人・組織・リーダーシップ

求めるのは「DXでビジネスを変革できる」人材。社員900名から応募殺到の人気を誇る、大和証券の本格的デジタル人材育成制度を徹底解剖

コロナ禍で企業が生き残っていくために欠かせないDX。しかし一言でDXと言っても、それを進めていくデジタル人材の不足に悩む企業が多く、国も企業も、いかにデジタル人材を育てていくかが最大の課題となっています。そんな中、将来のビジネス環境の変化を見据え、コロナ前から着々とDX人材の育成に取り組んでいる企業の一つが大和証券です。
大和証券は、デジタル技術を活用し、ビジネスを変革できる人材を育成する体系的な制度として 「デジタルITマスター認定制度」を2019年からスタートさせ、全社員を対象に募集しています。初回の応募者は想定を大きく超える900名。全社員の1割を超えていたそうです。それほどまでに社内の注目を集めた制度はどんなもので、どうつくられたのか。また大和証券は、このデジタルITマスター認定制度で、どのようなDX人材を育て、どう活かそうとしているのか。大和証券 執行役員 板屋 篤氏に、10年後を見据えた展望についてお話を伺いました。

ざっくりまとめ

- 10年後を見据え「DXでビジネスを変革できる」人材を育成するために「デジタルITマスター認定制度」をスタート

- デジタル技術が急速に発展する中、我々の将来を担うDX人材がどれだけ必要かを割り出し、バックキャスティングでアプローチ

- DXとAIのコースを用意し、プログラミングや、デザイン思考、データ分析などのカリキュラムをコース別に設定。認定者を処遇する職制である「エキスパートコース」も新設

- DX推進のコツは、トップのコミットメントと、組織の各所にDX人材がいる環境をつくること

- DX人材育成のためには、まずトップが宣言をすることが重要

業務プロセス効率化の成功体験をもとに、デジタルIT人材育成に着手

―まずは御社のデジタルIT人材育成の全体像を簡単に教えていただけますか?

我々は2019年10月からデジタル人材育成のために「デジタルITマスター認定制度」をスタートさせました。現在、本制度に則って、120~130名のDX人材候補が研修中です。制度が始まって2年目ですが、専門研修や実案件など、さまざまな経験を積み、一定の基準を満たした人が「デジタルITマスター」として認定されます。

具体的には、希望者は現場でeラーニングを受け、半年後にスクリーニングを通って正式な人事異動となります。第一期生は2020年4月に54名が発令され実案件に取り組んでおり、二期生74名は今年4月に発令されたばかりなので、実案件への振り分けはこれからです。まだ完全に独り立ちしているわけではなく、サポートを付けて取り組んでいます。

―デジタルITマスターとは、具体的にどんな仕事をする人でしょうか?

デジタルIT推進室と自分の部署を兼任し、部署ごとにデジタルの実案件を担当します。デジタルIT推進室では、新しいスキームなどを支援します。オペレーションの運営などは社内でやりますが、サポートデスクは外部パートナーの協力を得ています。

―では、あらためて、認定制度を始めようとした背景や狙いについて教えていただけますか?

この制度の構想が始まったのは2019年2月ごろですが、間接的なキッカケがありました。2017年当時、私は人事部長として働き方改革に取り組んでいました。それまでは制度的な施策とマネジメント層への意識付けなどが中心でしたが、「働き方改革」をさらに進めるには限界があると感じ、経営トップを委員長とする業務プロセスの効率化プロジェクトを立ち上げたのです。その際に各部署を巻き込む委員会形式で、デジタル化を進めました。各部署の取組みにIT部門の強力な支援も加わり、企画や営業活動以外の管理・オペレーション業務時間の3割に相当する70万時間分(300名相当)の業務時間の削減に成功しました。

そういう成功体験が背景にあり、その次に10年後のビジネスモデルを各部署に考えてもらうようにしたのです。すると共通課題で出てきたのがDX人材不足でした。ただ、どうやって人材を育成すべきか分かりませんでした。その課題を引き取り、デジタルIT人材育成プロジェクトを始めたのです。

社内公募で社員の1割、約900名がデジタルIT人材育成プログラムに集まる人気ぶり!

―10年後のビジネスモデルを社員に考えてもらおうとしたのは、何か危機感を持っていらっしゃったからでしょうか?

弊社には、リテール、ホールセール、投資、財務など多くの部署があり、10年後の変化は共通ではありませんが、いずれにしても現状の延長線上だけでビジネスを続けても、いつかやっていけない、大きな変革を求められることは目に見えています。デジタル技術が急速に発展する中、我々の将来を担うDX人材がどれだけ必要かということから考えました。

弊社は1万名弱の社員がいるので、まず何名ぐらいDX人材が必要なのか、コンサルタントに推計をお願いしました。タイプ別にプロダクトマネージャーやデジタルアーキテクトなどに分けて人数を割り出し、数年後に目標を達成するために、バックキャスティングでどういうやり方があるのかを考えました。

―採用のテコ入れでエンジニア比率を増すというケースもあります。外部から人材を入れるという選択肢はありましたか?

外部採用と社内育成の両輪で考えていますが、システムに強い人材をつくろうとしているのではなく、ビジネスモデルを変えられる人材が欲しいのです。そうなると業務の理解が求められるため、社内の人材にDXの素養を身につけてもらったほうが、ビジネスに精通したデジタルIT人材に育つでしょう。ただ指導側も敏腕というわけではないので、外部にも手伝ってもらい、プロジェクト形式で進めています。

―デジタルITマスター認定制度は公募制ですが、どれくらい応募はありましたか?

高度理系人材が集まると思っていたのですが、リテール営業をはじめ、いろいろな部署から応募してきました。従業員の1割程度にあたる約900名におよび予想を大きく上回る人数になりました。やはりプログラムへの関心が高かったのでしょう。将来に備えてDXスキルを持ちたい、ビジネスモデルを変えられる人材になりたいという人には良い機会だったと思います。

―第一期生は研修と並走して実案件もやられていますが、彼らの反応はどうですか?

手応えは感じていても、まだどうなるか分からない人もいるようです。1年目は専門研修を受けながら、徐々に実案件に入り始めます。2年目から認定に関わってきますが、応募者900名から54名を厳選したので、みんな素養はあります。あとは本人のやる気次第だと思っています。

DXとAIのコースを用意し、プログラミング習得や、エキスパートコースも

―育成コースについて教えて下さい。具体性にどんな人材を育成するのでしょうか?

当初はアーキテクト、UXデザイナーなど5コースなどを想定していましたが、現行は大きくDXとAIに分けており、本人の意向を事前に聞いてから振り分けています。


―研修コンテンツの思想や、制度面や運営面などで何かこだわりはありますか?

バックキャスティングで制度をつくったので、最初は細かいことまでは決めず、専門研修も、まさに走りながらつくりました。研修スタートにコンテンツ作成がギリギリ間に合ったと思ったら、コロナの影響で集合研修を急遽オンラインに切り替えることになり突貫でつくり直しました。とにかく方向性だけ決め、少しずつPDCAを回し、アジャイル的に調整しました。デジタルITマスターに認定された人が、次の職制に移れるように、今年の4月には通常の総合職とは異なる「エキスパートコース」も新設しました。

―やってみて想定していなかった発見や、見えてきた課題などはありましたか?

昨年後半に組織全体のDX診断を実施したのですが、その結果から全社員のリテラシーの底上げが必要だと分かりました。マネージャークラスは、DX人材にはならないとしても、少なくともマインドは持たなくてはいけない。部下のためにも、やはりマインドセットが求められると思いました。

社内には高いITスキルや専門知識を持つ部門もありますが、やはり他社と比較すると、それほど優位ではないスキル項目があることも分かりました。そこで、デジタル人材育成の全体施策を整理し直しました。

―トップラインを通じ、全社員のデジタルビジネスのリテラシーを上げる戦略ですね。

そうです。牽引する人材を創出し、デジタルITマスターが社内に増えると、上司もマインドを変えなければなりません。とにかく、まずは宣言して、あとは実行できるかどうか。つくりながらやっていけば、必ず何かしら形ができると考えています。

組織全体にDX人材を置きながら、少しずつ企業カルチャーを変革

―デジタルIT人材育成に関するロードマップは何か描かれていますか?

そういう話はよく聞かれますが、あまり決めていないです。デジタルIT人材育成制度はあくまで手段で、目標は「デジタル技術を活用して当社のビジネスを変革すること」を実現することですので。お金や労力など費用対効果の話もありますが、逆にお金が掛かるから、やらないという選択肢はありません。必要だからこそのプロジェクトであって、経営トップから社内に向けて「やるんだ」と宣言してもらっています。

そうすると関係部署も進めやすいのです。もちろん社員のモチベーションも上がります。DX人材の必要性が広く説かれる中で、この分野で何もしない会社には魅力がないと社員は感じるのではないでしょうか。社員から会社がどう見えるかを大事にしているので、真っ先に社内で情報を発信しています。

―経営陣の巻き込み方については、どのようにアプローチしたのですか?

DX人材は、ビジネスモデルを変革する人材の育成ですので、システム部門の話ではありません。多くの部署でのコンセンサスが必要ですから、まず経営トップの理解を得て、方針を明確にしました。幸い弊社の社長は新しいことに果敢に挑戦していく人なので、むしろお尻を叩かれる状態ですね(笑)。おそらく他社であっても、トップが社内に宣言すると多くのことは進むでしょう。

どんな業界でも今後DXが進展するのは分かり切ったこと。だから社員も同じだけ苦労するなら、新領域でチャレンジしたいと感じています。あとはそういう環境を会社が用意できるかどうかです。すぐに利益は期待できませんが、それでもチャレンジするのは、新たな変革を進めなければ、将来は本当に食べていけなくなるという危機感があるからです。

DXを進めるために大切なことは三つあり、まず「トップのコミットメント」が重要です。二つ目は「外部の知見を活用」すること。社内だけで実現できるなら、もうとっくにやっています。三つ目は「人材育成制度をきちんとつくる」こと。そういう人材が求められているという、社員へのメッセージにもなります。この中では、トップのコミットメントが一番大事ですね。

―我々の読者もDX人材が重要だと考えているのですが、社内で実践するためのキモや、逆に落とし穴があれば教えて下さい。

一つはコミットメントを得る大前提として、経営トップと一緒に考えることですね。次に人材育成プログラムをつくって、社内のあらゆる部署でスケール感をつくりだすこと。一部でコツコツ始めても、いつまでも目的にたどりつけません。DX人材が組織内のあらゆる部署に増えていき、ティッピングポイントを越えた時、その活動は全社員の日常的な取組みとなり、「企業カルチャー」として根付いていくことになると考えています。

一ヵ所に集めて人材を育成しても、全社的なムーブメントは起きないので、遠回りに見えても組織や部署に配置し、そこで業務を回しながらデジタル人材のトレーニングをしています。もちろん集中的に始めたり、別会社をつくったりしたほうが良いのではないかという議論もありました。しかし現在はハイブリット型の方針に落ち着いています。正解は分かりませんが、企業カルチャーを少しずつでも変えるために、DX人材のいる状態を組織的にどうつくるかがキモです。

まず宣言から入って目標を明確化! DX人材の育成には発想の転換が必要

―将来のビジネスにおける展望など、今後の話についてもお聞かせ下さい。

現在も社内に向けて、デジタルIT人材育成の目的を明確にアナウンスしています。本当に求めているのはDXを活用した新しいビジネス変革です。最終的にはCX(顧客体験)とEX(従業員体験)の両方を向上させるために、顧客満足度の向上にしても業務の効率化にしても、従来のような力技ではないデジタル技術の活用が必要になります。それを各部署で実現することが展望の一つですね。

―最後の質問ですが、成功するDX施策には理由があると思います。ただ大企業ほどすぐに変化できず、悩まれていることも少なくない。御社が実現できた秘訣はなんでしょうか?

秘訣は、シンプルなことですが、まずは宣言することでしょうか。スポーツでも「何となく走っていたら100m何秒で走れた」という選手はいません。やはり「こうなりたい」という目標やビジョンを示すことが大事。宣言すれば、いつまでに、どうするべきかという点がクリアになって、協力してくれる部署や人もアサインしやすくなります。

だからDXの進め方に悩まれている方々は、いまの話と逆に「どんな部署が必要で、どういう手順ならできるのかな?」と踏み留まっているだけだと思います。「まず、とにかくやります」と宣言し、制度設計の順番を変えていく。順番が少し違うだけで、我々も同じことをやっているだけなのです。
板屋 篤
株式会社大和証券グループ本社・大和証券株式会社
執行役員 
企画副担当 兼 IT・オペレーション副担当

1970年生まれ。1992年、東京理科大学理学部卒業。同年、大和証券入社。
2014年大和証券グループ本社人事部長、2019年同社人事副担当 兼 企画副担当などを経て、2021年4月より企画副担当 兼 IT・オペレーション副担当(現職)。
大和フード&アグリ(※)などの取締役も兼任。

(※)金融ノウハウを通じて農業・食料分野におけるビジネス創出や社会課題の解決に向けた事業を行なう。

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