すべてはお客様のために。家具選びに「AR」を活用したAmazonの取り組みとは

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素敵なデザインだと思って購入した家具を家の中に置いてみたら、部屋の雰囲気とマッチしなかった――。そんな経験をした方も多いのではないでしょうか。総合オンラインストアのAmazonは、拡張現実(AR)を使った「ARビュー」機能を開発し、今年5月から日本でも導入を始めました。

Amazonショッピングアプリで、対象商品の商品詳細ページに記載されている「ARビュー」をタップすることで、スマートフォンのカメラに映った実際の部屋に、商品の3D映像を正しい縮図で表示することができます。部屋の雰囲気と合うかどうかが購入前に確かめられる新機能で、現時点では家具を中心に数千点のアイテムに対応しています。

今回は、Amazon ライフ&レジャー事業本部 事業企画部シニアプログラムマネジャーである望月真弓さんに、「ARビュー」導入の目的や、同時期に導入された画像を選択していくだけで商品検索ができる新機能「Discover」について、機能導入による反響などお話を伺いました。

※本記事は、『drop:フィジタルマーケティング マガジン』で、2019年9月2日に公開された記事を転載したものです。
アマゾンジャパン合同会社 ライフ&レジャー事業本部 事業企画部シニアプログラムマネジャー 望月真弓氏

アマゾンジャパン合同会社 ライフ&レジャー事業本部 事業企画部シニアプログラムマネジャー 望月真弓氏

直感的な商品選びを実現。Amazonショッピングアプリに導入した「ARビュー」と、もうひとつの新機能

「ARビュー」使用画面(提供 / アマゾンジャパン)

「ARビュー」使用画面(提供 / アマゾンジャパン)

――最先端技術を活用した新機能「ARビュー」の導入に至った経緯を教えてください。

「ARビュー」は、2017年に米国で始まり、日本が7カ国目の導入になります。「商品が自分の家に合っているかどうかイメージが湧かない」というお客様の声をいただいたことをきっかけに、日本でも開始することになりました。

色合いやサイズ感、家にあるほかの家具と調和するかという点は、家具選びにおいて重要なポイントです。写真だけ見ても、部屋全体の雰囲気に合うか想像できなかったり、仮に想像できたとしても「ソファの前に置いたらサイズが大きすぎた」というケースもあるでしょう。家具は吟味する時間がかかる商材なので、お客様がデータや文字情報だけによらず、直感的に判断できる機能として「ARビュー」を導入しました。

――ARを導入することに対して、社内に懸念する声はありませんでしたか?

最近はゲームアプリでARが注目を浴びていることから、ARはエンターテインメント分野で活用されているものというイメージを持つ社員もおり、「本当にお客様の購入判断のサポートになるのか、イメージが湧きづらい」という意見もありました。しかし、試験的にARビューを利用してもらったところ、商品を部屋に置いたイメージを手軽に把握できる点に「これは便利だ」という声があがりました。

社内のこの様子を見たとき、「ARビュー」は家具の色合いや部屋に置いたときのイメージが分かるだけでなく、商品を選ぶワクワク感も生み出してくれることを感じました。

――家庭にいながら、お店で商品を吟味しているかのような楽しさが味わえそうですね。

そうですね。また、小学1年生の娘さんを持つ社員の家では、最近姿勢が悪くなった娘さんのために、「ARビュー」を使ってバランスチェアの購入を検討したと聞いています。親子で部屋に置いた様子を想像しながら楽しんで商品選びができたそうです。

3D画像なら文字が読めない小さいお子さんでも直感的に理解できる他、複数人で家具選びを楽しむことができます。画面に映し出して初めて部屋に置いたときの高さや大きさがイメージできる商品も多いので、「ARビュー」はお客様の直感的な判断を強くサポートしてくれる機能だと確信しました。

Amazon AR View: See it in your home

――「ARビュー」を使うと、サイズ感や色合い以外にも、商品の質感がそのまま出ているのに驚きました。導入にあたり、苦労した点はあったのでしょうか。

この機能の核となるのが、クオリティーの高い3Dモデルを作成することです。しかし、それをいかに効率的に作るかという点は、重要な課題としてありました。また開発チームが世界各国にあるため、日本のお客様にとって最良のタイミングでサービスを始めるためのフローの整備・体制づくりには時間を要しました。

・“言語化のいらない商品検索”を可能にした「Discover(ディスカバー)」の導入
「Discover(ディスカバー)」トップページ

「Discover(ディスカバー)」トップページ

――「ARビュー」と同時期に追加された新機能「Discover」は、どういった目的で導入されたのでしょうか。

まず、「Discover」とは、お客様が選択した商品画像のデザインや柄、形などをもとに、好みにあった商品を提案する機能で今年の5月に導入を開始しました。「Discover」の特設ページ(http://www.amazon.co.jp/discover )にて、表示される複数の商品画像に対して「いいね(親指を上げたマーク)」か「ちがうね(親指を下げたマーク)」をクリックまたはタップしていくことで、表示される商品が入れ替わり、お客様の好みに合ったデザインや柄、形の商品が順次表示されていきます。

Amazonでは検索の利便性を向上するためにこの機能を導入しました。

「ARビュー」を使って商品を吟味する前段階として、一般的に“欲しい商品を言語化して検索する”ということを行うかと思います。しかし、この言語化という作業が、自分の欲しい家具や家財道具を探すうえでハードルとなっているという課題がありました。例えば、海外で「コーヒーテーブル」と呼ばれる品はリビングのソファの前に置くものを意味しますが、日本では「コーヒーテーブル」のほか、「センターテーブル」「ローテーブル」「リビングテーブル」などさまざまな呼び方があります。

実店舗であれば、リビングコーナーに行けばソファにマッチしたテーブルが展示してあるので、商品の名前を意識することなく探すことができます。ところが、「リビングのソファの前に置くテーブル」として何となく認知されている商品を言語化してサイト上で検索することは難しく、お客様がもっと感覚的に見つけられるようにしていく必要があると考えたのです。

――そこで導入したのが、好みにあった家具を直感的に探せる「Discover」だったのですね。

はい。「Discover」は、商品一覧のなかから直感的に自分の好みに近い商品を絞り込んでいくことができます。やり方も簡単で、表示された複数の商品のなかから、「いいね」と「ちがうね」の選択を繰り返し行っていくだけです。

これまでは、自分がイメージできる商品に近いものを言語化して検索するのが一般的でしたが、言語化して検索するのが難しい商材を視覚的・直感的に探せるのが「Discover」の大きな魅力です。また、マシンラーニング(機械学習)を用いており、今後さらにお客様の好みに合った商品が見つけやすくなります。

――「Discover」で感覚的に好みの商品を探して、「ARビュー」で商品を吟味する。今まで現実で行ってきたことを、今後はオンライン上で完結できるようになるのですね。

ストレスフリーな購買判断を最新技術のシナジーで実現する。すべてのお客様が使いやすいサービスを目指して

――最新技術を活用した新機能の追加で、対象商品を扱う企業からの反応はいかがでしたか?

担当者を通じて、よいフィードバックをいただいています。「ARビュー」は、特定のブランドに偏ることなく導入しているため、Amazonで販売する複数のブランドの商品を事前に確認して購入を検討する機会をお客様に提供できていると考えています。

――今回の最新技術の導入で、当初想定していた以外の効果はありましたか。

「ARビュー」については、家具などのサイズが大きい商品だけでなく、意外にも15センチ程度の置き時計やフライパンなど身の回りの小物類に「ARビュー」をご利用されるお客様が多いことが導入後にわかりました。今後も家具に限らず対象カテゴリーを広げる余地があると考えています。

そのほかにも「Discover」を使っていただいたお客様が、ご自身のツイッターで「超楽しい」というコメントとともに、使用されている様子を動画でアップされているのを拝見しました。自分の好みの商品を直感的に絞り込んでいく楽しさを感じていただけているのを、そうしたところからも実感できています。

――導入して見つかった課題はありますか?

最新技術は導入して終わりではなく、いかに認知を高めて、広く利用してもらうかがポイントだと考えています。5月の開始時には、様々なメディアに取り上げていただいたほか、Amazonが実施する年に一度のビッグセール「プライムデー」に合わせて、7月に東京・大阪・新潟で開催したオフラインイベント「『プライムのある暮らし』体験イベント」では、「ARビュー」の体験コーナーを設置いたしました。今後も、「ARビュー」を知らないお客様にこの機能の利便性を実感してもらい、当たり前のように使っていただけるよう認知を広めていきたいと考えています。

――今後のテクノロジーを活用した展望について教えていただけますでしょうか?

Amazonではお客様の利便性向上を常に考えており、そのために必要なテクノロジーを活用していきたいと考えています。「ARビュー」、「Discover」、そして昨年10月に導入した「360°ビュー」を合わせてご利用いただくことで、家財道具の検索、検討、購入といった一連の流れをより簡単に行うことができます。例えば、「Discover」で気に入った商品を見つけて、「360°ビュー」で商品の側面や背面など細部を確認し、「ARビュー」で自分の部屋に商品の3D画像を置いて検討、購入を希望する商品は全てカートに入れておき、ブランドやメーカーをまたいでまとめて購入するというように、探す行為から購入の判断までをストレスフリーに体験できるよう、サポートを強化しています。お客様が今現在不便だと認識していることだけではなく、潜在的にストレスを抱えている部分を深掘りして課題を解決していくことが私たちのミッションです。

――すべてはお客様が必要なものかどうか、そうした判断のもとに、今後も最新技術の活用を検討されていくということですね。

そうですね。Amazonの企業理念は、「地球上で最も豊富な品揃え」、そして「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」というものです。Amazonの言う「お客様」とは、購入をする方だけではなく、Amazon.co.jpを使って商品購入を検討されるすべての方を指しています。ですから、まずは幅広い年齢層に気軽に使っていただけるようにしていくことを最も大切にしています。

最新技術の導入は、あくまでお客様をサポートする手段のひとつだと考えています。例えばAmazon.co.jpを利用されるお客様のなかには、実物の商品を見る機会の少ない地域に住んでいる方もいらっしゃいます。ARビューはそうしたお客様に新しいショッピング体験を提供することが可能です。最新技術の導入によってお客様の生活がより豊かになる方法があれば、積極的に導入していくべきだと考えています。

 
<「ARビュー」の対応商品一覧>

Amazonショッピングアプリより、左上の三本線をタップして、「カテゴリー」「ホーム・キッチン・家具・寝具」をタップ。表示されたページに記載のある「スマートフォン画面に商品を映し出す ARビュー」をタップすると対象商品の一覧をご覧いただけます。

<「Discover」のご利用方法>

PC・モバイルにて「ディスカバー」と検索、またはこちらからご利用いただけます。

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