DX戦略

教育のデジタルシフトのパイオニア、スタディサプリは教育現場をどう変えたのか。

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、今でも都市圏を中心に休校を続けている学校が多く、自宅での学習環境を整えることは急務となっている。そんな中、株式会社リクルートマーケティングパートナーズは3月2日に「スタディサプリ」の学校向けサービスの無償提供を開始した。

スタディサプリの有料会員数は84万人以上で、小・中・高校生向けのオンライン学習サービスの提供をメインで行っている。2012年にサービスを開始したオンライン教育のパイオニア的存在である同サービスだが、教育のデジタルシフトには障壁も多くあったのだそう。いかにしてその壁を乗り越えたのか。これからの社会で教育はどうなっていくのか。同サービスのBtoB事業の責任者である池田 脩太郎氏にお話を伺った。

学生だけでなく学校や自治体向けにもサービスを提供

――はじめに「スタディサプリ」の概要を教えてください。

スタディサプリはスマホやタブレット、PCで利用できるオンライン学習サービスです。学生を対象にした分野は主に小・中・高校生向けサービス、学校向けサービスに分かれており、そのほか学生・社会人向けのオンライン英語学習サービスも展開しています。

小・中・高校生向けサービスにはオンライン講座や学習継続のためのコーチング、学習プランの提案など学力向上のためのサービスがあります。ユーザーのうち過半数はスマホアプリを利用していて、スマホ片手にノートを開いてメモを取りながら講義を聞くのが一番ベーシックな使い方ですね。授業で使っているテキストは、PDF版を無料で公開、別途有料にはなりますが製本されたテキストを購入することもできます。

学校向けには、宿題の配信および回収状況の管理、生徒ごとの学習進捗の確認、メッセージの送信など学校教育をサポートするツール「スタディサプリ for TEACHERS」を提供しています。特に授業外でのコミュニケーション機能、宿題配信機能がよく利用されています。今まで紙のプリントを配布、回収していましたが、スタディサプリを使えば離れていても一斉に宿題の配信ができ、提出状況の確認も簡単です。

また、生徒への補習授業の代替としてオンライン授業を採用する学校も多いです。高校だけで見ても、全国にある5,000校近くのうち、半分以上の2,500校以上にサービスを導入いただいていて、私立だけでなく公立高校の導入事例もあります。たとえば渋谷区では、小・中学生にスタディサプリをインストールしたPCの配布を行なっています。

他にも不登校生徒・児童の支援のため、自治体にご活用いただくケースもあります。また、社会人向けに英語学習用の「スタディサプリENGLISH」の提供もおこなっていて、一人ひとりの目的に応じた、「新日常英会話コース」「ビジネス英語コース」「TOEIC®L&R TEST対策コース」など複数のプランがあります。

スマホ保有率が爆発的に上がったことで、多くの人が利用できるサービスに

――スタディサプリは講座のオンライン化など、教育のデジタル化により生まれたサービスと言えるかと思います。教育領域にデジタルを持ち込むことで起こせた変化について教えてください。

まず、講義動画の視聴データを活用して、学習者にとって最適なコンテンツを提供できるようになりました。

例えば、視聴率の推移を見ると、冒頭3秒後にいきなり20%くらい下がることがわかりました。学習者が動画視聴を離脱するタイミングは、講師が授業の目的や生徒への熱いメッセージを話しているシーンだったりします。生徒は、自分の解いた問題の解説を見たいと思っているので、違う話が始まった瞬間離脱してしまうのです。そこで、講師からのメッセージは別の動画に収録し、講義はいきなり解説から始めるようにしました。講義毎に評価がつけられるようになっていて、低いものは全て撮り直し、質の高さを保っています。

また、生徒の学習履歴の分析により先生方がどうすれば生徒の学力を効率よく上げられるのかもわかってきました。もっとも相関関係があったのは宿題の取り組み率でした。要は先生から出された宿題へ取り組んでいるほど学力が向上するということが定量的にわかったのです。今まで経験によって培われてきた暗黙知がデータによって顕在化し、何が学力に直接的に結びついているのかがわかるようになっていきました。

デジタル化が進んだ背景には、ネット環境が整ってきたことがあります。サービス立ち上げ当初は3Gだった回線は4Gになり、5Gへと進化していっています。また、スマホの普及率が爆発的に上がったことで、多くの人が簡単にサービスを利用できるようになったことも大きかったですね。

先生向けのサービスも提供 生徒との新たなコミュニケーションツールに

――新しい試みだったので、サービス立ち上げ当初は苦労も多かったのではないでしょうか?

そうですね。最初にオンライン講義の導入について提案したとき、ほとんどの教育従事者の方々は否定的でした。学校の授業や予備校が対面での授業をする一方で、教室すら持たないオンライン学習で成績が伸びるわけないと思われたんですよね。

実際にオンライン講義を行ってくれる講師を募った際、自分の教え方をオープンにすることに抵抗感を示す講師が多く、思うように授業数を増やすことができない状況もありました。

ただ、我々は受験生の9割がオンライン学習ツールを使っていた韓国を実際に見に行き、日本でも必ず数年後にはオンライン学習の波が押し寄せてくるのだと確信していました。何より、「世界各地に存在する教育環境格差を解消することで、”まなび”によって未来を切り開いていく子どもたちを増やしていきたい」というビジョンがあったんです。

諦めずサービス説明を進めるなか、少しずつご協力いただける講師の数が増えていきました。その背景には、スタディサプリが目指すビジョンに共感いただいたことがあるのだと思います。講師が抱える、いくら良い授業をしても届けられる生徒の数に限りがあったり、経済的な理由でまなびの機会が制限されてしまっている子どもたちが大勢いる、という課題感と我々が抱えている課題感とが一致したのです。

苦労したのは最初の営業だけではありません。ある程度導入してくれる学校や自治体が増えるようになってからは、新たな課題として学習継続率の低さが見えてきました。営業をして導入してもらったのはいいものの、ほとんど使われることなく翌年には解約されるケースが多かったんです。このまま同じことを続けると、お客さまがいなくなってしまうと危機感を覚えました。

そこで改めて、教育の現場に求められている機能を考えました。考えた末、学校の先生向けに「スタディサプリ for TEACHERS」という新しい機能を開発し、先生と生徒とがコミュニケーションを取れるようにしました。学校の先生のゴールはやっぱり目の前の生徒が希望する進路を実現できることで、そのためには生徒側だけの視点でサービスを作っても片手落ちだなと気がついたんです。新機能のリリース後、それなら使いたいという学校はどんどん増えていきました。

――前例のない試みで、現場からの反発もあったなか、求められるサービスへと少しずつブラッシュアップしていったのですね。スタディサプリを導入している学校の具体例があれば教えてください。

奄美大島の高校での事例が特に印象に残っています。そもそも奄美大島には塾がなく、学校以外で勉強するには、通信販売で参考書を買うしかありませんでした。スタディサプリを導入してもらったことで、学習効率の良い講義動画を届けられ、成績の向上に貢献できました。難関国立大学に合格した生徒の中には、「スタディサプリで人生が変わった」と言ってくれる生徒もおり、サービスの根底にある地域の教育環境格差解消に貢献できたのだと実感できました。

オンラインとオフラインをどう組み合わせるのか 教育現場は、今後大きな変革期に

――現在、新型コロナウイルスをきっかけに、学校や予備校が休校になっています。サービスにも影響はありましたか?

休校の要請が現政権から学校に対して出されてからは、スタディサプリどうこうの前に、生活指導や普段の授業をどうするのかで教育現場は大混乱になりました。我々としても何かできないか考えを巡らせていました。

政府からの要請から1週間ほど経ち学校側が落ち着いてきた頃、スタディサプリの学校向けサービスを無償提供するリリースを出しました。すぐに募集枠いっぱいの応募があり、学校だけでなく、市からも声をかけていただきました。

サービスの利用率自体もこれまで見たことないほど上がっていて、その要因は宿題配信機能を利用した配信数が前年比で10倍以上伸びていることでした。内容を見ると、今後授業で扱う予定だった範囲が配信されるのに使われたりしていました。また、先生から生徒、保護者宛に送られる連絡をデータ化して送っているケースも多かったです。

生徒の状況が見えなくなることから、サービス内の学習状況の確認機能が使われるケースも増えました。離れていても生徒の勉強量や一日のスケジュールがわかったりして、安心する先生も多いです。学習指導だけではなく、生活指導も含めてリモートでサポートできる機能が求められるようになってきていると感じます。

――今、学校や予備校はそのあり方が改めて問われています。池田さんは今後、教育現場はどのように変わっていくのだと思いますか?

今起きている変化は、あとで振り返ると大きな転換点になるのだと思います。

一斉休校になった学校では、そもそも毎年インフルエンザで学級閉鎖は起きていて、そのときのためにも対応できる体制を整えるべきだという議論が起こっています。今後、オフラインとオンラインをどう組み合わせるのかに論点が移っていくはずです。

対面で先生がやらなければならないこと以外は全てオンラインサービスで代替し、対面でやる必要のあるコーチングや、授業をもっと有効にするための議論などに時間を使うべきだとなるはずです。先生の新しい役割も生まれてくるのだと思います。

――最後に、今後の展望を教えてください。

我々が最終的にやりたいのは教育環境格差の解消で、このビジョンは、サービスを提供開始してからずっと、そしてこれからも変わりません。

そのためにも今は、サービスを届けるだけでなく届けた先で成功体験を生み出していきたいです。良い学習成果を出したり、人生が変わった、行きたい学校に行けるようになった、と言ってくれる人を増やしたり。その鍵になるのはやはり、データ活用だと思っています。

また、これからは、基礎学力アップは当たり前として、社会で活躍できる人材を育てるための思考力や判断力、表現力に主体性など数値で測りにくい能力の育成が求められるようになるのだと思います。そうなったとき、起業家人材を育成する研修ノウハウや評価指標など、リクルートグループが持っている資産が活かせるのではと考えています。

これまでなかった新しいサービス作りにも挑戦していきたいです。知識をアウトプットするための演習機能や、志望校合格に向けた勉強のプランを組み立てるレコメンド機能など。実現できれば学習体験が大きく変わると思っています。

変化の激しい世の中において、活躍できる人材を育てるために国は教育に力を入れています。数年先までロードマップを描いていますが、そのスピードは新型コロナウイルスの影響でもっと早まるのだと思います。教育の中身はもちろん、それを支えるための環境整備も一気に進むので、我々もスピード感を持ってサービスを展開していきたいです。

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