「Cookieレス時代」をどう乗り越えるか。「業界のリーダーが語る、これからのマーケティング~Cookieレスの最新動向とその先のLTV戦略~」イベントレポート
2024/1/11
個人情報保護の世界的な潮流からCookie規制が強まり、デジタルマーケティングにおいて「Cookieレス時代」が訪れました。従来のリターゲティング広告などによるマーケティング手法から、顧客一人ひとりとのエンゲージメントを高めるLTV(※1)を重視したマーケティング手法へと見直す企業が増えています。
2023年11月1日(水)、株式会社オプトがオフラインイベント「業界のリーダーが語る、これからのマーケティング~Cookieレスの最新動向とその先のLTV戦略~」を開催し、Cookieレスの最新動向や企業に求められる対応、今注目が高まっているLTV戦略について議論しました。本記事では、そのなかから、二つのパネルディスカッションをレポートします。
※1 LTV:企業と顧客が継続的に取引を行うことにより顧客が生涯を通じて企業にもたらす利益のこと。一般的には商品やサービス、企業に対する顧客の愛着(顧客ロイヤルティ)が高い企業ほどLTVが高まりやすくなる。
Contents
Cookieレス時代に必要なこと
岩本:皆さんが気になっているのは、Cookieレスの影響についてだと思います。お二人のご意見をお聞かせください。
簗島:プラットフォーマーのCPAがどんどん悪くなり、その結果として、広告予算が特定の媒体に流れ込むことで、さらに影響が出ていると耳にすることが、ここ1年間で増えています。上場企業が、「このようなCookieレスの影響が出ています」「リターゲティングのボリュームがこれだけ減っています」という資料を出す機会も増えているので、広告の一領域での課題というところから、事業上の大きな問題になっている会社が増えている感覚があります。
遠藤:「Cookieレスが、いよいよ本格化しています」と、毎年言っている気がします。実際に、私たちのソリューションにおける新規の月間最高売上は更新し続けており、Cookieレスに関するソリューションは、一昨年よりも去年、去年よりも今年のほうが売れています。ユーザー層も、アーリーアダプターからマジョリティにようやく移ってきたのかなと思っています。また、そうしたなかで特に感じているのは、業界の広がりです。新しいものを取り入れやすいD2C業界などのお客さまだけでなく、金融・通信・不動産といった業界のお客さまも、最近はどんどん私たちのソリューションを使い始めてくださっている印象です。
岩本:次に、お二人が今、どのようなソリューションに注目しているかを教えてください。
遠藤:長年いわれていると思いますが、改めてCDP(カスタマーデータプラットフォーム)が非常に大事だと感じています。データを溜める場所をきちんと整備できているかは非常に重要です。個人情報を丁重に取り扱わなければいけないなかで、例えば、広告主の個人情報をA社が持っていて、B社も持っていて、C社も持っているという状況はリスクが大きく、情報をセキュアに守り切るのは難しいと思います。そのため、広告主側で、セキュアな環境でデータを蓄積できる場所を整備し、必要に応じて各社が適切にデータを使う。このように、データの全体像を分かった上で設計することが大事です。例えば、オプト社の「ONE's Data」も、そのような使い方に適したソリューションだと思います。
簗島:データを活用する上で「Chat GPT」がすごく重要だと思います。現在のマーケティング担当者は、法律やデータを蓄積するためのシステムを理解する必要があるなど、やらなければいけないことが非常に多い状況です。今までは一つのプラットフォームで認知することができていましたが、現在は複数の媒体に広げて広告を配信する必要も出てきました。そのため、時間がない・リソースが足りないということが、これからより一層起きてくると思います。そのなかで、人間がやるべきこととそうではないことを分業することが大切なので、労働力としての生成AIは、変化が大きいデジタルマーケティングの時代にとっては重要だと思いますし、注目しています。
岩本:最後に、Cookieレスを乗り越えられる組織になるためにはどうすればよいか、その条件などをお聞かせください。
遠藤:広告主のマーケティング責任者の皆さんは、すごく忙しいと思います。そのため、広告主として自分たちの組織でやるべきことと、逆に、「ここは代理店に任せよう」「ここはベンダーに任せよう」など、依頼や連携をしてやるべきことを切り分ける重要性がどんどん高まります。よく分からないからといって放置し過ぎると、直近半年から1年では悪い効果はないかもしれませんが、数年後に大きな差となって現れます。「きちんとやっていれば、データが整っていたのに」ということが起こり得る領域なので、面倒くさがらずにしっかりやり切る企業がCookieレスを乗り越えられると思います。
簗島:新しいソリューションを導入する際、その説明が難しいということはあると思います。デジタルマーケティングの領域は複雑で、新しいものがどんどん出てくるので、「何ができるのか」「何が違うのか」という差が、遠くから見るとほとんど分からないという側面もあります。そのため、コミュニケーションを取って不安をなくし、理解を得た上で導入の意思決定を進める、といったようにお客さまに寄り添う姿勢が重要です。私たちもお客さまに対する個別の勉強会などの機会を増やしています。
岩本:昨今のデジタルマーケティングでは、単純にCPAだけを語っていた頃からは変化しており、上長の理解を得るためにも、KPIなど長期目線を踏まえることがすごく大事です。やることが多いと思われますが、投資対効果の高いコンバージョンを目指すには、投資対効果の高いCDPの導入から始めると、Cookieレス時代に上手く対応できると感じました。ありがとうございました。
Cookieレス市場におけるLTV戦略
西森:本日は質問を二つご用意しております。一つ目は、「Cookieレス市場において広告主さま・広告代理店に期待すること」です。田中さんから、お願いいたします。
田中:広告主さまに対してお願いしたいことは、データを正しく連携するための社内整備やその背後にあるデータ戦略をつくっていただきたいということです。これは、弊社もできませんし、広告代理店もやりにくいところだと思います。許諾の問題もありますし、データをどのように連携するかは、どうしても広告主さま側で考える必要があるので、この部分を一番に取り組んでいただきたいと思います。一方、広告代理店の方々に対しては、私たち側のデータ連携機能の仕様変更について、情報を常にキャッチアップし、ガイド役として広告主さまに共有していただけるとありがたいです。小さな変更でも、それにより少しの手間で広告パフォーマンスが変わることもありますので、ガイド役として新たなチャンスを見逃さないように広告主さまをサポートいただくことをお願いしたいです。
小野:私たちは、「コンバージョンAPI(イベントAPI)(※2)」と「アドバンスドマッチング(※3)」に非常に注力しているので、その温度感を広告主さま、広告代理店に感じていただくことがまずは大事だと思います。その上で、計測の仕組みや、どのような変化があるかを広告代理店が理解し、広告主さまに適切に説明していただくということが重要だと考えています。
※2 コンバージョンAPI(イベントAPI):媒体経由のシグナルに加えて、サーバー経由でも媒体の機械学習に必要なデータを送る仕組み。
※3 アドバンスドマッチング:タグを用いて、メールアドレスや電話番号などのユーザーを識別する情報を取得し安全にハッシュ化した上で送付したデータをアプリの広告媒体上でマッチングさせる仕組み。
小野:これは非常に根深く、難しい問題だと感じていますし、「計測の乖離が大きくあります」というフィードバックをいただくことも多い状況です。まず、3rd Partyの計測ツールと媒体の数値は乖離が発生するのが自然だと認識していただくことが大前提だと思っています。理由としては、計測の仕組みが違うことと、計測のために取得できているデータが違うことがあります。また、Cookieレスが進んでいくと、アプリ媒体を過小評価してしまうことになり得ます。例えば、TikTokでは、広告をクリックすると基本的にはTikTokのアプリ内ブラウザでLPが立ち上がります。そのため、広告をクリックした後、アプリから離れ、すぐにデフォルトのブラウザで検索し、コンバージョンしたとしても、Cookieとしてはシンクできないので、3rd Party Cookieでは計測できません。広告をクリックしたときに、そのまま購入・コンバージョンすることももちろんありますが、それ以外のコンバージョンのケースにも広告の効果はあると思います。これを見落としてしまうのが非常にもったいないと思いますので、このような場合をご理解いただいた上で、3rd Partyの計測ツールを見る必要があると考えています。
田中:私はマーケティングサイエンスという職責で、広告計測の部分には特に関わっているのですが、私の経験上重要なポイントは、Cookieレスに関わらず完璧な計測ソリューションは世の中になく、すべてのソリューションには必ず長所と短所があるということです。
計測には、三つの要素があるといわれています。一つが正確性で「正しいかどうか」、もう一つが即時性で「いかに速いスピードで結果を返してくれるか」、最後が「横比較の可能性」です。例えば、各媒体を横断して計測している3rd Party計測ツールは、多くの場合で即時性が高く、もちろん横比較もできますが、媒体ごとの特性を加味することが難しいため、相対的に正確性が低くなってしまうと考えています。一方で、その対極にあるのが、MMM(マーケティングミックスモデリング)です。これは、結果を出すのに時間がかかり、即時性は低いのですが、しっかりとしたモデルを構築すれば正確性も高くなります。もちろんTVなどのデジタルではないメディアとの横比較も可能です。
このように完璧なソリューションがない状況では一つの手法に頼っていると判断を誤る可能性があります。そのためそのリスクを低減するために、複数の計測手法を組み合わせて弱点を補うことが重要になってきます。どの計測手法をメインにするかは皆さんの考え方次第ではありますが、そのメインの手法に対して異なる計測手法を使って補正していくことが最良の方法になると考えています。仮になにかの3rd Partyの計測ツールをメインの計測ツールとするのであれば、正確性に懸念がある可能性を加味し、他の計測手法も頼りながら、結果を補正することが必要になると思います。
西森:今まで正義として扱ってきた3rd Partyの計測ツールのCPAも、いまや絶対ではなくなっています。このような時代では、さまざまな計測手法の強み・弱みを理解した上で、データを多角的に捉えながらマーケティング活動を進めていくことが大事になりますね。本日はありがとうございました。
簗島 亮次
株式会社インティメート・マージャー 代表取締役社長
慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科を2010年首席で卒業。2013年、Googleのレイ・カーツワイル氏が2020年に起きると予測した「あらゆるデータがひとつに統合される」という革命を冠した株式会社インティメート・マージャーを創業し、2019年10月東証マザーズへ上場。データサイエンティストというアカデミックな視点と経営者としてのビジネスの視点から、日本最大級を誇る約4.7億のオーディエンスデータを用いてさまざまな業界の課題解決を支援している。
遠藤 竜太
株式会社ZEALS 取締役COO
ジェネレーティブAI部門 責任者。京都大学大学院ヒューマンインターフェイス(HI)論 修了。 人と機械のインタラクティブを専門としHIシンポジウムにて優秀賞受賞。 コミュニケーションテクノロジーの社会実装を実現するため、2017年にZEALSへ入社。生成AIやLLMのチャットコマース活用に深い知見を持つ。LINE社より認定講師「LINE Frontliner」に選出されるなどマーケティング領域にも精通。同社の日本・アジア事業を管掌。
岩本 智裕
株式会社オプト 執行役員
株式会社シーエー・モバイルにエンジニアとして入社。スマートフォンアプリのマーケティングや開発を得意とし、教育系スタートアップやフリーランスで実績を積む。2015年に株式会社オプトに入社後、プロダクトマネージャーに転身。現在は株式会社オプトの執行役員。ポストクッキー時代における統合データマネジメントプラットフォーム「ONE's Data」の立ち上げやデータ環境整備の支援、WEB/APP/期間システムのサイロ化の課題解決支援を得意とする。
田中 慎一郎
Facebook Japan Marketing Science Partner
京都大学にて物理学の修士課程を終了後、大手証券会社にて運用ポートフォリオ最適化などに関する銀行向けコンサルとして勤務し、米国カーネギーメロン大学に社費留学生として派遣(MBA)。帰国後、デリバティブ設計チームで金融商品の取引や、自動プライシングシステムの構築に従事。2019年のFacebook Japan参画後は、広告代理店とのデータ連携やソリューション開発を推進。
小野 稜馬
TikTok for Business Product Marketing Manager
2019年 TikTok for Business Japan入社。アドネットワーク「Pangle」の日本市場立ち上げに従事後、アプリ広告プロダクトの日本市場責任者を担当しSKAdNetwork計測への移行をリード。2022年より、eコマース向けショッピング広告プロダクトのGo To Marketを担当。現在は、WEB計測ソリューションをはじめパフォーマンス広告プロダクトの日本市場を担当している。
西森 智也
株式会社オプト アドセントラル室 部長
2019年 株式会社オプトに新卒入社。データアナリストとしてアパレル企業のCRM活用支援に従事。2020年より、広告運用コンサルタントとして、主に多品目通販事業を支援。2023年には、オプトの広告運用品質の向上と、広告を通じた顧客課題改善のための自社プロダクト開発を目的とした組織、アドセントラル室を立ち上げ、同部部長に就任。