DX戦略

日米政権交代で社会が新しい方向性に進む変化の時、イノベーションを生み出す経営者に求められる素養とは。田中道昭教授が切り込む。

社会環境・ビジネス環境が激変する中、全ての産業でデジタルシフト、DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が叫ばれています。今回は、2020年7月1日に社名変更を行い、広告代理店からデジタルシフト支援事業を中核に構造改革を行ったデジタルホールディングス グループCEO野内 敦氏に、立教大学ビジネススクール田中道昭教授が対談形式でお話を伺います。

後編では、ベンチャーキャピタリストとしても成果を出している野内氏が考えるスタートアップ投資の基準、経営者に求められる要素を伺うとともに、CES2021の内容を元に、デジタルシフトの先に社会がどんな変化をしていくのかお話ししました。
*本稿は対談の要旨であり、実際の対談内容は動画をご覧ください。

日米政権交代で社会が新しい方向性に進む変化の時、イノベーションを生み出す経営者に求められる素養とは。田中道昭教授が切り込む。

成功するスタートアップの4つの条件とは

田中:今日のテーマの中で、野内さんのキャリアを踏まえ一番お伺いしたいのは、デジタルシフトへの投資の部分です。様々な会社に投資をしてきて、高いリターンをあげていらっしゃいますが、ベンチャーキャピタリストとしての秘訣を伺いたいです。

投資をされる時、ビジネスモデルや戦略に投資をするという人もいれば、人に投資するという人もいて、様々な考え方があると思います。野内さんがベンチャーキャピタリストとして、またジェネラルパートナーとして、どんなところを投資のポイントに置かれているのでしょうか。

野内:投資を始めたときから変わっていないポイントが四つあります。最初に見るのはやはり市場です。市場というのは、顧客のニーズがあるか、そこに求める人がいるのか、どれくらいいるのかの部分です。まずニーズはあるのか、そしてそのニーズは潜在的なものなのか顕在化されたものなのか。それによっても違ってきます。潜在ニーズにはすごく時間がかかりますが、顕在化されていれば、それは人々に気づいてもらうだけです。その時間軸を考えながら市場を見ます。

それからビジネスモデルですね。私は力学に反したビジネスモデルは難しいと思っています。例えばメリットを受ける人がお金を支払うという状態は非常にバランスが取れています。お金が複雑に回っていて、違う人がお金を払う新しいビジネスモデルも存在しますが、基本的にはそのバランス、物理学的に力学に沿ったビジネスモデルかどうかを見ていますね。

田中:そうですね。やはり顧客が実際にお金を払うかどうかをリアルにイメージできることは重要ですよね。

野内:そうですね。これはカスタマーセントリックと同じかもしませんが、顧客のニーズがあってお金を払う人が増えれば、サービス提供者が増えるという拡大モデルは、ビジネスモデルの基本だと思います。

田中:確かにそうですね。スタートアップの事業計画書を見た時に、まず一番重要なところはその点ですね。

野内:そうですね。最近その仕組みが複雑なものも多く、受益者と違う人がお金を払うというケースも結構ありますので、そういうところを見させて頂いています。あとの二つは、人のところでして、やはり経営者と経営チームです。

経営者に関して言うと、もちろん人柄もありますが、「本当にその事業をやりたいのか」という情熱の強さを見ています。やりたい人は絶対やめません。ですから、その情熱を見ています。

最後に、経営チームは、そのチームの能力というよりも、経営チームを作れるCEOの力量を見ています。経営チームを作れる人というのはどういうことかというと、人から担がれる人です。担がれる人は経営チームを作ることができる、そういう見方をしています。

中には、優秀でも担がれない人もいます。そうすると経営チームをなかなか組織できず、その CEO のサイズ感といいますか、能力までしか会社を大きくできません。会社というのはやはり色々な力を合わせてやるものです。 CEO がいて、チームがいて、チームがCEOを担いでいるかどうか。この辺りを見させていただいています。全て揃う必要はありませんが、そういう視点で判断をしています。これはもう投資を始めた時から変わりません。

田中:なるほど。その四つを起点に投資をされてきて、四つとも優れた会社はズバリどこだったのでしょうか?

野内:上場している中ですと、ラクスルがまさにそうでした。四つ揃っている会社はなかなかありませんが、ラクスルは本当にこの四つが全て揃っていましたね。ただ、どこかが秀でていれば、必ず成功されます。

田中:せっかくなので投資先でもあるラクスルを事例に、投資の分析をしていただくとすると、ラクスルに投資する時点で、まず市場というのはあったのでしょうか?また、その市場は顕在化していたのか、あるいは潜在的なものだったのでしょうか。

野内:ラクスルは、実はまさに今盛り上がっているDXを、私たちが投資をはじめた2014年当時から掲げていました。印刷業は衰退産業で、年率数%くらい沈んでいく市場でした、その中でデジタル化(EC化)が進めば効率化でき、産業自体を回復できるということを、あらかじめ市場と顧客のニーズとして捉えていらっしゃいましたね。

田中:だからそこを狙っていったと。

野内:マーケットは大きかったので確実にニーズはある。その上で、印刷のアイドルライン、使われていない工程を彼らが束ね、オンラインで印刷を行うバーチャルな印刷工場を持つという仕組みです。まさに今デジタル化、デジタルシフトで言っているような本丸の事業モデルです。そこは非常に素晴らしかったと思いますね。

田中:今やそういうところだけではなくて、既存事業を基点にテレビCMのDX化も手掛られていますが、そこも最初から見据えていたのでしょうか。

野内:いや、そこまでは全く読んでいなかったです。印刷だけである程度いくだろうと思っていましたし、とはいえ彼らは上場前から新しい事業の準備に入っていました。一貫しているのは、デジタル化されてない産業に対してプラットフォームとしてデジタル化を仕掛けていくという部分です。そこは本当に参考になりますね。

田中:ラクスルは、思い入れの深い投資先の一社ということですね。

そこに情熱はあるのか。経営者に求められる素養とは

田中:四つの基準の中で、経営者の部分についてお伺いしたいのですが、不動産の世界で「ロケーション・ロケーション・ロケーション」というのと同じくらい、アメリカのスタートアップでは「マネジメント・マネジメント・マネジメント」という観点が重要視されています。

そこで意味するマネジメントというのは、経営者、さらにはその経営者がこれからやっていこうとしている事業に強みを持っているか、です。「経営者がどうなのか」という点は、実はビジネスモデル以上に問われています。そういった意味では、特に経営者、CEO自体については、投資する時点でどこに着目されているのでしょうか。

野内:経営者、CEOについては、先ほども申し上げましたけれども、やはり情熱です。その領域でなぜ事業をやっているのか、なぜ続けたいのか、なぜ成功したいのか。それには理由があるわけです。一番ダメな理由は儲かりそうだからというものです。そうではなく、こういう負を解決したいと情熱を持って言えること。そういう方は手段を変えてもそこに向かうと思うのです。少しファジーな言い方になってしまいますが、そこに情熱や思い入れはあるのか。それがあれば、時間がかかったとしても必ず成功すると思います。

田中:そこに愛はあるのか、とも言えるのでしょうか。

野内:そうかもしれません。

田中:まさに自分がやろうとしていることに、愛や情熱はあるのかということですね。

野内:そうですね。「経営者の覚悟」や「コミットメントの強さ」のような言い方もしますが、やはり「それを本当にやりたいんですか?やりたいのであれば一緒にやりましょう」ということです。それはまさにうちのグループの中でいろいろな事業をやっていく人たちも全く同じだと思っています。思いついたからやるのではなく、本当にそれをやりたいと強い想いを持つ経営者・事業は、きっと成功すると思います。

田中:なるほど。非常にスマートなイメージの野内CEOですけれども、情熱という言葉が出てきてすごく安心したというか。そこはやはり元々の、旧オプトグループから根付いている良さでもありますよね。今日はカスタマーセントリックという言い方をしていますが、本当に顧客の側に立って様々な仕事をしてきて、熱い情熱を持っていらっしゃるということですね。

野内:そうですね。多分、当社の特徴でもあります。

田中:良いことですよね。

野内:かつてはクライアントファーストという言い方で事業を展開していましたし、そこは変わらず、DNAとして根付いていると思います。

田中:一方で、クライアントファーストとカスタマーセントリックは、似ているようでだいぶ異なりますよね。

野内:そうですね。

田中:カスタマーセントリックというのは、野内さんが顧客だとすると、顧客としての野内さんが考える世界の中心に野内さんをおいてあげるという考え方で、まさにテクノロジーでそれが可能になっています。その一方でカスタマーファーストというと、若干解釈が違います。

野内:そうですね。当社としてどんな言葉を使うかもアップデートされてきていると思います。

「デジタルシフトしたいが、何をすればいいかわからない」という経営者の課題に応えていく

田中:IR資料を拝見すると、最近の話題としてデジタルシフト社で「社長のためのデジタルシフトクラブ」を始められたそうですね。
野内:はい、始めました。

田中:私もこの間、タクシーでCMを拝見させて頂きました。かなり思い切った投資をされていますが、その理由はどういったものでしょうか。

野内:デジタルシフトしたい社長様、企業経営者の方はすごくたくさんいらっしゃいますが、やはり「どうしていいかわからない」、「何からはじめたらいいかわからない」という声が多くあります。まずそれが本当の顧客のニーズですね。

デジタルシフト社がそういった声を拾い、支援を進める中で、困っている社長様・企業経営者の方はまだまだたくさんいらっしゃいますので、多くの方に我々のことを知ってもらおうと考えました。そこで当社としては珍しいのですが、タクシー広告を流し、わかりやすい言葉を用いて打ち出すことにしました。そこで既に顕在化しているニーズ、曖昧なニーズを拾うことに今、チャレンジしております。支援が広がって行くと、またいろんな声が入り、ニーズがさらに変化していくと思います。

田中:元々マーケティングの会社からスタートしているデジタルホールディングスですが、なぜあのような内容のCMにしたのでしょうか。なぜあのキャラクターだったのか。CMをマーケティング的に解釈して頂くとすると、あのCMにかけた意図はどのようなものでしょうか。

社長のためのデジタルシフトクラブ WEB CM「デジタルシフト庁の男/乗り遅れますよ」篇

野内:まずインパクトです。最近タクシー広告はたくさん流れていますので、とにかくインパクトを重要視しました。

田中:インパクトありますよね。

野内:それから、国が今、デジタル庁を設立してデジタル化を推進していくというメッセージとも、うまく重ねていくということ。あとは俳優さんの持つイメージも意識しました。

国がデジタル庁を立ち上げ、国全体がデジタルに向かう中で、そこをうまく想起させ、経営者が一番悩んでいるポイントを分かりやすく伝えるというのが、今回のCMの意図ですね。

田中:なるほど。「社長のためのデジタルシフトクラブ」ではどんな内容を提供しているのでしょうか。

野内:「社長のための」というくらいなので、まず社長の方々に会員になっていただきます。会員になっていただくと、様々なサービスを受けることができます。シンプルにデジタルシフトのコンサルティングをさせて頂くこともありますし、デジタル人材の育成支援を行うデジタルシフトアカデミーというプログラムもあります。こちらでは田中先生にもご協力いただいております。

とにかくデジタルシフトに取り組む上で最初に手掛けなければいけない、はじめの一歩にまずは触れて頂く。それを有料会員の方々には、提供する全てのサービスでデジタルシフトをサポートさせていただきます。

田中:ちょうど今日の午前中に、デジタルホールディングスのメンバーとともに1年間かけて取り組んできた戦略コンサルティングのプロジェクトにおける最終のプレゼンテーションをしていました。

野内:いかがでしたか?

田中:社名はお伝えできませんが、ある上場企業で、社長以下経営陣12名の前でプレゼンテーションをさせて頂いて、その内容を非常に高く評価して頂きました。クライアントのプロジェクトチームと私が一緒にプレゼンさせていただいたのですが、本当に一年かけてやって来た甲斐があったなと思います。

また、デジタルシフトアカデミーは、現在3期目に突入していて、すでに45社の方々にご受講頂いています。3時間×8回のプログラムの中で、参加企業が実際に実行できるような、大胆なデジタルシフト戦略を構築できるまで支援していくことにこだわっています。実際にアカデミーからその後、具体的なプロジェクトに発展していく会社も多いですし、グループ全体にも浸透し始めていて、グループ全体のアドバイザーを務めている立場の私としても嬉しく思います。

野内:色々とありがとうございます。

ポストデジタル化時代の鍵は、デジタル×グリーン、デジタル×脱炭素

野内:私からも伺いたかったのは、つい先日、オンラインで行われたCES(Consumer Electronics Show)2021についてです。色々な情報が出ていますが、田中先生の視点で紐解くと、今回のCESはどんなメッセージで、どういう世の中になっていく指針だったのかを是非教えてください。

田中:CES2021ですね。ちょうど昨年はデジタルシフトタイムズで、現地から動画を大々的に配信させていただきました。今年は残念ながらCES自体がオンライン配信になってしまったので、一般的には内容の詳細までが知られていません。

ご質問いただいた点について、二つの会社の話を挙げさせていただきます。一社目はまずGM(ゼネラルモーターズ)です。GMのCEOメアリー・バーラ氏が基調講演をされていました。

皆さまもご存知の通り、アメリカでは1月20日にバイデン政権が誕生しました。もともと2020年の11月から、バイデン政権は政権移行サイトというものを立ち上げています。その中で、4大政策としてコロナ対策、コロナで疲弊した経済を回復させる経済対策、それから人種差別に対する問題の解決、最後に気候変動対策、climate changeを掲げていました。

GMのバーラCEOのスピーチを聞いていて感銘を受けたのは、やはり最初に自然な形でその四つに触れていることです。まずコロナ対策については、自分たちは自動車の会社だが真っ先に様々な対応策、例えばフェイスマスクの生産などを進めてきたというお話をされました。さらに、経済対策という自社の中核事業の話はもちろんのこと、人種差別や気候変動への対応についても言及されていました。気候変動については、EVシフトに大きく傾斜するという点です。ただ単に自分達のデジタル化の話だけではなく、人種差別の問題や気候変動にも取り組む点を強調していたのはすごく象徴的だなと思いました。

もう一社は、今年の講演の中で私が一番感銘を受けたドイツのBOSCHです。BOSCHは今回のCESで、グローバルな製造業としては初めて、2020年の段階でカーボンニュートラルを達成したという発表をされました。それだけではなく、その仕組み自体をこれから事業として展開していくという話をされていました。

残念ながら日本及び日本企業は、バイデン政権が誕生して、ようやく気候変動に取り組まければいけないという認識が強まりはじめたところです。実は「環境正義」、Environmental Justiceという使命感や正義感が背景にあって気候変動対策が欧米で推進されていることを私達は理解する必要があります。

BOSCHはあえてご理解いただくためにシンプルに述べると日本でいうところのデンソーなどのメガサプライヤーにあたります。そういう会社がいち早く、昨年の段階からカーボンニュートラルを実現していたというのは、正直、数年単位では済まない出遅れですよね。

やはり本気でデジタル×グリーン、デジタル×脱炭素という分野に本業で取り組む。社会貢献活動というより、本業で取り組んでいるというところが素晴らしいと思います。この辺が今年のCESの注目ポイントですね。

野内:先に進んでいますね。デジタル化の更に一歩先の、次の時代を宣言されているわけですよね。

田中:はい。そういう意味では、昨年末に菅政権の機軸も鮮明になってきたように、デジタルと脱炭素、デジタル×グリーンというところをいかに同時に、なおかつ本業、事業の中核でやっていくかが問われているのだと思います。質問された立場で恐縮ですが、その辺りはデジタルホールディングスのCEOとしてはどのようにお考えでしょうか。

野内:私たちは直接そういう事業を手がけるわけではありませんが、お客様にもそういう目線に立っていただけるよう、常に新しい情報、新しい動きをご提供させて頂きたいと思っています。

田中:特にグリーンやSDGsなどは、会長の鉢嶺さんも相当思い入れがある分野ですよね。

野内:そうですね。当社としてもそれらの取り組みは積極的に行っていきます。今回の決算含め、今後少しずつ発表させていただきますし、お客様に対しても、そういうご案内をしていきたいなと思います。

田中:前編でガバナンスというお話がありましたが、やはりESGやSDGsなど、今や本当に本業を提供する中でいかにそこに配慮して提供していくかが問われていますよね。

本日のデジタルシフトタイムズは、デジタルホールディングスにお邪魔をして、野内 グループCEOにお話を伺いました。本日は野内さんが登場するということで、おそらくグループのメンバーの方もご覧になっているでしょうし、当然クライアントの方、投資家の方もご覧になられていると思います。最後にカメラに向かってメッセージをお願いいたします。

野内:改めましてデジタルホールディングスの野内です。2020年、ある一定の改革期を過ぎて、これから本格的な成長期に入っていかなければいけないという自覚を持っています。まずデジタルシフト事業を必ず成功させ、成長させるんだという強い思いでやっていますので、是非皆さん、今後の動きに注目して頂けたらと思います。デジタルシフト事業一点で拡大をしていくという覚悟でやっておりますので、是非宜しくお願い致します。

田中:どうもありがとうございました。今日は普段からお話をさせて頂いているその雰囲気の中、野内CEOの熱い思いを伺いました。私が一番感銘を受けたのは、経営者に必要なのが情熱という部分です。スマートでいらっしゃいながらも、実際は熱い情熱を秘めている、野内さんがCEOを務めるデジタルホールディングス、これからの活躍に期待したいと思います。

野内:ありがとうございます。

田中:今日はどうもありがとうございました。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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