デジタルシフト時代の小売りビジネス最前線 #02
2020/1/20
マーケターの伴大二郎氏が解説する国内外の小売業界におけるトレンド、テクノロジー活用事例。前回のコラムで解説した「物」×「人」をつなぐ「場」の3つの効果。実際に「場」をうまく作り上げている海外企業を例にとって解説していく。
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伴 大二郎 -Daijiro Ban-
株式会社オプト エグゼクティブスペシャリスト パートナー 兼 OMOコンサルティング部 部長
小売業界においてCRMの重要性に着目し、一貫してデータ活用の戦略立案やサービス開発に従事した後、2011年にオプト入社。マーケティングコンサルタントを経て、2015年よりマーケティング事業部部長として事業拡大に向けた組織作りに着手。マーケティングマネジメント部やOMO関連部門等々を立ち上げ、統括しながらエグゼクティブスペシャリストという立場から社内外への発信活動も担務。
■リアル進出で躍進するD2C企業の「場」を活かしたビジネス拡大とファンの獲得方法
その代表的な例がユニコーン企業となったAllbirds(オールバーズ)、Glossier(グロッシアー)、Casper(キャスパー)、Warby Parker(ワービーパーカー)です。
私も大ファンであるAllbirdsは、米TIME 誌が「世界一快適なシューズ」と紹介したシューズブランドです。履きごごちの良さと、環境に配慮したメリノウールやユーカリ素材で一気にファンを増やしました。合成素材のシューズに対するアンチテーゼを含む、ブランドの背後にあるストーリーへの共感もDNVBの得意とする所です。
また、オフラインの購買体験後すぐに、オンラインビジネスベースだった事を再認識させられます。電子レシートを貰うために伝えたメールアドレスには直ぐにサーベイが届くのです。私の場合は、1時間後でした。その3時間後には顧客リストに加えて良いかを尋ねるメールが届き、OKをした直後にブランドのストーリーやコンセプトのメールが届く。「場」はリアルですが、ECシステムの決済をそこでしただけなのだ、オフラインの「場」でブランドのファンになり、履き心地の良さもサイズも解っているので、次の購買はオンラインでも構わないのです。
こうしたオフラインの強みである、体験の「場」作りは、リカーリング(継続購買)の仕組みと組み合わせる事で、強い「情報流」を持つ”メディア”としての店舗が成り立っているのです。
■実際に体験してもらうための「場」づくり
Casperは2018年、ニューヨークに昼寝ラウンジとして「Dreamery(ドリーマリー)」をオープンしました。ここでは、実際に寝てもらう「場」を提供しており、Casperのマットレスやシーツ、枕、ブランケット、スリープマスクがセットされたスリープポッドの中で、25ドル(約2,800円)で45分間の仮眠を取ることができます。
元々Casperは100日トライアルを行なっているため100日以内なら返品可能としていますが、Casperをデジタルで購入を検討する人と、リアルに見て購入を検討する人それぞれに合わせた仕掛けです。
また、コンセプトショップの「Dreeamry」や直営店での販売に加え、出資を受けている小売大手のTarget(ターゲット) 1,000拠点でも商品販売するなど、リアル進出に最も成功したD2Cブランドの一つと言えるでしょう。
■「場」が生み出すブランディングとリカーリングで顧客と関係構築する
苦境に立たされているトラディショナルな小売企業は、人が集まる「場」を持っていながら、従来型の大量生産、大量販売、そしてそれに伴う大量破棄、コモディティ化、価格競争が起きており、徐々に顧客の支持を失っているのではないでしょうか。
小売は「物」と「人」を引き合わせる「場」である以上、OMO化される事で「情報」の本質が問われ、顧客は今まで以上に良い物を見つけやすくなります。それは成功しているD2C企業の様に表面的なイメージではなく、ブランドの想いやストーリーが乗っかった顧客に支持される物になるのではないでしょうか。
良い物を正しい情報と共に顧客に届けるという小売の役割は変わりませんが、その手法は変化し、顧客にとってより良い物にならなければなりません。その為には馴れ親しんだ従来のやり方を根本から見直し、「場」や「情報」を再定義する必要があるでしょう。