日本の労働生産性はOECD加盟国の34か国のうち21番目で、先進国の中では最低水準だと言われています。確かに長時間労働が良しとされる文化があり、定時ですぐに帰宅する人はほとんどいません。また、有給消化率も低く、効率的な働き方への意識は世界と比べて、低いかもしれません。ただ、そんな働き方も変わりつつあります。少子高齢化の影響で労働力の中心である生産年齢人口(15歳から64歳まで)が減少し、人手不足への懸念が高まっていることも背景です。現在の日本の総人口は1億2577万人(令和2年11月1日現在)で、2008年の1億2808万人をピークに減少に転じており、2048年に1億人を割り込むと予想されています。さらに2060年には国民のおよそ2.5人に1人が65歳以上の高齢者になるという予想もあります。
従業員一人当たりの労働生産性を向上させることで、少ない人材で仕事が回るよう、さまざまな取り組みがはじまっています。そのひとつとして注目されているのが、RPAです。RPAはソフトウェア型ロボットを使って、事務作業のルーティンワークを自動処理するものです。これまでは人と時間をかけて処理していた作業をロボットが代行することによって、限られた人材で業務ができるというわけです。また、同じくコンピュータの操作を自動化するツールとして、Excelマクロというものがあります。両者にはどんな違いあるのでしょうか? RPAやExcelマクロの特徴を解説しながら、それぞれどんな業務の処理に向いているのか、説明することにします。
RPAとはどのようなツール?
RPAはRobotic Process Automation(ロボティックプロセスオートメーション)の略で、「ロボットによる業務の自動化」を意味します。ホワイトカラーの事務作業は長らく人の力に頼っていましたが、労働者人口の減少や残業の廃止など働き方改革が推奨される中で、不足する人材を補う手段としてソフトウェアを使って、自動化しようという発想が広がりました。それがRPAです。RPAではサーバーやデスクトップに専用の自動化ツールをインストールし、人が行なっているオフィス業務の手順をソフトウェア型ロボットに覚えさせることで、自動的に実行させます。そのため「デジタルレイバー(Digital Labor)」や「仮想知的労働者」とも呼ばれることもあります。ミスなく大量の処理を行うことができ、人件費の削減や業務の効率化が期待できます。
RPAを導入するメリット
RPAを導入することによって、時間を割いて行なっていたパソコンでの雑用を減らすことができるようになります。人手不足が叫ばれるなか、より生産的な作業に人員を配置することができ、従業員も単純作業から解放されるというメリットがあります。
事務作業を自動化してくれる
RPAでは、シナリオと呼ばれる作業手順をロボットに記憶させます。すると、その手順通りにロボットが稼働し、自動的に事務作業を処理してくれます。手順を覚えさせるため、作業フローが決まっている業務や、厳格なルールに基づいて行われている作業の自動化に適したツールだと言えます。また、RPAはサーバーやデスクトップにインストールして使用するソフトウェアのため、パソコン内で処理されるルーティンワークに適しています。紙の情報をOCRなどで読み込むことで、オンラインデータ化するような用途も考えられますが、人間が担当する作業が残ってしまうため、あまり効率的とは言えません。
正確に業務を進められる
「人はミスをする生き物だ」と言われますが、とくに単純な作業を繰り返し行っていると、集中力が切れ、誤入力や手違いなど、ミスが多発するようになります。ミスや漏れがないかチェックするにも、人と時間がかかり、非効率です。たとえば、オフィスで紙にまとめられた数値や情報をExcelに転記するような、単純作業を行なっていないでしょうか? このような作業を機械的に動作するソフトウェアのRPAに覚えさせることによって、ミスなくスピーディに処理することができるようになります。RPAはルールから外れた処理をすることはなく、設定が正しい限り、常に正確な処理をしてくれます。
圧倒的な速度で仕事が進む
ソフトウェアは疲れ知らずです。サーバーやデスクトップの処理能力を超える分量をやらせると、動作が遅くなることもあるかもしれませんが、通常は人間による手作業よりも圧倒的に速いスピードで業務をこなしてくれます。
時間帯を問わず動作させられる
人が事務作業をするときには、休憩時間や休日も考慮に入れて、どれくらいの処理が可能か計算をすると思います。その点、RPAでは24時間365日継続して処理をさせても問題になりません。生産性は非常に高く、効果的に運用すれば、人間が処理した場合と比べ、大きな差がつきます。
Excelマクロの仕組みとは?
RPAツールと同様に自動化ツールとして、知られるのがExcelマクロです。コンピュータの操作を自動化する機能で、マイクロソフト社の表計算ソフトのExcelに搭載されています。Excelはビジネス現場のさまざまなところで活用されているので、新しいツールを購入することなく、業務の自動化をはじめることができます。Excelマクロを使いたいときには、Excelを起動させ、マクロを記録からはじめます。メニューからマクロを選び、記録したい操作手順を入力します。入力が終わり、マクロを実行すると、記録した操作手順を自動的に実行してくれます。
Excel操作を自動化する仕組み
Excelにマクロ機能は標準装備されており、誰でもメニューから実行することができます。マクロの記録というメニューが出てくるので、一度、記録したい内容の操作を行います。一連の操作が終わったら、マクロの記録を終了します。続いて、実行したいマクロをメニューから表示させ、実行をクリックすると、先ほど記録した操作を自動的に行ってくれます。
作業量が多くなるほど利用するメリットが大きい
作業工程をExcelのマクロに覚えさせてしまえば、2回目以降はそのマクロを実行するだけで同じ作業をExcelが自動的にやってくれます。Excelの操作内であれば、複雑な作業でも記録させることができます。もし、Excelを使ったデータ管理や事務作業が主な仕事で、繰り返しの入力や、操作が多いなら、作業ごとにマクロを記録しておけば、さまざまな作業を自動化でき、仕事の効率が劇的に向上します。マクロはいくつも記録し、保存できるため、使い方次第で、大幅に作業効率が上がるわけです。
VBAとはどのようなもの?
Excelマクロを説明するときに、VBAというワードも出てきます。こちらはVisual Basic for Applicationsの略で、Office製品でマクロを開発するためのプログラミング言語のことです。要するにExcelマクロもVBAというプログラミング言語で動いています。ExcelマクロはExcelでのみ機能するものですが、VBAはワードやパワーポイントなど、他のOffice製品でも機能します。
マクロを構成するためのプログラミング言語
VBAはVisual Basic for Applicationsの略で、Microsoftのアプリケーションの拡張機能のひとつで、マクロはプログラム言語によって記述されますが、このプログラムを記述するための言語をVBAと言います。
WordやPoworPointにも活用できる
Excelマクロがあるため、VBAと聞くとExcelのみを想像しがちですが、ワードやパワーポイントなどの他のOffice製品にもマクロとVBAの仕組みが備わっています。それぞれ「Word VBA」、「PoworPoint VBA」と呼ばれています。こちらも自動化の機能で、操作を記録することで、同じ操作を実行してくれます。
RPAとExcelマクロ、VBAの違いとは?
RPAとExcelマクロ、そしてVBAとどれも自動化をするためのツールですが、どんな違いがあるのでしょうか? もう少し詳しく見ていきましょう。
自動化する機能の種類
RPAは自動化ツールで、ひとつのソフトウェアですが、Excelマクロはマイクロソフト社の表計算ソフトであるExcelのひとつの機能です。Excelの自動化のみを対象にした言葉です。続いてVBAはExcelマクロの元となる、プログラミング言語でワードやパワーポイントなどの他のOffice製品にも搭載されています。なかでもRPAは、フォルダ作成やメールの送信といった業務の自動化も柔軟に対応できます。
ほかのソフトウェアと連携しやすいかどうか
ExcelマクロはExcelのひとつの機能のため、Excel内の操作の自動化しかできません。他のソフトウェアと連携させた自動化はできません。対するRPAはひとつのソフトウェアで会計ソフトやメールなど他のソフトウェアを連携させた自動化も行えます。たとえば、文書を作成し、それをメールに添付して送信するといった、ソフトウェアをまたいだ動作の自動化も可能となります。そのため用途が広いと言えます。
処理できるデータ量
ExcelマクロやVBAは大量のデータ処理には向いていないと言われています。対するRPAにはクラウドにインストールして使用するタイプや、サーバーにインストールするタイプがありますが、これらはパソコン内で自動化するわけではなく、それぞれクラウド上やサーバー上で自動処理を行います。そのため、パソコンのスペックとは関係なく、データの容量が大きいクラウドやサーバーで、大量のデータを自動化することができます。
非定型業務の自動化ができるかどうか
RPAは人が行った操作手順(シナリオ)を記録し、同じことをロボットにやらせるソフトウェアですが、RPAにAI(人工知能)を搭載したハイレベルの自動化ツールも開発が進められています。こうしたRPAではAIが分析や解析を担当するため、非定型業務の自動化にも柔軟に対応できるというメリットがあります。Excelでは非定型の業務を自動化しにくいため、RPAのほうが適していると言えます。
プログラミングスキルの必要性
RPAは画面の指示に従って、手順(シナリオ)をロボットに記憶させていきます。その際、プログラミングに関する知識やスキルは不要です。対するExcelマクロはマクロ機能でカバーできる範囲の自動化を実行するだけなら、VBAに関する知識は不要です。VBAを利用する際には、マクロ機能でカバーできるような単純な自動ならプログラミングに関する知識やスキルが必要ではありませんが、Officeアプリの内の複雑な機能を自動化するならプログラミングの知識が欠かせません。
RPAとExcelマクロは併用可能?
RPAを使えばExcel上の操作も自動化することができますが、Excelに特化した作業なら、Excelマクロを使用した方が効率的です。RPAには、RPAの特性があり、ExcelマクロにはExcelマクロの特性があるわけです。したがって、どちらか一方を選択するのではなく、両者をうまく組み合わせて自動化するほうが効率化に業務をこなせる可能性があります。業務内容によってRPAが適しているのか、それともExcelを使ったほうが良いのか、うまく使い分けることが大切になります。たとえば社内の基幹システムの操作はRPA、Excelはマクロで処理するといった具合で棲み分けを行った方が結果的にスピーディに終わることも考えられます。
RPAとExcelマクロ、VBAを選ぶ際のポイント
自動化の手法として注目されるRPA、それからExcelマクロやVBAですが、どれを選べば良いのでしょうか? それぞれの特徴について解説します。
どのような業務を自動化させたいか明確にする
RPAはルールが決まっている単純作業の処理に向いています。また処理する作業が膨大になっても、対応が可能です。したがって、定期的に処理をする必要があるルーティンワークに向いています。対するExcelマクロはExcelにしか適用できないため、用途が限られます。
システム障害やイレギュラーへの対応力を確認する
ルールに則った自動化をしているなら、とくに手間はかかりません。ただ、システム障害やイレギュラーな処理をさせるなら、事情が異なります。RPAは事前に収録したシナリオに従って、処理をさせます。そのためシステム障害が起きれば、想定していたシナリオを修正する必要に迫られます。VBAが最も柔軟性が高いツールだと言えます。
コストパフォーマンスの高いツールを選ぶ
ExcelマクロはExcelに標準装備されている機能のため、追加の料金は不要です。VBAもプログラミングの知識を持つスタッフがいれば、大きなコストは不要です。RPAに関してはツールを活用するときにライセンス料を支払う必要があります。ライセンス料はどの程度のレベルのRPAを、どれくらいの規模で導入するかで異なります。もし全社的に採用するなら導入に大きなコストがかかることになります。少ない予算でスモールスタートするなら、Excelマクロが最適です。
ツールごとの特徴を比較してから導入するツールを選ぼう
ソフトウェア型ロボットによって事務作業を自動化するRPAと、コンピュータの操作を自動化するExcelマクロ、そしてオフィス商品と連携しながら使用するVBAと、自動化ツールといっても、それぞれ特徴があります。自動化させたい業務が何なのか、予算はどれくらいなのか、など吟味しながら、導入を検討しましょう。