【金融×広告】広告費に特化した分割・後払い決済で、成長期のスタートアップを支援。両社の専門性を活かした、ニコス×バンカブルの新たな挑戦

三菱UFJニコスとバンカブルがタッグを組んで提供する「AD YELL(アドエール)」は、広告費に特化したBtoB向けの分割・後払いサービス。創業から成長軌道にあるスタートアップでも、スピーディかつ初期費用を抑えながら集客投資が可能となります。正式ローンチから9ヵ月でGMV(広告費総取扱高)が100億円を突破。そのスピードが、市場ニーズを物語っています。
金融と広告というそれぞれの領域でチャレンジしてきた両社が手を組み、BtoB向けのBNPL(後払い決済)市場に打って出た理由とは? 三菱UFJニコスの執行役員 MUFG協働推進部長 水谷 季彦氏とバンカブルの代表取締役社長 髙瀬 大輔氏に、スタートアップを取り巻く現状と日本におけるBNPL市場の未来についてお話を伺いました。

スタートアップ立ち上げの土壌整備が進む、今がビジネスチャンス

――世界情勢が目まぐるしく変わる昨今ですが、スタートアップ企業を取り巻く現状はどのように変化しているのでしょうか?

水谷:新型コロナウイルスの影響で非対面のビジネスシーンが増え、リモートワークやリモート会議が当たり前になりました。非対面ニーズの高まりでECサイトの売上も伸び、クレジットカード決済の需要も増えています。ECサイトの数が増えてくると、信用補完のためにサプライヤーとバイヤーの両方を審査するクレジットカード会社などの役割が自ずと高まってくると考えます。そのため非対面のシーンが増えれば増えるほど、クレジットカードのニーズが高まってくることを実感しています。

ただ、昨今のインフレにより資材コストが上昇しているので、事業者の運転資金の負担が大きくなってきています。広告もそうですが、特に創業から成長軌道にあるスタートアップにとっては、資金繰りの逼迫を避けるために支出が先立つのは厳しいのではないかと思われます。そういった面からもクレジットカードを含めた後払い決済の需要は増えてくるはずです。

髙瀬:現在は数年前よりもエクイティの調達環境が厳しくなってきています。資金調達のあり方や、企業の評価軸に変化が生じています。一方、岸田政権が掲げる「スタートアップ育成5か年計画」では、スタートアップ創出のための人材・ネットワークの構築、資金供給の強化と出口戦略の多様化などの実施を標榜しており、徐々にスタートアップを立ち上げやすい環境が整備されていくでしょう。

スタートアップ視点に立てば私たちのAD YELLも、従来の金融公庫の融資などと並ぶ資金調達の手段の一つといえますし、さらに、調達した資金を効率的に活用するための仕組みとなっています。バンカブルは資金そのものを支援するビジネスは行っていませんが、スタートアップを創出しやすい環境が整備され、資金調達の手段が多様化している現状はビジネスチャンスと捉えています。

今は100年に一度の変革期。新たなビジネスモデルへの取り組み

――二社の協業が実現した経緯を教えてください。サービスを立ち上げるまでに大きな壁などはあったのでしょうか?

髙瀬:事業スキームや設計などは事前にしっかりと構築していましたが、当社グループ内だけで実現させることはできません。このビジネスモデルを形にするためには、私たちの思いを理解して共感いただけるパートナーが必要ですが、ニコスさまと出会うまでにはさまざまな苦労がありました。広告費の決済手段であるクレジットカード機能がなければ、そもそも立ち上げられないサービスですから。

クレジットカードを取り扱ういろいろな企業を地道に訪ねましたが、私たちの想いを伝えても「見たことのないスキームなので、ちょっと……」といったリアクションが大半でした。そんななかで唯一、「一緒にリスクテイクしましょう」と興味を持っていただいたのがニコスさんでした。

水谷: BtoBのカード決済における広告費の割合は非常に高く、確実に広告の民主化が進んでいることを肌で感じていました。広告費需要をどう拡大させていくかを考えていた時期に、バンカブルさんからお話をいただいたんです。

弊社の決済スキームにバンカブルさんの持つ知見とノウハウを取り入れることで、スタートアップから需要が高い広告費に特化した後払い・分割払いサービスが提供でき、それを弊社の新しい事業領域として進めていきたいと考えました。

――BtoBのBNPL市場に参入するにあたって、社内から反対の声などはありましたか?

水谷:世の中が大きく変化していますので、そのような声はありませんでした。どの領域が成長するかは分からないので多くの布石を打つ必要がありますが、BNPL市場における広告の領域は成長性を実感できたので社内的にも説得をしやすかったです。

今、金融の世界は100年に一度ともいわれる変化の真っ只中です。例えば、銀行の店舗もダウンサイジングして、減少しつつあります。実際に以前と比べても銀行に足を運ぶ回数は減ってきているかと思います。今はスマートフォンでほとんどの取引が可能ですから。これまでの伝統にあぐらをかいていては淘汰される時代です。それくらいの大きな変化、ディープインパクトが起こっている時代には、新しい領域へのチャレンジが必要です。

顧客からのネガティブな声はゼロ。創業期のスタートアップを支えるAD YELLの魅力

――2021年から開始したというAD YELLのPoC(概念実証)において、留意した点を教えてください。

水谷:広告とは企業にとって重要な投資であり、しかも今回は私たちにとって初の挑戦です。何かトラブルが発生してはバンカブルさんをはじめ各所に多大なご迷惑をおかけしてしまうので、クレジットカードのオーソリゼーション(信用照会)をはじめとする事前の確認が大変でした。それらの事前準備とテストに最も注力しました。

――サービスを利用する顧客の声にはどのようなものがありますか?

髙瀬:おかげさまでネガティブな声はほとんどありません。ただ、「分割の回数を増やして欲しい」といったご要望もあります。現段階ではお応えできていませんが、お客さまの事業成長に対し、より貢献できるスキームへとアップデートを続けていきます。それ以外は大半が「AD YELLがあって本当に助かった」「もっと早く知りたかった」といった嬉しいご意見です。

手元の資金を温存しながら成長に向けた広告出稿にも積極的に展開できるので、攻めと守りの両輪をまわせたという声もいただいています。多くのスタートアップの皆さまに喜んでいただき、ご利用のお客さまから新しいご紹介に至ったケースも多いです。たくさんのポジティブな反応をいただくことが、本当に会社全体のエネルギーになっています。

水谷:私たちはバンカブルさんのパートナーとして、これからも多くのお客さまに喜んでいただけるサービスを提供していきます。弊社としてもスタートアップの皆さまを応援していく取り組みを実施しているので、双方を上手く連携させてスケールアップのお手伝いができればと思います。

AD YELLのスキームを応用して、新た支援サービスを創出

――バンカブルはテレビやYouTubeでCMを積極的に流している印象があります。その狙いを教えてください。

髙瀬:お客さまが順調に増えている現状はあるものの、まだまだ知名度の低さを感じています。いかに、私たちが想定しうる将来のお客さまにAD YELLを知っていただくか。プロモーション活動を強化するフェーズとして、意を決してCMへの投資を決めました。

――日本におけるBtoBのBNPL市場は今後どうなるとお考えでしょうか?

髙瀬:BNPLの市場はグローバルでもBtoCがメインですが、間違いなくBtoBにおいても市場は拡大するでしょう。今後はセキュリティ強化が進み、法令や各種規定が整備されていくことが予測できます。参入するプレーヤーの増加とともに、ガバナンスが強化されサービスの質も上がるという、BtoCと同じ流れを辿ると見ています。

――では、お二人の今後の展望を教えてください。

髙瀬:弊社はビジョンに「誰もがチャレンジできる世界を。」、ミッションに「新たな金融のカタチを創り出す」を掲げていますが、AD YELLだけでそれらを実現できるとは思っていません。今後は広告費以外にもこのスキームを展開させていきます。在庫や仕入れの費用をサポートする仕組みなど、お客さまの事業を多角的にファイナンスの側面からサポートできないか検討しています。

現在AD YELLをご利用いただいているお客さまの7割がEC事業者です。化粧品から健康食品など商材はさまざまです。成長が見込まれるスタートアップが直面するキャッシュフローの課題を解決して、成長を後押しする。従来の資金調達とは異なる、そんな選択肢の一つとしてAD YELLを選択いただければと思います。

水谷:仰る通り、バンカブルさまのAD YELLはさまざまな課題解決につながる可能性があると考えます。私たちはカード会社として、ECサイト構築やシステムベンダーとの協業に加え、政府の補助金の活用をサポートするサービスを立ち上げ、企業のキャッシュレス化やDX・デジタル化を支援することもはじめています。これからも弊社はMUFGグループとの連携により、新しいテクノロジーやサービスを手がけるスタートアップを決済を通じてサポートしていきます。その企業の取り組みが世の中に広がっていくことも、社会貢献の形の1つだと考えています。

水谷 季彦

三菱UFJニコス株式会社 執行役員 営業第2副本部長 兼 MUFG協働推進部長 兼 営業第1本部特命担当

1989年に東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行し、豊田支社長(2013年)、名古屋支社長(2015年)、渋谷支社長(2018年)、中部地区本部長(2019年)を歴任。2020年に三菱UFJニコス入社、執行役員 営業第1本部副本部長を経て2021年から現職。MUFGグループ各社と協働し、主に法人顧客のキャッシュレス決済サービスの拡充をはかっている。

髙瀬 大輔

株式会社バンカブル 代表取締役社長

事業会社のマーケターを経験後、デジタルホールディングス傘下のオプトへ入社。同グループの インハウス支援コンサルティング会社ハートラス(旧エスワンオーインタラクティブ)代表を経て、2021年4月より株式会社バンカブルの代表取締役社長に就任。
“新たな金融のカタチを創る”をミッションに掲げ、広告費の分割・後払いサービス「AD YELL(アドエール)」を展開中。

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