マーケティング

EC担当者に必要なのはデータではなくお客様を見ること。【ECエバンジェリスト 川添隆氏×フラクタ 河野貴伸氏対談・後編】

市場で存在感を急速に高める新興ECプラットフォームについて、事業会社側でのデジタル領域の統括、小売業やD2Cブランドへのアドバイザーとしての活動と、ECビジネスの可能性を伝えているECエバンジェリストの川添 隆さん、数多くのEコマースとブランディングのプロジェクトを支援してきたFRACTAの代表取締役の河野 貴伸さんの対談の後編。今回は、コロナ禍はEC事業者にどんなインパクトを残しているのか、またECの今後を見据えた事業者・担当者に向けた熱いメッセージを頂きました。

前編はこちら

【ざっくりまとめ】

・Eコマースを始める際に大切なのは、お店を開けることではなく、既存のお客様と繋がっていること
・EC事業者・担当者は今、疲弊しすぎている。EC担当者を今すぐ育成すべし
・新しいチャレンジがしたければ、自社のビジネスを今一度振り返って考えることが重要

大切なのはECを始めることではなく、既存のお客様と繋がること

――改めて、お二人は今回のコロナ禍がEC事業者にどんなインパクトを与えていると考えられますか?

川添:メーカーや店舗を持たれている事業者の中で、新規でEC事業を始められる企業や個人事業主は圧倒的に増えたと聞いています。一方で、Eコマースを始めてもすぐに注文が入るような前準備ができていなかったというEC業界でのあるある話、またはフォードロスなどのように応援注文をもらったものの想定以上の量で出荷が追いつかないという事態も増えたようです。今日からオープンしたら、毎日注文がくるかもしれないし、一週間後にくるかもしれない、そんなはらはらした状況に常に対応しないといけないのがEコマースなんです。ECを始めたいと言っても、実はいろんな選択肢があります。別にECサイトを開かなくても、クラウドファンディングを使って定期的にECをやってみて、顧客=応援してくれるお客様を少しずつ増やしていくということもできるわけです。また、Instagramに投稿して、欲しい人はDMで連絡してもらう手法も今やフツーになっています。皆さんすぐにECをやりたいとおっしゃることが多いのですが、新規のECは集客と運営体制が重要です。そのため、僕はどちらかというと知ってくれるお客様と運営体制をコツコツと準備し、ビジネスの基礎筋力をあげながら、本格的にECに取り組むことをオススメしています。大切なのはお店を開けることではなく、既存のお客様と繋がっていることなので。もし、店舗を持たれている方であれば、目の前のお客様にLINE友だち登録をしてもらう方が確実に次につながります。

――河野さんは、身の回りで起きている変化やEC事業者にどのようなことが起こっていると感じていますか。

河野既存の事業者、特にEC担当者が疲弊していると感じています。コロナ以前からEC担当者やデジタル事業の従事者は圧倒的に人が足りていませんし、今後の課題でもあります。
今回のコロナ禍ではデジタル事業のダメージが一番少ないですが、今のうちにできることをやらないとすぐにしっぺ返しが来ると思います。特にEC担当者を増やすことを考えなければいけない時期に来ていると感じます。

現在、川添さんと共同でEC若手担当者向けの育成イベント「EC Young JAM」を開催し、EC担当者の育成に取り組んでいます。今実際に店頭に立っている人がデジタルに適応することができれば、ECはものすごく成長が見込めると思うんです。そうした取り組みを進めないと世界の中で日本だけが遅れている状況になり、最終的には「ECビジネスはブラック」と言われてしまうことをすごく危惧しています。

リアルでもオンラインでも、大切なのは「お客様が何を求めているかを想像し、理解すること」

――EC担当者の人員不足について、実際に店舗勤務の人が社内で部署移動したり、新たなキャリアを形成することは可能ですか。

川添:基本的には可能です。年齢のせいにはしたくありませんが、どれだけ好奇心と吸収力があるか、それらを使ってキャッチアップできるか次第ですね。店舗勤務だったけれども、ECやデジタルチャネルに興味がある、やる気があっていろいろなことを吸収したいという人は、フィットしやすいです。特にアパレル企業においては、そういったスタッフの方が確実に増えていると聞いています。逆にECしか担当したことがない人は、リアルなお客様像も浮かばず、顧客の解像度や理解度が低かったり、自分の担当業務以外は関心がなくお客様を見ていないということがあります。これはどのような業過にも共通しますが、EC担当を長くやっていればやっているほど、既成概念に縛られたり、どこかでお客様を「1行のデータ」としてみてしまう傾向になる可能性が高く、僕からするとリスクだと思います。

もっとお客様を理解したいという感覚を持っている人、商売が好きな人、お店やブランド、商品を深く理解している人はEC担当者としての強みになります。ツールや管理画面の使い方、データの見方は後からある程度学ぶことはできますが、自社の企業文化や社内の商流、ブランドや商品の成り立ち、業界のルールなどを理解することはすごく難しいです。

コロナ禍の難局では、各事業者のビジネスの姿勢が試されていると思います。企業規模や業態を問わず、中長期的な利益や顧客満足を追及し、常に挑戦している企業はコロナ禍でも成果を出されている傾向にあります。例えば、昨今話題のオンライン接客は「どのツールを使うか?」に目が行きがちですが、本質的には商材と顧客ニーズに合わせたバリエーションを用意することの方が重要です。あらゆる取り組みにおいて、お客様の悩みごとをどう解決するか、お客様の期待値を理解してそれらにどう応えていくかが重要です。

――ビジネスモデル自体の変化が今後求められると思いますが、既存の手法を踏襲すべき部分と、置き換えるべき部分をどう切り分ければよいのでしょうか。

川添僕はリアル店舗ありきの企業でのキャリアが長いので、「まずは店舗でやっていることをECでもできるようにする」ことを目指し、実現してきました。その理由は、ECは後から登場した購買チャネルで、なおかつ客数の比率は90%以上が店舗だとすると、その企業やブランドにおける顧客体験はリアル店舗からできていると捉えているからです。ブランドに囚われずとも、自分たちが身の回りで使っているモノの購買原体験は、今のところリアル店舗に紐づいてますよね。「まずは店舗でやっていることをECでもできるようにする」をベースとして、オンラインでしかできないこと、オフラインでは苦手なことに取り組んでいくようにします。多くの人が勘違いするのは「ECをリアル店舗と差別化したい」「他のブランドと差別化したい」ということばかりを先に考え、お客様のニーズや心理、行動のことを置き去りにして話してしまいがちであることです。
河野結局、私たちが見なければいけないのは“お客様”です。最終的には、顧客を知らない限りは、モノは売れません。ハードシステムがどうとか、店舗とオンラインがどうとかという点よりも、お客様が何を求めているかを想像したり、理解しなければいけません。

例えばサイトだけでなく新興ECソリューションの一つとして、FacebookやInstagram上でショップが作れるのですが、お客様の視点ではどこで買っても“買う”という行為は変わりません。ただ、お客様が「欲しい」と思った時に買えるものを用意できるかどうかはすごく大事なことです。

今までのマーケティングやECの世界では、多くの担当者が「この機能を付けたら売れる」とか「この施策をすれば売れる」といった利益のための手段や手法を追求し過ぎていたと思います。コロナ禍によってお客様の情報収集レベルが上がったいま、お客様自身にとって魅力的な商品、本当に買いたいと思うものを買えるかどうかが重要となります。ビジネスの全体最適をちゃんと俯瞰した上で、どういったお客様に、どういった価値を提供していくのかが大切です。

「どうすればお客様は喜んでくれるか」考える時間をいかに持つかが重要

――コロナ終息後に筋力のあるEC事業者となるために必要なことなど、最後に読者に向けたメッセージをお願いします。

川添:状況的に厳しい立場にある小売りや飲食店などは、それでもビジネスに向き合って様々な工夫で利益を得なければなりません。物理的な制約や抵抗がある時には、対面でなくても顧客と連絡が取れることがビジネスの生命線です。しかし、日本の商売では「顧客台帳が命」という感覚があったはずですが、今ではかなり薄れてきている印象があります。

お客様には新規客とリピート客の2種類が存在しますが、実はリピート客が継続してくれなければ企業は利益を得られないということを腹落ちすることで、その重要性をより深く理解することにつながります。

では、リピート客を増やすためにはどうすればいいのか。大きく分ければ新規客からのリピート、リピート客からのリピートの2つのパターンがあります。それぞれに対して様々な施策を実施して、その効果を検証することを繰り返して改良する、いわゆる「PDCA」を実践することが重要です。「忙しいからできない」というのは言い訳にはなりません。周りの情報に振り回されて、「結局何も分からないから何もやらない」ということは脱して、「まずはやってみよう」と行動に移さなければなりません。

また、新しくチャレンジしたい場合の情報は色々な所に転がっています。やみくもに新しいことをやるのではなく自分たちの存在意義も含めて、自分たちのビジネスやお客様をもう一度振り返ることに取り組むべきだと思います。そこからの発見(ニーズ)に対して、改善や新しいことに取り組む方が合理的です。

河野:“データ”と言葉で言うと巨大なものを想像しがちですが、一人一人のお客様とのやり取りとりを記録することから始まります。個々人に最適なサービスを提供することがおもてなしであり、それを可能にするのは記録されたデータです。データを活用するには“考える”というプロセスが重要です。

どうすればこのお客様は喜んでくれるだろうかという、その“考える”プロセスの時間をひたすら作っていく必要があり、そのためにデジタルツールを駆使することが有効になります。

日々の作業で自動化できる部分を徹底的に自動化し、そこから得られた余剰時間を徹底的に考えることに費やす、その考える時間こそが自分たちが誇れる魅力的な要因や価値になると思います。それを継続し続けること、頭を捻り続けることがある意味筋力になると思います。
川添 隆 氏
ECエバンジェリスト 

1982年生まれ、佐賀県唐津市出身。
全国のEC担当者を応援し、ECビジネスの可能性を伝えるECエバンジェリスト。
企業再生を2社経験し、EC売上2倍以上に携わったのは5社。
株式会社ビジョナリーホールディングス(メガネスーパーの親会社)執行役員としてデジタルに関わる全てを統括。代表を務めるエバン合同会社では小売企業、B2Bスタートアップ、D2Cブランドへ小売✕デジタルやEC領域のアドバイザーに従事。
河野 貴伸 氏
株式会社フラクタ 代表取締役社長 

1982年生まれ。東京の下町生まれ、下町育ち。
2000年からフリーランスのCGデザイナー、作曲家、webデザイナーとして活動。
美容室やアパレルを専門にWebデザイン・ロゴ・パンフレットなどの制作を手がける。
「日本のブランド価値の総量を増やす」をミッションに、ブランドビジネス全体への支援活動及びコマース業界全体の発展とShopifyの普及をメインに全国でセミナー及び執筆活動中。

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