AI活用の有無で、生涯年収は10億円変わる!?「生成AI時代のリスキリングサミット2024」イベントレポート

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生成AIの登場により個人の働き方やビジネスの現場が大きく変わるなか、時代の変化に合わせ新たなスキルを習得する「リスキリング」の必要性も叫ばれています。リスキリングの推進はテクノロジーの活用とも密接に関係しており、当事者だけでなく経営に携わる人にとっても喫緊の課題だと考えられます。このような背景のもと、DXやリスキリングを推進するための前提にある「経営ビジョンが描けていない」という課題を解決すべく、2024年9月11日・12日に「生成AI時代のリスキリングサミット2024」が開催されました。

今回は、本イベントのなかから、株式会社シナモン 代表取締役 Co-CEO 堀田 創氏と株式会社 Laboro.AI 代表取締役 CEO 椎橋 徹夫氏が登壇し、株式会社DX JAPAN 代表 植野 大輔氏がモデレーターを務めたセッション「AIと戦略:今、経営者が知るべき潮流と変革アクションプラン」と、株式会社デジライズ 代表取締役 茶圓 将裕氏と株式会社SHIFT AI 代表取締役 木内 翔大氏が登壇し、AINOW編集長/株式会社Cinematorico 共同創業者 兼 COO/Cynthialy株式会社 CCO 小澤 健祐氏がモデレーターを務めたセッション「AI時代を生き抜く - 変わるスキルと変わらないスキル」をレポートします。「AIと戦略」セッションでは、AI活用が進む現代において経営者が持つべき視点や組織論が語られ、「AI時代を生き抜く」セッションでは、AIを活用した上で、それでも人間に求められる能力とは何かが明かされました。

AIにも役割を与え、人と組み合わせた組織を構築する

「AIと戦略:今、経営者が知るべき潮流と変革アクションプラン」セッションで椎橋氏は、自身の体験も踏まえ、経営者にとっては人材育成や組織づくりの優先順位が高く、AIも含めたテクノロジー活用の優先順位は低くなりがちだと指摘しました。そのうえ、今後は組織の構成要素として、「人材」に加え新たに「AI」や「テクノロジー」を含めるべきだと言います。椎橋氏は、経営者が組織をつくる際、「人だけではなくAIにも一定の役割を与え、人とAIを組み合わせ、全体としてどのような組織を設計するのかを考えることが重要」であり、これは組織に対する従来の考え方とは大きく異なる点だと語りました。特に労働人口が減少している日本では、現場のノウハウや専門性を持つ人が引退し、人手が足りなくなるという危機感が強くあるなか、AIを組織の構成要素の1つとして捉え、5年後・10年後の組織をどのように作るかを考えるべきだと強調しました。

アメリカではCAIO(Chief AI Officer)を置く企業も

堀田氏は、企業がデジタルやAIを活用する際、誰かが旗を振って実行に移す「中央集権型」から、社員それぞれが自ら考えて動くことができる風土を作ろうとする「分散型」に多くの企業が変わろうとしており、潮流の変化を感じると明かしました。このような状況を踏まえ、重要なことは2つあると言います。1つ目は、社員が「やらされて動く」ではなく、いかに「自然と生成AIに触れる」ような普及施策を仕掛けられるかどうかです。トップダウンではなく、従業員に対してもUXをきちんとデザインすることが重要であり、すでに実行している企業はAIの普及も速いと語ります。そしてもう一つは、「AIのツールに詳しくなる」ことです。これは、経営者自身が詳しくなるか、AIに詳しい人を社内に多くつくるということだと説明します。実際にアメリカでは幹部として「CAIO(Chief AI Officer)」という役割が必要とされているとのことです。CAIOには、AIの研究者としての知識ではなく、AIツールに詳しいうえで経営上の示唆を出すことが求められています。アメリカの企業では、経営者自身がAIについて詳しくない場合、AIに詳しい人を招き、どのようなツールを組み合わせ、どのような業務変革を起こすことができるかというプランニングと、その普及施策までを任せるようにしているとのことです。堀田氏は、「日本ではアメリカのCAIOにあたる役割の人の立場が低すぎる」と指摘します。「会社は、経営者が持っている臨場感のなかでしか変わることができない」(堀田氏)と言い、AIを活用するためには経営陣がAIツールに詳しくなるか、AIツールに詳しい人に権限を与えるかのどちらかを実行する必要があると締めくくりました。

堀田氏の話を受け椎橋氏は、経営者自身がAIに詳しくなる方法として「とにかく使うべき。使い方がわからなければ、そういう時こそ生成AIに聞けばよい」とアドバイスを送りました。「AIについての使い方や疑問は、まずAIに聞く。これがシンプルなアクションプランです」(椎橋氏)と、AIの知識を深めるコツを伝えました。

AIスキルの有無で生涯年収は大きく変わる

「AI時代を生き抜く - 変わるスキルと変わらないスキル」セッションでは、木内氏が「AIを活用するかどうかで、生涯年収が10億円も変わると言える」と明かしました。アメリカでは、Googleのエンジニアは中級レベルでも解雇されていると言い、大学でコンピューターサイエンスを学び卒業した人でも就職しにくい状況だと語ります。大学を卒業したかどうかではなく、AIスキルを持っているかどうかで職に就くことができるかが決まり、ひいては生涯年収も大きく変わってしまうと指摘します。その上で木内氏は「本当のAI人材は複数のスキルを組み合わせる時代に突入している」と言い、「100人に1人のスキルを4つ持てば1億人に1人の人材になることができるため、AIを活用しながら複数のスキルを組み合わせることが重要だ」と語りました。木内氏は今後の展望として、生成AIによる会話機能にも触れ、「海外のサービスの会話機能を見ていると、人間よりも表現力が高く博識でレスポンススピードも早く、AIと仕事をしたいと思える」と評価します。そして、特に日本人はチャット形式が苦手で、会話形式の方が誰もが利用しやすいと言い、「会話機能が導入されれば、生成AIを利用するハードルは大きく下がる」と予測しました。また、木内氏は「AGIやAIエージェントは雇用の民主化であり、誰もが数千円で人間よりも優秀なエージェントを雇うことができる時代が来る」と指摘します。その上で、AIを上手く活用できる人は、それぞれが自ら戦略を描き、AIに実行させるという働き方になると話します。そのためにも、抽象的な思考力を向上させることが重要だと語りました。「思考を整理し新しい発想を生み出すという思考のスキルと、その思考を上手く相手に伝えるという伝達のスキルは、これからも人間に求められる」(木内氏)と言い、だからこそ、「AIの活用により業務を効率化し、AIを学ぶ時間や思考する時間を増やし、さらに新しいAIを活用していくというループを回すことが大事だ」と語りました。

社内AIを促進するチームの存在が重要に

茶圓氏は、AIを導入しようとする多くの企業の現場を見るなかで、「本当の意味でAIを活用できている企業はほぼ存在しない」と明かしました。さらにその理由として、カスタマーサクセスの優先順位が低いことを指摘します。AIを活用するための専門チームをつくり、ツールを導入し、社員に研修をすることは、AI活用のスタートラインに立っただけであり、そのうえでいかに日常業務でAIツールを活用できるかが問題だと語ります。そのためには、導入したAIツールが実際に利用されているかどうかまでを確認する必要があり、それこそがカスタマーサクセスの領域だと話します。海外では、営業よりもカスタマーサクセス担当者の方が給与が高いこともあると言い、日本企業でもカスタマーサクセスを充実させる必要性があると訴えました。また、茶圓氏はAIを活用できている企業の特徴として「一定以上の規模になると、社内にAI活用を促進するチームが存在することが重要」と語りました。生成AIを積極的に利用する人は自ら進んで活用しますが、そうでない人には、ある程度外部からの圧力と適切なロードマップを示す必要があると言います。そして、そのような知見のある事業者への需要の存在を強く感じていると明かしました。最後に茶圓氏は、日本人が働きすぎであると指摘したうえで、「家族との時間やプライベートを楽しむなど、幸せに直結する時間を増やしたほうがよい。しかし、そのためには多くの障壁があるため、これらをAIにより効率化し、幸せになることに時間を費やして欲しい」と締めくくりました。


「AIと戦略:今、経営者が知るべき潮流と変革アクションプラン」

堀田 創

株式会社シナモン 代表取締役 Co-CEO

椎橋 徹夫

株式会社 Laboro.AI 代表取締役 CEO

植野 大輔

株式会社DX JAPAN 代表



「AI時代を生き抜く - 変わるスキルと変わらないスキル」

茶圓 将裕

株式会社デジライズ 代表取締役

木内 翔大

株式会社SHIFT AI 代表取締役

小澤 健祐

AINOW編集長/株式会社Cinematorico 共同創業者 兼 COO/Cynthialy株式会社 CCO

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