「運転資金」ではなく「成長資金」。「新しい金融」を提供する 2 人の経営者が描く、スタートアップの成長戦略

スタートアップの成長戦略に欠かせないのが「ファイナンス」です。プロダクトやサービスの開発や人材の採用、顧客を集客するための広告など、成長段階に合わせて適切に運転資金を調達していく必要があります。

一方で、スタートアップは不確実性が高く、それゆえに銀行などの金融機関からのデット(負債)ファイナンスがしづらいという側面もあります。また、ベンチャーキャピタル(VC)によるエクイティ(資本)ファイナンスも資金調達の手段に挙げられますが、上場後はその対象から外れてしまうことが課題でした。

こうしたなか、新しい金融の形でスタートアップを支援するのは、固定利回りの資産運用サービス「Funds」を提供するファンズ株式会社と、デットでもエクイティでもない第三の選択肢である「AD YELL」を提供する株式会社バンカブルです。

今回は、ファンズ株式会社 代表取締役CEOの藤田 雄一郎氏と株式会社バンカブル 代表取締役社長 髙瀬 大輔氏による対談を通じ、日本の金融市場における課題や、スタートアップの新たな資金調達の可能性について探っていきます。

スタートアップに「リスクマネー」が流入していないのが課題

── スタートアップの成長を支えるという視点でみた際に、これまでの日本の金融市場における課題についてどうお考えですか?

藤田:「Funds(ファンズ)」は、個人の方から資金を集めて、上場後も成長を続ける「上場スタートアップ」にデットファイナンスを届けるサービスです。日本では、上場前後のスタートアップへの成長資金の供給がまだまだ不十分だと考えていて、それがサービスを始めた背景にあります。
 
スタートアップに流れる「リスクマネーの総量」をボリュームアップするために、大きな開拓の余地があるのが「個人の金融資産」です。その総額は1,000兆円とも言われており、これを仮に1パーセントでもスタートアップに流すことができれば、すごく大きな額になるわけです。
こうした滞留する個人の金融資産を、僕らがパイプラインになって、上場スタートアップに流していくことにチャレンジしていきたいと考えています。

「Funds」では、「事業を回していくのに必要な運転資金」だけではなく、新規事業やM&A、海外進出といった「事業をさらに加速していくための成長資金」にも資金供給をさせていただいています。

髙瀬:私も藤田さんと同様で、スタートアップに「リスクマネー」が行き渡っていないと感じています。これについては、スタートアップと金融機関の双方に課題があると捉えています。

創業間もないスタートアップだと、ビジネスを成功させるエビデンスを示しづらいため、「将来性や事業性に投資してほしい」という思いがあります。その一方で、金融機関は、一定の担保の基準に沿って資金をお渡しする必要があり、担保の提示が難しければ投資ができないわけです。

こうしたマクロ的な課題に対し、私たちはマーケット全体で3兆円を超えるネット広告に特化した分割・後払い(BNPL)サービス「AD YELL(アドエール)」を通じて、少しでもスタートアップの成長ドライバーになれるように向き合っています。

独自の審査基準を設けた金融サービスでスタートアップへ融資

── 両社のサービス概要や立ち上げ背景、他の金融サービスとの違いについて教えてください。

髙瀬:「AD YELL」のサービス立ち上げの背景には、私自身が20代の時に参画したスタートアップでの苦労という原体験があります。スタートアップの先行投資の負担をなるべく軽減しながら事業成長を支援したいという思いが、サービス開始の根源にあります。

「AD YELL」の特徴は、成長期のスタートアップが先行投資の中でも負担が重くなりがちな広告宣伝費に投資する際に、私たち独自の審査基準に沿って、広告費を全額立て替えさせていただく仕組みです。これによって、キャッシュサイクルやキャッシュフローを改善し、スタートアップがより高い成長曲線を描けるようなサービスになっています。

2022年5月にサービスを開始して以来、累計取扱高(GMV)は約390億円に上り、主にEコマース事業を展開する企業様にご利用いただいています。

「スタートアップへ投資した金額がどれだけお客様のプロフィットに戻ってくるか」というリターン予測を審査に組み込んでいるのが、他の金融サービスと違いユニークな点です。

藤田:「Funds」を立ち上げたのは、リスクをとって成長しているスタートアップに、新しい資金調達の手段を提供したいという思いと、個人投資家の方にも、株式投資や投資信託以外の新しい資産運用の機会を創出したいと考えたからです。

企業にとっては、ユーザー(個人の投資家)と繋がることができ、商品やサービスの認知拡大や、株式の購入へ繋がる可能性も期待できるため、資金調達のほかにマーケティングやIRにも活用していけるのが特徴です。

ユーザーにとっては、最初から利回りや期間が決まっている「固定利回り投資」(※1)というシンプルな投資商品で、誰でも資産運用にチャレンジできるサービス設計が特徴です。そのため、新NISAによる積立投資に興味を持つ30代〜40代の方々や、50代〜70代のシニア層まで幅広い世代のユーザーにご利用いただいています。
(※1) 「固定利回り」とは、貸付ファンドの予定利回りが募集時にあらかじめ定められていることを意味します。

今まで100社近い企業様にファイナンスさせていただいていますが、サービス開始以来一度も分配遅延や元本欠損が起こっておらず、これがサービスの強みになっています。(※2)
(※2) 将来の成果を保証するものではありません。

また、グループ会社の「Funds Startups」(※3)は、レイターステージのスタートアップ向けに独自の審査基準に沿った「ベンチャーデット」でのファイナンスを行っています。今までデット調達の選択肢が少なかったスタートアップに対し、積極的に融資の機会を提供していくためにサービスを開始しました。

日本でも最近は、ベンチャーデットのプレイヤーも増えてきましたが、アメリカと比べると依然として規模が小さいという現状があります。

(※3) Funds Startups
Funds Startups株式会社は「社会的インパクトを創出するスタートアップが、最も理想的な成長を遂げられる仕組みを開発する」をミッションに据え、ファンズ株式会社の100%子会社として2023年12月に設立されました。Funds Startupsでは、Funds Venture Debt FundのGPとして、ファンド運営ならびに金融機関へのベンチャーデットに関する支援を中心に行います。今後については当事業を中核としつつも、スタートアップ専門の投資銀行部門のような役割として、スタートアップの資金調達手段の多様化や環境整備等も手掛けていく予定です。

製販一体型の金融モデルで、新しい資金調達の選択肢を提案

── 製販一体のビジネススキームで事業を行う理由を教えてください。

藤田:一般的に金融業は、商品を作る会社と販売する会社が分かれているケースがほとんどです。例えば、銀行からの資金調達では、どうしても間接金融になってしまうので、ユーザーとの接点を作れないことが難点でした。

その一方弊社の場合は、「Funds」というプラットフォームを通じて直接お客様に販売しつつ、商品であるファンドを自分たちで作っているという業界の中でも非常に珍しい会社だといえます。

お客様と直接接点を持つことで、ニーズを聞きながら商品をカスタマイズでき、今までの金融業では難しかった「投資を行う個人」と「資金の調達を受ける企業」をつなぎ、コミュニケーションの機会を生み出せるのが、製販一体型の金融モデルのメリットです。

僕らが目指すのは、“ユニクロみたいな金融機関”で、自分たちでお客様にとって魅力的な商品を開発し販売していく仕組みです。

髙瀬:サービスの設計からデリバリーまでを製販一体で行うことで、ユーザーからの声をもとにPDCAを回すことができます。市況感の変化が激しいなかで、プロダクトの設計や改善に対して、柔軟に、そしてスピーディーにつなげることで、スタートアップの方々のペインへ対応できると考えています。


── それでは、最後に両社の今後の展望についてお聞かせください。

藤田:今後は弊社がジャンプ台の役割を担い、飛躍が期待される上場前後の企業を一気通貫でサポートし、事業成長の加速を後押ししていきたいですね。

「Funds Startups」を設立したことで、これまでは上場企業のサポートが中心だったものが、上場に向けて急成長中のミドルやレイターステージのスタートアップも支援できるようになりました。

今後は、個人の方だけではなく法人の投資家や機関投資家などからお金を集めて、成長企業に流し込んでいくことで、リスクマネーのボリュームを増やしていくことに貢献できればと思っています。

髙瀬:現在、さまざまな企業様に「AD YELL」を利用いただいていますが、今後は広告費だけではなく「〇〇×YELL」という形で横に科目を広げ、支援領域を拡大していく予定です。

デットでもエクイティでもない新しいファイナンスを提供し、スタートアップの成長過程において、先にキャッシュアウトを大きくして投資しなければならないという常識を変えていきたいですね。

藤田 雄一郎

ファンズ株式会社 代表取締役CEO

ファンズ株式会社 代表取締役CEO 早稲田大学商学部卒業後、株式会社サイバーエージェントに入社。2007年にWEB構築、マーケティング支援事業を行う企業を創業し、2012年に上場企業に売却。2013年に大手融資型クラウドファンディングサービスの立ち上げに参画し、2016年11月にファンズ株式会社を創業。

髙瀬 大輔

株式会社バンカブル 代表取締役社長

事業会社のマーケターを経験後、デジタルホールディングス傘下のオプトへ入社。同グループのインハウス支援コンサルティング会社ハートラス(旧エスワンオーインタラクティブ)代表を経て、2021年4月よりバンカブルの代表取締役社長に就任。“新たな金融のカタチを創り出す”をミッションに掲げ、広告費の4分割・後払いサービス「AD YELL(アドエール)」を中心に展開中。

Article Tags

Special Features

連載特集
See More