デジタルシフト時代の小売りビジネス最前線 #03

マーケターの伴大二郎氏が解説する国内外の小売業界におけるトレンド、テクノロジー活用事例。前回のコラムで解説した「物」×「人」をつなぐ「場」の3つの効果。実際に「場」をうまく作り上げている海外企業を例にとって解説していく。

伴 大二郎 -Daijiro Ban-

株式会社オプト エグゼクティブスペシャリスト パートナー 兼 OMOコンサルティング部 部長
小売業界においてCRMの重要性に着目し、一貫してデータ活用の戦略立案やサービス開発に従事した後、2011年にオプト入社。マーケティングコンサルタントを経て、2015年よりマーケティング事業部部長として事業拡大に向けた組織作りに着手。マーケティングマネジメント部やOMO関連部門等々を立ち上げ、統括しながらエグゼクティブスペシャリストという立場から社内外への発信活動も担務。  

■キュレーションメディア店舗はニューリテールの最適解となるか?

第1回のコラムでは、オンラインビジネスの強みを活かしてオフラインに進出しているAmazonやアリババについて、第2回のコラムでは、デジタルの「情報流」をうまく使い熱狂的ファンを増やすD2C企業について書かせていただいた。

D2C企業が増える中で、2017年にWalmartがメンズウェアブランドBonobos(ボノボス)を351億円で買収するなど、トラディショナルなリテール企業が「集客できる強いブランド」を欲している。一方、D2Cブランドはスケールの為にリアル進出を進めている状況だ。

しかし、ただ店頭に並んでいるだけのD2Cブランドが魅力を発揮する事はない。D2Cブランドが支持される理由は「課題解決プロダクト」と「ストーリー」の相乗効果であり、それが「消費者に新しい価値」を提供するからだ。それは創業者の思いや、サスティナブルな課題への解決策の提案、日常生活のちょっとしたアップデートだったりするのだが、その「ストーリー」が伴わない販売手法では、本来の魅力が十分には伝わらないのが実情だ。

そこで生まれているのが、「体験」と「ストーリーテリング」を提供するキュレーションメディア型の店舗である。
今回は様々な特徴を持つキュレーションメディア型店舗の特徴を紹介すると共に、私自身がそこでの体験を通して感じた課題について述べたい。

■テクノロジー活用に優れた「b8ta」

まずは、メディア店舗としてのビジネスモデルで店舗数を拡大している「b8ta(ベータ)」からご紹介する。

b8taは主に斬新なガジェットを集めている店舗だ。店内行動はカメラでトラッキングされており、どの商品の前で何人の人が立ち止まったか、商品を手に取ったか、画像の説明を見たか、購入したかといったデータを取得している。店舗に配置されているスタッフも売る事が目的ではなく、そこにある商品のストーリーや使い方を伝えるのが役割である。

米百貨店Macy'sからも出資を受け、Macy'sの中にも出店している。b8taは、2018年には他の小売りに対し、自社のRetail-as-a-Service(RaaS)を解放し、2019年には小売業者と百貨店とショッピングセンターなどの大家が独自のRaaSコンセプトを運用できるようにするテクノロジープラットフォーム Ark Marketplace を発表した。
またロサンゼルスには、「FORUM」というアパレル業態をスタートさせた。
FORUMはローカルやサスティナブルなD2Cブランドを集めている。店員の説明を受け、気に入った服のサイズや色を選ぶと、RFID(非接触タグ)で管理された服が試着室に自動で運ばれるという体験で、顧客がストーリーを感じながら購入できるよう設計されている。私も店員の説明を聞きながらそれまで知らなかったブランドの服を購入した。D2Cブランドとユーザーを価値観でマッチングさせる場としての役割を果たした事になる。ガジェット縛りだったb8taのアパレルへの進出はこれから注目したい所だ。

なおb8taは、ベンチャーキャピタルEvolution Ventures(本社:米国サンフランシスコ)と合弁でb8ta Japanを設立し、2020年夏に日本市場へ参入する。新宿マルイ本館、有楽町電気ビルへの2店舗同時出店を予定している。

■今、最も話題の「Neighborhood Goods」

ストーリーテリングにさらに特化したのが「Neighborhood Goods」(ネイバーフッド・グッズ)だ、テキサス州ダラスの1号店に続き、2019年12月にニューヨークのチェルシーマーケットに2号店をオープンし、今最も勢いに乗っている企業ではないだろうか。
店舗スタッフは、「ストーリーテラー」として位置づけられていて、顧客に対しフレンドリーに各ブランドのストーリーを伝える役割がある。実際に店舗に赴いても、売りつけられている感覚は微塵もない。専用アプリではセルフ決済が出来るほか、チャット機能を通じてスタッフに質問をしたり、店内に併設されたレストランまで商品を持ってきてもらうこともできる。(残念ながらOPENしたてのニューヨークの店舗ではこの機能は使えなかった。)

1月に米ニューヨークで開催されたNRF(全米小売協会(NRF)が主催するリテールや流通業界を対象とした展示会)でも、Neighborhood Goods創業者のマット・アレキサンダー氏が「Neighborhood Goodsは、モノを売る場ではなく、『ブランドコミュニケーション』『テストマーケティングの場』『地域コミュニティーのハブ』を提供している」と発言しており、賛同するD2Cブランドも多いと言う。またマット氏はインスタグラムにも度々登場し、インスタ映えする店内と取り扱いブランドの投稿をするなど、SNSの情報伝達力を上手く活用しているのも特徴だ。
インスタグラム、アプリ、リアル店舗、店舗スタッフ、地域コミュニティーを巧みに連携しストーリーテリングするNeighborhood Goodsは3号店の出店も企画しており注目である。

■「SHOW FIELDS」と「STORY」から見るキュレーションメディア型店舗の課題

これらのキュレーションメディア型店舗に期待しつつも、ストーリーとプロダクトを結びつけるという事の難しさも感じるのが現状である。

自ら「Most interesting store」と称する「SHOW FIELDS(ショーフィールド)」で、私は最高の体験と残念な体験の両方を味わった。SHOW FIELDSは役者がショーをしながら店内をめぐり商品を紹介してくれる店舗なのだが、大前提として、予約しなければこのショー体験は受けられない。実際に予約をして店舗に行ってみたが、一回目はこのショーを楽しむことができた。しかし、3か月後に再び行った時は1回目より、ショー自体も、紹介されるプロダクトも面白味にかけた。また最近は予約せずに行ってみたが、終了間際の文化祭のように、ただ派手な装飾のなかで物を見る体験となってしまった。

SHOW FIELDSを小売りと考えるかは議論が残るが、体験や時間に制限がある事や、1度体験したら2回目以降の体験価値が落ちてしまうこと、そもそも興味があるかわからない物の説明を受けなければいけないショー形式であることなど、再び店舗を訪ねるモチベーションがあがらないのは、POP‐UPならまだしも固定した場所を持つ小売りとしては改善すべき課題なのではないだろうか。
また、毎回独特のストーリーに基づきキュレーションする「STORY(ストーリー)」もMacy'sに買収され、Macy's内で展開するようになって以降、あまり上手くいっていないように思える。少なくとも私は3回行って、その内1回はキュレーションテーマの切り替え中でやっておらず、残りの2回もただテーマに沿った商品が並んでいるだけのゾーンになってしまっていた。
SHOW FIELDSにしてもSTORYにしてもテーマや時期によって、当たり外れがあるのだろう。私の周りの人に聞いてもその賛否は分かれる状態だ。ガッカリ体験は再来店を遠ざけてしまう。キュレーションメディア型店舗の魅力はそのキュレーション力とストーリーテリング力にあり、面白く新しいストーリーを作り続けられるかが重要になるだろう。
まだ正解が見えていないキュレーションメディア型店舗。ビジネスモデルとしては面白いし、サスティナブルやローカルなど新しい価値観が生まれる中で、私自身もFORUMやNeighborhood Goodsで、新しいブランドと出会い、ストーリーに共感して購入している、この体験は買い物の楽しさが詰まったものであり、これからの展開が最も楽しみな小売りの形である。

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