情報が資産に変わる。ブロックチェーンは実用段階へ、企業はどう向き合うべきか?

暗号通貨「ビットコイン」の基幹技術として発明された「ブロックチェーン」は、オープンなネットワーク上で、高い信頼性が求められる金融取引や重要なデータのやりとりなどを可能とする技術だ。世界中で開発が進むことで活用の幅が広がり、金融に限らず情報資産を流通させるための技術として注目を集める。
そんな中、2018年3月に立ち上がった中国のベンチャー企業ARPAが、これまでブロックチェーンの課題とされていた「データの秘匿性」をクリアする技術の開発に成功した。
ブロックチェーン普及の障害とみられていた、データの秘匿性の問題とは?それが解決された暁には、どんな未来が訪れるのか?本稿では、ARPA社の創業者の一人で、CGO(Chief Growth Officer)であるYemu Xu(徐野木)氏のお話を元に考えていく。

■ブロックチェーン技術の普及を阻害していたプライバシー面の課題

ブロックチェーンとは、取引のデータ(履歴)を多くの人が分散して管理する技術である。暗号通貨をはじめ、インターネット上でのデータのやり取りに活用されている。特徴として、政府や銀行、特定企業のサーバーなどを介さずに、取引に関するデータをすべての人が確認できることで、改ざんが起こりにくいこと、システムダウンしづらいことがあげられる。

一方で、企業のブロックチェーン活用は限定的にしか進んでいない。背景にあるのは、プライバシー面への懸念だ。

Yemu Xu:従来のブロックチェーンは個人のプライバシーと企業のプライバシーを全て、チェーンの中で開示しています。誰かが昨日、どんな件で、お金を使ったのか、全部分かってしまうんです。これはブロックチェーンのボトルネックの一つで、解決するにはある程度機密データを守れるようにしないといけません。
>ARPA社の創業者の一人で、CGO(Chief Growth Officer)であるYemu Xu(徐野木)氏

>ARPA社の創業者の一人で、CGO(Chief Growth Officer)であるYemu Xu(徐野木)氏

■新技術開発でブロックチェーンの課題をクリア

そんな中、ブロックチェーン技術の開発を手がけているARPA社は情報を暗号化したままでデータのやり取りが行える技術を開発した。また、その技術を将来的にオープンソースとして公開し、新しいスタンダードとして世界中の企業が活用できるようにしたいという展望を持っている。

Yemu Xu:データを暗号化する技術とブロックチェーンの技術を掛け合わせ、暗号化されたデータのままで、データのやりとりができる技術を開発しました。「MPC – Multi-Party Computation」といって、データの収集や保存、活用といった全てのプロセスを、一貫してデータを秘匿した状態で行えます。ブロックチェーンで個人データなどを活用する際に、プライバシーの保護とデータ活用を両立させる技術です。私たちはこの技術を、将来的にはオープンソースとして開示したいと考えています。
>MPC – Multi-Party Computation のイメージ

>MPC – Multi-Party Computation のイメージ

ブロックチェーンを活用することで、今後10年から20年の間に100社~200社規模で時価総額数百億ドルの会社が生まれる可能性がある。技術を開示することで、プレイヤーを増やし、この市場を作っていくのが良いと思っています。

思い浮かべるのは、90年代に開発されたインターネットです。インターネットの技術も最初はアメリカの軍隊で、各拠点間のデータをやり取りするために開発されたものでした。それが公開され、オープンソースになり、GoogleやAmazonといった大企業の誕生に繋がりました。歴史的に見ても特殊な技術はオープンにならなければ、社会を良くする良い企業が生まれないと思うのです。

■「データ賃貸プラットフォーム」でデータが最大の資産に

では、ブロックチェーンが普及することで、世の中はどのように変わるのだろうか?

Yemu Xu:データの取り扱いについて、世の中は今まだ第一段階にあるんです。企業は様々なツールを使って社内のデータを収集し、保存、管理、分析、独自に利用しているに過ぎません。

第二段階になると企業間でデータのやり取りが可能になる。ただし、プライバシーの問題があり難しいのが現状です。我々の暗号化の技術を活用してお互いの機密情報を守った状態でデータのやり取りを行えるようにしようと思っています。

次の段階では個人と企業、あるいは個人間でデータのやり取りが行えるようになると思っています。現状では企業が、提供するサービスを通じて個人のデータを集めていますが、個人は自分のデータを管理していません。それが、第三段階になると個人もデータベースのようなものを持つようになり、第三者がこのデータを活用したいときに貸し出すといった形の世界ができます。データの貸し借りをする新しいプラットフォームも生まれるでしょう。データを活用したい企業は、個人に対し報酬を支払うようになるのです。



仮にデータ賃貸プラットフォームが構築されれば、データは企業にとっても個人にとっても一番の財産になるだろうと話す。

Yemu Xu:デジタルによって、バーチャル世界とリアル世界の分岐点がますます無くなっていくと、個人がどれだけ歩いたかとか、心拍数のデータなど生活するうえで測れる全てが、個人の情報として保存されます。今は活用する企業がいなくても、必ずそのデータが必要とされるようになるのです。データは石油や金にとって変わり、一番の財産になるでしょう。

■ブロックチェーン活用に必要なデジタルシフト

ARPAの技術を用いてブロックチェーンを活用すれば企業間の連携はより密にスムーズになる。個人情報としての気密性を守りながら、異なる二社が保有するデータをAIに比較分析させ、求める解を得ることができるのだ。

Yemu Xu:とある中国企業の場合、ファイナンスやローン、決済関係のサービスを展開していましたが、部門同士でのデータのやり取りが法律上できませんでした。お客さんの機密情報だからです。データの暗号化ができればやり取りも可能になります。


一方で、ブロックチェーン活用のためには、企業にはデジタルシフトが必要だ。Yemu Xu氏は日本企業を例に語ってくれた。

Yemu Xu:日本は良い商品やサービスを持っている企業が多いです。企業同士で強みを活かした連携を行えば、より良いメイドインジャパンを作れるかもしれません。ただ、法律が厳しく、機密データのやり取りが難しい側面があります。

また、デジタル化が遅く、データの企業間連携が前に進まないケースも多いかと思います。データをまとめ有効化する、古いデータと新しいデータをまとめる、など必要な対策を進めるべきです。それができてようやく、ブロックチェーンを用いたデータの活用が可能となり、新しいものや良いものを作る環境が整うのです。


ARPA社はグローバルなサービスの展開を考えており、来年以降にはアジア、その数年後には国も巻き込んで、世界中でのサービス展開を考えている。

Yemu Xu:まず2020年までは中国企業のみをターゲットに事業を展開していきます。その上で技術をブラッシュアップし、3〜5年後にはアジアのBtoB企業をメインにサービスの提供を始める予定です。

提供するのはブロックチェーンを活用した企業間のデータエクスチェンジのサポートで、中国政府や他の国、国際機関とも連携を組み、自分たちの技術をグローバルに展開していければと思っています。
現在、中国ではブロックチェーン技術の開発は国家プロジェクトに位置付けられている。サイバーセキュリティ法の制定など、中国国内でインターネット上の個人情報保護が急激に強化されていることを背景に、ARPAの技術のニーズが高まっているのだ。ARPAは中国政府やアメリカに本部を置く情報技術の標準化機関IEEEなどとも連携しながら、ブロックチェーン活用における国際的なルール作りを進めているという。従業員はわずか10人程度のベンチャー企業ながら、すでにこの領域でのリーディングカンパニーとなっている。

世界規模でブロックチェーン技術の活用が進む中、日本企業にとっても、その活用が重要な課題になりそうだ。

ARPA社HP:https://arpachain.io/

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