デジタルシフト時代の小売りビジネス最前線 #03
2020/2/17
マーケターの伴大二郎氏が解説する国内外の小売業界におけるトレンド、テクノロジー活用事例。前回のコラムで解説した「物」×「人」をつなぐ「場」の3つの効果。実際に「場」をうまく作り上げている海外企業を例にとって解説していく。
Contents
伴 大二郎 -Daijiro Ban-
株式会社オプト エグゼクティブスペシャリスト パートナー 兼 OMOコンサルティング部 部長
小売業界においてCRMの重要性に着目し、一貫してデータ活用の戦略立案やサービス開発に従事した後、2011年にオプト入社。マーケティングコンサルタントを経て、2015年よりマーケティング事業部部長として事業拡大に向けた組織作りに着手。マーケティングマネジメント部やOMO関連部門等々を立ち上げ、統括しながらエグゼクティブスペシャリストという立場から社内外への発信活動も担務。
■キュレーションメディア店舗はニューリテールの最適解となるか?
D2C企業が増える中で、2017年にWalmartがメンズウェアブランドBonobos(ボノボス)を351億円で買収するなど、トラディショナルなリテール企業が「集客できる強いブランド」を欲している。一方、D2Cブランドはスケールの為にリアル進出を進めている状況だ。
しかし、ただ店頭に並んでいるだけのD2Cブランドが魅力を発揮する事はない。D2Cブランドが支持される理由は「課題解決プロダクト」と「ストーリー」の相乗効果であり、それが「消費者に新しい価値」を提供するからだ。それは創業者の思いや、サスティナブルな課題への解決策の提案、日常生活のちょっとしたアップデートだったりするのだが、その「ストーリー」が伴わない販売手法では、本来の魅力が十分には伝わらないのが実情だ。
そこで生まれているのが、「体験」と「ストーリーテリング」を提供するキュレーションメディア型の店舗である。
今回は様々な特徴を持つキュレーションメディア型店舗の特徴を紹介すると共に、私自身がそこでの体験を通して感じた課題について述べたい。
■テクノロジー活用に優れた「b8ta」
b8taは主に斬新なガジェットを集めている店舗だ。店内行動はカメラでトラッキングされており、どの商品の前で何人の人が立ち止まったか、商品を手に取ったか、画像の説明を見たか、購入したかといったデータを取得している。店舗に配置されているスタッフも売る事が目的ではなく、そこにある商品のストーリーや使い方を伝えるのが役割である。
米百貨店Macy'sからも出資を受け、Macy'sの中にも出店している。b8taは、2018年には他の小売りに対し、自社のRetail-as-a-Service(RaaS)を解放し、2019年には小売業者と百貨店とショッピングセンターなどの大家が独自のRaaSコンセプトを運用できるようにするテクノロジープラットフォーム Ark Marketplace を発表した。
なおb8taは、ベンチャーキャピタルEvolution Ventures(本社:米国サンフランシスコ)と合弁でb8ta Japanを設立し、2020年夏に日本市場へ参入する。新宿マルイ本館、有楽町電気ビルへの2店舗同時出店を予定している。
■今、最も話題の「Neighborhood Goods」
1月に米ニューヨークで開催されたNRF(全米小売協会(NRF)が主催するリテールや流通業界を対象とした展示会)でも、Neighborhood Goods創業者のマット・アレキサンダー氏が「Neighborhood Goodsは、モノを売る場ではなく、『ブランドコミュニケーション』『テストマーケティングの場』『地域コミュニティーのハブ』を提供している」と発言しており、賛同するD2Cブランドも多いと言う。またマット氏はインスタグラムにも度々登場し、インスタ映えする店内と取り扱いブランドの投稿をするなど、SNSの情報伝達力を上手く活用しているのも特徴だ。
■「SHOW FIELDS」と「STORY」から見るキュレーションメディア型店舗の課題
自ら「Most interesting store」と称する「SHOW FIELDS(ショーフィールド)」で、私は最高の体験と残念な体験の両方を味わった。SHOW FIELDSは役者がショーをしながら店内をめぐり商品を紹介してくれる店舗なのだが、大前提として、予約しなければこのショー体験は受けられない。実際に予約をして店舗に行ってみたが、一回目はこのショーを楽しむことができた。しかし、3か月後に再び行った時は1回目より、ショー自体も、紹介されるプロダクトも面白味にかけた。また最近は予約せずに行ってみたが、終了間際の文化祭のように、ただ派手な装飾のなかで物を見る体験となってしまった。
SHOW FIELDSを小売りと考えるかは議論が残るが、体験や時間に制限がある事や、1度体験したら2回目以降の体験価値が落ちてしまうこと、そもそも興味があるかわからない物の説明を受けなければいけないショー形式であることなど、再び店舗を訪ねるモチベーションがあがらないのは、POP‐UPならまだしも固定した場所を持つ小売りとしては改善すべき課題なのではないだろうか。