プラットフォーマー研究

世界中を旅しながら働く。旅のサブスク「HafH」が目指す、個の自由な働き方を許容する社会

月額2,980円から世界36の国と地域、500超の都市にある約900の施設を自由に利用できる、定額制宿泊サービスの HafH。バックパッカーや旅行者におなじみのゲストハウスはもちろん、ハイエンドなコンセプトホテルからリゾートホテルまで、あらゆる宿泊施設と提携して自由度の高い旅を提供しています。未だ新型コロナウイルスの猛威が収まらぬ中、2021年の8月には有効会員数が2万人を突破。リモートワークの拡大により、フリーランスだけでなく会社員のユーザーも取り込み、今後は移動にまつわる交通費も定額料金に組み込むことを標榜しています。移動する自由が拡大することで、人々の生活はどう変化するのか?HafHを運営する株式会社 KabuK Styleの共同創業者、大瀬良 亮氏にお話を伺いました。

ざっくりまとめ

- HafHは「暮らし」よりも「新しい旅のスタイル」に焦点をあてたサービス。多様な価値観を持つ人々が地域に溶け込むことで、多様な生き方を許容する社会となり、やがてそれが地域の復興にもつながる。

- メインユーザーは30代以下の世代。リモートワークの拡大により40代以上や会社員のユーザーも増加傾向。

- HafHは格安の定額宿泊サービスではない。JR西日本と提携した交通費の割引サービスや、大手リゾートホテルとの提携など、宿泊に移動も含めた「旅のサブスク」として気軽に旅をできる環境を整えていく。

- 個人の自由な働き方を許容する社会のインフラとなるべく、今年は交通費の定額化を目指す。

旅する生活を日常にすることで、多様な価値観を許容できる社会のインフラを目指す

―現在、HafH以外にも定額制の宿泊サービスはいろいろとありますが、それらに対してHafHが差別化を図っている点を教えてください。

まず、定額制サービスの中で比較されることが多いADDressさんとの違いについてですが、ADDressは全国創生をキーワードに各地の空き家問題を解決することが主目的のサービスです。対してHafHはより個人にフォーカスしたサービスです。月1回でも旅をする日常を当たり前にすることで「多様な価値観を多様なまま許容する社会のインフラ」をつくっていきたいと考えています。ADDressは住み放題、暮らし放題の生活を提供していますが、私たちは 「暮らし」よりも「旅」に寄せたサービスを提供しています。現在は、新型コロナウイルスの影響で旅が自由にできない状況ですが、HafHを通じて移動の価値を変えていきたいと考えています。

―個人にフォーカスしたサービスとのことですが、長い視点で見るとそれが社会問題の解決にもつながっていくと思います。そこは意識されていますか?

そうですね。HafHによって多様な価値観、ライフスタイルの人たちが地域に溶け込んで、新しい生き方や暮らし方を築いていくことで地元の人たちの刺激になればと思います。双方がいい刺激を与える関係になれば、それが地域を元気にしていくでしょう。HafHのフィロソフィーを考えるときには「ワーケーション」というキーワードが念頭にありました。働き方のデジタルシフトが進むことで、人はより自由に働く場所を選べる。そうなれば誰もが多様な価値観に触れあって、大きな実りのある1日を過ごせるようになるだろうと。

私の地元である長崎を含め地方の現状を見ると、地方創生と謳いつつもなかなか地元の課題から抜け出せていないように思います。世界中の人々が旅をしながら働くという生き方を選び、その目的地として長崎に来てくれれば、かつての出島のような場所として復活できるんじゃないかという想いがあります。

―出島の復活ですか。

デジタルシフトによって、東京で働かず、地元で働いても新しいビジネスチャンスが得られる時代になりつつあります。約400年前に、オランダからも江戸からも京都からも人が訪れた出島のように、いろいろな人が集まり新しい交流が生まれる。長崎をそんな街にしたいという個人的な想いがあったんです。自分の想いとビジネスのあり方は切り分けて考えていますが、HafHで利用される都道府県ランキングで長崎は東京に次ぐ2位です。観光でも出張でもないのに長崎に多くの人が訪れている。そこで新しい価値観が出会い、学びやビジネスチャンスにつながればいいなと考えています。

リモートワークで密になりすぎた夫婦関係をHafHでリセット

―HafHの利用者層を教えてください。

年齢で分けると30代以下が7割弱を占めています。リモートワークの普及により40代も微増傾向にあり、最新のデータでは30代以下の利用は67%となっています。職業は会社員が51%で、フリーランスが20%。経営者・役員が13%となっています。男女比は男性が53%、女性が47%で、女性が徐々に増えつつあります。

―サービス立ち上げ時に、ユーザー属性はどの程度意識していましたか?

HafHのミッションは、老若男女問わずどんな人でも好きなように暮らせる社会をつくることです。プロダクトの設計思想として「ユニバーサルな社会のプラットフォーム」をつくろうと考えていたので、国籍や文化、宗教、あらゆるものを取り払いスタートしました。といっても、ターゲットをまったく定めていなかったわけではなく、マーケティング上のターゲットとしてはアドレスホッパーに注目していました。家がなくても自由に暮らせる人々ですね。狙いどおり、当初はアドレスホッパーやバックパッカーをしているフリーランスの方々がヘビーユーザーでしたが、コロナ禍によりワーケーション、リモートワークが普及してきたので会社員のユーザーが増えてきました。長引く自宅生活の気分転換として利用いただくユーザーも多くいます。

―自粛生活が長引く中、手軽な旅のニーズにHafHがマッチしたわけですね。

最近の利用動向を見ると、やっぱり皆さんリモート生活が長引く中で、自宅でずっと過ごすことにストレスを感じているようで。HafHを利用して1泊でも外に出てみたらすごく気が楽になった、という声を多くいただいています。旅に出て仕事をする方もいるけれど、気分転換なので本当に何もしないで休むだけという方もいます。長距離移動が憚られる時代なので東京の人が熱海や鎌倉に行くなど、近場の移動が多いですね。

個人的に面白い利用例だと思ったのが、夫婦の適度な距離を保つために、奥さんが月に一度のペースで旅に出るという使い方です。夫婦の場合、互いにリモートワークで自宅にいるとどうしても距離が近すぎるという問題が発生するようで、その気分転換にご利用いただいたとのこと。逆に旦那さんが旅に出る例もあり、それは仲がいいからこそできる自立した夫婦関係ですよね。ポジティブ家出といいますか(笑)。これは地方在住のユーザーさんに多い利用例で、従来の「夫婦はこうあるべきだ」という押しつけに対する、今の若い世代なりの想いが反映されているなと感じます。夫婦の再定義のような動きがにわかに起き始めていて、とても興味深く思います。

気分転換や息抜きのちょっとした宿泊ニーズに対応。今後は大手リゾートホテルとの提携も

―8月1日からは料金プランを一新されましたよね。各プランの価格はどのように決められたのですか?

リニューアル前の「おためしHafH/3,000円(月1泊可能)」、「ちょっとHafH/16,000円(月5泊可能)」、「ときどきHafH/32,000円(月10泊可能)」、「いつもHafH/82,000円(宿泊上限なし)」の4プランについては、最も高額な82,000円は全国の家賃を参考にして高すぎもしなければ、安すぎもしないという価格設定にしていました。それ以外のプランはホテルの原価と照らし合わせて設定したものです。

その中で、最も人気なのが月1泊できる「おためしHafH」でした。HafHは「多拠点居住」や「長期滞在」というイメージを持っていただくこともあるのですが、実際は月1回のちょっとした息抜きでの利用が一番多いんです。そこで、8月から全プランの名称を一新し、価格を若干値下げし、さらに「スタンダード/9,800円(月3泊可能)」プランを追加しました。これは月1泊では物足りず、5泊だと多すぎるという方が、月1万円弱でさらにHafHを楽しんでいただけるよう新設したプランです。

といっても、HafHの目的は格安の宿泊サービスを提供することではなくて、「旅のサブスク」にしていくことで、新しい社会、新しい生活のプラットフォームをつくることです。1月からは全プランに東京海上日動の個人賠償責任保険を付帯させて、HafHを利用した滞在に関わらず、会員の日常生活全般の賠償事故を補償しています。また、現在実施しているキャンペーンを利用すると、JR西日本のチケットが約40%オフで購入でき、格安で移動可能になります。

―40%割引とは大きいですね。

JR西日本と資本業務提携を結び、金沢から白浜、福岡までのJR西日本の指定路線が対象となっています。現在は第2弾の期間ですが、非常に好評で6月までだった予定を9月まで延長しました。また連動企画として、5/21~5/30の10日間、石川の施設で宿泊企画を実施したところ、50人を超える申し込みがあり、計210泊超の利用がありました。参加者は石川以外にも福井、大阪、広島、福岡に立ち寄り、全体の約4割が10泊以上するなど、一定の経済効果を生み出すことができました。

さらに副次効果といえるのがSNSでの発信です。HafHのユーザーは皆さん、SNSが得意なんです。期間中に「#HafH得ワーケーション」で投稿されたツイートの総いいね数は40,000超、総RTは5,000超でした。宿泊客が自主的にホテルのPRをしてくれるので、HafHのインフルエンス力には宿泊業界からもご期待を寄せていただいています。

―リニューアル前から導入されている「HafHコイン(※)」も独自性を際立たせていますよね。
(※)各プランで決められた枚数が配布されたり、各種特典で獲得できたりする HafH独自の通貨のこと。

ホテルの価格は毎日のように変動することが当たり前になっていますが、HafHではその価格差を「HafHコイン」で調整しています。ドミトリー以外の個室に泊まるためには、部屋のグレードに応じた「HafHコイン」が必要になるというイメージです。日々変動するホテル価格に対して、必要な「HafHコイン」数は基本的に変わりません。長期的には、いつ予約すると、どこがいくらになる、といった目の前の費用を気にせず、移動と滞在を選べる社会をつくっていければと思っています。

―リモーワークの普及により会社員や40代以上の利用が増加したとのことでしたが、コロナ禍でニーズにも変化があったのでしょうか?

アドレスホッパーなど旅好きな人がメインユーザーだった頃は、ゲストハウスなどの交流型施設が人気でした。そこに行けば誰かに出会えるような場所ですね。それがコロナ禍では一転して、ドミトリーの利用や交流に対する抵抗が強まり、個室のニーズが高まったので、HafHでも個室に泊まれる拠点の拡大を急ピッチで図りました。旅をすることによるストレス解消や気分転換を求めるニーズはむしろ増加していますね。

―なるほど。それが高級ホテルとの提携の増加にもつながっているわけですね。

現在、リゾート系高級ホテルとの契約を強化中です。特に「ハイアット リージェンシー 瀬良垣アイランド 沖縄」は人気の施設で、予約がなかなか取れないといった声をいただいています。今後は「まさか、あのホテルに泊まれるとは」というような大手ホテルとも提携の話を進めていきます。

社員の働き方を会社が規制するのはNG。個人の自由なワークスタイルを認められる社会へ

―世界各国で多くの宿泊施設と提携されていますが、最初からHafHのビジネスモデルに対する理解はスムーズだったのでしょうか?

最初はかなり苦戦しましたね。宿泊市場で定額が成立するということをなかなか理解してもらえなくて。最近はおかげさまでHafHの知名度も上がってきたことで、ホテル側から参画したいというお問い合わせをいただくことが増えました。特にホテルから喜ばれるのは、HafHのユーザーは観光客と異なり、平日でも普通に宿泊してくれるという点です。大手ホテルは観光客がメインなので、どうしても休日や祝日に多くの人が殺到して、平日は空室が生まれがちです。けれども、HafHのユーザーは平日も休日も変わりなく利用して稼働率を上げてくれる。ホテル業界は横のつながりが強く、そういったHafHの評判はホテルの垣根を越えて広がっていったようです。

―今後、コロナが終息に向かった場合、リモートワークが縮小される可能性がありますが、その点についてはどのように考えていますか?

今まで当たり前に会えていた人と会えなくなったことで、多くの人は対面で会うことの意味や価値の大きさに気づいたと思います。リアルで話をすることの重要性が証明された今、私たちが推進したいのは、「人に会うべきときに会い、会わなくていいときには会わない」という考え方です。子どもの体調がわるいなら無理して出勤せずにリモートワークにしたり、たまに気分転換をしたければワーケーション先から仕事をしたり。この自由を会社が奪ってはならないと考えています。個人が自分の働き方を選ぶことを、会社がどこまで許容できるか。旅先で実際に仕事をしているかどうか見えないからワーケーションを不可にする、といった会社が少なくなるといいなと思います。

―では、最後に今後の展望を教えてください。

ワーケーション市場は拡大しつつある中で、人々の移動を変えるさまざまなチャレンジをしていきたいと思います。HafHは定額の宿泊サービスではなく、「旅のサブスク」として生活のプラットフォームになることを目指しているので、そのためには移動の選択肢を増やす必要があります。今年1番のミッションは、交通費を定額にすること。定額で宿泊+移動ができるサービスを構築し、格安の宿泊チケットや航空券を探す手間を省きたいと考えています。

実は、私たちの本社がある長崎は、上場企業がない唯一の都道府県なんです。LCCを使えば、長崎からは東京よりもアジアに行く方が安い時代です。成長するアジア各国に地理的にも近い長崎には、大きなポテンシャルを感じています。長崎の経済になんらかの貢献をしたいという私個人の夢も実現させたいですね。
大瀬良 亮
株式会社KabuK Style 社長/共同創業者

1983年長崎市生まれ。2007年に筑波大学を卒業後、電通入社。2015年から官邸初のソーシャルメディアスタッフとして従事。2019年4月より定額制宿泊サービス「HafH(ハフ)」のサービスを開始、2019年9月 電通退社。2018年4月〜2021年3月 つくば市まちづくりアドバイザーに就任。2021年4月〜(一社)日本ワーケーション協会顧問。東京に住みながら地元の地方創生活動に従事、原爆の実相を伝える「Nagasaki Archive」発起人として、2010年Yahoo! JAPAN インターネット クリエイティブアワード特別賞受賞他、2011年〜在京長崎県人会「しんかめ」を主宰など。

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