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MaaSを導入している台湾の現状とは?海外の事例を知っておこう

フィンランドではじまったMaaSは、世界中に波及し、台湾でも導入が進められています。どんな形で台湾ではMaaSが導入されたのでしょうか? 日本版MaaSの議論を進める上でも、他国の事例を研究しておくことは有益です。台湾版MaaSの実情を紹介します。
フィンランドではじまったMaaSの実証実験は、世界中に波及しています。ICTを活用し、移動を最大限に効率化することによって、交通渋滞の解消や排気ガス削減による環境問題対策、さらに交通難エリアの解消など、さまざまな副産物があるからです。日本でも各地で実証実験が行われていますが、台湾南部に位置する第三の都市・高雄市でも導入に向けた本格的な動きが見られます。なぜ、高雄市はMaaSの導入を検討しているのでしょうか? 現状はどこまで進んでいるのでしょうか? 日本版MaaSの議論を進める上でも、他国の事例は気になるところです。高雄市ではじまった台湾版MaaSの実情を紹介します。

そもそもMaaSとは?

MaaSはMobility as a Service(モビリティ・アズ・ア・サービス)の頭文字を取った略語で、「サービスとしての移動」と訳されています。自家用車以外の手段を使って、どこかに移動する場合、どんなルートで、どの交通手段を使って目的地まで辿り着くかは、時刻表や地図を見ながら自ら探すか、アプリを使ってルートを案内してもらうといった方法が一般的です。ルートが決めたら、各交通機関のウェブサイトやアプリを使ってチケットの予約・決済をします。

一方でMaaSは移動することをサービスの一環だと捉え、徹底的に効率化を目指します。アプリを使うことで、鉄道や地下鉄、バス、タクシーに加え、シェアサイクル、レンタカーなどあらゆる移動手段や時刻表を考慮して、もっとも効率的な移動ルートを考案してくれます。さらに、検索結果からそのままチケット予約や決済もシームレスで利用者に提供してくれるのが、MaaSです。最終的には都市計画に組み込むことで、交通網の再構築や新しい移動手段の開発も行い、都市部で発生している交通渋滞の緩和、自動車の削減や電気自動車の導入による排気ガスの低減、衰退する地方交通の再興など、現代社会が抱える諸問題まで解決しようとする考え方です。

MaaSが実現するまでの5つのレベル

実現すれば飛躍的に移動の効率がアップするMaaSですが、公共交通にはさまざまな事業者が参入しています。また、飛行機、鉄道、バス、タクシー、シェアサイクルなど、あらゆる移動サービスをシームレスにつなぐ必要があり、利用しやすいようひとつに統合するには多くの障壁があります。そんななか、スウェーデンにあるチャルマース工科大学の研究者が、MaaSの実現に向けた統合レベルを0〜4に分類し、公表しています。

レベル0

MaaSに向けた統合が、まったく進んでいない初期の段階がレベル0です。鉄道やタクシー、バスなど、それぞれの事業者が独立し、独自のサービスを提供している状況を指します。目的地までの経路検索や時刻表検索も、事業者をまたぐような横断的な検索はできず、自社の路線内での乗り換えや案内に限られます。また、料金の支払いもそれぞれの事業者に対して行うため、乗り換えるごとにチケットを購入したり、予約も各自のウェブサイトやサービス窓口を通じて行うことになります。

レベル1

レベル1ではMaaSに一歩進み、情報が統合された状態を指します。たとえば複数の交通事業者の運行情報や運賃に関する情報が統合され、それをひとつのアプリで検索することが可能となります。たとえば、乗り換え案内サービスやマップアプリによる経路案内がこれに当たります。出発地と目的地を入力すれば、最適なルートが複数提案され、それぞれの料金や所要時間も確認することができる状態です。現状の日本は、このレベル1です。

レベル2

レベル2は「予約・決済の統合」です。情報が統合され、複数の交通事業者を使ったルート検索が実現するレベル1から進み、予約と決済までが、ひとつのプラットフォームで完結する状態になります。現在の日本でもSuicaやPASMOといった交通系ICカードを利用すると、JR線や私鉄線、バスやタクシーなど異なる事業者での支払いが可能ですが、ルート検索との連携が不十分だったり、交通系ICカードでの支払いに対応していないレンタカーやシェアサイクルといった交通手段もあり、予約・決済が完全に統合されているとは言えず、レベル2ではないと捉える意見が多く見られます。

レベル3

続くレベル3は、「サービス提供の統合」になります。事業者同士が連携を取ることで、複数の交通機関を使って目的地まで移動したとしても、料金が統一されていたり、あるいは定額の乗り放題サービスが利用できるプラットフォームが整備されるなど、利用者が複数の事業者が存在していることを意識することなく、まるでひとつの交通機関を利用しているかのようなサービスを利用できる段階のことを指します。Whimが普及しつつあるフィンランドが、この段階にあると言われています。

レベル4

MaaSの最終到達点は、事業者のレベルを超えて、国や自治体が都市計画や政策にMaaSの概念を組み込むことによって、渋滞解消、地球環境の保護、高齢者や過疎地での移動改善など、さまざまな社会問題の解決に向かうことにあります。いち事業者の企業努力だけでは実現不可能で、場合によっては法律や社会システムの変更も必要となります。

日本はMaaSレベル0~1程度

日本のMaaSレベルは0ないし1程度だと考えられています。情報が統合され、都市部を中心に目的地までのルートをアプリで検索すると、複数の交通機関を使った経路が提案されます。ただ、シェアサイクルやレンタカーといった移動手段はこの検索から抜け落ちているため、十分だとは言い難く、レベル0だという指摘もあります。また、都市部では自家用車を所有する人は減少傾向にあり、必要なときにカーシェアリングを活用する人も増えています。移動する場所によっては、カーシェアリングを選択したほうが効率的な場合もあり、こうしたサービスとの連携も課題です。

台湾の高雄市における交通政策の現状

台湾南部に位置する第三の都市・高雄市では、2017年からMaaSをめぐる調査がスタートしています。なぜ、高雄市はMaaSの導入に関心を示したのか? 高雄市の交通政策について解説します。

高雄市の概要

高雄市は台湾の南部に位置する都市で、人口は合併した周辺地域も合わせて約277万人です。成田空港や関西国際空港から直行便も出ているほか、台北から新幹線や鉄道でアクセスすることもできます。台湾を代表する貿易港があり、台北に継ぐ、台湾第2の経済圏となっています。市内を走るバスや鉄道、地下鉄、LRT(架線のない路面電車)など交通機関では「iPass(一卡通)」というICカードで決済ができます。

高雄市は交通政策が発展している

高雄市の交通政策は日本よりも発展している面があります。たとえば、バスの運行データや乗客データが積極的に活用され、ユニバーサルデザインにもとづいた架線がないLRT(路面電車)や自動運転のバスも走行しているエリアもあります。また、自転車などのスローモビリティ専用のレーンも完備しています。最近、日本でも普及しつつあるシェアサイクルも街のあちこちに配備され、多くの利用者を獲得しています。

高雄市のMaaSに対する考え方とは?

高雄市の交通局の担当者は、「高雄市が考えるMaaSは、利用者に多様な交通手段を組み合わせたルート、料金、決済、最適化された情報を携帯端末アプリで統合させた交通サービスで、インテグレーションプラットフォームだと考えている」と語っています。バイクの利用率が非常に高く、とくに若者の交通事故が深刻な社会問題になっていたと言います。加えて、渋滞や大気汚染に対する対策も必要で、MaaSによって公共交通やシェアサービスを統合させて、バイクやクルマなどを所有することと同等のドア to ドアのサービスを提供して、市民がバイクやクルマから公共交通へ転換することを目指していると発言しています。

台湾の高雄市でMaaS導入が必要とされる背景

では、どうして高雄市はMaaSの導入が必要だと判断したのでしょうか? 同市が抱えていた問題点をもう少し詳しく見ていきましょう。

バイクによる交通死亡事故が多い

高雄市は他の多くの都市と同様に、長らくクルマ中心の都市設計が続いていました。交通事故の増加や慢性的な渋滞、そして排気ガスによる環境問題が深刻度を増したことで、人間中心の都市設計への見直しの機運が高まります。MaaSの導入がはじまる以前の高雄市の公共交通の利用率は10%程度。代わりにバイクの利用率が非常に高く、とくに若者の交通事故が深刻な問題になっていたと言います。2011年には1年間に251人が交通事故で亡くなり、そのうち80%以上はバイクによる事故だったそうです。

渋滞が問題視されている

公共交通の利用率が10%程度で、主な移動手段はバイクです。そのためとくに朝夕の通勤・通学のピークタイムの交通渋滞が問題視されていました。これが人々の自由な移動を妨げている考えられており、2017年12月から3ヶ月間の限定ですが、公共交通の料金を無料にして、市民が公共交通を使うよう促す大規模な社会実験も行われています。

環境汚染が深刻化している

バイクが市民のメインの移動手段になっており、渋滞も頻繁に発生するため、排気ガスによる環境汚染が深刻化しています。同市は早急な対策を求められています。

高齢者の移動手段の確保が求められている

バイクやマイカーによる移動は高齢者の移動手段してとくに適していません。高齢者になると判断力や運動神経に衰えが見られるようになり、日本でも高齢者が運転する車による事故が目立ち、社会問題になっています。高雄市でも今後、高齢化に備え、安全に移動できる手段を整えておく必要があります。

台湾の高雄市で始まったMaaSアプリ「Men-GO」とは?

MaaSでは、ルート検索からチケットの予約・決済までシームレスに利用できるアプリが活用されますが、高雄市では2018年10月から「Men-GO(メンゴー)」と呼ばれるMaaSアプリが提供されています。どんな機能を持ったアプリなのか、解説します。

「Men-GO」の概要

「Men-GO」では電車やLRT、バスといった公共交通機関に加え、タクシーやレンタルサイクル、フェリー、自転車シェアリングと市内で利用できる、さまざまな交通手段と連携が取れており、ルート検索が可能です。また、従来からあるICカードのiPassと併用することで、乗り放題チケットを「Men-GO」から購入して、iPassで改札を通過するといった使い方もできます。

お得な料金設定が人気の秘訣

「Men-GO」は、4つの定額料金プランがあり、どの交通機関を主に利用するかでプランを選びます。中でも注目されるのが、「無限暢遊方案」というプランで、これは地下鉄(MRT)やLRT(路面電車)、市街地を走るバスが乗り放題になります。さらにシェアサイクルは指定の場所から借りるタイプなら30分間無料(MRTから乗り継ぐと60分無料)で利用でき、フェリーは月4回まで無料、タクシーは600台湾ドル相当のポイントが利用できる仕組みになっています。そのほか、市街地のバスだけ乗り放題のプランやフェリーが乗り放題のプラン、そして市街地バスと長距離バスが乗り放題になるプランがあります。

台湾のMaaSアプリ「Men-GO」の成果

MaaSアプリの「Men-GO」を導入したことで、どのような成果があったのか? 高雄市では検証も進めています。その一部をご紹介します。

ユーザーの行動特性を把握できるようになった

交通機関から得られるデータはもちろん、MaaSアプリのユーザーの履歴やiPassの利用データなど多くのデータを分析することで、ユーザーの行動特性を把握できるようになりました。それによると、MRTとバスの乗継ぎが多いことがわかっているほか、タクシーはラストワンマイルに使用される傾向にあると言います。こうした詳細なデータは今後のMaaSサービスの仕組みを考える上で貴重な判断材料になります。

ユーザーの移動費削減や交通事業者の収益拡大が見られた

「Men-GO」の導入前後の利用者の月額交通費や、事業者の収益を分析したデータによると、定額プランを採用したMen-GOによって、ユーザーの移動費が減っていることがわかっています。一方で交通事業者の収益は減少するのではなく、拡大しているため、MaaSによってユーザーの移動費が減り、交通事業者の収益は拡大するというWin-Winな関係が構築できていることを示しています。

市民の行動パターンは大きく変化が見られなかった

一方でバイクによる死亡事故は減少したような印象があるものの、それを明確なデータは出ていないと関係者は語っています。そのためMen-GOの登場により、市民の行動パターンが大きく変化したとは言えない状況です。

日本では法律の制定やインフラの整備が課題

台湾の高雄市が実践しているMaaSの事例を見てきましたが、日本で同様のプロジェクトを動かすためには、いくつか課題があります。ひとつはデータの共有です。タクシーの位置情報、自動車の走行データ、鉄道やバスの運行情報、高速道路の交通状況、あるいはユーザーの乗り換え案内の検索履歴データなど、移動や交通に関わるビッグデータはそれぞれの事業者が保有し、オープン化されていないのが現状です。MaaSでは、それぞれをシームレスにつなぎ、サービスとして提供するため、形式を統一したデータを集約する枠組みが欠かせません。

また、日本では公共交通機関の運賃を自由に事業者が決めることができず、運賃や料金の設定と変更には、国土交通大臣の認可と届出が必要なため、こうした法律を変える必要もあります。従来の交通機関を連携させるだけなら、非効率になるケースもあるため、インフラの整備も視野に入れる必要があります。とくに日本では過疎地域の交通も社会問題となっているため、地域が抱える課題に応じたサービスを考える必要があります。

台湾におけるMaaSの現状を知っておこう

MaaSは歴史の浅い、新しい試みです。また、国や地域によって交通網や抱える社会問題は異なります。そのため、どこに問題があるのか、トライアンドエラーを重ねながら、制度設計を行っていくことが求められます。日本ではまだ実証実験の段階ですが、台湾の先行事例から学ぶことはたくさんあるでしょう。日本版MaaSを成功させるためにも、台湾におけるMaaSの現状を知っておくことは、とても意味があります。

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