マイクロソフト、ヘルスケア業界向けクラウド戦略の推進を目指しNuanceを買収へ

Microsoft CorpとNuance Communications, Inc.は、マイクロソフトがNuanceを一株当たり56.00ドルで買収する最終合意に達したと発表した。

これは、4月9日 (金) 時点のNuanceの株価終値に対する23パーセントのプレミアムであり、現金取引ではNuanceの純負債を加味し197億ドルに相当する。Nuanceは、クラウドとAIソフトウェアのリーダー企業であり、数十年にわたり、ヘルスケアとエンタープライズAIにおける実績を積んできた。NuanceのCEO、マーク ベンジャミン(Mark Benjamin)氏は現在のポジションに留まり、マイクロソフトのCloud&AI担当エグゼクティブバイスプレジデント、スコット ガスリー(Scott Guthrie)氏の直属となる。買収は本年中に完了する予定だという。

マイクロソフトは、破壊的変化と新たな市場機会に対応できるよう、顧客とパートナーを支援する業界向けクラウドを提供する取り組みを加速してきた。このような取り組みの1つが、急速に変化するヘルスケア業界のニーズに総合的に対応することを目指し、2020年に発表されたMicrosoft Cloud for Healthcareだ。今回の買収に関する発表は、マイクロソフトの業界向けクラウド戦略の最新のステップに相当するという。

Nuanceは、対話型AIとクラウドをベースとした、ヘルスケアプロバイダー向け医療インテリジェンスのパイオニアであり、大手プロバイダーでもある。Nuanceの製品には、Dragon Ambient eXperience、Dragon Medical One、そして、PowerScribe Oneなどがある。これらは、すべて、Microsoft Azure上で構築された医療関連の音声認識サービスを提供するSaaSだ。Nuanceのソリューションは、EHR(電子カルテ)などのヘルスケアのコアシステムとシームレスに連携し、医療関連文書管理の負担を軽減し、患者体験を向上できるようヘルスケアプロバイダーを支援する。現在、Nuanceのソリューションは、米国の医師の55パーセント以上、放射線技師の75パーセント以上に使用され、米国内の病院の77パーセントで使用されているとのことだ。NuanceのHealthcare Cloud関連収益は、(2020年9月に終わった)同社の会計年度において前年比37パーセント増加したという。

マイクロソフトによるNuanceの買収は、2019年に発表された既存のパートナーシップの成功に基づくものだという。NuanceのソリューションによるMicrosoft Cloud for Healthcareの強化、そして、Nuanceの専門知識とEHRシステムプロバイダーとの関係の活用によって、マイクロソフトは、アンビエント医療インテリジェンスと他のマイクロソフトのクラウドサービスを組み合わせ、ヘルスケアプロバイダーへの支援を向上していく。この買収により、ヘルスケアプロバイダー市場におけるマイクロソフトの獲得可能最大市場規模(TAM)は倍増し、約5,000億ドルとなるという。Nuanceとマイクロソフトは、拡大したパートナーエコシステムでも既存のコミットメントをさらに強化していくと共に、データプライバシー、セキュリティ、コンプライアンスにおいても最高レベルの水準を維持する。

マイクロソフトCEOのサティア ナデラ(Satya Nadella)氏は次のように述べている。「Nuanceは、ヘルスケアの現場にAI機能を提供するというエンタープライズAIの現実的応用分野のパイオニアです。AIは最高優先順位のテクノロジであり、ヘルスケアは最重要の応用分野です。Microsoft Cloud for HealthcareとNuanceの組み合わせにより、パートナーのエコシステムをさらに拡充し、先進的AIソリューションをあらゆるプロフェッショナルに提供することで、意思決定や連携の向上を目指していきます。」

ヘルスケアの領域以外でも、Nuanceは、世界のあらゆる業界の企業に向けてIVR(Interactive Voice Response)、仮想アシスタント、生体認証などに関するAI専門知識と顧客エンゲージメントソリューションを提供している。マイクロソフトのAzure、Teams、Dynamics 365などのクラウドソリューションとこの専門知識を組み合わせることで、次世代の顧客エンゲージメントとセキュリティのソリューションが提供されるという。

NuanceのCEO、マーク ベンジャミン(Mark Benjamin)氏は次のように述べている。「過去3年間にわたり、Nuanceは自社ポートフォリオの合理化によりヘルスケアとエンタープライズAI分野へのフォーカスを強めてきました。先進的な対話型AIへの需要が最も高まっている領域であったからです。この市場機会を獲得するために、当社は、お客様やパートナーが人々と医療をより安価かつ効果的につなぎあわせることができるようにするための適切なプラットフォームを必要としていました。進むべき道がマイクロソフトとの協業であることは明らかでした。マイクロソフトは、大規模なクラウドベースのインテリジェンスサービスを提供しており、テクノロジで世界をより良くしていくという理念も当社と同じくしています。同時に、この組み合わせは、今まで両社を支援してくれた株主に対して確実に価値を提供する機会ともなるでしょう。」

この買収提案は、Nuanceとマイクロソフト両社の取締役会において全会一致で可決された。買収は、Nuance株主の承認、規制当局の認可、その他の慣例的条件が必要であり、本年末までに完了する予定だという。

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