2020年11月11日にホンダが世界初となる自動運転レベル3の型式指定を取得したというニュースが報じられ、近い将来、自動運転が実現するのかと、期待に胸を膨らませた人もいるのではないでしょうか? それと同時に自動運転レベル3がどんな技術なのか、知りたいと思った人もいるはずです。自動運転技術ではドライバーと車が担う運転動作の比率やテクノロジーの到達度、走行可能エリアの限定度合いなどによって、レベル0からレベル5の6段階に「自動運転レベル」が分類されています。そこでまずは自動運転レベル1がどんな技術を使って人間による運転をサポートしているのか、技術の特徴に加え、レベル1を搭載したどんな車種が販売されているのか、現在の自動運転事情について解説します。
そもそも自動運転レベルとは?
自動運転を実現するためには、テクノロジーの進化だけではなく、法律の改正やインフラの整備など、多くの障壁を取り払いながら、社会制度そのものを変革していく必要があります。そこで、ドライバーと車が担う運転動作の比率や、テクノロジーの到達度、走行可能エリアの限定度合いなどから、定義づけて、レベル分けされています。当初は日本を含めて、世界にさまざまな「自動運転レベル」の定義が存在しましたが、現在はアメリカの民間団体であるSAE(Society of Automotive Engineers)の6段階の自動運転レベルを用いる国が増えています。ここでもSAEの定義をもとに、解説していきます。
自動車の自動化レベルを表す指標のこと
自動運転レベルは、ドライバーと車が担う運転動作の比率や、テクノロジーの到達度、走行可能エリアの限定度合いなどから、自動車の自動化レベルを示しています。かつて日本では、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)の定義を用いるケースが多く見られましたが、現在はSAE(Society of Automotive Engineers)の6段階の自動運転レベルが用いられています。
自動運転技術を標準化しているSAEとは?
SAEはSociety of Automotive Engineersの略で、1905年に設立された学術団体が母体になった組織です。自動車に限らず、航空宇宙や産業車両など、幅広い輸送技術にかかわる研究者や技術者が会員になっており、あらゆる乗り物の標準化・規格の制定を行っていますが、自動運転レベルの定義も公表しています。米運輸省道路交通安全局(NHTSA)が2016年にSAEの基準を採用したことから、世界基準として定着しつつあります。
自動運転レベル3以上が自動運転と認められる
6段階の自動運転レベルにおいて、レベル0〜2とレベル3以上では、その内容が大きく変化します。レベル0〜2では運転の主体が人間で、自動運転の技術はあくまで運転の補助や支援にとどまります。しかし、レベル3になると運転の主体がシステム側に変わり、ここからレベル5までが実質的な「自動運転」になります。なお、レベル0が自動運転なし、レベル1が運転支援、レベル2が部分的自動運転、レベル3が条件付き自動運転、レベル4が高度な自動運転、そしてレベル5が完全自動運転と、それぞれのレベルを表現することができます。
改正道路交通法の施工によって自動運転3が公道走行可能に
自動運転技術を搭載した車両の開発や、運行の実験が行われていますが、公道を走行するには、道路交通法や道路運送車両法の改正が必要でした。とくに自動運転レベルが3になると、運転の主体が人からシステムに移行します。そのような自体を両法律では想定していなかったため、自動運転の普及を前提とした法律改正が求められていました。東京オリンピックの開催を控え、国をあげて世界に先駆けてレベル3を実現させようという機運が生まれ、2020年4月に改正された道路交通法と道路運送車両法が施行されました。これを受けてホンダが2020年11月11日に新しく開発した自動運転システムのTraffic Jam Pilotが、自動運転レベル3の型式指定を国土交通省から取得したと発表しています。ホンダはこのシステムを搭載したレジェンドを2020年度中に発売する予定で、日本で近いうちに本格的な自動運転車による走行が実現する見込みになっています。
自動運転レベルのごとの特徴や違いを解説
自動運転では、SAEによる6段階の自動運転レベルが基準になっています。各レベルには定義があり、それぞれどんな状態を示しているのか理解しておくと、自動運転への理解が深まります。自動運転レベルのごとの特徴や違いを解説していきます。
自動運転レベル0
現在、路上を走っている車の多くはレベル0です。ドライバーがすべての動的な運転タスクを実行している状態を指します。従来の車にも速度超過やライトの点灯など、さまざまな予防安全システムが搭載されていますが、システムが警告を発するだけのものは、車の制御に影響を与えないため、自動運転レベルは0とみなされます。
自動運転レベル1
レベル1は、運転支援技術が搭載された車を指します。アクセルとブレーキ操作による前後の加速や減速をシステムが制御、もしくはハンドル操作による左右の制御のどちらかの監視・対応をシステムが担っており、残りの監視・対応はドライバーが行うような車です。たとえば、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)という高速道路などで使用されるような、あらかじめ設定した速度で自動的に加減速を行うことで、前を走る車に追従する技術がありますが、これはレベル1に相当します。また、緊急自動ブレーキや、車線を逸脱したことを検知するとステアリング操作をアシストする車線維持支援(LKAS)もレベル1に該当します。
自動運転レベル2
レベル2は、部分的に運転が自動化された車両で、アクセルとブレーキ操作による前後の加速や減速の制御と、ハンドル操作による左右の制御の両方をシステムが担うことになります。ただ、運転の主体はドライバーで、システムはあくまで運転を支援する役割に止まります。そのため、ドライバーは常にハンドルを握って、運転状況を監視操作することが求められます。こうした事故を未然に防いだり運転の負荷を軽減したりするための先進運転支援システムは「ADAS(Advanced driver-assistance systems)」と呼ばれており、ADASの機能が向上して、障害物を100%検知し、100%正しい判断を下し、100%正確な制御を行うレベルに達すれば、完全なる自動運転技術が確立したことになると言われています。
自動運転レベル3
レベル3は条件付き運転自動化を意味し、運転の主体がドライバーからシステム側に変わる点で、レベル0〜2と大きく異なります。厳密にいえば、このレベル3からが自動運転です。ただ、一定の条件下ですべての運転操作をシステムが行いますが、緊急時にはドライバーが運転操作を担うことになっています。
自動運転レベル4
レベル3では緊急時にはドライバーが運転操作を行うため、ドライバーはすぐにハンドルを握れる体勢を取ったり、安全に走行できているか、道路の状況や周囲の車などに注意を払っておく必要がありますが、レベル4になると「限定領域内」という言葉がつきますが、すべての操作はシステムが行います。限定領域内とは“高速道路内”や“平均時速50キロメートルの都市環境”など、自動運転が走行できるエリアを限定することを意味しており、あらかじめルートが決まっている路線バスや、空港内など特定の地域内を走行する送迎用のバス、広大なテーマパークなど商業施設内の交通手段となる小型タクシーといった移動サービスとの相性が良く、開発が進められています。なお自動運転レベル4は「高度な自動運転」と呼ばれています。
自動運転レベル5
自動運転レベル5は完全な自動運転を指し、走行エリアの限定がなく、いまの車と変わらず、どこを走行しても問題ありません。運転はすべてシステムが担当するため、ドライバーが不要になるだけではなく、ハンドルやアクセル、ブレーキなど運転席を設置する必要がなく、車内の空間デザインの自由度が格段に増すと言われています。
自動運転レベル1の普及率
自動運転レベル1は運転支援の技術を搭載した自動車のことを指しています。こうした機能は近年に発売された新型車であれば、概ね搭載されています。
運転支援機能を搭載する車の80%以上が自動運転レベル1
矢野経済研究所のレポートによると、2018年にレベル1を搭載した車は2100万台を突破しており世界市場全体のおよそ89%を占めています。具体的な機能としては、車両の周辺の状況をセンサーが検知して、衝突事故を回避する自動ブレーキ(AEB)や、前方車両に追従するオートクルーズコントロール(ACC)などがあげられます。
高級車にはさらに充実した機能が搭載されている
レベル1の技術であれば、中級車から高級車まで幅広く搭載されていますが、高級車ではドライバーの指示器操作によって自動的に車線を変更するオートレーンチェンジや、ドライバーが車から降りた後に、キーやスマホを使って遠隔操作することで自動駐車を行うリモートパーキングといった機能が搭載されている車種もあります。
ハンズオフ運転を可能にする自動車の普及も始まっている
2017年あたりからは、運転者監視システムや高精度地図を使うことで、高速道路での使用に限定されますが、ハンドルから手を放して運転する「ハンズオフ」と呼ばれる機能の採用も高級車を中心に広まりつつあります。
今後は自動運転レベル2の車両数が自動運転レベル1を上回る
2020年以降になると、レベル2の運転支援システムを搭載した自動車が次々と販売され、2020年にはおよそ600万台、2023年にはレベル1を搭載した車両を上回るおよそ3300万台にまで増加すると予想されています。
自動運転レベル1を搭載した車種を紹介
最後に自動運転レベル1を搭載した車種にはどんなものがあるのか、各社の代表的な車をご紹介します。
トヨタ自動車
トヨタ自動車ではプリクラッシュセーフティという技術を開発しています。これは車両に搭載した単眼カメラとミリ波レーダーによって周囲の歩行者や車両を検知するもので、危険があれば警報やブレーキアシスト、あるいは自動ブレーキで衝突の回避をサポートしてくれます。クラウンやプリウスなど多くの車種に搭載されています。
日産自動車
日産自動車では、前方だけではなく、死角になりやすい後方や後側方の接近車両などを感知する機能を備えた360°のセーフティアシスト(全方位運転支援システム)の搭載が進められています。車両の前方にいる歩行者や先行する車両を検知して、もし危険が迫っているならドライバーに警告するインテリジェントエマージェンシーブレーキや、ペダルの踏み間違いによる衝突事故を回避する踏み間違い衝突防止アシストといった安全装備もあります。これらはスカイラインやエルグランドといった車種を中心に標準装備されています。
マツダ
マツダでは、ミリ波レーダーやカメラといった検知デバイスを使った先進安全技術を総称して、i-ACTIVSENSEと呼んでいます。たとえばドライバーが進みたい方向にヘッドランプを照射して視野の確保をサポートしてくれるAFSといった技術や、車線を感知して、車両が車線を逸脱しそうになるとドライバーに警告するLDWSなどの技術があります。こうした技術はCX-5やロードスターなどを中心に搭載されています。
スバル
スバルには「アイサイト」という独自の運転支援システムがあります。人間の眼と同様に左右ふたつのカメラで前方にある物体の種類や距離、あるいは移動速度を認識する技術です。この技術を中心に障害物を検知すると、ブレーキ操作を補助するプリクラッシュブレーキや、全車速追従機能付きクルーズコントロールといった安全装備を搭載しています。レガシィやレヴォーグといった車種を中心に装備が進められています。
ホンダ
ホンダでは、対象の位置や速度の測定に強いといわれるミリ波レーダーと対象の形や大きさの識別に強い単眼カメラを融合した「Honda SENSING」という技術が用いられており、レジェンドやアコードといった車種を中心に標準装備されています。
自動運転レベル1の特徴を理解しておこう
自動運転と聞くと遠い未来のテクノロジーだと思われがちですが、自動運転のレベルは0〜5までの6段階で分類されており、すでにレベル1の技術は多くの新型車に搭載されています。どんな技術なのかを理解することで、より安全な運転が可能になります。特徴を把握して、自動運転への理解を深めていきましょう。