「ウェルエイジングといえばキューサイ」のイメージを創り出す、プラットフォーム構想とは【青汁キューサイの大改革 後編】
2024/4/4
「まず~い、もう一杯!」のTVCMで一世を風靡したキューサイ。いまも、青汁にこのイメージを持つ人がいるのではないでしょうか。しかし、当のキューサイにとって、それは過去のこと。青汁はブランド名を『THE KALE(ザ・ケール)』と変えて顧客の裾野を広げているほか、商品ラインアップもヘルスケア、スキンケア領域へと拡大。佐伯澄氏が社長に就任した2022年からは、『ウェルエイジング』というブランドを掲げ、お客さまとより深くつながろうと試みを続けています。
前後編でお送りしている、佐伯氏のインタビュー記事。後編は、キューサイのデータ起点のマーケティング戦略と、現在構想している新たなプラットフォームの概要に触れながら、同社の目指すユーザーとの関係づくりの要諦に迫ります。
Contents
いかに「自分ごと化」として提案できるのか、それは「個」に刺さるのか
ビジネスにおけるキューサイの根幹は、お客さまのデータです。お客さまのデータを分析するための基盤づくりを、カスタマーデータプラットフォーム(CDP)や顧客関係管理ツール(CRM)を中心に設計しています。これらがあることで、既存のお客さまはもとより、40~60代の新規のお客さまの情報も分析できるようになるので、さまざまなお客さまの声を知ることができるようになります。さらには、年代別×生活習慣、年代別×購買行動のような掛け合わせによって、お客さまのニーズに沿ってお客さまへのリコメンドや接点をつくることもできます。たとえば、ウェルエイジングを体現する商品を、クロスセルとして、或いはアソートメントとしてエイジングに悩み始めたお客さまへ紹介したり、継続的にご購入いただけるように、次回購買行動に悩まれているお客様への背中押しのメッセージとしてお伝えするといった具合です。すると、お客さまが私たちのマルチチャネルのなかで購入してくださるようになり、継続的にお買い上げいただき、ファンになってくださる。このようなお客さまをどれだけ増やしていけるのか、がリピート通販の肝といえます。
――このほか、「つながる」施策として、お話いただけることはありますか?
この時代、お客さまにお買い求めいただくには、「個」に対するコメントや、この会社と共感してつながっている、といった想いが大事になります。そこで、当社は『ウェルエイジングアドバイザーズ』という顧客パネルを運営しています。ここは既存のお客さま、あるいは新規のお客さまとつながり、アイデアをいただいたり、調査でお声を伺ったりする場です。
なお、コミュニティのなかには、例えば20年近く当社商品を継続購買してくださっているような、ロイヤリティの高いお客さまもいらっしゃいます。私たちは、この方たちを、『ウェルエイジングアンバサダー』とお呼びしています。アンバサダーの方は、商品に対する愛着がひとしおです。商品の話ではなく、この商品がどれだけ自分の生活習慣に溶け込んでいるのか、あるいはライフスタイルを変えたのか、人生初につながったのかのような、ご自身のお話をしてくださいます。そのメッセージは、一つひとつのインパクトが非常に強く、商品開発やブランドパワーを計測する場面において極めて重要なファクターになっています。今後は、商品を共同開発したり、マーケティング施策を一緒に考えたりといった取り組みも考えています。
また、カタログや同梱するチラシについても数百の組み合わせを用意しています。これらは、単なる同梱物ではありません。私たちは長年エイジングを研究していますから、「この世代の、このクラスターのお客さまに、この商品を、このメッセージと一緒にお届けすることで喜んでいただける」という方程式を持っています。カタログもまた、そのための一つのツールとして、「個」に刺さるメッセージを伝える役割を持っています。なお、ワンリソース・マルチユースの考えに基づき、こうした紙媒体で得られた情報も集約し、コンテンツマネジメントシステム(CMS)に反映して、デジタルで活用することも検討しています。
「ウェルエイジングと言えば、キューサイ」という認知を生み出す、プラットフォーム構想
ここ数年、デジタルをはじめ、チャネルを増やす動きを行っていますが、これを中長期的に考えたとき、「ウェルエイジングと言えば、キューサイ」と認知いただくためのプラットフォームをつくることが目指す姿ではないか、という仮説が立ちました。このプラットフォームでは、お客さまが自分のエイジングの現在地をさまざまな測定法によって把握できる、自分に合ったエイジングの考え方やリコメンデーションを聞くことができる、さらには人生初につながるような情報も手に入る――といった、包括的にエイジングの情報や商品を手に取り、キューサイならではの顧客体験が得られる場にすることを考えています。お客さまがエイジングに関心を持ち、行動変容する一番のきっかけが医学的なエビデンスです。そのため、2023年11月より、『久山町研究』で世界的に知られる福岡県久山町で、九州大学との共同研究を始めており、エビデンス取得に向けて動き出しています。
サービスには、お客様が「既にそれは知っている」というものではなく、「Aha!」と驚かれる、初めて知る体験が必要です。「あるある」「既に知っている」では、サービスになりません。「私って、エイジングが始まっているの?」のような気づきを提供することこそ、生活習慣を変えるポイントです。そのためにも、この共同研究から出てくるエビデンスをサービスに活用することで、リコメンドの質をさらに深めていきたいと考えています。
――いつごろの実現を目指すのでしょうか。
2025年にはベータ版までたどりつきたいですね。クローズドの状態でお客さまに使用していただき、お客さまの生の声を知りたいです。現在、生活習慣やエイジングの情報を包括的に発信するサイトは他に類を見ないため、これは一つのチャンスと捉えています。
オンオフの接点、選ぶのはお客さま。私たちはお客さまの求めに徹底して応えるだけ
まず、テレビ通販(インフォマーシャル)はシニア層のお客さまとの接点であり、基盤です。このお客さまたちは、電話や直接の対話を大切にされますから、ここはなくせません。むしろ、コンシェルジュのようにお電話でご相談に乗るようなインフラだと思っています。「最近、食事や睡眠は十分取れていますか?」とお伺いしながらウェルエイジングの接点をつくっていく方法です。
――いまのお話も含めて、デジタルとリアルの住み分けをどのようにお考えですか?
オンオフはもう分けなくてもよいのではないでしょうか。プラットフォームができれば、なおさらそこに顧客体験を集約できるようになると思っています。
ときおり、オムニチャネルの提案を受けることがありますが、そこの垣根を考えている時点で価値あるシームレスな顧客体験はつくれないと思っています。電話や直接対話を求めるお客さまには上述のようなサービスを徹底して行いながらあらゆる「個」の情報を網羅していく。デジタルでさまざまな情報をもとに自分なりの判断をしたいお客さまには、その購買判断を助ける情報開発を行う。このようにして、それぞれの接点をつくっていこうと考えています。
デジタルの活用にとらわれず、本質的価値を真摯に届けていく
着任当時、社員に「変えてほしいものと変えてほしくないものは何か」と尋ねると、「青汁の持つアイデンティティと、それに寄り添っているお客さまの満足度は変えてほしくない」と言われました。
原料であるケールは、広大な農場で、農薬・化学肥料不使用で栽培しており、収穫も手摘みで行っています。このように、たくさんの工数をかけて徹底的にこだわってつくっていますが、最終的にできた商品が自分たちのクオリティに達していると判断するまで、絶対に市場には出さないと決めています。お客さまにベストなものを届けようという品質のアイデンティティには目を見張るものがあります。お客さま第一主義を、社員ひとりひとりが真に反映していると思ったものです。
そのうえでの原点回帰ですが、デジタルなど、新しい施策も始めているものの根底にあるものは同じです。お客さまに価格、品質を含めてお客さまが自分ごと化できる体験を提供できるよう徹底的にこだわり抜いてやっていこう、と。どうすれば商品の良さをお客さまにお届けできるのかを徹底的に議論し、泥臭く改善に改善を重ね、お客さまの求めることに執着することで、初めて良い商品になると思っています。ですから、お客さま不在で、例えば「AIのようなテクノロジーを使うことが前提で」、「何かはやりの原料ありきで」のような発想では、お客さまには受け入れられないと思います。
――Amazonから来られて環境は様変わりしたことと思います。一番大切にしていることを教えてください。
お客さまの求めるものを定義したうえで、そこに確実によりそった商品、コミュニケーション、そして品質を提供していくことです。もちろんAmazon時代にもやっていましたが、前職はリテールの業界ですから、お客さまの満足度を上げるレバーが違います。アマゾンはカテゴリー自体が何千にも及びますし、品ぞろえも膨大ですから、そこからリコメンドするには、デジタルで最適化を目指すしかありません。一方、メーカーサイドに立つと、「個」のお客さまの解像度を上げ、商品品質の作りこみとコミュニケーション、その先の顧客体験をセットにして訴求していかないことには、その会社の手がける意味が出てきません。そこがAmazonとの違いだと思っています。
加えて、N1※の声って大事ですよね。私も徹底的に聴くようにしています。「なぜ2回3回と継続的に買ってくださるのか」「なぜうちの商品を途中で止めて、他社のものに切り替えられたのか」「お客さまが次回購買意向の選択肢として弊社商品を指名いただける理由は何なのか」——。こうしたものを、N1で徹底的に掘り下げていくことは、単に品ぞろえや価格で戦うこととは一線を画す考え方です。個のお客さまの解像度を上げていくことも、大切にしていることの一つです。
※特定の顧客を一人だけ選び、商品やサービスに対する考えや感想を深く掘り下げる分析手法のこと。
――最後に今後の展望をお聞かせください。
私たちはお客さま個々人に合った生活習慣の提案を含め、ウェルエイジングの文脈でできることは徹底的にやり尽くしていこうと思っています。お客さまが求めるものを定義し、それに対して確実に応え続けていくことが、一番大切なことと肝に銘じ、必要とされているのであれば、オンラインオフライン問わず、徹底的に開発していきます。
そして、ウェルエイジングにおけるチャレンジャーがほかに存在しないいま、この考え方が世の中に行き渡ったときには、私たちが絶対にNo.1の第一人者になれる、と確信しています。その実現に向け、まずは未来のプラットフォームづくりも視野に、いっそうお客さまが求めるものに執着していきます。キューサイの今後に、どうぞご期待ください。
佐伯 澄
キューサイ株式会社 代表取締役社長
1996年に大学を卒業後、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入行し、その後米国ケースウェスタンリザーブ大学院(MBA)留学。2005年住友商事に入社し、約13年勤務する中で、海外での事業投資及び事業会社経営に従事。海外でのテレビ通販事業の立ち上げ、仏合弁事業(流通・メディア事業)の取締役や、ニュージーランドにおける総合野菜果汁加工メーカーのCEOを歴任。住友商事退職後、Amazonにて、Amazon Freshの事業立ち上げを主導した後、2018年8月より株式会社MOA(現XPRICE株式会社)の代表取締役に就任。マルチチャネルを展開する総合eCommerce企業へと成長を牽引(2019年楽天市場にてグランプリ受賞)。その他、株式会社さとふる取締役等を歴任。2022年1月よりキューサイ株式会社の取締役を務める。