愛知県がんセンターとNEC、AIと実験免疫学の融合によるがん免疫療法を目指す基礎的共同研究を開始

愛知県がんセンターと日本電気株式会社(以下 NEC)は、人工知能(AI)と実験免疫学の融合により、精度の高いがん抗原同定システムの構築と治療選択バイオマーカーの開発を行い、革新的個別化がん免疫療法の臨床応用に繋げることを目的とした基礎的共同研究を開始すると発表した。

本研究では、NECがこれまで取り組んできたAIによる患者一人ひとりの遺伝子変異由来のがん抗原(ネオアンチゲン)予測技術と、愛知県がんセンターの持つT細胞を用いたネオアンチゲンのスクリーニング技術により、ワクチンに使用可能なネオアンチゲンを同定する。また、腫瘍の免疫微小環境の解析データや臨床情報をもとに、AIを活用した治療選択バイオマーカーを開発するという。両者による共同研究の成果により、特に免疫チェックポイント阻害剤(ICI)との併用で治療効果を引き出しうる、有効な革新的個別化がん免疫療法を目指すとのことだ。

■背景

がん免疫療法の中で、免疫抑制解除型の免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の開発は一定の成功を収めたものの、その治療効果は一部の症例に限られている。これまで、遺伝子変異由来のネオアンチゲンに対する免疫応答がICIの効果の鍵を握ることを示唆するデータが報告されてきた。したがって、免疫抑制の解除に加え、ネオアンチゲンに対する免疫応答を増強するがん免疫療法を開発できれば、治療効果を引き上げられる可能性がある。有効ながん免疫療法を実施していく上で重要なことは、①強い免疫応答を引き起こしうる有望なネオアンチゲンの選定と、②ICI、がんワクチン及びその併用治療を含むがん免疫療法の適応症例の適切な選択にあるという。

愛知県がんセンター腫瘍免疫制御トランスレーショナルリサーチ分野は、これまで愛知県がんセンター呼吸器外科、呼吸器内科と共同で、患者検体を用いたトランスレーショナルリサーチを実践してきた。本分野は実験免疫学を専門とし、手術で得られた切除腫瘍等から、患者一人ひとりのがんの免疫微小環境や腫瘍抗原特異的免疫応答の解析を行っている。一方、NECは、AIを活用した創薬分野への応用研究を進めている。がん免疫研究の分野においても、独自のAIによるネオアンチゲン予測システムを開発しており、本システムは世界で高い評価を得て、Parker Institute for Cancer ImmunotherapyおよびCancer Research Institute が設立・運営する国際コンソーシアムTESLA(Tumor neoantigEn SeLection Alliance)に日本企業として初めて参画しているという。

■共同研究の概要

1. ネオアンチゲン予測システムの高精度化
がん患者の腫瘍内のT細胞が認識するがん抗原を、AIによるネオアンチゲン予測技術と実験免疫学的手法を組み合わせて同定する。まず、患者のゲノムシーケンスのデータから、AIを用いて、ネオアンチゲンを予測する。そして、その患者のT細胞を用いて、予測された抗原に対する反応性をスクリーニングすることでネオアンチゲンを同定する。将来的には、得られた質の高いがん抗原データを使用し、より精度の高いネオアンチゲン予測システムの開発を目指す。

2. 腫瘍微小環境の解析と免疫療法の治療選択バイオマーカーの開発
患者一人ひとりにおける腫瘍内の免疫微小環境を包括的に解析する。愛知県がんセンターが保有する臨床情報とゲノムシーケンスで得られる遺伝子変異や遺伝子発現情報、そして上記の実験免疫学的手法で得られたデータ等から、AIを活用して免疫療法の治療選択に有効なバイオマーカーを開発する。
出典元:プレスリリース

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