IT人材50万人不足の衝撃。今こそ求められるDX・AI人材の育成戦略とは?
2021/4/12
「Society5.0」の実現に向け、「企業は、働き方は、暮らしは、どう変わるのか?」をテーマに、デジタルホールディングスが開催したビジネスカンファレンス「Digital Shift Summit」。3日目のKeynote Sessionのテーマは、「我が国のデジタル化・DX化の核となるAI人材」「日本最大AI人材プラットフォームSIGNATEによる社会変革」。経済産業省の田辺 雄史課長、株式会社SIGNATE 代表取締役社長の齊藤 秀氏が登壇しました。「人材育成」をキーワードに展開された、Keynote Sessionの様子をレポートします。
Society5.0は「顧客」を「個客」に変える
まず一つ目のポイントは、「人が介在せずに処理できる」ということです。ほとんどの処理を、コンピューターが裏側で担えるようになる。飲食店で考えると分かりやすいでしょう。チャットボットが予約を担い、決済はキャッシュレス。従業員はそれらの管理をタブレット一つで行う。そんなイメージです。
「専用機が不要になる」ということもポイントです。クラウド上の仮想化されたアーキテクチャを利用することで、通常のノートパソコンからでも実行できるようになるでしょう。つまり、あらゆるサービスがハードウェアに依存しなくなるということを意味し、「ソフトウェア・ファースト」とも呼ばれる考え方です。ものづくりにおいても、この考え方を前提としたビジネスモデルが必要になるでしょう。
「トレーサビリティ確保・可視化」も大切なポイントです。これはサービスがユーザーに届くまでの途中経過に介入できるようになる、ということを意味しています。究極的には、提供するサービスをユーザーごとにカスタマイズできるようになる。個別のユーザーが欲しいと思うサービスを、そのまま提供できるようになるイメージです。
さらにデジタル変革後の社会においては、大企業が牽引しながら、関連する中小企業が下支えするという多重下請構造が壊れていくだろうと考えてられています。今後は、さまざまな業界・企業が相互にそれぞれの強み同士を組み合わせて、新しい価値を提供していく形に変化していくだろうと考えられます。このような変革のためには、「事業変革パートナー」や「DX技術の提供」「プラットフォームの提供」および、新ビジネスの創造が必要になっていくと思われます。その上で必要な人材とは、「DXの加速化」を担う人材、および今後のデジタル社会を担うデジタルネイティブ人材だと考えています。
必要なのは「試行錯誤」が許される場
だからまずは、各企業がいかに「試行のための場」を社内に設けるかが重要になるでしょう。能力のある人材が、裁量を持って、さまざまなビジネスを実践し、それがきちんと評価に結びつくような環境を整えることが重要です。
DX人材の学びの場を育むために、国としてもさまざまな施策を進めています。まずは「Reスキル講座」。これはデータサイエンティストやAIエンジニアを育てるための実践的な講座の受講料を、国が最大70%まで補助する事業です。独創的なアイデアや技術力を有した人材の発掘・育成をめざした「未踏事業」にも継続的に取り組んできました。同事業からはこれまでに約1,800人のクリエイター・起業家が輩出されています。
ほかにも中学、高校等のIT関連の部活動を後押しする「全国IT部活活性化プロジェクト」や、デジタルスキルを無料で学べるオンライン講座「巣ごもりDXステップ講座情報ナビ」など、さまざまな角度から人材育成に取り組んでいます。
さらに今後AI Questではオープンソースコミュニティを日本にいかに根付かせるか、AI人材が副業として新たなビジネスを創出する機会をいかに確保するか、AI人材の能力をどのように可視化するかといった課題についても探求していきたいと考えています。
齊藤:田辺課長、ありがとうございます。DXやAIといったテーマに対して、国がどのように向かい合っているのか、皆さま俯瞰的に理解することができたのではないかと思います。
最大50万人もの人材ギャップを埋めるために
事業の背景にあるのは、将来的に見込まれる大規模な人材ギャップ(不足)です。ある試算では、2030年にはAIやクラウドを使いこなせる先端IT人材が最大で50万人も不足するとされています。このギャップを埋めることが、私たちのミッションの一つです。そのためにはIT人材と呼ばれる人たちを先端IT人材へとスキルアップさせるだけではなく、非IT人材であるオフィスワーカーのリテラシー向上が欠かせません。
通常のオフィスワーカーであれば、必ずしもプログラミングを学ぶ必要はありません。「AIって何?」というところから始めていただき、エクセルなどをベースにデータ分析のリテラシーを高められる教材を揃えています。こうした二方面からのアプローチで「先端AI人材の不足」という社会課題の解決に向き合っていきたいと考えています。
「競争+共創」のエコシステムを実現したい
私たちもDXを支援する側にいて「企業のAI活用が上手くいっていないこと」を日々実感しています。やはり大きな要因は人材不足でしょう。高度なIT人材が事業会社ではなく、IT化を支援するベンダーなどに偏ってしまっているという日本特有の問題もあります。私たちはそれを、次のようなエコシステムを構築することで解決したいと思っています。
ここで生まれたノウハウは教材化して「SIGNATE Quest」などで展開し、「SIGNATE」というプラットフォーム全体を活性化していきます。さらに大学をはじめとした教育機関、学ぶ意欲のある個人とのノウハウ共有も視野に入れています。そうやってそれぞれの場所で技術を磨いた人材が次なるコンペティションに参加し、また新たな企業課題を解決する。そんな循環が生まれることを期待しています。
コンペティションへの参加は、自社の中で埋もれていた人材に企業が気づくきっかけにもなるでしょう。すでにコンペティションで挙げた成果をテコとして、データサイエンティストへのキャリアチェンジを果たした方も大勢います。そういった個人のキャリアデザインを支える場所としても機能するはずです。もちろん国や自治体とも積極的にコラボしながら、DXによる地域課題の解決にも取り組んでいきたいと考えています。
リアルな課題をゲームのように解く「ゲーミフィケーション」などの手法を活用しながら「競争」と「共創」をともに叶えるエコシステムを実現していくこと。そんなテーマについても、本日は皆さんとさらに議論を深めていければと思っています。