「ECでは見えないユーザーの姿と真摯に向き合うチャネルができた」 アップデートするスキンケアブランドがb8taに出品する理由。

年々、消費者がECで商品を購入する頻度は高まっており、リアルな店舗には新しい役割が求められています。多くの小売企業が店舗の在り方、消費者接点のつくり方を見直すなか、アメリカ・サンフランシスコ発祥の体験型ストアのパイオニア「b8ta」が、2020年8月日本に上陸しました。具体的なサービス内容や、利用企業の声、今後の戦略などを全3回の特集にてお伝えします。

特集の第3弾では、b8taに出品しているスキンケアブランドのAGILE COSMETICS PROJECT (アジャイル コスメティクス プロジェクト)、代表の内保 友子氏に、実際のところb8taをどのように活用しているのか、お話を伺いました。

ざっくりまとめ

- AGILE COSMETICS PROJECTは、ユーザーが本当に気に入るスキンケアを目指し、ユーザーの声とプロの視点を掛け合わせながらアイテムをバージョンアップさせている。
- オンラインオフラインにこだわらず、一対一での丁寧なフィードバックがもらえる仕組みを整えており、b8taもその手段の一つ。
- 製品のフィードバックだけでなく、購入体験のフィードバックが得られるのもb8taを活用するメリット。
- スキンケアは効果実感がその場では分からないため購入してもらうまでのハードルが高いが、そのハードルを乗り越えるべく、これからもいろんなチャレンジをする。

ユーザーと一緒につくるスキンケアブランド

ーまずはAGILE COSMETICS PROJECTについて教えてください。

2018年11月に立ち上げたスキンケアブランドで、スマホのようにアップデートしていくという新しい考え方がコンセプトです。スキンケア分野はアイテム数が多く、どれが自分にとって本当に良いのか迷っている方が非常に多いため、情報収集だけで疲れてしまう人もいます。

そんな課題を解決するために作ったのがこのブランドです。通常の商品とは違い、実際に使ったお客さまからフィードバックをいただき、それをもとに開発を加え、より市場のトレンドやお客様のニーズにフィットする商品へアップデートしていくというサービスを提供しています。

例えば美容液「白いオイル」は23回の試作を経て完成したものだったので、販売開始直後は「ver.1.23」でした。それがお客さまの声をもとにアップデートを行い、現在は「ver.1.24」になっています。

各製品にはQRコードが付いていて、読み込むとWebアンケートのページに遷移します。また、SNS上でもご意見を募集してDMでやり取りしながら感想を伺うこともあります。さらにミートアップセッションと呼んでいる、ユーザーの意見を直接伺う場も定期的に設けるようにしています。

アップデートは、製品そのものだけでなくパッケージやサービス全般にまで及びます。最初は袋に入れてお送りしていましたが、お客さまからのご要望を受け、今は箱に入れてお送りするようにしています。さらに、受け取った際に気持ちもあがるように、例えば梱包材にも工夫をこらして、スキンケア成分について学べる辞書のような役割も持たせています。

最近では箱はかさばるというお声を頂いているので、もう少し簡易な梱包に改良する予定です。
ーどんなユーザーが多いのでしょうか?

お客さまの特徴としては、それぞれの商品に含まれている成分を重視し、ご納得いただいてからご購入くださる方が多いですね。

業界内に存在するイメージや型に縛られない商品を生み出したいと考えていて、年齢や性別にとらわれず選んでいただきたいので年齢ごとに分けた製品展開やマーケティングをすることはしていません。現状、10代後半の方から50代の方まで、幅広いお客さまにご利用いただいています。

ここ半年ほどは男性のお客さまも増えてきています。コロナの影響で、自粛期間中に身だしなみに時間を使う方が増えたのかなと考えています。パッケージがシンプルであったり、アップデートしていくというコンセプトがソフトウェアの開発手法であるアジャイル開発と近いことが、男性にも興味を持っていただくきっかけになっているのかもしれません。

プロダクトの考え方としては、現代を生きる人たちに寄り添えるものでありたいということを大事にしています。これまでのスキンケアは、アイテム数が多く、複数のステップを踏むことが多くありました。しかし忙しい中、いろんなモノを時間をかけて塗るのは負担になります。そこで1つだけでもしっかり効果がある「パワーアイテム」を作りたいと考えています。

最初に出したのは「白いオイル」というオイル製品でしたが、乳液、美容液、クリームと3つの役割を1本でできるのが特徴でした。オールインワンを謳うと、効果が足りないものになりがちですが、そうならないようアイテムの作り込みに気をつかっています。

大量生産からの脱却で、ユーザーが本当に気に入るブランドを目指す

ー製品をアップデートしていくという考え方が非常に特徴的ですが、どのようにして実現しているのでしょうか?

小ロット生産でつくっていて、一般的な化粧品メーカーが組んでいる生産ラインとは違い、改良するのに複雑なステップが必要ないという特徴はあります。ただ、そもそも根本的な考え方の違いが他の化粧品メーカーと比べると大きいのだと思います。

私は以前、外資系のメーカーや化粧品メーカーに勤めていました。大量生産大量消費を前提としてものづくりを行っていましたが、消費者の行動変容を鑑みた際にこれからの時代にもっと合う方法があるのではなのでは考えるようになりました。コロナの一件でもこの風潮は加速していると思いますが、消費者は自分にとって大事なものを厳選し、本当に満足の行くものに囲まれて暮らしたいと考えるようになってきていると思うのです。そう考えたとき、一人ひとりのお客さまと向き合い、いかにフィードバックを吸収して、お客様が求めている価値をブランドに反映させるのかが一番大事だという思いに至ったのです。

大手メーカーも定量的なインタビューは行うのですが、我々が行なっているような、ユーザーが五感で感じるものを大切にした繊細なヒアリングをして即座にその声に反応するのはなかなか難しいのではないかと思います。

ーある程度バージョンアップを重ねた段階で、生産数を上げていくというお考えなのでしょうか?

今はバージョンアップにフォーカスし、そのために最適な仕組みづくりを行っていきたいと考えていますが、将来的にはお客さまの数に応じて一回で生産できるロット数をあげることも考えています。

ただし、どれだけブランドの規模が大きくなったとしても、一対一のコミュニケーションを大事にする姿勢はブランドとして守るべきものです。できることが増える分、専用アプリの開発など幅広いアップデートを行っていきたいですね。

モノの出会い方にイノベーションが起こる現場に居合わせたい

ーお客さまとの接点はどのように作って来られたのでしょうか?

大事にしているのは、信頼関係を築け、我々のブランドや価値に共感して頂ける方を増やすことです。ですので、インフルエンサーを活用した施策やスポットでの広告出稿などはせず、プロモーションらしきことはほぼやってきませんでしたね。

ーお客さまはみなさん、御社が運営しているブランドサイトからアイテムを購入されているということでしょうか?

最初はそうでしたが、以前には伊勢丹さまでポップアップ店舗を出したり、Amazonや楽天などのECサイトで販売したりしています。また、b8taさんへの出品も始めました。私たちとしては、販売形態にこだわりはなく、ブランドの価値を体験として届けられ、かつユーザーからフィードバックが得ることができることが重要で、手段はそれを達成できるものであればいいと考えています。

ーなぜb8taでの販売を行っているのでしょうか?

理由はいくつかありますが、製品を売るという消費だけの店舗ではなく、「新しい発見と体験」を可能にするというb8taさまの想いへの共感と、あとはカテゴリーを超えての製品展開がボーダレスという現代人のライフスタイルのニーズをまさに体現していることが大きかったです。

我々は大量生産大量消費での販売ではなく、消費者一人ひとりにブランドが目指すものに共感をしていただき、ご納得いただいた上で製品を買ってほしいという思いがあります。一方b8taさまも、新しい体験をしたい方向けに店舗を設計されていて、そのコンセプトが面白いと思いましたし、我々の考えにマッチするなとも感じました。

ー出品にあたって、特に期待したのはどんなことでしょうか?

新しい発見ができる人と、新しい発見を我々に与えてくれる人を増やすことです。

最近はモノと出会う場所がオフラインからオンラインへと移行してきました。その次のフェーズとして、オンラインからb8taへという流れができると非常に面白いと思っています。そんな出会い方のイノベーションが起こる場に我々も参加し、ユーザーがどんな体験をするのか、出品者がどんなフィードバックを得られるのかというのを実際に見てみたい、と言うのが我々の期待です。

実際に今、日々データが送られてきて、何人がアイテムの前を通り、何人がタブレットを触り、そのうち何人が店員に話しかけたのかがわかるのが非常に面白いです。店舗ごとの違いを把握できるのも良いなと思うポイントです。

また、指標を元にしたデジタルなデータ以外に、売り場の方々が送ってくださるレポートも大変役に立ちます。どんな商品を買ってもらえるとか、どういう方が興味を持ってくださったのか、ご購入の決めてはなんだったのかなど、非常に細かくまとめてくれるのです。

実は我々は、製品のフィードバックは集められても、購入体験のフィードバックに触れる機会はなかなかありません。買う直前に何を迷っていて、何が決め手になって購入したのかなど、とくにECなどのオンラインでは把握するのが難しいと感じていました。見えにくくなっていた部分を学べ、またそれをあらたなデータポイントとしてアップデートしていけるのは非常にありがたいです。

購入までの高いハードルを越えるための仕掛けづくりを

ー今後、b8taをどのように活用したいとお考えですか?

来店理由や購入理由などのデータをもっと集め、どんなニーズがあるのか分析するのに役立てたいと考えています。

ー逆に、b8taに求めるサービスなどあれば教えてください。

我々のアイテムを買っていただいた方が、他にどんな製品やカテゴリーに興味を持ち、どんな行動をされたのかも共有いただけると面白いなと思っています。カテゴリーを超えての行動がわかることでユーザー像のイメージが膨らませやすくなるからです。これができるのがb8taさまの強みだと思っています。

また、日本では売られてないけど体験できるものなど、国境を越えた展開があっても面白いのではと思います。

ー販促に関して、今後の展望を教えてください。

スキンケアは、お客さまの肌に直接触れる分、購入ハードルがすごく高い商材です。肌荒れすれば使わなくなるため、消費者にとっては非常に失敗した時のリスクが高いんです。その高いハードルをいかに乗り越えさせることができる、ブランド価値とその体験が提供できるのを常に考えで、我々としては、いろんなチャレンジをしていきたいと考えています。

また、スキンケアに対して手が出ない層に対してもアプローチしていきたいです。特に男性は、興味があってもコスメストアに行き買い物をするのは恥ずかしいと考える人がまだまだ多いと思います。そんな人たちにも良い出会いを提供できると嬉しいですね。
内保 友子
アジャイル コスメティクス プロジェクト代表

大学卒業後、大手外資系メーカー2社で化粧品や消費財のブランド・マネジメント、新製品開発などを担当。2018年にアジャイル コスメティクスに参画。ブランドの根幹であるビジョンやブランディング、製品の開発から組織づくりまで、あらゆる分野で日々ブランドのアップデートを遂行中。

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