モビリティ・アズ・ア・サービスとは?メリットや世界の現状を紹介

モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)は、情報通信技術を使って移動を効率化することを意味しますが、都市の渋滞解消や地方交通の再構築、環境問題対策の一環として導入が期待されています。そんなMaaSを推進するメリットや世界の現状を紹介します。

MaaS(マース)という言葉を聞いたことがないでしょうか? 「Mobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)」の頭文字を取った略語ですが、「サービスとしての移動」と訳されています。2016年にフィンランドで実証実験がはじまった概念で、最先端の情報通信技術を使って移動を効率化することを目指したものです。日本でも都市の渋滞解消や地方交通の再構築、環境問題対策の一環として、MaaSを推進するべく活発な議論が行われています。そこで、モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)とは、いったいどんなものなのか? 導入するメリットや世界の現状とともに解説します。

モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)とは?

モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)は、2016年にフィンランドで実証実験がはじまった概念で、「サービスとしての移動」と日本語には訳されます。現在、電車やバス、飛行機など自家用車以外の複数の交通機関を使って移動する場合に、ひとつひとつ時刻表を辿って行程を導き出さなくても、ルート検索を使えば、一発で目的地までの移動方法や所要時間を調べることができます。

ただ、予約やチケット購入に関しては、それぞれの事業者ごとに窓口やネットで行う必要があり、非効率だと言えます。そこで情報通信技術を活用し、ルート検索から予約、そして支払いまでをワンストップで提供することで、利便性や移動の効率を高め、ひいては都市部で発生する交通渋滞、排気ガスによる環境問題、衰退する地方交通の再構築といった現代社会が抱える諸問題まで解決しようとするのが、モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)の考え方です。

また、MaaSを実現するためには情報を伝達するデジタルインフラの整備にはじまり、鉄道やバスの運行情報、タクシーの位置情報、道路の渋滞情報など膨大なデータをオープン化しながら、連携させる必要があります。さらにユーザーの移動経路や改札の通過履歴、支払い情報といった個人情報の取得と活用、自動運転やコンパクトモビリティなど移動モービルのイノベーション、効率的な移動手段を分析・最適化するAIの活用など、さまざまな分野の最先端技術を駆使する必要があると考えられています。

日本でも都市部の慢性的な渋滞、地方での人口減少による公共交通機関の赤字・撤退、タクシーやバスのドライバー不足、自動車に変わる新たな産業の創出など、さまざまな社会問題が叫ばれる中、政府を中心にMaaSの促進に積極的な姿勢を見せており、自動車産業、公共交通機関、地方自治体、官公庁が一体なった実証実験が各地で行われています。

モビリティ・アズ・ア・サービスを導入するメリット

日本政府も未来の成長戦略の一環として、推進に積極的なモビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)ですが、具体的にどんなメリットがあるのか、さらに詳しく見ていきましょう。

渋滞問題を解消できる

モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)は情報通信技術(ICT)を最大限に活用して、電車やバス、タクシー、シェアバイクなどあらゆる公共交通機関を効率化するものです。タクシーやバスの位置情報も活用するため、渋滞も必然的に解消され、待ち時間や余計な移動がなくなっていきます。また、場所によっては自家用車を利用する必要はなくなり、結果として自動車利用者が減ると考えられています。

環境問題を抑えられる

モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)によって移動を最適化すると、最短ルートを提案してくれるのはもちろん、移動する人の数と交通機関の台数も整理されていきます。渋滞も解消されるため、アイドリングによる排気ガスも減少します。また公共交通機関の利便性が飛躍的に高まることで、自家用車を利用するメリットが低下します。車を共有して利用するカーシェアリングや相乗りで移動するライドシェアといったサービスも活用され、自動車の台数が減少することで、結果的に環境問題が抑えられると考えられています。

交通費の支払いが便利になる

モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)は、電車やバス、タクシーといった都市交通を再編するために考案された都市計画に関するアイディアではありません。スマホのアプリなどを活用し、最適な移動手段やルートの検索にはじまり、予約や決済もパッケージ化することを目指します。そのため移動手段を変えるたびに交通費を支払う必要がなくなり、利便性が高まります。

家計の支出を抑えられる

自家用車は好きなときに移動に使え、利便性が高い一方で維持するためにはコストがかかります。車両代、駐車場代、ガソリン代、保険料、メンテナンス費など、公共交通機関を利用する場合と比べると、家計の支出も大きくなります。モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)によって自家用車を持つ必要がなくなれば、費用を抑えた移動が可能になるだけではなく、最短時間での移動も提案してくれるため、移動時間の効率も高まります。

地方での生活も便利になる

現在、都市では通勤ラッシュ時の混雑や、道路の渋滞が問題となっていますが、地方では人口の減少やドライバーの不足による交通サービスの縮小が深刻化しています。採算が取れずに撤退する事業者や路線の廃止も珍しくありません。自家用車での移動も高齢者にとってはハードルが高くなりつつあります。モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)が導入され、電車やバス、タクシーの配車、バイクシェアリングなどを活用した移動の最適化が進めば、自家用車での移動もなくなり、地方での生活も便利になると考えられています。

日本がモビリティ・アズ・ア・サービスを導入する際の課題

都市はもちろん、地方でもモビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)に期待する声があがる一方、日本で本格的に導入するためには、議論すべき課題が残されています。続いては、そんな課題について考えてみましょう。

関連記事はコチラ

事業者同士の連携を図る

現在、都市に限らずほとんどの交通機関は民営化されています。それぞれが主体的に事業を行っているわけですが、移動を最適化するためには、企業や関連業者が各自の利害を超えてシームレスに連携する必要があります。とくに時刻表や運行経路、運行状況、運賃といったデータのやりとりが欠かせません。そのため共通のプラットフォームを作成したり、運用のルールを取り決める必要があります。国土交通省を中心に整備が進められていますが、よりスピーディな仕組み作りが求められます。

モビリティ・アズ・ア・サービスに適したインフラを整備する

バスや電車、地下鉄、タクシーなど、現在構築されている交通インフラは都市や地域によって大きく異なります。大都市なら複数の交通網が張り巡らされていますが、地方では自家用車を中心として道路などのインフラが整備されているところもあります。モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)では、単に現在ある公共交通機関を連携させるだけではなく、より効率良く移動できるようインフラ自体を整備する必要があります。中心地から住宅街、都市と都市の交通網、あるいは地域同士の移動も考慮する必要があり、どんな交通インフラに再構築するのか、議論が必要になります。さらに、自動運転やパーソナル・モビリティなど新たなテクノロジーも導入されるため、既存の交通網に組み込み、どのように連携させるのか、システム面の整備も欠かせません。

新たな輸送サービスの開発

移動を効率化させるためには、バスや電車、地下鉄といった従来の大型輸送サービスに加え、ドライバーの不足が叫ばれるタクシーと連携するような新たな輸送サービスの開発も必要となります。たとえば、自動運転で1〜2人を運べる小回りが効くパーソナルモビリティや、空港から市街地まで、あるいは山間部に短時間で移動できるドローン型の乗り物も導入が求められるでしょう。

多様な支払いシステムの整備

現在、交通機関での支払いには現金、電子マネー、スマホ決済、クレジットカード決済など、さまざまな支払い方法が選択できます。利用者が選択できるという点では良いのですが、モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)では事業者を超えた横断的な支払いが多くなるため、高齢者や子どもまで、すべてのユーザーが支払いに迷うことなく、利用できる決済の仕組みを作ることも大切です。現金でのやり取りより、キャッシュレス決済が事業者に分配しやすいため、いま以上にキャッシュレスの推進も重要になると想定されます。

世界のモビリティ・アズ・ア・サービスの現状

モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)に関心を持っているのは日本だけではありません。世界中で都市や地方が抱える移動の問題や環境問題を解消するため、実証実験や導入をめぐる議論が進められています。世界の現状を簡単にご紹介します。

フィンランド

モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)の実証実験を世界に先駆けて2016年にスタートさせたのが、北欧のフィンランドです。現在もMaaS先進国として世界から注目されていますが、首都ヘルシンキに本社機能を置くMaaS Global社が開発したMaaS アプリ「Whim」の利用もはじまっています。ヘルシンキ市内と隣接する都市を結ぶ公共交通機関はタクシーやシェアサイクルを除き、ヘルシンキ市交通局がすべて管理しています。交通費も電車やバスなど、どの交通手段を使っても同一料金に統一されており、利用する期間や地域によって値段が分かれる仕組みになっています。

関連記事はコチラ

イギリス

イギリスでは運輸省が中心となり、2018年に将来のモビリティ戦略として自家用車中心の移動から公共交通を使った移動への転換を図るプロジェクトとしてMaaSを位置づけています。また、イギリスは鉄道より地方バスによる移動が3 倍で、公共交通に限れば60%以上がバスによるものです。そのため、2017年にはバスサービス法において、ロンドンを除いたすべての地方バスの運営者に対し、オープンデータの提供を要求する規則の制定を提案しています。そのほかウェストミッドランド地方でMaaS Global 社のアプリ「Whim」のサービス提供がはじまっています。

ドイツ

ドイツでは自動車メーカのダイムラー社と鉄道事業者のDeutsche Bahn(ドイツ鉄道)がMaaS事業に力を入れています。前者は子会社のmoovel Group GmbHがmoovel(ムーベル)というMaaSアプリを提供しており、移動手段の検索はもちろん、公共交通機関のチケット予約や決済のほか、カーシェアリングやレンタルバイクの予約や支払いも可能です。さらに、同アプリではリアルタイムで交通状況を把握する機能を搭載しているため、渋滞や遅延を避けて移動する手段を検索することもできます。

また、ドイツ鉄道は2009年にDB NavigatorというMaaSアプリをリリースしました。この青売りではドイツ鉄道の予約・決済はもちろん、同社のグループが運営するカーシェアリングやレンタサイクルの予約や決済も可能でした。ただ、ドイツでは隣接国々への移動も多く、陸路だけではなく空路を利用する旅行者も多いため、2013年に国境をまたいだ移動にも対応した新しいMaaSアプリのQixxit(キクシット)をリリースしています。

日本におけるモビリティ・アズ・ア・サービスの現状

日本でも2017年ごろから民間が主導する実証実験が次々に立ち上がり、日本版MaaSの早期実現に乗り出しています。その一例を紹介しましょう。

小田急グループ

小田急グループはMaaS導入の課題と言われる事業者同士の連携に対応するため、ヴァル研究所とオープン共通データ基盤の「MaaS Japan」の開発に着手しました。これを活用する形で2019年10月には複合経路検索機能や電子チケットの発行機能を搭載したMaaSアプリ「EMot(エモット)」をリリースしています。EMotはその後も順次サービスが拡大しており、デジタルチケットの譲渡機能やAIを活用した周遊プランニングの実装も進めらえています。

トヨタ自動車

トヨタ自動車は2018年1月にラスベガスで開催された2018 International CESにて、移動や物流、物販など多目的に活用できるMaaS専用の次世代電気自動車を発表しています。自動運転システムも搭載した小型のビークルで、複数の事業者が1台の車両を相互に利用したり、サイズの異なる車両を効率的に運用することで、移動の最適化を目指すものです。

また、2018年11月には西日本鉄道と共同で、MaaSアプリ「my route(マイルート)」の実証実験に着手しています。福岡県福岡市での実験を皮切りに、北九州市、熊本県水俣市、神奈川県横浜市など、エリアを広げながら、検証が続いています。

そのほか、ソフトバンクと共同で自動運転車とMaaSを融合させたAutono-MaaS事業を手がけるMONET Technologiesも設立しています。同社では企業や自治体によるMaaSの実現を支援するプラットフォームやMaaS向けの車両やキットを提供するサービスに取り組んでいます。

JR東日本

JR東日本ではグループの経営ビジョンをまとめた「変革2027」において、移動に必要な情報の収集や乗車券の購入、そして決済をオールインワンで提供する「モビリティ・リンケージ・プラットフォーム」の開発を進めていることを明らかにしています。そして2020年1月には都市型MaaSアプリ「Ringo Pass」を公開し、実証実験をスタートさせました。都内のタクシー会社やドコモのバイクシェアと協力した大規模な実証実験でSuicaのID番号とクレジットカード情報をアプリに登録することでタクシーやシェアサイクルとのスムーズな連携を目指しています。

モビリティ・アズ・ア・サービスをよく理解しておこう

モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)は、情報通信技術を使って移動を効率化するアイディアですが、都市の渋滞解消や地方交通の再構築、環境問題対策など、さまざまな導入メリットが叫ばれています。そのため、日本でも各地で実証実験がスタートしています。われわれの生活をより便利に、豊かにしてくれる新しいプロジェクトの概要を学んでおいて損はありません。

関連記事はコチラ

Article Tags

カテゴリ

Special Features

連載特集
See More