急成長スタートアップ経営陣が語る、各事業フェーズで感じる「課題」とは? バンカブル × FastGrow 「スタートアップ企業経営の『ここだけの話』」イベントレポート

短期間で大きな成長を目指す企業である「スタートアップ」。一方で、急速な成長を目指すからこそ、まさに「成長痛」とも言えるような課題や問題が発生することもまた事実です。そのような課題と解決策に向き合うべく、分割・後払い(BNPL)サービス「AD YELL(アドエール)」「STOCK YELL(ストックエール)」を展開する株式会社バンカブルと、スローガン株式会社が運営するビジネスコミュニティ「FastGrow」は、2024年3月28日、オフラインイベント「スタートアップ企業経営の『ここだけの話』─アーリー期からミドル期の難局とその解決策を探る」を開催しました。異なるフェーズの急成長スタートアップ4社から、起業家・経営者を招き、それぞれが直面している悩みや、その解決策を探りました。今回は、本イベントで行われたトークセッションをレポートします。

トークセッションでは、株式会社Sales Marker 代表取締役 CEO 小笠原 羽恭氏、ポジウィル株式会社 代表取締役 金井 芽衣氏、株式会社Linc’well 執行役員 Chief Financial Officer(CFO)兼 コーポレート部長 新貝 仁那氏、X Mile株式会社 Co-Founder COO 渡邉 悠暉氏が登壇し、株式会社バンカブル 代表取締役社長 髙瀬 大輔氏がファシリテーターを務めました。立場や事業フェーズの異なる4名それぞれが、今、感じている組織の課題や今後のさらなる成長に向けたポイントについて明かしました。

「視座を上げてくれる投資家」を求めている

小笠原氏のSales Marker社は、2023年、シリーズAラウンドとして総額8.4億円の資金調達を実施しました。事業が急成長し、今後さらなる資金調達も見据えるなか、髙瀬氏は「今後、どのような投資家を求めていますか」と質問します。これに対し、小笠原氏は、「視座を上げていただけるかどうか、これに尽きると思います」と述べました。もちろん金額やバリュエーションを考慮しながらも、「その投資家様と話す一時間で、どれだけの気づきを得られて、どれだけ成長ができたかを一番見ていて、成長角度が一番高かった方とご一緒できると嬉しい」と語りました。その上で、投資家様とお話をする際は、ただ目先の状況の確認や報告をするだけではなく、次のハードルを越えるために何をすべきかを常に先回りして考え、それを実行しながら事業を推進していくことが、資金調達を実施せずに事業をした場合と、投資家様の出資を受けて事業をした場合との大きな違いだと述べました。さらに髙瀬氏が「そのような投資家と、どのようにして出会うのですか」と質問すると、小笠原氏は「起業当初は投資家様とのつながりは全くなく、VC主催のピッチイベントに応募し、投資家へピッチをする機会を得ました。」と語ります。当時まだ大企業勤めだった小笠原氏は、その場で「君は大企業病になっているから、このままではスタートアップで成功はできない。来週、IVS(スタートアップカンファレンス)があるから行ってきなさい」と言われ、急いで会社に有給休暇を申請し、IVSに参加したそうです。そこで投資家の方々と出会い、さらに他の投資家の方へとつながり、後に出資という結果に結びついたそうです。小笠原氏は、「あの時、勤め先の仕事を優先して、IVSに行くという選択をしていなかったら、今この場所にはいないと思う。」と振り返りました。

レイターステージでは「どうリターンを出すか」が重要に

新貝氏がCFOを務めるLinc’well社は、2021年11月の総額約80億円の資金調達に続くシリーズCのエクステンションラウンドとして、2023年8月に総額27.7億円の調達を実施したと述べました。これにより、累計調達額は約122.3億円に達しています。髙瀬氏は新貝氏に「レイターステージのCFOとして意識していることは何か」と問います。新貝氏は、「まずは基礎的なところとして予算やランウェイ管理などを重視していた」と思い起こします。また、成長企業ではエクイティを中心とした資金調達になる一方で、企業企業フェーズがより進んでいくにつれ、リターンを意識していくことも大切になると指摘します。そこで重要なことは、強固なPLの構築に加え、「調達の多様化」であり、CFOとしてのバリューの出し方として、「銀行や証券会社など、創業者ではリーチできていなかった方々と、いかに関係を構築するか。そのために、創業者に代わり、どのように会社の良さを伝えていくか」(新貝氏)と語ります。新貝氏は、2022年にCFOに就任して以来、銀行や証券会社などの金融機関、クロスオーバー投資等も検討している上場株投資家、未上場株投資家など、幅広い人たちに会い、継続的に協議するようにしているとのことです。また、髙瀬氏は、同社の資金調達の特徴として「ラウンドを重ねても、投資家の顔ぶれが変わらない」と分析します。これに対して新貝氏は、「ここ数年のように、特に市況が良くない時には、既存投資家様が継続投資してくださることで、新規投資家様が安心して投資できる環境が整う」と既存投資家様による継続投資のメリットを挙げました。

未上場の段階で、上場後も安定的に伸びていく状況をつくる

ポジウィル社を率いる金井氏は、一度上場に対する方針を変えた経緯があります。髙瀬氏からの、「上場準備を見直した際には、どのような苦難や苦境がありましたか」との質問に対し、金井氏は「マーケット環境の変化がすごく大きかった」と振り返ります。ここ数年だけを見てもマーケットは大きく変わっており、金井氏は、上場した経営者の話を聞くなかで、「未上場の段階で、何を・どれだけ仕込むことができるかがすごく大切だと感じていた」と回想します。「事業の柱がいくつかあり、上場後も安定して伸びていくという状況を事前につくらなければ、仮に上場しても、その後が厳しいと感じた」(金井氏)とのことです。そして、上場ありきでものごとを先行するのではなく、本質的な事業をきちんとつくらなければ意味がないと思い、「この規模まで事業の成長や収益性の向上を目指すことが大前提」という線引きをした上で、上場に対する方針の見直しをおこなったと言います。髙瀬氏は、「今後、改めて上場を目指す上で、投資家選定のポイントを教えてください」と深掘りします。金井氏は、「『上場後』を、どのように捉えているかがすごく大きい」と言い、「とりあえず儲かれば良いという考えではなく、一緒に事業を伸ばしていける方かどうかがすごく大切」と回答しました。その上で、「そうでなければ、これからもう一度資金調達をする意味がない」と強調しました。

事業成長の確実性とスピードをあげる、コンパウンドスタートアップという形

渡邉氏がCOOを務めるX Mile社は2024年1月、シリーズBラウンドとして、約18億円の資金調達を実施したと発表しました。これにより、累計調達金額は約26.8億円となりました。髙瀬氏が、「どのような考え方でファイナンスを行っているのですか」と問いかけると、渡邉氏は「小笠原さんと同じですが」と前置きをした上で、「投資家の方に視座を上げていただけるかが大切」とポイントを挙げました。同社はもともとM&Aという選択肢はなく、上場を目指して創業された経緯があり、当初から投資家に対しては「視座を引き上げていただけるか」と「ファンドの色」を見ていたと言います。具体的には、まずは「ファンドのサイズ」です。ラウンドが進むにあたり、既存投資家の追加の出資を得られることが信頼につながっていくことになるため、追加出資の余地があるファンドサイズかどうかを見ていました。また、「上場後も株を保有し続けるか」という投資スタイルや、上場時の株主構成比率に機関投資家が一定の割合でいた方がバリュエーションが上がりやすいということを見越した上で資金調達をしているとのことです。 髙瀬氏は、「現時点での課題や問題意識は何でしょうか」と尋ねました。渡邉氏は、事業的課題と組織的課題に分けた上で、事業的課題としては、時価総額1,000億円・年商100億円を超えるまでの道は描けていると語ります。その上で、その先の時価総額3,000億円、5,000億円を達成するためのマイルストーンを考えた際に、今から新規事業をいくつ仕込んで、どれぐらいの規模にしなければならないかを経営陣で議論しており、今後は実行フェーズに移ると回答しました。

株式会社Sales Marker 代表取締役 CEO 小笠原 羽恭

新卒で野村総合研究所に入社し、基幹システムの開発、PM、先端技術R&D、ブロックチェーン証券PFの構築、新規事業開発に従事。その後コンサルティングファームに移り、経営コンサルタントとして新規事業戦略の立案、営業戦略立案、AIを活用したDXなどのプロジェクトに従事。2021年にSales Marker(旧:CrossBorder)を創業。2022年には国内初のインテントセールスSaaS「Sales Marker」の提供を開始。ローンチから現在まで400社以上の企業様に導入いただく。2023年、Forbes 30 Under 30 Asia List選出、一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)協議員就任。

ポジウィル株式会社 代表取締役 金井 芽衣

1990年生まれ。短大で保育士・幼稚園教諭の免許取得後、キャリアカウンセリングに出会い、2010年に法政大学キャリアデザイン学部に編入学。卒業後はリクルートエージェント(当時)にて人材紹介の法人営業として勤務した後、2017年に国家資格キャリアコンサルタントに登録。同年ポジウィルを設立し、代表取締役に就任。現在までに総額約3億円の資金調達を実施しつつ、キャリアに特化したパーソナル・トレーニング「POSIWILL CAREER(ポジウィルキャリア)」を運営。

株式会社Linc’well 執行役員 Chief Financial Officer(CFO)兼 コーポレート部長 新貝 仁那

2007年4月、JPモルガン証券の投資銀行部門に入社。10年以上にわたり、同社及びゴールドマン・サックス証券二社にて、M&Aアドバイザリー、株・債券のグローバル・オファリング、またSyndicated & Leveraged Finance等の実務に従事。2020年9月より、五常・アンド・カンパニーにてIR・資金調達を担当。翌年7月より、同社のグループ戦略及びFP&Aを統括するStrategy & Analytics部門の立ち上げに従事、同部門の部長に就任するとともに、同社経営チーム(Executive Committee)に参画。 2022年8月、株式会社Linc’wellにて執行役員CFOに就任。2023年11月より、コーポレート部長を兼務。慶應義塾大学総合政策学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートン校経営学修士。

X Mile株式会社Co-Founder COO 渡邉 悠暉

国際基督教大学(ICU)在学中に、人材系大手エン・ジャパンの新規事業企画にてHRtech(SaaS)の企画開発・営業を担当。その後、エス・エム・エス出身者が起業した創業1年目のHRtechスタートアップで、営業兼キャリアコンサルタントに従事。全社MVPを獲得。2018年7月に、エス・エム・エス出身者が起業した創業5年目のベンチャー、株式会社ネクストビートに入社。高所得層主婦向け情報メディア事業・宿泊施設向け人材支援事業の2つの新規事業を経て、2019年8月よりX Mile株式会社のCo-Founder COOとしてのキャリアをスタート。

株式会社バンカブル 代表取締役社長  髙瀬 大輔

事業会社のマーケターを経験後、デジタルホールディングス傘下のオプトへ入社。同グループのインハウス支援コンサルティング会社ハートラス(旧エスワンオーインタラクティブ)代表を経て、2021年4月よりバンカブルの代表取締役社長に就任。“新たな金融のカタチを創り出す”をミッションに掲げ、広告費の分割・後払いサービス「AD YELL(アドエール)」、在庫/仕入費の分割・後払いサービス「STOCK YELL(ストックエール)」を展開中。

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