プラットフォーマー研究

デジタル時代に銀行はどう生き残るのか【みんなの銀行 横田氏×GMOあおぞらネット銀行 金子氏】

金融再編、異業種からの金融業参入、DX加速――。銀行を取り巻く環境は、目まぐるしさを増すばかりです。この変化の激しさは、おおよそ150年前、日本に銀行が生まれて以来の大きなうねりとも言えるでしょう。金融業界にもグローバルの視点が欠かせなくなったいま、日本の銀行がさらなる飛躍と進化を遂げていくためには、どのような心構えで臨む必要があるのでしょうか。
今回、ふくおかフィナンシャルグループ傘下であり、日本初のデジタルバンクとして2021年5月にサービスをスタートした、株式会社みんなの銀行 取締役頭取である横田 浩二氏と、「No.1テクノロジーバンク」を標ぼうし、既存銀行にはない革新的なサービスを矢継ぎ早に生み出し続けている、GMOあおぞらネット銀行株式会社 代表取締役会長 金子 岳人氏の対談が実現。長い歴史とドメスティックな環境で閉ざされてきた日本の銀行に風穴を開けようとするお二人に、未来型の銀行について語っていただきました。

ざっくりまとめ

- 日本に銀行が誕生して以来となる大変革の時代が到来。

- 従来の銀行の時間軸で進めていたら負けると感じたことが、新しいデジタルバンク「みんなの銀行」をつくる契機に。

- 金子氏は「銀行は黒子となり、銀行機能は生活に溶け込んでいく」と話す。

- FinTech企業ではなく、銀行からテクノロジーにアプローチする魅力を発信し、若者が夢を抱けるような新しい銀行を目指したい。

銀行もフラットかつアジャイルでなければ生き残れない時代に

―100年に一度の大変革期といわれている金融業界のいまを、お二人はどのようにご覧になっていますか?

横田:私は銀行に入って39年になります。1982年の入行当時から思い返せば、日米貿易摩擦、85年のプラザ合意、90年代のバブル崩壊、2008年のリーマンショックと、金融業界は節目ごとにグローバル規模で大きな出来事に見舞われてきました。そして、2021年のいまは、「デジタル化」「グローバル化」の流れに加え、「中国の台頭」が世界経済に大きな構造変化を起こしており、銀行もまた構造変化に直面していると見ています。

日本の銀行は、戦後からずっとルールにはまった仕事ぶりが求められてきました。しかし、デジタル化が進むいまは、従来のやり方から変わらざるをえません。なにせ、来月のことさえ読み切れないスピードで変化する世の中になりましたから。このような状況下で1年先のベストな選択をするのは難しい。銀行もフラットかつアジャイルでなければ生き残れなくなってきたと感じています。

―金子さんはIT業界を経験されてから銀行事業の舵取りをされていらっしゃいますが、思うところはまた別にあるのではないでしょうか?

金子:そうですね。銀行のシステムという観点からお話しすると、東京オリンピック当時に始まったシステム開発は、1990年前後には第三次まで進みました。このシステムは中央集権型で、均一かつスピーディに大量のデータをさばけるものであり、当時は世界のなかで最も優れた最先端のアーキテクチャだったと思います。ところが、1995年あたりにインターネットが出てきたことで世の中は大きく変わり始めます。2000年にはほとんどの人がインターネットを介して自由に情報を仕入れたり、ものを買ったり、お金を動かしたりできる世界が来てしまいました。急速に広まったインターネットですが、日本の銀行は素晴らしいシステムをつくってしまっていた手前、即時の転換がしづらかったのでしょう。これまで最先端と言われてきたものを壊してまで、すべてをインターネット上に載せることがためらわれた。それがいまになって響いているのではないかと思います。

さらに、いま起きている変革はもう一歩先をいっています。FinTech企業が銀行と同じようなサービスを始めており、彼らと戦う、もしくは協業するためには銀行のモデルそのものを変えなければならない、そんな世界に突入しています。この動きはコロナ禍で一気に加速することになりました。その点、横田さんのところは、あえて新しい銀行をつくって、従来の銀行ではできないことを自由に構築しようと発想されていますよね。当社のように畑違いのインターネット企業から参入してくるのも一つの変革のあり方でしょうし、メガバンクも自行のなかで変革を進めています。いろいろな形で新しい方向に向かいつつあると思っています。

従来の銀行の時間軸では負ける。背水の陣で模索した、デジタル時代の新しい銀行の形

横田:金子さんのおっしゃるように、我々はデジタルを多分に誤解していたように思います。一つは、この大きな流れのなかで我々も先進的な技術を取り入れていると思っていたことです。つまり、デジタルとは「チャネル」のことだと捉えていたんですね。しかし、2009年頃に米国でネオバンク、チャレンジャーバンクと呼ばれるサービスが登場し、2015年にジェイミー・ダイモン(JPモルガンCEO)が「シリコンバレー・イズ・カミング」と言い始めたところで、ようやく思い違いに気付きました。デジタルの燃料は「データ」だったのです。

―こうした環境の変化や気づきが、銀行のデジタル化につながったわけですね。

横田:はい、AmazonやNetflixのビジネスモデルを考察しているとよく分かります。彼らはデータを使って価値を生み出しています。世界中のインターネットをつないでストリーミング配信をしたり、クラウドサービスを運営したり。Netflixはレンタルビデオ業界をサブスクリプションサービスによって塗り変えてしまいました。銀行にもこれくらいの変革が起こることを踏まえるなら、ビジネスモデルをデータドリブンかつコネクティビティ、さらにはカスタマーエクスペリエンスなものに一足飛びでつくり替えなければならない、と考え始めました。

―構想はいつからあったのでしょうか?

横田:2016年4月にiBankマーケティングという会社をつくり、そこで銀行業務の調査を進めていました。すると、1年も経たないうちに社員から「このままでは、我々は生き残れません」と進言があったんです。ベンチャー企業が命を懸けて金融業界に参入しようとするなか、従来の銀行の時間軸で進めていたらお客様は全部取られてしまう、と。かたやシンガポールのDBS銀行は、リーマンショックの2か月前からDXに着手し、7年後の2016年には“世界一のデジタルバンク”の称号を手にしました。そんな情勢のなか、我々がいまから同じ時間をかけてDXを始めたところで勝負は見えています。どう太刀打ちしようかと考えたとき、ヨーロッパでは新たにライセンスを取得し、まっさらな銀行をデジタルバンクとしてつくられていることを知りました。そこで、いっそのこと我々も新しい銀行をつくろうと。

140年続く老舗銀行がつくり出した、銀行らしくない銀行

―そうして生まれたのが、「みんなの銀行」なのですね。組織のつくり方を含め、従来の銀行とはまったく違う形を意図されたとか。

横田:商品やサービス、事務に至るまでクラウドを前提に、カルチャーもシステムもまったく新しいものになっています。人材においては、データサイエンティストやマーケターをはじめ、エンジニア、デザイナー、オペレーターといった職種の方にどんどん仲間になってもらいました。現在の社員は160名ほどですが、銀行からの出向者は4割、残りの6割はキャリア採用です。40歳未満の、いわゆるデジタルネイティブな人材が多いですね。デザイナーと一緒に仕事をするなんて、40年前は思いもしませんでした。

―「みんなの銀行」アプリは、UI/UXにたくさんの工夫が見られますよね。

横田:デザイナーがしっかりつくり込んでくれたことは、一番ありがたかったですね。お取引先などから「銀行らしくないものができていますね」と言われると、とても嬉しいです。私が自分の感覚で口を出していたら、こうしたアウトプットも周囲からの声も、まず生まれなかったでしょう。これは、まさにデザイナーの力だと思います。

―5月の開業から半年が経ちます。足元の状況はいかがでしょうか?

横田:11月末時点で、約20万口座を開設いただいています。ターゲットとしていたミレニアル世代、Z世代を中心に40代以下のお客様が7割を占めています。お住まいのエリアは北海道から沖縄までまんべんなく。そのうち首都圏の方は42%いらっしゃいますが、これは「デジタルネイティブ層は首都圏に4割いる」というデータとも重なります。リファラルマーケティングが奏功し、インフルエンサーがアーリーアダプトしてくださった点も目論見どおりでした。なかには、SNSの投稿が相当数リツイートされた方もいらっしゃって。SNSは、アメリカの政権を変えてしまうほどの力を持っていますが、その片鱗を目の当たりにしたような思いでした。とはいえ、早く立ち上げることを優先し、アジャイル開発に近い形で進めてきたので、現状はミニマムなサービスに留まっています。お客様に刺さるサービス、銀行らしくないサービスを早く増やしていきたいですね。みんなの銀行は、ふくおかフィナンシャルグループのなかでは探検隊のような位置付けなので、身軽な装備でスタートして短期間にスケールさせることができればと思っています。

銀行はなくなっても銀行サービスはなくならない、届けるのは名前ではなく価値

―GMOあおぞらネット銀行もインターネット銀行として2018年にスタートされていますが、自社のポジショニングをどう捉えていますか?

金子:我々は銀行をデジタル化するのではなく、インターネット企業が銀行サービスをするという考えに立脚しています。なので、あくまでも、なくならないのは銀行サービスであり、銀行自体はその存在が前面にある必要はないと捉えています。当社のコンピテンシーであるテクノロジーと照らし合わせ、インターネット企業の常識をもとに、インターネット企業として我々がお届けしたい「安心」「速さ」「安さ」「便利さ」「新体験」という“5つの価値”すべてを、ユーザーにナンバーワンでお届けすることがネット銀行開始以来の信条です。ですから、デジタルの世界にあるのは銀行サービスだけでもいい。資金を移動する、貯める、援助するといったシンプルなファンクションが事業者のサービスに簡単に組み込まれていくような世界を目指しています。その結果、GMOあおぞらネット銀行という名前はいずれ表に出てこなくなるときが来るかもしれませんが、“5つの価値”をユーザーに感じていただけるのならそれでも構わない。我々のファンクションがよりシームレスに使われる世界を、IT技術を駆使して研ぎ澄ましていきたいと考えています。

―開業から4年目を迎えられ、現在は『第二創業期』と位置付けられています。ここまでの道のりはいかがでしたか?

金子:一言でいうと順風満帆ではありませんでした。後発の銀行ということもあり、高い壁があったと思っています。それは組織体制であり、ファンクションであり、圧倒的な資産力やシステム装備でもあり、銀行は規模感で勝負している側面があることを知りました。この牙城を当社社員約160人で切り崩していくことは、なかなか難しい。理想を追求するべく法人・個人のお客様双方に向けたサービスでスタートしましたが、二兎は追えなかった。一度原点に戻り、“黒子の銀行”になろうと舵を切り直したところです。具体的には、法人のお客様を介してコンシューマーにサービスを展開するという戦略に切り替えました。GMOインターネットグループのノウハウも持ち合わせる銀行という強みを活かして、当社もそのスタンスが望ましいだろうという考え方です。そんなことを考えている最中でコロナ禍になり、我々が数年先に描いていたデジタルの世界が、前倒しで1、2年先に見えてきました。それだけ市場やお客様に変化が生じていますし、コロナ禍前に後戻りすることもないでしょう。この観点からすると、我々はいまの戦略をもっとスピードを上げて推進することが肝になると思っています。

「カスタマーセントリック」に真剣に取り組まない銀行に先はなし

―DBS銀行の話も出ていましたが、グローバルのなかで日本の金融が変わらなければならないのは、どういった部分でしょうか?

横田:カスタマーセントリック、カスタマーエクスペリエンスをどうつくっていくのかが世界の常識になりつつあります。DBS銀行もカスタマージャーニーの流れを汲んでいますし、Amazonも「地球上で最もお客様を大切にする企業になること」を理念に掲げています。これを正面からやっていかないことには先はないでしょう。

金子:私もお客様中心は鉄則だと思います。インターネットは、誰もが公平にサービスをランキングできる世界をつくりました。こうした厳しい環境のなかで戦っていくには、お客様志向でナンバーワンのサービスを提供することが重要です。

横田:さらにこれからは、あるニッチ層にフォーカスして、そこからすそ野を広げていく戦略が有用になると考えます。GMOあおぞらネット銀行もスモール&スタートアップ企業という、スケールするニッチに焦点を当てていらっしゃいます。我々のマーケティング戦略もまずは個人に焦点を当てつつ、そのなかでニッチを狙ってスケールさせていくことを考えています。ニッチには、隣り合うニッチが必ずあるので、次はそこを狙っていく。たとえば、個人から、フリーランスの方や創業を考えている個人事業主につながるような。これを繰り返すうちに個人も法人もない顧客層になっていくでしょう。こうした取り組みは、お客様の声を聞くなかで、できていくものだと思っています。

金子:私から二点挙げるとすると、一つは、「オープン化」です。銀行のファンクションは社会活動のわずかな部分でしかないのに、そこには高い壁がある。だけど、エッセンシャルな役割を持っているので避けることができません。その結果、商品を購入したり、サービスを申し込んだりする場面において、ここまでは気持ちよく進んできたのに、銀行のファンクションに触れた瞬間、昭和に戻るかのような感覚に戸惑いが起こる。今後は、こうしたところを払拭する姿勢が求められていくでしょうし、我々やみんなの銀行のように、デジタルで先進している銀行が変えていかなければならない部分だと考えています。

もう一つは、「分散型の思考」です。中央集権のように絶対的なカリスマが一人いてトップダウンで決定するのではなく、やりたいと思った人たちがパッと集まって「このアイデアいいね、皆でやろうよ」と賛同して、パッと実現できる。そんな分散型の思想が広がらないことには日本の金融はよくならないと思っています。

―GAFAを筆頭に異業種参入も否めません。カスタマーセントリックの先駆者のような存在に、どう対抗していくおつもりでしょうか?

横田:世界最大のスーパーマーケットチェーン、ウォルマートがゴールドマンサックス幹部をヘッドハントしてFinTechに注力し始めていますよね。同社のように「ものを買う」という顧客体験に金融を組み込むことが、最終的にはどの会社も実現したいことではないでしょうか。この流れが必然のなか、実現にあたっては自社でやるのか、それとも他社に声をかけるのかの二者択一です。当社もいずれ訪れるそのときに備え、技術力を磨くと同時に、顧客起点でカスタマーエクスペリエンスを生み出し続けなければ、と思っています。そうすれば、たとえ競合することになっても、または協業先として選ばれることになっても、生き残るための道は拓かれると考えています。

金子:彼らが金融業界に参入するのは時間の問題でしょう。とはいえ、ケンカしないで済む領域はあると思うんですよね。先ほどお話ししたように各社が専門分野を活かした「銀行サービス」を組み込むのであれば、全企業がそろって同じサービスを提供する必要はなく、強みを活かしたいろいろなサービスが勃興すればいいと思っています。これからは生活者が選ぶのは銀行ではなく、事業会社が提供している一部の銀行サービスになることも考えられます。銀行もこのようにして適材適所へと移行していくのではないでしょうか。もしかしたらGAFAの参入がその起爆剤になるのかもしれませんね。

「銀行は面白い」「キャリアになる」を若い世代に発信したい

―ここまでのお話も踏まえ、二行が協業するとしたら、どんな取り組みが考えられますか?

横田:我々が苦労すると思うのが、オープンAPIです。日本は規格化されていないので、全部をオーダーメイドでやらなければなりません。その点、金子さんのところは「sunabar(スナバー)」の名称でオープンAPIの実験場を提供されています。FinTech企業の方々も同じような問題意識を持っていると思うので、こうした部分で連携できるなら日本の金融業界にとって大きなメリットがあると思います。

金子:我々やみんなの銀行が独自にガンガンやって牽引するのはもちろんですが、もっと入りやすく、つくりやすく、接続しやすくしないと事業者までは発展していきません。事業者まで発展しないとなると、日本がデジタル化の遅れた経済圏になり、世界に取り残されてしまいます。これは私も懸念していることです。
私から横田さんへの提案は、銀行員になりたいエンジニアを増やす取り組みです。デジタルバンク、インターネット専業銀行という立ち位置である我々が「エンジニアが銀行に入ったら楽しいんだぞ」「これからのエンジニアは銀行からスタートしないと成長できないぞ」と、声高に言っていきたいなと。

横田:DBS銀行は3万3,000人いる従業員の半分が、エンジニアやデータサイエンティストといったデジタル人材です。いずれ日本もこういう世の中になるでしょうから、若い人たちに、銀行は面白くて世の中のためになる仕事だということを分かっていただけるよう我々も言い続けないといけないですね。

金子:いまは金融とエンジニアを掛け算した人材がたくさん生まれています。けれども、銀行よりも夢があるように思うのか、みんなFinTech企業側に行ってしまうケースが多い。いやいや、決してそんなことはなくって銀行にも夢があるんだ、ということを発信していきたい。若い人たちが「新しい銀行をつくりたい」「新しい銀行サービスをつくりたい」と心から思える業界になることを目指したいですね。
横田 浩二
株式会社みんなの銀行 取締役頭取

1982年福岡銀行入行。ニューヨーク支店勤務などを経て、経営企画部門において経営統合プロジェクトを担当。経営管理部長、執行役員営業推進部長、取締役常務執行役員、取締役専務執行役員、取締役副頭取を歴任。現在は、みんなの銀行取締役頭取、ゼロバンク・デザインファクトリー取締役社長、ふくおかフィナンシャルグループ取締役執行役員を務める。
金子 岳人
GMOあおぞらネット銀行株式会社 代表取締役会長

1986年日本アイ・ビー・エム入社。2010年米国IBMへ出向しVice Presidentとして、金融システム事業やビジネス開発を担当。2011年より日本アイ・ビー・エム専務執行役員として、ソフトウエア事業、グローバルテクノロジーサービス事業を歴任。2017年あおぞら信託銀行(現GMOあおぞらネット銀行)の代表取締役会長に就任。ITに造詣の深い銀行経営者として未来型銀行づくりをリードする。

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