【福岡発】駐車場事業会社が提案する「車泊(くるまはく)」。 DXで地方創生を実現する新たな旅のスタイルとは?

コロナ禍でアウトドア産業が盛り上がりを見せるなか、車中泊を楽しむ人は今や75万人(車中泊専門サイト『カーステイ』調べ)にのぼるといわれています。とはいえ、車中泊と聞くとどうしても「仕方なくするもの」というイメージを持つ人は多いはずです。そんななか、車中泊とは一線を画す「車泊(くるまはく)」という新しい旅の形を提案する企業があります。
「車泊」とはどのような宿泊スタイルなのか、「車泊」とデジタル化のかけ算によるDXは地方創生にどのような効果をもたらすのか。今回は、九州周遊観光活性化コンソーシアムの代表として、「車泊」事業を促進するトラストパーク社でソリューション本部次長を務める西岡 誠氏にお話を伺いました。

ざっくりまとめ

- 「車泊」とは、利用者が地域で滞在する選択肢の一つとして「車での寝泊まりを楽しむ」を体験してもらうことを目的としたサービス。

- 「車泊」が可能な「RVパークsmart」は、予約から決済、チェックインまでオンラインで完結。

- 接客などの負担なく「車泊」を導入できることで、事業者は来訪者に対する付加価値の創出や、販促、マーケティングに時間を費やせるようになる。

- トラストパーク社は、今後も「車泊」を一つの文化として根差すべく、さまざまなコンテンツと連携させて事業を促進していく。

「車泊」は旅の新たな選択肢。国とも連携した仕組みづくりを実行

——あえて車中泊とは別の言葉で表現している「車泊」とはどのようなサービスなのでしょうか?

車中泊には「やむを得ずしてする行為」というイメージが強い側面があります。それに対して「車泊」は「車で寝泊まりをして楽しむ」「安らぎの場として自然豊かな地域で過ごす」ということを目的としているサービスです。駐車スペースと電源が使用可能で、本来は宿泊することができない道の駅の駐車場や、日帰り温泉施設の駐車場などに寝泊まりできるのが魅力です。

あまり意識していない方も多いのですが、本来、道の駅などは国土交通省の決まりによって、事故防止のための休憩や仮眠は許可されていますが、宿泊は許可されていません。そんななか、地方の課題や車中泊を可能とするルールを調査・整備して、国の委託業務として地域滞在の仕組みづくりを行ったのが「車泊」です。例えば、阿蘇山の麓にあるリゾート施設の一角という立地で泊まることもできます。旅行というカテゴリーのなかに“あえて”車に泊まるという選択肢を提供している、とイメージしていただければよいかと思います。

——「車泊」は、スペースと電源の提供方法として、完全オンラインで車中泊スペースを提供する「RVパークsmart」として提供していますよね。

はい。「車泊」は、車とITを通じた観光促進事業、RVパークsmartの導入により、無人・非接触運用・キャッシュレスを実現しています。もともとは日本RV協会が「RVパーク」という、キャンピングカーで車中泊をするためのスペースを提供するサービスを行っていました。それをデジタル化して、キャンピングカー以外の車にも安心安全で公明正大な車中泊を行っていただくために、「RVパークsmart」を開発し、「車泊」のサービスとして提供しています。

熊本地震での体験が「車泊」事業のきっかけに

——駐車場事業を主軸とするトラストパーク社が、「車泊」を展開するに至ったきっかけを教えてください。

「本来は泊まることができない地域に車で泊まる」ということを意識するきっかけになったのは、2016年4月に発生した熊本地震です。震災が発生したのは、グループ会社がキャンピングカーの製造販売、貸し出しの事業を開始した矢先のことでした。私自身も、福岡から被災地に支援に向かいましたが、そこで目の当たりにしたのが、避難場所の不足、電気の必要性などです。熊本地震でのキャンピングカーの貸し出しや被災地への支援物資を通じて、車がシェルターとして、道の駅などの公共施設がボランティア団体の支援拠点として活用されていました。

——たしかに、災害時には「車での寝泊まり」が大きな要になることもありそうです。

そうですね。自然災害が多発する日本において、このような「車で過ごす」場所を増やしていくべきではないかと考えています。災害支援や復興、観光振興など、できる限り官民が連携し、官公で手が届かない部分は民間で補っていかなければならないと感じますね。

——実際に「車泊」を利用しているのはどのような方が多いのでしょうか?

ペットと一緒に旅をしたい、という方の利用が多いですね。もともとターゲットとしていたのも、ホテルや旅館の受け皿が少ない、ペットとの旅行を望む方々でした。コロナ禍でペット業界は右肩上がりだと耳にします。実際、「車泊」はコロナ禍で利用者数が急伸しています。「車泊」を利用することで密を避けて旅行したいという方が増えたことだけではなく、ペットを飼い始めてそのペットと一緒に旅行がしたい、いつも一緒に行動したいという方が増えたことも、「車泊」の利用者が増えた要因のように感じますね。

しかし、実際に「車泊」を利用している方々の声を聞くと、我々が予想していなかった意外な需要がありました。自宅に所有するキャンピングカーで「車泊」をすることで、障がいを持つ息子さんが不慣れな場所でも落ち着いて過ごすことができ、行きたい時に旅行に行けるようになったというご夫婦のお話を伺ったことがあります。ホテルなどの場所では精神的に不安定になることが多かったそうです。我々の想定していた部分だけではなく、さまざまな家族に需要があるという発見は目から鱗でした。

デジタル×「車泊」のDXが地方にもたらすメリットとは

——予約から決済、チェックインまでオンラインで完結させたことによって、地方のデジタル化という観点では、どのような手応えがありますか?

まず、今回のデジタル化には、総務省の委託事業である「loTサービス創出支援事業」の一環として、道の駅などの駐車場を「RVパークsmart」で「車泊」をしていただき、利用客の周遊データを収集分析するという目的があります。オンライン完結だからこそ、これまで可視化されていなかった行動データを収集でき、地域振興の次の一手につながるわけです。

利用者体験の側面では、地方ほど多いオンラインに不慣れな方にとっては、利用ハードルが高くなるのではないか、という懸念はもちろんありました。しかし、高齢者の方でもこちらでしっかり誘導してオンラインでの予約や決済が成功すれば、その後の利用率は高くなることが分かりました。また、オンライン完結によって、事業者の業務効率化を図れるのではないかということも当然考えていました。

——人手不足の問題を抱える地方にとっては、業務の効率化は大きなメリットですね。

利用者が予約からチェックインまでをオンラインで完結させることで、現地では「車泊」に関する接客などの対応を行う必要がなくなります。地方では人口減少問題が深刻になっているので、むしろ必然的にこのようなシステムが必要だったといっても過言ではないかもしれません。効率化された時間を利用して販促やマーケティングを行ったり、来訪者のおもてなしを充実させたりすることもできます。そのような時間の使い方を促すことが、利用者の顧客満足度やリピート率の向上につながっていくのではないかと考えています。
——「車泊」によるDXが、結果的に地域振興にもつながってくるのですね。

「車泊」の利用料は基本的に一泊2,000〜3,000円とリーズナブルなので、利用者の方がその地域ならではの食や体験により多くのお金を使ってくれる傾向があります。また、時間と土地を有効活用できたという部分でもメリットが大きかったのではないかと思います。例えば、夜間の道の駅の駐車場などは、これまでは“お金が発生し得なかった場所”です。従来、宿泊できるという価値を提供できていなかった時間や場所に利用者が訪れ、「車泊」の利用料を払ってもらえて利益が生まれるだけでもうれしいという、地方自治体の方々の声を耳にすることもあります。

——「車泊」は利用者側にとってはどのようなメリットが発生するのでしょうか?

先に話したように、価格がリーズナブルなため、地域の食や体験により多くのお金を使うことができるのは大きなメリットではないでしょうか。島原城の敷地のなかで宿泊できるなど“本来は泊まれないところに泊まる”という、ただ泊まるだけではない付加価値がついてくるのも「車泊」の魅力の一つですね。また、地域によってはセキュリティやプライバシーに配慮されている「車泊」スポットもあります。防犯カメラが設置されていたり夜間のゲート制限が行われていたりと、利用者が安心して「車泊」できるような設備も増えています。

また、今後は「車泊」をしている間の“非日常感”をかき消さない工夫を多く施すことで、利用者の方にメリットを強く感じていただけるようにしたいと考えています。例えば、通行人や道路から視覚を遮るための植樹などがある場所や、隣の車とのスペースを十分に保ち、密を避ける設計がされている「車泊」スポットを増やしていきたいと思っています。

トラストパーク社が促進する“二つのDX”

——事業者、利用者、双方にとってメリットが大きい「車泊」ですが、現状の課題などはあるのでしょうか?

どうしても利用が休日に偏ってしまい、平日の稼働率が低い、というのが現状の課題です。これに対しては、現在多くの企業がやり方や方向性を模索しているテレワークやワーケーションに目を向けることで、カバーしていけるのではないかと考えています。Wi-Fiスポットを増やして、「車泊」スペースを、仕事をしつつ合間の時間には非日常を楽しめるような場所としても利用していただけるように進めていきたいですね。このように、ワーケーション、インバウンドなどさまざまなコンテンツと連携させることで、より「車泊」を活性化させることができると考えています。

——地域振興の面で課題になっていることなどはありますか?

その地域ならではの付加価値をどうつくっていくか、という部分が現状の課題としてあげられると思います。我々は「車泊」という事業を通して地域に利用者を送り込みますが、そこからどうおもてなししていくのか、その地域に足を踏み入れたことの付加価値をどう創出していくかは、地域の方次第というのが現状です。地方では地域ならではの体験やサイクルツーリズムなど、さまざまなコンテンツでその地域に人が集まる意味をつくり出そうとしていますが、まだまだ地域資源を活かせていない地域が多いのも事実です。しっかりと「車泊」の周辺にいる方々と連携して地域活性化のサポートをしていくのも、我々のミッションではないかと考えています。

——最後に、トラストパーク社が「車泊」を通して見据える今後の展望について教えてください。

現在、「RVパークsmart」で利用いただける施設は全国50箇所にあります。まずは九州でしっかりと基盤や連携のモデルをつくって全国へ展開していきたいですね。過疎化による人手不足や、地域資源の活用に悩む地域の活性化に貢献するため、全国1,000箇所を目指して事業を進めていきます。「RVパークsmart」の仕組みが全国に波及することで、利用者のデータの見える化を全国規模で行うことができます。こうすることで、また我々の新たな課題やミッションを見つけ出すことも可能だと考えています。

車泊(RVパークsmart)によるDXを、本来の「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」というものだけではなく、「Destination Experience(デスティネイションエクスペリエンス)」という、地域密着型の体験コンテンツという意味でも促進していきたいです。「車で泊まる」という行為を「やむを得ない行為」ではなく、「車泊」という文化として定着させることを目指します。

西岡 誠

トラストパーク株式会社 ソリューション本部 次長
九州周遊観光活性化コンソーシアム 代表

九州全土をキャンピングカーで巡る新しい旅のカタチ「車泊」や旅をするように働けるバケワーク (バケーション+ワーク)を自治体などに提唱。車中泊滞在による地域体験の利用を促進。不稼働時間帯の駐車場などに給電機器と連携したシェアサービスを導入し、車中泊を有償化するルール整備と地域滞在消費を促進する取り組みなどを推進中。

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