Today's PICK UP

富士通研究所、顔写真などによる「なりすまし」を防止できる技術を開発

株式会社富士通研究所は、顔画像を用いた認証方式において、印刷した写真やインターネットに公開されている画像などをカメラに提示して他人になりすます不正行為を、一般的なカメラで検知できる顔偽造物判定技術を開発したと発表した。
従来技術では、偽造物特有の特徴を捉えるために近赤外線カメラなどの専用デバイスや、偽造物では再現が困難な顔の向きを左右に振るなどの動きを利用者に要求する対策が取られていた。このため、専用デバイスの追加によるコスト増加や、利用者に追加の操作を強いるために認証に時間がかかるという問題があった。今回、偽造物特有の写り方の違いに基づく偽造特徴抽出技術、取得環境による写り方の変動に対応した偽造物判定技術を開発。本技術により、認証時に撮影される顔画像のみで偽造物による他人へのなりすましを防止できるため、顔認証の利便性を損なわずにセキュリティを強化し、本人認証技術の高度化によるDX(デジタルトランスフォーメーション)への貢献が期待できるという。

■開発の背景

近年、生体情報を用いた認証方式において、センサー部分に触れることなく非接触で本人認証ができる手段として、カメラで撮影した顔画像で認証を行う技術が注目されている。例えば、スマートフォンやパソコンなど個人端末のアクセス管理やテレワーク時の社内システムへのログイン認証に加えて、空港の搭乗ゲートや自治体、病院での本人認証など利用シーンは多岐に渡っている。しかし、顔画像は、SNSなどでインターネット上に公開されている場合も多く、顔写真付きのIDカードなどの紛失により画像が盗まれる場合も考えられるため、指紋や手のひらの静脈など、ほかの生体情報と比較して、他人の情報を容易に利用できてしまうという問題がある。さらに、不正に取得した他人の顔画像をカメラに提示して他人になりすます偽造物攻撃に対する懸念もあるため、カメラに写った顔が本物か偽造物か判定する技術が必要とされている。
出典元:プレスリリース

■課題

スマートフォンの画面やIDカード、紙に印刷された顔画像などは、例えばスマートフォン画面の反射やボケなどによって、その写り方には変動がある。また、本物の顔においても蛍光灯や日光の差し込みなどによる反射や顔の動きによるぶれといった同様の変動の影響により、顔画像のみで本物か偽造物か判定することが困難だった。そのため、近赤外線カメラや被写体とカメラの距離を測る深度カメラなど専用のカメラを用いて偽造物特有の特徴を捉える手法や、偽造物では再現が困難なまばたきや顔の向きを変えるなど顔画像以外に動きの情報を追加することで本人認証を行っている。しかし、これらの手法は、専用カメラ本体のコスト増や、一般的なカメラを使用する際に必要な動き情報の追加作業による利便性低下などの問題があるため、安価な一般的なカメラで、かつ利便性を損なわずになりすまし検知ができる技術の開発が課題となっている。

■開発した技術

今回、一般的なカメラで撮影した顔画像から、写真などによる他人へのなりすましを検知できる技術を開発した。開発した技術の特長は以下のとおりです。

1. 偽造物特有の写り方の違いに基づく偽造特徴抽出技術
カメラに偽造物を提示して取得した画像には、スマートフォンなどの端末画面の反射や平面の偽造物を写すことによる顔の形状の歪みなど偽造物特有の特徴が現れる。このような偽造物特有の特徴と本物の顔との差異を判定可能な数値として表現する偽造特徴抽出技術を開発した。

まず、カメラで取得した顔画像を、反射成分や形状(歪み)成分といった偽造物特有の特徴が現れる様々な成分に分離する。次に、分離した成分ごとに画像処理技術を用いて偽造物特有の特徴を数値化し、各成分の特徴を合成した判定用特徴を生成する。これを用いることで、利用者の操作に基づく情報がなくても偽造物判定が可能になる。
出典元:プレスリリース
2. 取得環境による写り方の変動に対応した偽造物判定技術
従来は、顔画像の取得環境により生じる写り方の変動に対応するために、機械学習を用いて様々な変動を含む顔画像を学習して1つの判定モデルを生成していた。しかし、スマートフォンの画面やIDカードのような偽造物の種類によって、写り方の変動の幅が大きくなるために本物の顔と偽造物との判定境界が複雑になり、最新のDeep Learningに基づく手法でも偽造物判定は困難だった。そこで、オフィスで撮影した顔画像や窓際で撮影した顔画像といったように、類似した変動を持つ顔画像のカテゴリで学習することにより、変動の影響を小さくした判定モデルを生成することで、偽造物を正しく判定可能な技術を開発した。

開発技術の手順は、学習フェーズと判定フェーズに分かれる。学習フェーズでは、あらかじめ様々な環境で取得した顔画像を光の強さや光源の方向などの取得環境に基づき、窓際、逆光、通常といったカテゴリに分類。次に、カテゴリごとに偽造特徴抽出技術で生成した判定用特徴を用いて、機械学習によって本物の顔か偽造物かを判定する判定モデルを構築する。

判定フェーズでは、入力画像の取得環境が学習フェーズのどのカテゴリに近いかを推定するために、まず、入力画像と各カテゴリの類似度を動的に算出する。続いて、入力画像と環境が近いカテゴリの判定モデルの結果が重視されるように、各判定モデルが出力する本物らしさを表すスコアに各カテゴリとの類似度に基づく重みを掛けた値を用いて偽造物か否かを判定する。

これらの技術を用いることで、一般的なカメラで撮影した顔画像の情報のみで偽造物を判定し、なりすまし検知を実現することができる。
出典元:プレスリリース
出典元:プレスリリース

■効果

一般的なオフィス環境やオフィス外でのテレワークを想定した環境などで収集した同社独自の評価データセットにおいて評価を行い、専用のカメラや利用者による所定の動きがなくても従来と同程度の精度で他人へのなりすましを検知できることを確認した。これにより、安価で、かつ、利便性を損なわずに不正アクセスを防ぐことができ、テレワークなど社外からのリモートアクセス時のセキュリティ向上や、本人認証技術の高度化によるDXへの貢献が期待できるとのことだ。

人気記事

AIの思考を人間が助ける。AI領域で人気の職種「プロンプトエンジニア」とは何か

AIの思考を人間が助ける。AI領域で人気の職種「プロンプトエンジニア」とは何か

プロンプトエンジニアという言葉をご存知でしょうか。英語圏では2021年頃から盛り上がりを見せている職種の一つで、中国でも2022年の夏頃からプロンプトエンジニアの講座が人気を呼んでいます。今回は、プロンプトエンジニアとは何か、どうトレーニングすればよいのかについて、日本国内でプロンプトエンジニアの採用と教育を実施している株式会社デジタルレシピ 代表取締役の伊藤 新之介氏に解説していただきました。

ChatGPTを仕事にどう使う? 【「ChatGPTのビジネスにおける活用法と限界」ウェビナーレポート】

ChatGPTを仕事にどう使う? 【「ChatGPTのビジネスにおける活用法と限界」ウェビナーレポート】

知りたいことや聞きたいことをテキストで入力すると、あらゆることについて人間のような文章で回答してくれる対話型AI「ChatGPT」が日本を含め世界中で話題になっています。誰でも無料で利用できるため、「早速使った」という人も多いかもしれません。しかし、とりあえず使ってみたものの「実際に普段の仕事で活用するにはどうすればよいのか」「ChatGPTの普及で何が変わるのか」などの疑問を抱いた方もいるのではないでしょうか。そこで本記事では、国内最大7万人超のAI・データ人材プラットフォームを運営する株式会社SIGNATEが2023年3月7日に開催し、代表取締役社長CEOの齊藤 秀氏が登壇したウェビナー「ChatGPTのビジネスにおける活用法と限界」の内容をもとに、ChatGPTの最前線をレポートします。

中国EV市場を席巻する、三大新興メーカーを徹底分析。脅威の中国EVメーカー最新事情・後編【中国デジタル企業最前線】

中国EV市場を席巻する、三大新興メーカーを徹底分析。脅威の中国EVメーカー最新事情・後編【中国デジタル企業最前線】

中国企業の最新動向から、DXのヒントを探っていく本連載。今回は、ガソリン車に代わるモビリティとして期待が高まるEV(Electric Vehicle=電気自動車)と、その核とも言える自動運転技術で世界をリードする中国の強さに迫ります。前編では「EV先進国」の名を欲しいままにしているその理由を、国の政策や技術の面から探ってきました。後編となる今回は、自動車産業に参入してきた新興メーカー3社を紹介するとともに、日本の立ち位置の考察、中国が抱える課題を話題に進めていきます。

「8割以上の精度で、赤ちゃんが泣く理由が判明」CES2021イノベーションアワード受賞。注目の日本発ベビーテック企業とは

「8割以上の精度で、赤ちゃんが泣く理由が判明」CES2021イノベーションアワード受賞。注目の日本発ベビーテック企業とは

テクノロジーの力で子育てを変えていく。そんなミッションを掲げ、泣き声診断アプリや赤ちゃん向けスマートベッドライトなど、画期的なプロダクトを世に送り出してきたファーストアセント社。「CES2021 Innovation Awards」を受賞するなど、世界的に注目を集めるベビーテック企業である同社の強さの秘密とは。服部 伴之代表にお話を伺いました。

メタバース覇権を握る、最有力候補!? フォートナイトを運営する「Epic Games」 〜海外ユニコーンウォッチ #6〜

メタバース覇権を握る、最有力候補!? フォートナイトを運営する「Epic Games」 〜海外ユニコーンウォッチ #6〜

「ユニコーン企業」――企業価値の評価額が10億ドル以上で設立10年以内の非上場企業を、伝説の一角獣になぞらえてそう呼ぶ。該当する企業は、ユニコーンほどに珍しいという意味だ。かつてはFacebookやTwitterも、そう称されていた。この連載では、そんな海外のユニコーン企業の動向をお届けする。今回は人気オンラインゲーム「フォートナイト」を運営する「Epic Games(エピック ゲームズ)」を紹介する。

【AI×音楽】AI作曲が可能となっても、作曲家の仕事は残る。「FIMMIGRM」が変える音楽の未来<後編>

【AI×音楽】AI作曲が可能となっても、作曲家の仕事は残る。「FIMMIGRM」が変える音楽の未来<後編>

AIによりヒットソングの特徴をふまえたオリジナル楽曲を作成するサービス「FIMMIGRM(フィミグラム)」。AIによる作曲サービスが盛り上がりを見せつつある昨今、音楽プロデューサーとしてYUKIや中島美嘉、Aimerなどのアーティストを手がけてきた玉井健二氏が開発に携わっていることで、大きな話題を呼んでいます。 FIMMIGRMの利用方法は、大量に自動生成された曲から好みの曲をジャンルごとに選択するGENRES(ジャンル)、ワンクリックでAIが曲を生成する ONE-CLICK GENERATE(トラック生成)、ユーザーの自作曲をもとにAIが曲を生成するGENERATE(トラック生成)、AIが生成した曲にプロの編曲家が手を加えるPRO-ARRANGED(プロアレンジ)の4パターン。AIにより専門知識不要で誰もが作曲できるようになる未来が間近に迫った今、音楽業界はどのように変化するのか? 株式会社TMIKと音楽クリエイター集団agehaspringsの代表を務める玉井健二氏にお話を伺いました。

世界のMaaS先進事例7選。鉄道・バス・タクシーなど交通手段を統合したサブスクモデルも!

世界のMaaS先進事例7選。鉄道・バス・タクシーなど交通手段を統合したサブスクモデルも!

国内でMaaS(Mobility as a Service)実証が活発化している。新たな交通社会を見据え、既存の交通サービスの在り方を見直す変革の時期を迎えているのだ。 交通社会は今後どのように変わっていくのか。MaaSの基礎知識について解説した上で、海外のMaaSに関する事例を参照し、その変化の方向性を探っていこう。

【海外レポートから読み解く】2025年、AIはここまで進化する

【海外レポートから読み解く】2025年、AIはここまで進化する

2022年7月に画像生成AI「Midjourney」がリリースされ、その後「Stable Diffusion」などのさまざまな画像生成AIが数多く登場するなど、大きな話題を呼びました。この数ヵ月の間、世界の人々のAIに対する捉え方は大きく変わったのではないでしょうか。 今後AIはどのような進化を遂げていくのか。今回は、国内外のAI事情に詳しい株式会社デジタルレシピ 代表取締役の伊藤 新之介氏に、海外のレポートから読み解くAIの進化について解説していただきました。

メンタルヘルス後進国、日本。DXはメンタルヘルスに貢献できるのか

メンタルヘルス後進国、日本。DXはメンタルヘルスに貢献できるのか

欧米に比べ大きく遅れているといわれる日本のメンタルヘルスを取り巻く環境。事実、欧米ではカウンセリングを受診した経験のある人は52%にも上りますが、日本では6%という低水準。先進国のなかで突出した自殺者数についても、厚生労働省は深刻な状況と受け止めています。 そんななか、β版での運用を終え、2022年7月5日に正式ローンチされた「mentally(メンタリー)」は、日本では敷居の高いメンタルヘルスに関する相談が気軽に行えるアプリ。株式会社Mentally 代表取締役CEOを務める西村 創一朗氏は、自身も過去に双極性障害(※)を乗り越えた経験を持っています。メンタルヘルス市場はDXによりどう変化していくのか。インタビューを通して、日本のメンタルヘルス市場の未来を紐解きます。 ※ 双極性障害:活動的な躁(そう)状態と、無気力なうつ状態を繰り返す障害。

クリエイター支援プラットフォーム「Patreon(パトレオン)」〜海外ユニコーンウォッチ #9〜

クリエイター支援プラットフォーム「Patreon(パトレオン)」〜海外ユニコーンウォッチ #9〜

「ユニコーン企業」ーー企業価値の評価額が10億ドル以上で設立10年以内の非上場企業を、伝説の一角獣になぞらえてそう呼ぶ。該当する企業は、ユニコーンほどに珍しいという意味だ。かつてはFacebookやTwitterも、そう称されていた。この連載では、そんな海外のユニコーン企業の動向をお届けする。今回はクリエイターを支援するプラットフォームサービスを提供する「Patreon(パトレオン)」を紹介する。

「8割以上の精度で、赤ちゃんが泣く理由が判明」CES2021イノベーションアワード受賞。注目の日本発ベビーテック企業とは

「8割以上の精度で、赤ちゃんが泣く理由が判明」CES2021イノベーションアワード受賞。注目の日本発ベビーテック企業とは

テクノロジーの力で子育てを変えていく。そんなミッションを掲げ、泣き声診断アプリや赤ちゃん向けスマートベッドライトなど、画期的なプロダクトを世に送り出してきたファーストアセント社。「CES2021 Innovation Awards」を受賞するなど、世界的に注目を集めるベビーテック企業である同社の強さの秘密とは。服部 伴之代表にお話を伺いました。

AIの思考を人間が助ける。AI領域で人気の職種「プロンプトエンジニア」とは何か

AIの思考を人間が助ける。AI領域で人気の職種「プロンプトエンジニア」とは何か

プロンプトエンジニアという言葉をご存知でしょうか。英語圏では2021年頃から盛り上がりを見せている職種の一つで、中国でも2022年の夏頃からプロンプトエンジニアの講座が人気を呼んでいます。今回は、プロンプトエンジニアとは何か、どうトレーニングすればよいのかについて、日本国内でプロンプトエンジニアの採用と教育を実施している株式会社デジタルレシピ 代表取締役の伊藤 新之介氏に解説していただきました。

世界のMaaS先進事例7選。鉄道・バス・タクシーなど交通手段を統合したサブスクモデルも!

世界のMaaS先進事例7選。鉄道・バス・タクシーなど交通手段を統合したサブスクモデルも!

国内でMaaS(Mobility as a Service)実証が活発化している。新たな交通社会を見据え、既存の交通サービスの在り方を見直す変革の時期を迎えているのだ。 交通社会は今後どのように変わっていくのか。MaaSの基礎知識について解説した上で、海外のMaaSに関する事例を参照し、その変化の方向性を探っていこう。

中国EV市場を席巻する、三大新興メーカーを徹底分析。脅威の中国EVメーカー最新事情・後編【中国デジタル企業最前線】

中国EV市場を席巻する、三大新興メーカーを徹底分析。脅威の中国EVメーカー最新事情・後編【中国デジタル企業最前線】

中国企業の最新動向から、DXのヒントを探っていく本連載。今回は、ガソリン車に代わるモビリティとして期待が高まるEV(Electric Vehicle=電気自動車)と、その核とも言える自動運転技術で世界をリードする中国の強さに迫ります。前編では「EV先進国」の名を欲しいままにしているその理由を、国の政策や技術の面から探ってきました。後編となる今回は、自動車産業に参入してきた新興メーカー3社を紹介するとともに、日本の立ち位置の考察、中国が抱える課題を話題に進めていきます。

Googleやビル・ゲイツも出資する“代替肉”スタートアップ「インポッシブル・フーズ」〜海外ユニコーンウォッチ#2〜

Googleやビル・ゲイツも出資する“代替肉”スタートアップ「インポッシブル・フーズ」〜海外ユニコーンウォッチ#2〜

「ユニコーン企業」ーー企業価値の評価額が10億ドル以上で設立10年以内の非上場企業を、伝説の一角獣になぞらえてそう呼ぶ。該当する企業は、ユニコーンほどに珍しいという意味だ。かつてのfacebookやTwitter、現在ではUberがその代表と言われている。この連載では、そんな海外のユニコーン企業の動向をお届けする。今回は欧米を中心に注目されている「代替肉」を扱う「インポッシブル・フーズ」を紹介する。

コロナ禍でラジオが復権!? 民放ラジオ業界70年の歴史を塗り替えたradiko(ラジコ)の「共存共栄型 DX」とは

コロナ禍でラジオが復権!? 民放ラジオ業界70年の歴史を塗り替えたradiko(ラジコ)の「共存共栄型 DX」とは

Clubhouseをはじめ、新勢力が次々と参入し、拡大を見せる音声コンテンツ市場。その中で、民放開始から70年の歴史に「大変革」を巻き起こしているのが“ラジオ”です。放送エリアの壁を取り払う、リアルタイムでなくても番組を聴けるようにするといった機能で、ラジオをデジタル時代に即したサービスに生まれ変わらせたのは、PCやスマートフォンなどで番組を配信する『radiko(ラジコ)』。今回は、株式会社radiko 代表取締役社長の青木 貴博氏に、現在までのデジタルシフトの歩みと将来の展望について、お話を伺いました。