DX戦略

【Society5.0の未来】個人と企業が競合になる!?カスタマー主導の時代に、企業はどう変革すべきなのか。

2016年1月に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」の中で初めて登場した「Society 5.0」という言葉。これまで実感を持てる人が少なかった新しい暮らし方ですが、コロナ禍により時計の針が進み、その実現への道のりも早まったように思えます。改めて、Society 5.0社会で、企業に求められるあり方はどう変わるのか。企業は来るべき未来を見据え、どんなことに注力していくべきなのか。Society 5.0へのシフトに向け、新しいビジネスモデルの構築に取り組む、株式会社デジタルホールディングスの代表取締役社長 グループCEOの野内 敦氏と、株式会社SIGNATE代表取締役社長の齊藤 秀氏にお話を伺いました。

ざっくりまとめ

- Society5.0時代には、産業を破壊・再創造する「ディスラプティブテクノロジー」が必要
- D to Cと「ディスラプティブテクノロジー」の2つが、Society5.0の世界観を主導していく
- 個人がエンパワーメントされることで、今よりもっとユーザー・カスタマー主導のサービスが求められるようになる
- 日本企業は現状に危機感を持ち、モデルチェンジをすることで社会変革をリードすることを目指す必要がある

Society5.0時代には、産業を破壊・再創造する「ディスラプティブテクノロジー」が必要

ーSociety5.0に適応できるビジネスとはどんなものなのでしょうか?

野内:まず前提として、Society4.0の情報社会である今でも、まだ4.0に届いていない企業は見受けられます。まず情報をデジタル化する、デジタイゼーションが今盛んに言われていますしそれも必要ですが、私たちはいきなりビジネスモデルを変えるDX (デジタルトランスフォーメーション)を志向していて、それが来るSociety5.0に適応できるビジネスだと思っています。

例えば、工業社会である3.0から情報社会の4.0に変革する際に、当時のオプトが広告業界において、マス広告主体からインターネットを活用したデジタルマーケティングへの変革の架け橋にはなっているのですが、メディアから手数料をいただくという広告代理店のビジネスモデルそのものは変革できていないわけです。

齊藤:従来型のマス広告に対するインターネット広告は、一つのモデルチェンジだったとは思うのですが、エージェンシーという機能が今後成立しうるのかと考えると、さらに変革しなければいけないのが「今」ですよね。間にいろいろなプレイヤーを挟まず、直接顧客に価値を提供するというモデルに変革していかないといけないのだと思います。

野内:そうなんです。私たちは2013年から投資育成事業を手がけていますが、投資対象に3つのテーマを設定していました。一つは皆さんも知っている「シェアリングエコノミー」。もう一つは、まさに先ほどの話にも出てきた、直接顧客に価値を提供していくモデル「ダイレクトトレーディング」です。当時はまだ、このテーマでビジネスをしている領域がなかったのですが、今、どんどん生み出されているD to Cモデルですね。若干早かったです(笑)。あともう一つが「ディスラプティブテクノロジー」です。このD to Cとディスラプティブテクノロジーの2つが、Society5.0の世界観を先導していくものだと考えています。ディスラプティブテクノロジーとは既存の技術を根本から覆してしまうような革命的な技術のことで、産業自体を破壊・再創造するほどのインパクトを生み出します。デジタルホールディングスグループの中ではSIGNATE(シグネイト)が、この流れを先導してくれています。

齊藤:我々が目指しているのは、AI・データサイエンスを中心としたデジタルテクノロジー領域において教育とその周囲の働き方との間にある境界を壊すことです。例えば、学生時代に学んだことが仕事で生かされていないことが多いのではないでしょうか。これはとても勿体ないことです。仕事の過程で実践的なスキルを身につけていくように、本来、学びと働くことは区別されるものではないと考えます。また働くという形態にも、会社に所属しながら副業をするなどいろいろなパターンが考えられる。現状を見直し、勉強と働くことを、自然な形でテクノロジーの力により融合させることが我々の取り組みの一つです。

野内: SIGNATEがやろうとしていることは、企業から見ると教育やHR、採用といったドメインの事業に見えるかもしれません。しかし実際のユーザーから見ると、どのドメインに位置しているのかは関係ないでしょうね。

齊藤:事業サイドのドメインの整理に本質はなく、ユーザーに対して、いかに自然な価値提供ができるのかが大切だと思います。

野内:現在「Horizontal SaaS」と呼ばれている業界横断型のサービスは、既存のビジネスプロセスをデジタル化しただけのものも多く、プロセス自体は変わってないんです。それでは本当の意味でディスラプティブとは言えません。人の労働をテクノロジーで代替しているだけだからです。ですから、本当に大事なのはビジネスモデルを変えるまでのDXを行うことで、それがSociety5.0を実現する上で非常に重要なのだと思います。

ー現在現れているディスラプティブテクノロジーの例にはどんなものがありますか?

齊藤:Apple社が提供するウェラブルデバイス「Apple Watch」は医療の分野でディスラプティブな価値を生み出している好例だと思います。身につけるだけであらゆる生体情報を取得し、病気の予兆検知ができるのは、従来、対処療法しかできなかった医療分野にイノベーションを起こしています。

リアルタイムでデータが取得できることによって、今までできなかったことができるようになるというのは、あらゆる領域でどんどん起こってくると思います。

ユーザー・カスタマー主役の時代へ

ーSociety5.0の社会における環境はどう変化していくでしょうか。

野内Society5.0の世界では、ユーザーのエンパワーメントによって、今よりもっとユーザー主導のサービスが求められるようになります。

たとえば広告業界では、これまで企業側が優位に立ち、メディアを活用してユーザー向けに情報を配信していましたが、Society5.0ではその構図はむしろ逆になると思います。つまり、ユーザー主導で情報を引き出し、選ぶことができるようになるのです。ユーザーは自由に情報にアクセスできて学ぶこともでき、自分自身をエンパワーメントしていくこともできます。

そもそも企業に属するといった概念も薄れ、どの組織に属しても良い状態になりつつあります。YouTuberなどもそうですよね。個人がメディアになれる時代が来ています。

さらに、個人のエンパワーメントが進むと、情報の非対称性もなくなっていくのだと思います。大企業しか持っていなかった情報が、中小企業やベンチャー企業に行き渡るようになり、さらに個人にも回るようになってきています。テレビ局やメディアの力が強かった時代が変わってきているのです。

もしかするとクラウドソーシングを活用する流れも、ユーザーをエンパワーメントするための準備期間なのかもしれません。

齊藤:限界費用ゼロ社会の考え方ともつながりますね。

野内:それが完成した時に、より一層ユーザー・カスタマーが主役の時代がくる。我々は企業・社会に向けて、もっとそういうメッセージを伝えていかないといけませんね。

齊藤:同感です。「お客さまは神様です」という言葉がありますが、実はこれまでは本気でそう考えているわけではなく、ユーザーから支持されるためにこの言葉を掲げていた企業も多かったのではと思います。しかしこれからは本当の意味で、カスタマーが中心の社会へとシフトしていくと思います。

企業とカスタマーがフラットでいられる社会をつくる

ーSociety5.0におけるデジタルホールディングスの役割について、お考えがあれば教えてください。

野内:我々、デジタルホールディングス自体も、Society5.0の世界観へいきなりシフトするのは難しいと思います。とはいえ、新しい社会に挑戦しようとする企業を支援していくのが、我々が最初に担うべき役割だと考えています。

さらに、先ほども申し上げたように、今後はより一層ユーザー・カスタマー主役の時代がきます。ですから企業とカスタマーがよりフラットな立場になれるよう、企業側のサポートをするのも我々のできることかもしれません。

現状、カスタマー中心の社会に向けてはまだまだ道半ばだと思います。カスタマーが最高のエクスペリエンスを得られるプラットフォームをサイバーフィジカルシステム(CPS)の世界で作れたら、無限の可能性につながるのではと思っています。

Society5.0時代に向かう今、企業は何をすべきか

ー個人のエンパワーメントの結果、個人と企業が競合になる、なんてこともあり得るのでしょうか?

野内:起こりうると思います。たとえばアパレル業界で考えると昔は、アパレル会社、デザイナー、パタンナーと多重構造になっていて、個人で服をつくって販売するのは難しかったと思います。しかし今は、サプライチェーンが共有化されているので、誰でも自分のブランドを立ち上げることができます。ものづくりにおいて、カスタマーが主導権を握れる時代に入り始めているのを示す好例ではないでしょうか。

また、クラウドファンディングが出てきたのも、個人がものづくりを行える世界の後押しをしています。誰でもメーカーになれるわけで、これはまさにカスタマーのエンパワーメントが成立している状態です。現場、大企業に勝てる個人になるにはハードルが高いですが、今後はどんどんそれができる社会に近づいていくのかなと思っています。

齊藤:個人のエンパワーメントにより「スモールB」と呼ばれる中小・ベンチャー企業は淘汰されるリスクもあると思っています。個人はどんどん武装され強くなっていく一方で、企業は集約されていき、規模を拡大していくことが予想されるため、中間プレイヤーがいなくなることも考えられます。

野内:確かにそうかもしれません。個人のエンパワーメントによりスモールBでやれることとの間に差がなくなっていきます。それに伴って、企業の統廃合が進む可能性があります。

ー日本の中小・ベンチャー企業はこれから先どのように戦っていけば良いのでしょうか?

野内:企業のタイプにもよりますが、会社が存続しているということはカスタマーである取引先がいるということで、カスタマー視点でどうすればもっと価値提供ができるのかを考えるところからだと思います。

また、新しいプレイヤーがどんどん出てきている現状を正しく認識し、自分達も変わらなくてはならないと危機感を持つことも必要だと思います。自社がデジタルシフトするのはまだ先でよい、という感覚はすぐに捨て去るべきです。

齊藤:同感です。とは言え日本企業は、決して自分たちの状況を自虐的に捉える必要はありません。日本は世界第3位のGDPを誇っていて、その市場の中でアセットを確立しており、既に持っているものがたくさんあるわけですので。今の状況を活かしてやるべきことは沢山ある気がします。

野内:おっしゃる通りですね。我々も自らが置かれている現状に危機感を持ち、従来の「インターネット広告代理事業」から「デジタルシフト事業」への転換を加速させるため、事業戦略や経営体制、ビジネスモデルを大きく刷新しています。株式会社オプトホールディングから「株式会社デジタルホールディングス」に商号を変更したのは、その決意の表明です。どんな企業でも同様に現状に危機感を持ち、今のモデルを変えていくことが求められているのだと思います。デジタイゼーションや、デジタライゼーションに止まらず、モデルチェンジを行い、社会をリードするような企業にならなければ生き残っていけませんからね。
野内 敦
株式会社デジタルホールディングス 代表取締社長 グループCEO
Bonds Investment Group株式会社 代表取締役

1991年森ビル入社。1996年オプトに参画。共同創業者として、グループ経営、組織運営、新規事業設立など、グループ成長拡大に一貫して携わる。2020年4月より現職。
齊藤 秀
株式会社SIGNATE 代表取締役社長

オプトCAOを経て現職。幅広い業種のAI開発、データ分析、共同研究、コンサルテーション業務に従事。データサイエンティスト育成及び政府データ活用関連の委員に多数就任。博士(システム生命科学)。筑波大学人工知能科学センター客員教授、国立がん研究センター研究所客員研究員。

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