DX戦略

IT人材50万人不足の衝撃。今こそ求められるDX・AI人材の育成戦略とは?

「Society5.0」の実現に向け、「企業は、働き方は、暮らしは、どう変わるのか?」をテーマに、デジタルホールディングスが開催したビジネスカンファレンス「Digital Shift Summit」。3日目のKeynote Sessionのテーマは、「我が国のデジタル化・DX化の核となるAI人材」「日本最大AI人材プラットフォームSIGNATEによる社会変革」。経済産業省の田辺 雄史課長、株式会社SIGNATE 代表取締役社長の齊藤 秀氏が登壇しました。「人材育成」をキーワードに展開された、Keynote Sessionの様子をレポートします。

Society5.0は「顧客」を「個客」に変える

齊藤:モデレーターを務めさせていただきます、株式会社SIGNATEの齊藤秀です。本日まずご登壇いただくのは、経済産業省 商務情報政策局 情報技術利⽤促進課 課⻑ 田辺 雄史様です。「Society5.0」の実現に向けて、国家戦略としてどのようにDX・AI人材の育成に向き合っているのか。そのあたりの貴重なお話が伺えると思います。
田辺:皆さん、こんにちは。本日は「我が国のデジタル化・DX化の核となるAI人材」をテーマにお話できればと思います。まずは「Society5.0」の実現によって、ビジネスシーンがどのように変化するのか、を整理することから始めたいと思います。

まず一つ目のポイントは、「人が介在せずに処理できる」ということです。ほとんどの処理を、コンピューターが裏側で担えるようになる。飲食店で考えると分かりやすいでしょう。チャットボットが予約を担い、決済はキャッシュレス。従業員はそれらの管理をタブレット一つで行う。そんなイメージです。

「専用機が不要になる」ということもポイントです。クラウド上の仮想化されたアーキテクチャを利用することで、通常のノートパソコンからでも実行できるようになるでしょう。つまり、あらゆるサービスがハードウェアに依存しなくなるということを意味し、「ソフトウェア・ファースト」とも呼ばれる考え方です。ものづくりにおいても、この考え方を前提としたビジネスモデルが必要になるでしょう。

「トレーサビリティ確保・可視化」も大切なポイントです。これはサービスがユーザーに届くまでの途中経過に介入できるようになる、ということを意味しています。究極的には、提供するサービスをユーザーごとにカスタマイズできるようになる。個別のユーザーが欲しいと思うサービスを、そのまま提供できるようになるイメージです。
ここまでを踏まえると、「Society5.0」時代のビジネスは「顧客価値の最大化」であると、まとめることができます。「顧客」は「個客」と言い換えてもいいでしょう。それくらい「それぞれのお客様に提供する価値を、いかに最大化するか」が、これからのビジネスの主戦場となるはずです。DXとは、そのための手段にほかなりません。DXにもさまざまな定義がありますが、私自身はDXを「データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、競争優位性を確立すること」と位置づけています。

さらにデジタル変革後の社会においては、大企業が牽引しながら、関連する中小企業が下支えするという多重下請構造が壊れていくだろうと考えてられています。今後は、さまざまな業界・企業が相互にそれぞれの強み同士を組み合わせて、新しい価値を提供していく形に変化していくだろうと考えられます。このような変革のためには、「事業変革パートナー」や「DX技術の提供」「プラットフォームの提供」および、新ビジネスの創造が必要になっていくと思われます。その上で必要な人材とは、「DXの加速化」を担う人材、および今後のデジタル社会を担うデジタルネイティブ人材だと考えています。

必要なのは「試行錯誤」が許される場

田辺:では、そういったDXを推進する人材がどこにいるのかというと、「今の世の中にはほとんどいない」と言わざるを得ないでしょう。だからこれから育てなければならない。そのためには実践が不可欠です。座学だけではDX人材は決して育ちません。AIの機械学習には果てしない試行錯誤が必要なことと似ているかもしれません。

だからまずは、各企業がいかに「試行のための場」を社内に設けるかが重要になるでしょう。能力のある人材が、裁量を持って、さまざまなビジネスを実践し、それがきちんと評価に結びつくような環境を整えることが重要です。

DX人材の学びの場を育むために、国としてもさまざまな施策を進めています。まずは「Reスキル講座」。これはデータサイエンティストやAIエンジニアを育てるための実践的な講座の受講料を、国が最大70%まで補助する事業です。独創的なアイデアや技術力を有した人材の発掘・育成をめざした「未踏事業」にも継続的に取り組んできました。同事業からはこれまでに約1,800人のクリエイター・起業家が輩出されています。

ほかにも中学、高校等のIT関連の部活動を後押しする「全国IT部活活性化プロジェクト」や、デジタルスキルを無料で学べるオンライン講座「巣ごもりDXステップ講座情報ナビ」など、さまざまな角度から人材育成に取り組んでいます。
さらに今年度から本格的にスタートしたのが「AI Quest」という取り組みです。これは企業の実例に基づいた課題解決型の実践的な学びの場をつくるための事業です。実際の企業課題と向きあって議論を重ねながら、同時に中小企業の課題解決を実現しようという、一挙両得の取り組みです。

さらに今後AI Questではオープンソースコミュニティを日本にいかに根付かせるか、AI人材が副業として新たなビジネスを創出する機会をいかに確保するか、AI人材の能力をどのように可視化するかといった課題についても探求していきたいと考えています。

齊藤:田辺課長、ありがとうございます。DXやAIといったテーマに対して、国がどのように向かい合っているのか、皆さま俯瞰的に理解することができたのではないかと思います。

最大50万人もの人材ギャップを埋めるために

齊藤:続いては田辺課長のお話を受けて、SIGNATE社としてはどのような活動を展開しているのかを「日本最大AI人材プラットフォームSIGNATEによる社会変革」と題してお話できればと思います。まず私たちはビジョンとして、AIなどのテクノロジーによって新しい時代へと移り変わり、人ができることが増える中で、より良い社会を作っていくお手伝いをしていきたいと思っています。具体的には人間中心の社会の実現を目指した「個のエンパワーメント」に取り組んでいきたいと考えています。
私たちが運営する「SIGNATE」は、約4万2,000人の会員を有する日本最大のAI人材プラットフォームです。このなかで実際にある企業課題の解決に会員の皆さまがチャレンジする「コンペティション」や、実践的な学びをオンライン上で得られる「SIGNATE Quest」、就職のマッチングサービスのほか、今後は副業のマッチングサービスも始めていきます。こういった学びや実践を繰り返す中で、就職や転職、また副業など新たな働き方のチャンスを掴んでいただきたいと思っています。

事業の背景にあるのは、将来的に見込まれる大規模な人材ギャップ(不足)です。ある試算では、2030年にはAIやクラウドを使いこなせる先端IT人材が最大で50万人も不足するとされています。このギャップを埋めることが、私たちのミッションの一つです。そのためにはIT人材と呼ばれる人たちを先端IT人材へとスキルアップさせるだけではなく、非IT人材であるオフィスワーカーのリテラシー向上が欠かせません。
この二つを同時に叶えるのが「SIGNATE Quest」です。まずはエンジニアをはじめとするIT人材には、AIのモデリングなどの最先端技術を、実際に手を動かしながらどんどん学んでもらいます。さらに腕を磨きたい人は「コンペティション」に参加することで、より実践的な課題対応力を身につけることができます。

通常のオフィスワーカーであれば、必ずしもプログラミングを学ぶ必要はありません。「AIって何?」というところから始めていただき、エクセルなどをベースにデータ分析のリテラシーを高められる教材を揃えています。こうした二方面からのアプローチで「先端AI人材の不足」という社会課題の解決に向き合っていきたいと考えています。

「競争+共創」のエコシステムを実現したい

齊藤:次に 「Society5.0」の実現に向けて、我々がどういった考えで事業に取り組んでいるのかを、より幅広い観点からご紹介させていただければと思います。

私たちもDXを支援する側にいて「企業のAI活用が上手くいっていないこと」を日々実感しています。やはり大きな要因は人材不足でしょう。高度なIT人材が事業会社ではなく、IT化を支援するベンダーなどに偏ってしまっているという日本特有の問題もあります。私たちはそれを、次のようなエコシステムを構築することで解決したいと思っています。
まずは企業の業務課題に向き合っていくこと。実際に私たちの「コンペティション」も、企業や行政の抱える具体的な課題をAI課題に落とし込み、そこに賞金を懸けて約4万人の会員さんに解いてもらうという形をとっています。つまり実際のデータを用いながら、オープンイノベーションで企業課題を解決していくわけです。

ここで生まれたノウハウは教材化して「SIGNATE Quest」などで展開し、「SIGNATE」というプラットフォーム全体を活性化していきます。さらに大学をはじめとした教育機関、学ぶ意欲のある個人とのノウハウ共有も視野に入れています。そうやってそれぞれの場所で技術を磨いた人材が次なるコンペティションに参加し、また新たな企業課題を解決する。そんな循環が生まれることを期待しています。

コンペティションへの参加は、自社の中で埋もれていた人材に企業が気づくきっかけにもなるでしょう。すでにコンペティションで挙げた成果をテコとして、データサイエンティストへのキャリアチェンジを果たした方も大勢います。そういった個人のキャリアデザインを支える場所としても機能するはずです。もちろん国や自治体とも積極的にコラボしながら、DXによる地域課題の解決にも取り組んでいきたいと考えています。

リアルな課題をゲームのように解く「ゲーミフィケーション」などの手法を活用しながら「競争」と「共創」をともに叶えるエコシステムを実現していくこと。そんなテーマについても、本日は皆さんとさらに議論を深めていければと思っています。

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