセがあっても、言いたいことをしっかり認識し、発音の誤りだけを指摘するということが可能になりました。発音記号レベルでの判断ができるので、日本人の発音指導をできる講師が少ないという課題にもアプローチできていると自負しています。
——音声認識システムを自社開発されているということに驚きました。
大手企業の音声認識システムを利用したこともあったのですが、やはりネイティブの英語話者向けであるため、日本人が使うと「言っていることを理解してくれない」という課題がありました。そのため、日本人用に音声認識のチューニングが必要だった、という要因が大きいです。実際、自社開発の音声認識システムを導入したことで、ユーザーからの不満の声が少なくなりましたね。
——音声認識システム以外にも、開発において日本人向けに工夫した部分などはありますか?
先にお話ししたように、日本人の英語能力は、文法や単語のレベルに関しては高い傾向にあります。もうすでに習得済みの、日本人的に“難易度が低い部分”はあえて省いているということもあります。また、海外発の言語習得アプリだと実際の人物の写真などを使って会話文が出てくるものもあるのですが、日本人はそれに圧迫感を抱くことがあります。そこでキャラクターやストーリー性の高いシーンを使うことで、日本人にとって心理的圧迫が少なくなるように工夫していますね。コンテンツに季節性や時事ニュースを盛り込んでいるのも、日本人が日常で英語を使えるようにする工夫の一つです。
苦手こそが海外市場での強みにつながる
アプリへの反応としては、自分の都合のよいタイミングにリラックスした状態でできる、周囲や相手を気にせず発音練習ができるという点において、高い評価をいただいています。ゲーム感覚で楽しく学べるという声も多いですね。また、コロナ禍で海外との往来が減少していたなかで、Zoomなどのオンラインでのやりとりが劇的に増えています。むしろグローバルなやりとりは以前よりも行いやすくなっているのですよね。そのような背景もあり、ビジネスマンの方々の間では、英語学習に対する需要が高まっていると感じています。
——実際に、法人向けサービスなどを提供するなかで変化はありましたか?
企業の方々の英語に対する意識が高まっていると感じますね。とあるメガバンクで福利厚生の一環としてスピークバディを導入いただいたところ、人事部の予想を大きく超える1,500人以上の社員から利用希望があったとお聞きしました。これは、英語学習に対する意識が高くなっているということだけではなく、アプリで学習をするということが一般的になってきた証拠でもあると捉えています。
——最後に、今後の展望について教えてください。
日本人が英語学習および習得が苦手で挫折しやすい理由は、決して「本人に根気がないから」ではありません。日本人が持つ特性や、英語と日本語の言語間の距離が遠いことなどさまざまな要因があるのです。これらのハードルは、AIをより進化させて、英語学習を「人力からAI」に変化させることによって解決できることだと考えています。我々の知見を使って大きく貢献していきたいですね。
また、企業としては海外に市場を広げていくことも目標の一つです。世の中を変えるイノベーションが生まれた事例をみていると、治安の問題でATMの設置が少ないケニアがキャッシュレス大国になったり、砂漠地帯であるイスラエルで空気から水をつくる技術が開発されたりと、“困っている国”がよいソリューションを生み出すという傾向があるのです。そういった側面を加味すると、英語の習得に困っている人が多い日本は、英語学習に関するよいソリューションを生み出す大きな可能性を秘めています。実際に、日本は語学サービスが洗練されていて語学のビジネスレベルが非常に高いのです。AI技術を活用していくことで、我々が世界においてその先駆けになることを目指しています。
立石 剛史
株式会社スピークバディ 代表取締役CEO
1983年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒業後、外資系投資銀行で上場企業の資金調達やM&Aのアドバイザーとして勤務、日系証券会社の香港駐在も経験。内定当時TOEIC280点だったことから、業務上必要な英語レベルに達するのに大いに苦労した。iOSアプリのプログラミングを習得後、自身の経験を活かして開発した英語学習アプリ(「ペラペラ英語」「マジタン」)でApp Store総合1位を獲得。2016年9月にAI英会話スピークバディをリリースした後、コーチング・英語学習Q&Aとサービスの幅を拡げながら、人生の可能性と選択肢を広げるための事業展開を続けている。現在はTOEIC満点・英検1級。会計士二次試験当時最年少合格。