「テレワーク」とはどんな働き方?
「tele=離れた所」と「work=働く」の二つの言葉を組み合わせた造語「テレワーク」とは、ICT(情報通信技術)を利用することで、時間や場所にとらわれず働くスタイルのことです。「リモートワーク」という言葉とほとんど同義ですが、テレワークという言葉の方が長く使われてきました。
日本ではインターネットが始まった1984年に日本電気(現NEC)により、吉祥寺にサテライトオフィスが作られ、「テレワーク」が導入されたのが最初の事例とされています。
このことからも、もともと「テレワーク」には、「オフィスから離れたところで働く」という意味合いが強いということが分かります。
テレワークの種類
最近では、テレワークにも様々なスタイルが生まれています。
総務省の定義では、大きく分けて雇用型と自営型があります。
雇用型テレワーク
まず雇用型について。
ひとつが、「自宅利用型テレワーク」。在宅勤務などとも言われます。オフィスに出社することなく自宅で業務を行うスタイルです。
次に「モバイルワーク」。一日のうちに場所を転々としたり、移動しながら業務処理をするスタイルです。タブレットやスマートフォンの普及、屋外でのインターネット環境の整備などによってこうした働き方も難しく無くなっています。
最後に、「施設利用型テレワーク」。コワーキングスペースや会社で契約するサテライトオフィスなど、オフィスとは異なる場所へ赴き業務をこなすスタイルです。
自営型テレワーク
自営型テレワークとは、個人事業主や小規模事業者等が行うテレワークのスタイルです。SOHOの形で、自宅兼オフィスから独立自営の度合いが高い仕事を行うものや、内職副業型の勤務などもこれに含まれます。
テレワークの普及率
総務省「平成29年通信利用動向調査」(2018)では、日本におけるテレワークの導入率は13.9%。また、テレワーク導入企業のうち在宅勤務の導入率は29.9%、モバイルワークの導入率は56.4%、サテライトオフィスの導入率は12.1%となっていました。
一方、調査元は違いますが、株式会社パーソル総合研究所が2020年5月29日~6月2日に実施したテレワークの実態に関する調査によると、緊急事態宣言が解除された後、正社員のテレワーク実施率は、全国平均で25.7%。7都府県に緊急事態宣言が発出された後の4月中旬は27.9%であり、2.2ポイントの減少がありました。
職種別に見ると、テレワーク実施率は、コンサルタントは74.8%、経営企画は64.3%、商品開発・研究は56.5%と、4月比で10ポイント以上増えていて、その一方、販売職は5.4%、理美容師は2.6%、配送・倉庫管理・物流は6.3%、医療系専門職は3.6%と下がっています。
テレワークを導入する背景
コロナ渦で一気に普及したテレワークですが、その以前から普及しはじめていた理由はどこにあるのでしょうか?あらためてテレワークを導入する背景に立ち返ることで、そのメリットにも光を当ててみます。
労働人口の減少
背景のひとつに労働人口の減少があげられます。この数年採用市場が売り手市場となり、企業にとって人材を確保することが難しくなっていました。そんななかでこれまでフルタイム勤務が難しいために採用を断念していたような人材にも活躍してもらうための手段としてテレワークが導入されていったのです。
「働く場所を気にしない」という企業文化は採用面でもアピールポイントとなります。離職防止という観点でも、労働参加率の向上につながる制度と言えるでしょう。
生産性の向上
通勤に使っていた時間が削減されるなどして時間を有効活用できるテレワークは、生産性を向上させる施策としても注目されてきました。とくにテレワークと切っても切り離せないITツールに自然と習熟することで、業務の効率化が進むのです。
テレワークのデメリットについて
メリットが注目されて導入が進んできたテレワークですが、コロナ渦で緊急処置的に導入した企業においては、デメリットの方が目立つケースもあるようです。
コミュニケーションの量が減る
まず、対面でのコミュニケーション時間が圧倒的に減ることにより組織の一体感や従業員の帰属意識が薄れていくという問題があります。オンラインMTGやビジネスチャットで代替のコミュニケーションが成り立ってはいますが、そうなるとかえってコミュニケーションの質を量でカバーする部分が多く、業務効率化とは逆効果になってしまうこともあるようです。
勤怠管理や労働実態の把握の難しさ
また、特に在宅でテレワークをしている人の場合、仕事のONとOFFの切り替えが難しくなり、ストレスを感じていることも少なくありません。自宅に仕事用のスペースがなく、生活するスペースと共用する形で仕事をしていると、仕事への集中度も低下しかねません。
加えて、自分のペースで仕事ができるため、かえって長時間労働になるリスクも考えられます。その一方でマネージャーたちは、部下の労働実態が把握しずらくなっており、これを未然に防ぐことができません。従業員が過重労働にならないようなマネジメント・評価の仕組み、適した勤怠管理システムの導入が必要となります。
セキュリティ面のリスク
テレワークを推進する際に、合わせて考えなくてはならないのが「情報漏洩リスク」です。企業で管理する紙文書、電子データ、情報システム等の「情報資産」は、基本的に外部の目に触れることはありません。しかし、テレワークを行う場合は、持ち運びが容易なノートパソコン等の端末で利用されます。自宅やカフェのネットワーク環境は、マルウェアなどの感染リスクが高いと言えるでしょう。情報漏えいや情報の消失は、企業の損失につながります。
総務省は、テレワークにおける代表的な脅威と脆弱性の例として、以下のような図を公開しています。参考にして、十分な対策を行いましょう。
労働環境の整備が難しい
もうひとつ大きな問題は、基本的に一般住宅が労働環境として適していないという事実があります。
家の設備
まずひとつに、仕事用の部屋や書斎などを持っている家庭は少なく場所として、居住スペースと執務スペースを併用する必要が生まれます。そのような環境では長時間、PC作業をするには不向きな場合も多いのです。
また、オフィスであれば簡単に利用できたコピー機やスキャナーなどの設備も自分で用意する必要があります。
一部の住宅においては、オンラインMTGなどに適したインターネット回線を敷いていない家庭もあるでしょう。
テレワークに適した環境を用意するには、労働者側に少なくない負担が生じると言えます。
家族と同居している
また、家族と同居していて執務スペースを分けられていない場合、オンラインMTGなどを気兼ねなく行うことができません。特にコロナ渦においては、在宅状態にある家族が多いため、一層の配慮が必要となります。
テレワークの問題点・デメリットを解消する対策
ここまで、テレワークの難しさ、デメリットを論じてきましたが、テレワーク自体は、新しい働き方を推進していくためにも必要な制度です。どのようにすれば、その問題を解消することができるのでしょうか。
コミュニケーションツールやチャットツールの導入
テレワークの普及に合わせ、社内のコミュニケーションツールを見直す動きが加速しています。特に注目されているにが、ビジネスチャットです。一般には「LINE」がチャットアプリとして浸透していますが、チャットはビジネスにおいても使いこなせばとても便利なツールです。プロジェクト単位の議論の場として、電話やメール、web会議などより、優先してチャットを活用する企業も少なくありません。
一方で、初めて導入する企業には、これまでのメールベースのコミュニケーションからの脱却など、ちょっとした変化への適応が必須です。多くのビジネスチャットは無料でで始められるので、プロジェクト単位でお試し利用してみるのも良いでしょう。
勤怠管理ツールの導入/人事制度の改正
遠隔で働く従業員の労務状況をしっかりと管理するために勤怠管理ツールを見直すことも大切です。最低限必要な機能として勤務時間の記録ができることはあたりまえですが、フレックス勤務など柔軟な働き方に対応した設計が必要です。また、従業員がその日にどんな作業をしていたか記録できる機能も不可欠。外勤の営業マンであればGPSなどの活用も考えられます。
セキュリティ対策ソフトの導入
先述した漏洩リスクを鑑み、セキュリティ対策を見直すことも重要です。遠隔であっても従業員の端末を安全に管理できる仕組みだけでなく、従業員に対し漏洩リスクおよび対策に関する講習をしっかりと行わなくてはなりません。
PC用のぞき見防止フィルターの配布などアナログな対策も効果的です。
テレワークにおける環境整備費の支給
セキュリティー対策の一貫として、ネット環境を支給する企業も少なくありません。従業員に対する通信費の負担を無くす狙いもあります。
合わせて、環境整備費といった名目で、働くために必要なコストの一部を会社が支給する動きも出てきています。従来かかっていた交通費などが減った分の余剰を、新たな制度で社員に付与していくケースが多いようです。
サテライトオフィス/シェアオフィスの設置
あらためてサテライトオフィス(サードプレイスオフィス)の設置を検討する企業もあります。在宅勤務で問題とされる、オンオフの切り替えの難しさなどの解消にもつながります。
サードプレイスとは、自宅や職場でもなく、個人として心地よくくつろぐことができる第3の居場所を指します。サードプレイスオフィスは、従業員が外出先でオフィス同様の環境のもと快適に働ける補助的なワークプレイスのことを指します。
具体的には、会社として複数のシェアオフィスを契約したり、従業員が特定のコワーキングスペースに自由に出入りできるようなサービスに加入したりすることで、テレワークの大きなメリットである、通勤時間の削減を実現しつつ、従業員に快適な働く環境を提供しているのです。
ちなみに東京都では、サテライトオフィスの設置に関して補助事業も行っており、コロナ対策として3密を避けるためにも有効な手法と目されています。
まとめ
現在は、デメリットも多いとされるテレワークですが、労働者の多様性を助けると同時に生産性を向上させる取り組みとしても多いに期待されています。企業として導入をする際は、きちんとデメリットを把握して適切な対策を行うことが重要です。