全ての日本企業のデジタルシフトを掲げたデジタルホールディングス。「広告事業の売上は追わない」構造改革の真意に田中道昭教授が迫る

社会環境・ビジネス環境が激変する中、全ての産業でデジタルシフト、DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が叫ばれています。今回は、2020年7月1日に社名変更を行い、広告代理店からデジタルシフト支援事業を中核に構造改革を行うデジタルホールディングス グループCEO 野内 敦氏に、立教大学ビジネススクール田中道昭教授が対談形式でお話を伺います。

前編では、改革後初めての通期決算についての分析と考察、従来の体制から生まれ変わるための企業文化変革と事業戦略についてお話します。

*本稿は対談の要旨であり、実際の対談内容は動画をご覧ください。

全ての日本企業のデジタルシフトを掲げたデジタルホールディングス。「広告事業の売上は追わない」構造改革の真意に田中道昭教授が迫る。

ネット広告代理店からデジタルシフト支援企業へ、事業変更の実態に迫る

田中:デジタルシフトタイムズ、田中道昭です。本日はデジタルホールディングスにお邪魔し、グループCEOの野内さんにお話を伺います。どうぞよろしくお願いいたします。

野内:よろしくお願いします。野内です。

田中:野内さんとは、定期的にいろいろとお話させていただきました。

野内:そうですね。いろいろと教えていただき、ありがとうございます。

田中:いつもの経営者対談とは趣向を変えまして、普段通りの2人のやりとりをそのままお届けしたいと思います。

まず、2月10日にデジタルホールディングスの決算発表が行われました。新型コロナウイルス感染症で経営環境が大変だった中、一年かけて見事に仕上げられて、非常に素晴らしい業績だったと思います。まずはこの通期の業績について、簡単にご説明いただけますでしょうか。

野内:はい、ありがとうございます。たしかに、昨年はコロナの影響で非常に大変でした。私がCEOに就任した直後、コロナショックが来たわけですが、就任以前から改革期としてデジタルシフト分野に会社を進めようと決めていたこともあって、この状況をうまくプラスに働かせようと考えていました。とにかく改革を急ごうと、広告代理事業を主軸とした事業モデルから、新しいデジタルシフトの事業モデルに変化させていく方針を決定しました。

業績は資料の通りですが、トップラインが一時期すごく落ちたものの、皆に頑張っていただき、最後にグッと戻すことができました。また売上や利益だけでなく、投資家の方にわかりやすくお伝えするためにまとめている、デジタルシフト事業がどれだけ伸びているのかを示す指標「デジタルシフトKPI」が年率、昨年対比でプラス53%という伸び、それから粗利構成比といって、グループ全体に占める利益の構成もプラス2ポイント伸ばすことができました。100点満点ではないですが、非常に手応えのある成果だと感じております。
田中:別のスライドでも、デジタルシフトKPIが過去最高と書かれていますね。

野内:売上については特に4Qで伸びました。4Q単体で言えば、80%強の伸びを示しており、1年間準備をして来た結果が、4Qで少し形に現れたかなとホッとしております。とはいえ、まだまだサイズ感としては小さく、目指すべきデジタルシフトに向かってより伸ばしていかなければという自負を持っています。

田中:もうひとつ、デジタルシフト粗利構成比も順調に上昇して、10.9%にまで伸びていますね。

野内:はい、全体の10%を超えて、少し存在感が出てきました。これから20%、30%と上げていこうと思っています。特に、3Q,4Qの伸びは、一つひとつの事業が少しずつ形になって稼働し始めた現れだと考えています。そういう意味では、売上成長のみならず粗利構成比はとても大事な指標として、あえて出しています。

田中:今回のデジタルシフトタイムズでの対談ですが、オプトホールディングがデジタルホールディングスに社名変更したということで、グループ内外ともに様々な方がご覧になられていると思います。元々がデジタル広告の会社だという前提でこの業績を見ると、コロナ禍においては相当にいい結果だと思います。もちろん、デジタル企業という側面ではコロナ禍でデジタル化が一気に進んでいますので、まだ入り口に立ったところと言えるかもしれません。それでも、総じて素晴らしい業績だと思います。

野内:ありがとうございます。

田中:CEOとしても、まず初年度いい点数がつけられたでしょうか。

野内:いろいろと大変な年ではありましたが、そのように捉えています。

新しいビジネスを作る「攻めのDX」か、効率化のみを目指す「守りのDX」か

田中:最初にお伺いしたいのはやはりデジタルシフトについてです。デジタルホールディングスの中では、デジタルシフトと呼んでいますが、世間的に言うと「DX(デジタルトランスフォーメーション)」ですよね。色々な定義があると思いますが、まずはホールディングスのグループCEOである野内さん自身がどういう風にデジタルトランスフォーメーションを定義し、どう捉えているのかをお伺いしたいと思います。

野内:ありがとうございます。デジタルシフトやデジタルトランスフォーメーション、DXなど様々な言葉があって、皆さん定義がバラバラです。何が答えかというのは、まずないです。

田中:そうですよね。

野内:答えはまだないと思ってはいますが、この構造改革の最初に、グループで私たちなりに定義をしました。お客さまに聞くと「コンテンツがデジタル化していない」とか、「情報が紙で管理されているのでデジタル化したい」とか「ビジネスプロセスやワークフローをツールでデジタル化したい」とか、出てくる話のレイヤーがバラバラです。

ただ、これらは一つの変化の過程だと考えています。まず、コンテンツをデジタル化し、そのあとプロセスをデジタル化して、ビジネスモデルもデジタル化する。この三段活用なのだと。私たちとしては、最初の段階、コンテンツのデジタル化を「デジタイゼーション」。2つ目のプロセスのデジタル化を「デジタライゼーション」。3つ目のビジネスモデルのデジタル化を、世に言われている「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と定義しています。
デジタルトランスフォーメーションというゴールに向かうことが大事で、そこに向かっていく一連のデジタル化を、我々としては広義の意味で「デジタルシフト」と呼ぼうと、最初に定義しました。

そうすると、「うちはデジタイゼーションのところをやってほしい」、うちは「ダイレクトにDXをやってほしい」などと、お客様が明確にどのレイヤーで課題を持たれていらっしゃるか、お客様のニーズを整理できるようになりました。それらを整理していくと、新しいビジネスを作りたいのか、それとも今のビジネスを効率化したいのか、極論ではその2つに分かれます。ビジネスの効率化だけでは、デジタルトランスフォーメーションの手前で止まってしまうのです。

田中:単なるデジタル化ですよね。

野内:効率化、デジタル化です。なので、私たちは効率化から始めたとしても、新規事業や新しいビジネスモデルに向かうことを後押しする役割も併せて、両方をサポートさせていただいています。定義としては3つに分けましたが、今は効率化と、新規事業・ビジネスをつくるところの2つに分けることが多く、この二つを「攻めのDX」「守りのDX」と簡易的に呼ばせていただくケースもあります。
田中:攻めのDX、守りのDX。最近は比較的、シンプルにそう呼ぶこともありますね。

野内:増えてきましたね。私たちが3つに分けたものを、2つに分けて使われていることも多いですね。

「我々はこのままでいいのか?」スタートアップを師として企業文化の変革を決意

田中:そういう意味では、デジタルホールディングス全体でいくと、まずは自分たち自身がDX分野に投資を行い、自社でDX事業を創造し、それから顧客のDX支援をしていくという、3つの基軸でビジネスを生んでいると思います。

野内さんといつも1on1で議論をする時のテーマでもあるように、やはりデジタルホールディングス自身が、社名を変えてまで目指すところは、守りのDXで様々な企業を支援していくだけではなく、やはり攻めのDXをいかに事業化できるかだと思います。

事例をあげさせていただくと、まずはウォルマートでしょうか。ウォルマートは非デジタルネイティブ企業の中でも比較的DXに成功していますが、一番重要な見逃せない要因は、やはりCEOがグッとDXへと基軸の舵を切った時に、企業文化の刷新からはじめたことでしょう。野内CEOにも、半年ほど前に、まず企業文化の刷新から手をつけていただきたいとお話しました。

野内:ありましたね。2020年を振り返ると、様々なことを打ち出し取り組んできましたが、最上段に来るのはやはり企業文化の、田中先生の言葉で言うと「アップデート」です。

うちの会社は良くも悪くも安定基盤の中で、デジタル広告の事業を長くやっています。会社が何かで潰れるとか、リスクが高い事業をやっているわけではありません。ちょうど、企業文化をアップデートするというテーマで、様々なディスカッションさせていただき、うちにとっていま何が失われているのだろうと考えた時に、自らをイノベーションしていく力や危機感が、以前に比べて薄れて来ています。

それは、会社が大きくなり、会社が回るようになってきた今、当たり前でもあります。ただ、再びイノベーションを起こせる会社にしたいなと。我々自身がそういう風に思わないと、デジタルシフト=イノベーションなので、それをしたい企業も増やせない。自分たちがやってないのに、やりましょうというのは説得力がない。

田中:相当大きな看板を掲げましたからね。社名まで変えたわけですから。

野内:そうですね。社名も変え、組織も刷新しました。

田中:CEOとしては相当な重責を担われたということだと思います。

野内:はい。まずは企業文化をアップデートしようということで、そのイノベーションの文化を最初に社員の皆さんにインプットすることをやりました。

田中:そこをぜひ、深堀りさせてください。
野内さんは、デジタルホールディングスのCEOに着任するまで、元々スタートアップへの投資事業、DXへの投資の分野を担当されてきたということで、比較的スタートアップ企業のDNAや「DAY 1」のカルチャー※で仕事をされてきたのではないかと思います。

※今が常に「Day 1(1日目)」なのだ、というAmazon CEOジェフ・ベゾスが大切にするスタートアップ的価値観。反対に「DAY2」を、創業当時の精神を忘れ衰退していく大企業(病)としている。

その一方で、どちらかというと従来型の事業も抱えながら、ホールディングス、グループ全体を「DAY 1」のカルチャーに変えていくことは大変だと思いますし、まだまだ課題があると思います。「DAY 1」カルチャーに企業全体を変革していく中で、今一番苦心されていることは何でしょうか。

野内:やはり上場企業として守らなければいけないガバナンスが当然あります。そのガバナンスをしっかり守りながらイノベーションを起こすのは、非常に難しいです。イノベーションなくして成長はなく、ガバナンスとの両輪が大切だと思います。このバランスをとっていくことがすごく大事ですし、一番難しいですね。それはもう本当に身にしみて感じます。

田中:その絶妙なバランス感覚は、どのようにして取っているのでしょうか。

野内:絶妙なバランス感覚を取れているかはわからないですが、私はもう根っからのイノベーション志向なので、とにかく今あることをただやり続けるということに対しての危機感が、グループ一強いと思っています。

なので、その危機感をできるだけ私の言葉で皆さんに伝えています。多分社会全体にも伝えていかないといけませんが、それらを伝え、実践していくことが大事だと思っています。

その刺激は、スタートアップの方々、経営者の方々から教えていただいた部分も大きいです。彼らは常に、まさに日々「DAY 1」でチャレンジされている中、我々はこれでいいのかと。そういう企業に投資をし、支援する立場にいながら、自分たちがイノベーションできてないというのは、恥ずかしいなというのもありまして。そういう外的刺激も、ある程度働いていると思いますね。

田中:そうですね。野内さん自身も、様々なスタートアップと常に関わっていらっしゃいますしね。

野内:はい、そのような状況に感謝しています。

田中:そういうDNAを自分自身が持っているというのも、非常に重要な気がしますね。

「売上は追わない」顧客と市場のニーズを理解し、カスタマーセントリックであり続ける

田中:次にお伺いしたいのは、まさに構造改革を主導した2020年で企業文化のアップデート以外に、一番力入れたところは何だったのでしょうか。

野内:広告代理事業がうちの看板事業であり、誰もがオプトというブランド=ネット広告代理店と考える中で、あえてその主たる事業の主要なKPIや組織を改革しています。

イノベーションと言うと、皆さん「新しい事業を作る」ことを想像されると思いますが、今ある事業自体のアップデートも仕掛けています。しかし、まだ道半ばであり、これからさらに進めていく必要があります。

田中:直近の1on1のMTGの中でも、デジタル広告事業のKPIについて、思い切った宣言をしようと思っているという話がありました。

実際に広告事業に携わる人からすると「そんなこと言われても結局は与えられている数字の目標が変わらないと、行動パターンも変わらない」と思う中で、その目標数字までもかなぐり捨てやっていこうという、相当強い決意をお持ちでいらっしゃいます。

野内:そうですね。今まで絶対誰も発信しなかった言葉が「売上を追わなくていい」というものです。広告代理店としてあり得ないような数値管理ですよね。

田中:その点は、お話していいわけですね。

野内:はい。売上の拡大をし続けないと広告代理事業は回らないというベースのモデルはありますが、あえてそれを拡大しなくていいと伝えています。逆にいうと付加価値をしっかりと持ち、もう少し筋肉質にならないといけません。いずれはテクノロジーによる取り引き比率がさらに上がっていきますので、そういう意味で、売上をただ拡大するモデルはもうやらなくていいと、結構早くから打ち出しました。

投資家の方々に対しても、「売上拡大はしません」と明言させていただきました。

田中:なるほど。今回はグループ内の皆さまだけでなく、投資家の方々もご覧になっていると思います。ただ単に売上を追わなくていいと言うと、誤解を与えると思いますので、もう一度詳しくお伺いしたいのですが、売上は追わずに、これ以降は何を追うのでしょうか。

野内:一言で言えば付加価値です。付加価値は何で生まれるかというと、やはり顧客の満足です。要するに顧客のニーズに応えていく。顧客というのはつまり市場ですから、マーケットのニーズに応えていくということです。田中先生がよくおっしゃっているカスタマーを中心とした考え方はすごく大事だと思いますし、それを徹底的に突き詰めていくと、売上拡大が必ずしもお客様のニーズに応えているのか、というところに強い気づきを感じました。マーケットのニーズをしっかり拾う、そこに対して解決策を提示していく。これがデジタルシフトに向かう第一歩であり、重要視していますね。

田中:売上を追わなくていいというその心は、まさにカスタマーセントリックですね。

野内:そうですね。カスタマーセントリックと大上段で言うと、「お客様のために何でもやる」という勘違いをされることもありますが、そうではなく、顧客のニーズをしっかりと理解するということです。このあとのデジタルシフトの展開方法にも大きく関わってきますが、まず顧客ニーズを理解しないと事業は作れない。これはどの事業にも共通して言えることだと思いますので、そこに対して重きを置いてスタートしています。

田中:なるほど。相当重要で、本質的なところですよね。デジタルトランスフォーメーションを標榜し、自分たちでも実行して、それを顧客に提供していくとなると、おそらく必要条件として、自分たちの企業DNAを刷新するということがありますし、同時に自分たちがカスタマーセントリックであることが必要でしょうね。

特に、事業の中核は引き続きBtoBだと思いますので、やはりセールフォース的に、顧客のカスタマーサクセスを目標・ミッションに、そういう事業構造に持っていく。非常に本質的なところから売上を追わなくていいと。むしろカスタマーセントリックを貫徹すれば必ず売上が実際についてくると。

野内:そうですね。売上も結果的に後から付いてくると思うのです。主要KPIではないということですね。

田中:そうですよね。そういう意味では、ちょうど野内さんの直前に対談させていただいたのがSBIの北尾社長でした。北尾社長の場合は売買手数料を0にし、まさに今回も破壊から入るということでしたが、よくよくお伺いしてみると本質はカスタマーセントリックで、顧客志向でやっていけば必ず別のところからシナジーの売上が上がるということでした。破壊することが目的ではないし、当然売上に関しては、「売上を追うな」ということが目的ではないということですよね。

野内:そうですね。おっしゃる通りです。

顧客のニーズをすくい上げ、汎用的に多くの企業が使えるデジタルサービスを

田中:今お話させていただいたように、デジタルシフトの必要条件にはカスタマーセントリックがあると思います。もう少し詳しくお伺いしたいのは、CEO野内さんとしてのカスタマーセントリックへの想いです。

野内:そうですね。今回の構造改革にも関係しますが、「なぜデジタルホールディングスはデジタルシフト領域に参入できるのですか?」という質問は、投資家の方々からも結構いただきます。何故参入できるのか、ということを一言でいうと、今までの長い歴史の中で、デジタル広告という接点ではありますが、常にお客様と接して、お客様の課題解決を広告事業で行ってきました。これもカスタマーセントリックといえばカスタマーセントリックです。

ただ、やはりお客様のニーズは時代とともに変わります。広告を打って拡大できるのは、成長期だと思っています。今は必ずしも広告だけでお客様の事業成長を約束できない時代になってきました。

そうなると、多岐に渡ってニーズを拾い上げなければいけませんが、皆さんが共通して語るのが、デジタル化でした。広告だけではなくデジタルビジネスを相談したいとか、デジタルに詳しい人を送り込んで欲しいとか、広告事業をやっている中で、常にデジタルにお客様のニーズがありました。

ただ、私達がデジタルシフトに取り組む上で、お客様からまずニーズを確実に拾い、一社一社カスタマイズして、デジタルシフト受託会社のようになってしまうと再現性と拡張性が弱い。結果的には喜んでいただけるかもしれないですが、市場や社会に対してのインパクトはすごく少ない。それは少し残念だなと思ったのです。

そうであれば、顧客のニーズを拾うという我々の企業文化がもともとあるので、拾いながらいかにして汎用的にたくさんの企業が使っていただけるか。それが、私達が掲げるデジタルシフトサービスなのではないかと。ということで、フロントはカスタマイズ型で顧客のニーズを拾っていきますが、共通されたニーズを商品に落として、幅広くお客様に使っていただけるようなサービス。わかりやすくいうと例えばSaaS型で、長い期間使っていただけるようなもので、お客様のデジタル事業をサポートできないか。そういうことを考え、その両輪を回せるような組織構造や戦略にしようと決めたのです。

ですから、実際フロントでコンサル的なことをやる人もいれば、裏方でSaaSプロダクトを作る人もいます。

田中:ここは多分見てらっしゃる方々が一番わかりにくいところで、一見矛盾するように感じると思うのですが、Amazonを事例にしてお話をすると、Amazonは当然スケーラビリティ、スケールするかどうか、天井にすぐにぶつからないかを重視しています。その一方で、ジェフ・ベゾスCEOを長年ベンチマークしていると、顧客が昔も今も、10年後も変わらないことが3つあると。「顧客が低価格を求める」「顧客が豊富な品揃えを求める」「顧客が迅速な配達を求める」というのは昔も10年後も変わらないと。実際、顧客の変わらないニーズを徹底的に見据えながらも、スケーラビリティを追いかけるということで。

野内さんが意味していらっしゃるところも、顧客のニーズを捉えながらも、当然事業としてはスケールするかどうかの両方を見ている。そういうことでしょうか。

野内:そうですね。まだ本当に完成した、これだという形にはでき上がっていないのですが、ただプロダクトを作って、プロダクトアウトでマーケットに出していく、という考え方よりは、常に顧客のニーズを吸い上げていく、これがビジネスでは非常に大事だと思っています。

デジタルを通じて産業構造改革を。調剤薬局のデジタルシフト支援に進出

田中:先ほどSaaSという話もありました。まさにSaaSとして、商品とサービスを提供していくことでスケールすると思いますが、今、SaaSの代名詞になっているのがセールスフォースです。セールスフォースが請負型のソフトウエアのビジネスからSaaSに切り替えたのは、やはり中核にカスタマーサクセスを置いたからだと思います。

野内CEOが目指したいカスタマーサクセス、顧客に提供したいカスタマーサクセスには、当然様々な業種が含まれると思うのですが、実際にSaaS型でどのようなカスタマーサクセスをどのような業種の人たちに提供していくのでしょうか。

野内:はい。私たちはもともとマーケティングに強いので、その顧客と顧客の先のユーザー、カスタマーのコミュニケーションをいかにデジタル化で効率化していけるかが1つのテーマです。それによって顧客のエンゲージメントをいかに高められるかが、マーケティングの基本中の基本だと思うのです。

そのデジタル化のニーズは非常に強く、その周辺において、やはりコミュニケーションやユーザーとのタッチポイントにおけるデジタル化のニーズもやはり高い。それをプロダクトとして提供させていただいています。

他にも、例えば多重構造の産業というのはまだたくさんあります。多重構造というのは企業がたくさんその中に入っていますので、その間のやり取り、コミュニケーションもテーマの一つです。もちろんそこをデジタル化するというのもありますが、場合によっては多重構造自体を破壊できるような解決策の可能性ももちろんあります。

壊すことが目的というより、いかにそのお客様の先のユーザーに満足いただけるかを考えると、無駄にこの多重構造になっている産業構造をデジタル化によって整理していく。そういうことも、時によっては必要だと思いますし、実際にそういうご相談も多数いただいております。

田中:ちょうど「デジタルシフト事業集中投資」というスライドの中で、縦軸が情報・ヒト・モノ、金融で、横軸が広告・金融・不動産、人材、医療ということで記載されています。まだお話できないことも多いと思いますが、お話しできる範囲で、どんな産業・業界において、今お話していただいたようなことをされているのでしょうか。
野内:今まさに医療分野で、調剤薬局へのデジタルシフト支援を行っています。これは調剤薬局というチャネルがあり、そこに出入りする患者さんであるカスタマー、処方箋を出すクリニックがある。様々な登場人物がいる中で、コンテンツがまだデジタル化されてないわけです。ユーザー側からすると、デジタル化されてないコンテンツ、情報を持って、いろんなところを行き来しなければいけません。

調剤薬局側からしても、ユーザーが持って来る紙ベースのデータをまずデジタル化する必要があります。それならば、最初からデジタル化すればいい、というシンプルな話です。冒頭の話でいくと、デジタイゼーションのところで構造化されずに、デジタル化されてない産業です。

医療業界、調剤薬局などのデジタルシフトに今チャレンジしておりますが、おそらく同じような業界は他にもたくさん存在します。我々もウォッチをしていますが、今のところ立ち上がっているのは、調剤薬局の分野です。そこのコミュニケーションをデジタル化することで、ステークホルダーの皆さんの利便性を高めるために動いています。

田中:なるほど。調剤薬局で様々なことを仕掛け始めていると。

野内:はい、今回初めてそういった取り組みをしています。

金融投資、広告事業を活かし、デジタルシフトをメイン事業へ

田中:そこで指摘したいのは、今おそらくすべての業種、すべての業態で起きていることだと思いますが、事業の競争の条件が、元々はそれぞれの事業領域における、事業ドメインにおける商品サービスの戦いだったのが、プラットフォーム、エコシステムの戦いとなっているということです。

一番わかりやすいのはスマホでしょうね。やはりOSなどのプラットフォーム、あるいは生活総合サービス、生活サービス全般としてのエコシステムが競争の条件になっています。アップルで喩えてみても、いまだにハードの売上が7割を占めている会社でありながら、やはりOSを押さえ、それだけでなくアップルストアやいろんなサービスを提供することで、エコシステム全体でマーケットシェアを押さえています。様々な業界、自動車産業も金融産業でもしかりだと思うのですが、商品サービスの競争からプラットフォームの競争、さらにはエコシステム全体が競争の条件になっている中で、やはり医療・調剤薬局、エコシステムまで提供していくということを考えると、野内さんとしてはお伝えできる範囲ではどんなことまでお考えになられているでしょうか?

野内:言える範囲でという前提になりますけれども、先ほどお話した通りカスタマーセントリックになっていない業界への取り組みをしていきたいですね。

田中:カスタマーセントリック。確かに意外とね、カスタマーセントリックになっていそうでなってない。お薬手帳があるようでない。活かされていない。あってもどこまでの自分のためにやってくれているのか分からない。端的に言うとまだまだカスタマーセントリックになっていない業界ですよね。

野内:そこのUI 、UX の徹底した提供が必要だと思います。

田中:なるほど。やはり本質的なところから入るということですね。そこから入り競争の条件もクリアしていく。生活とサービスと全般で様々なものを提供していくということですね。

野内:そうです。

田中:それから、やはり三つの事業領域をかなり鮮明に打ち出されました。企業のデジタルシフト、広告代理業のデジタルシフト、それから成長投資キャッシュ創出ということで、金融投資事業としてのデジタルシフトへの投資ということですけれども、この三つのそれぞれの事業の関係性やシナジーについて、教えてください。
野内:私たちはデジタルシフト事業をこれから急拡大させ、メインの投資領域にしていきます。ありとあらゆる企業のデジタル化を支援するということですが、いきなりそれができるかというとおそらくほとんどの会社は難しいと思っています。デジタルマーケティングでしっかりとした取引先の基盤があり、そこでお客様からのニーズを聞く文化があり、そこに従事したデジタルに詳しいメンバーがいて、そのメンバーのノウハウを、デジタルシフト事業側にこれからどんどん移していく。ある意味異動と構造改革をどんどん進めていこうと思っています。

投資事業に関しては、スタートアップから学ぶことも多々あるのですが、そのDAY 1の文化やイノベーションの文化はもちろんのこと、事業としては投資をしてグループとしてしっかりキャッシュを作っていく。そのキャッシュが、もちろん次のスタートアップに投資されるということもありますが、私たち自身がデジタルシフトのイノベーションにおいて、そのキャッシュを活用することもあるということでもあります。

キャッシュを創出する投資事業と、いわゆるノウハウや人材を提供する広告事業があり、それらが融合してデジタルシフト事業が今急速に立ち上がっているという感じです。中にあるアセットがうまく活用されていくのだろうなと思いますね。

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