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「AIの社会普及への挑戦者たち、その最前線に迫る!」日本のAI導入企業はわずか3%。AI普及を促進する官民共同の取り組みとは

「Society5.0」の実現に向け、「企業は、働き方は、暮らしは、どう変わるのか?」をテーマに、デジタルホールディングスが開催したビジネスカンファレンス「Digital Shift Summit」。3日目のTalk Sessionのテーマは「AIの社会普及への挑戦者たち、その最前線に迫る!」。パネリストにはAIの社会普及に尽力する官民含めた各界のフロントランナー7名が集い、AIの社会実装を実現するために「企業」「人材育成」「社会」の三つの軸から、四つのセッションにて議論が繰り広げられました。株式会社SIGNATE 代表取締役社長である齊藤 秀氏がモデレーターを務めた、Talk Sessionの様子をレポートします。

AIの普及の鍵は、AIがより「身近なもの」になること

齊藤:本日のトークセッションは「企業」「人材育成」「社会」という三つの軸で進めていきます。それぞれの軸は密接に関連していますので、まずは「AIの社会普及,目指すべき全体像」と題して、その全体像を俯瞰してみたいと思います。パネリストは経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 課長補佐の村上 豊様です。村上さん、AIの社会普及を実現するために、まず企業サイドはどのような課題を抱えているのでしょうか?
村上:本当にAIの活用を進められている企業は、まだまだ少数です。最大の障壁となっているのは、「AIを身近に感じられない」という心理的な問題です。AIとは何なのか。それで何が可能になるのか。それがイメージできていないだけでなく、なかにはAIによって自分たちの仕事が奪われるのではないかと危惧している人もいまだに少なくありません。AIの本来的な活用方法とは、既存の業務を効率化し、より生産的な仕事にリソースをシフトしていくことなのですが、それが十分に理解されていないのです。

齊藤:なるほど。一方でAI人材の育成についての議論が大きく盛り上がりつつもあります。その点はどのように感じられていますか?

村上:これから重要なのは、単にAIをプログラミングできる人材ではなく、AIを組み込んだビジネス全体をデザインできる人材です。そのためには現場で求められるリアルな経験や知識を学べる場が欠かせません。

齊藤:AIの社会普及を実現するには、AIという技術に対する社会的信頼の拡大も大切になるはずです。その点についてはいかがですか?

村上:AIに対する社会的信頼の拡大は、私たちが目指すゴールの一つです。より多くの人がAIを身近なものだと感じられるようになれば、もっとさまざまな活用法が生まれやすくなるでしょう。ただし、それを一足飛びに実現できるかというと、なかなか難しいです。

まずはAIを活用したい企業と、AIを学びたい個人を結びつけ、相互にポジティブな影響を与え合うようなエコシステムをつくり出すことが重要なのではないでしょうか。そうした取り組みを通じて、AI活用の成果を着実に世の中に送り出していくことが、社会的信頼の醸成につながっていくのだと考えています。

齊藤:全く同意見です。続く三つのセッションでも、企業サイド、人材サイド、そして社会全体という三つの視点から、それぞれ議論を深めていければと思います。

AI導入により、2025年までに経済効果11兆円のインパクトも。導入が進まない最大の障壁は「マインドセット」

齊藤:それではまず、企業サイドから議論を深めていきましょう。元経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 課長補佐の小泉 誠様、マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナーを務める櫻井 康彰様をお招きし、「企業のAI導入促進『AIガイドライン整備』」と題して、トークセッションを進めていきます。

まずは小泉さん、今回のガイドライン整備にあたっての政策的な意図などを伺えますか?

小泉:はい、よろしくお願いいたします。私たちは人材育成そのものだけではなく「人材育成のための環境を整備すること」も非常に重要だと考えました。ではどうやってそうした環境を整えていくのか。キーワードは「オープン&シェア」です。

AIの実装にはさまざまなノウハウが必要になります。例えば、製造業でAIを活用するのであれば、既存の生産ラインにAIをいかにアジャストさせるか、生産プロセス全体をいかに組み替えるかを考えなければなりません。また、実装のためにはデータの取り方にも、ノウハウが求められます。そういった試行錯誤がなければ、実装に耐えうるアルゴリズムと新たな運用プロセスは生まれません。

これらのノウハウを「オープン&シェア」するために作成したのが、AI導入のノウハウをまとめた「AI導入ガイドブック」と、企業がデータ提供をする際のポイントをまとめた「データ提供ガイドブック」です。
ここまでがガイドライン整備の大まかな流れです。一方で、少し遡ってお話すると、今回のガイドライン整備の背景には、AIの社会実装が社会的に大きなインパクトをもたらすという調査をしています。その点については、櫻井さんからお話いただけますでしょうか。

櫻井:承知しました。まず中小企業のAI導入によって、2025年までに経済効果11兆円・労働人口効果160万人相当のインパクトが生まれると推計されています。

ところが現実に目を向けてみると、2020年1月の段階で、AIを導入している企業は3%に留まっています。なぜここまでAIの導入が遅れているのか。経営者の方々へのヒアリングなどを通じて見えてきたのは、マインドセットの問題です。AIというキーワードだけが一人歩きしてしまい、具体的に自分ゴト化ができている方がまだまだ少ない。また「ヒト・モノ・データ」をはじめとしたリソースの不足も大きな壁となっているようです。こうした現状を打破するためにつくられたのが、今回のガイドブックです。
齊藤:小泉さん、櫻井さんありがとうございます。最後に、小泉さんから今後の展望をお聞かせいただけますでしょうか。

小泉:やはりマインドセットをいかに変えるか、という部分が重要になる気がします。そのためには一種の「翻訳」のような作業が必要になるはずです。例えば製造業でいえば、今まで行ってきた機械設備の高性能化という文脈で、AIのメリットを翻訳して理解してもらうようなアプローチが考えられるはずです。実際に、今回のガイドブック作成に協力していただいた金属プレスメーカーさんでも、こうした翻訳をしながらご説明した途端に先方の解像度がグンとあがりました。政策として大きな絵を描くと同時に、そうした「現場でのリアリティ」を積み重ねていくことが、AIの導入を絵空事で終わらせないために重要だと考えています。

齊藤:AI導入のためには、経営者や現場の方々にどのような言葉で訴えかけていくのか、コミュニケーションの部分も非常に重要であることが、お二人のお話から理解できますね。

学びの新たな可能性を切り拓く。AI Questの可能性

齊藤:続いてのテーマは人材育成です。セッションのタイトルは「AI人材育成『課題解決型AI人材育成プログラムAI Quest』」。実際にAI Questに携わった、ボストン・コンサルティング・グループの泉 晃様、株式会社博報堂の山田 聰様、そして先ほどに引き続き、元経済産業省の小泉 誠様にお話を伺っていきましょう。まずはAI Questのファウンダーである小泉さん、全体の概括をお願いいたします。

小泉:AI Questは経産省が実施した産業競争力強化のためのAI人材育成事業です。政策としてのポイントは、人材育成を通じた社会実装を進めること。そのため「育成して終わり」ではなく、社会実装につなげることを大切にしています。

まず、AI Questは「三つのわからなさ」の中で、追求をしてきました。まず個人は、何を学んだらどうなれるのか分からない。一方で、企業側も自分たちがどんな人を必要としているのか分からない。そのため育成機関もどんな人を育てたらいいか分からない。この「三つの分からなさ」の悪循環を断ち切るために、AI Questではそれ自体が一つの大きなプロジェクトベースラーニングのようなかたちで、最適な学びのあり方を模索してきました。

さらにもう一つ追求したのが「講師に寄らない拡大生産性の実現」ということ。AIのような新領域で講師を務められる人材は、最前線で活躍しているため教育には手が回らないというジレンマがありました。それを解消するためのチャレンジが、講師に頼らない人材育成手法の開発です。

この2点を踏まえて見えてきたのが、実装までを疑似体験する「ケーススタディ」、学び合い教え合う「コミュニティ」、協力し合い競い合う「ゲーム」という三つのキーワードです。それぞれのキーワードの詳細はお二方にお譲りするとして割愛いたしますが、この三つのキーワードが生み出す「新しい学び」に、非常に期待しています。それこそ日本の産業競争力を向上させるための鍵になるのではないか。そんな風に感じています。
齊藤:ありがとうございます。それではより具体的な部分を、泉さんからお願いできますか。

泉:泉と申します。それではAI Questでどのようなプログラムが提供されているのか、具体的にお話させていただきます。

まずは架空の企業を設定し、要件定義からAIのモデル構築までを体験していただきます。モデルは組み立てて終わりではなく、疑似コンペを開催し、それぞれのモデルの優劣をゲーミフィケーション的に競い合える環境を整えました。さらにそのモデルがどのような改善効果をもたらすのか、クライアントへのプレゼンテーションも疑似体験。ここまでを一気通貫で体験できるケーススタディ型のプログラムを提供しています。

これらのプロセスを講師が指導するのではなく、参加者が互いに教え合いながら進めていくことも大きなポイントです。こうして形成された参加者のコミュニティはプログラム終了後も、情報収集の場としてご活用いただいています。
齊藤:非常に意欲的なプログラムであることが見えてきました。プログラムのUXデザインに携わられた山田さんからもお話伺えますでしょうか。

山田:プログラムをデザインしていくにあたって、私たちが大切にしたのは次の三つのポイントです。

まずは「みんなでフィロソフィーを共有すること」。「“実現”の激流に、飛び込もう。」「“競争”と“共創”。学び合うクルーであれ。」「挑む人々の“港”になるコミュニティを。」という三つのフィロソフィーを掲げ、参加者全体で共有していきました。

次に心がかけたのが「学びをゲームとしてデザインすること」。ゲーミフィケーションの手法を用いて、参加者のアクティブな学習体験のデザインを目指しました。この設計については、ボストン・コンサルティング・グループやSIGNATEのみなさんが中心になって推進され、教材を開発しました。

最後のポイントは「参加者が自由に使える場をつくること」。具体的にはSlackやWiki、Remoなどの活用です。SIGNATEを中心とするチームによって構築され、参加者同士が交流できる場を積極的にセッティングしていきました。

コミュニティデザインに携わってみて、非常に面白いと感じたのは、コミュニティへの参加率と成績の向上率に、きれいな相関関係が得られたことです。AI Questは私にとってもコミュニティの力を改めて実感させられるプログラムになりました。
齊藤:ありがとうございます。ちなみに今回のプログラムには、どういった方が参加されていたのでしょう?

山田:中高生から上は70代のシニアの方まで、約700名にご参加いただきました。参加者の居住地もバラバラ。その多様性が、AI Questの魅力の一つだと思います。参加者のレベルも本当にまちまちでした。特に印象的だったのは、プログラミング未経験の初学者の方が、コミュニティでほかの参加者のサポートを受けながら、プログラムを最後まで完走できたことですね。ほかには「人生を変えるきっかけになりました」とコメントをもらえたこともうれしかったです。

齊藤:700名を超える参加者を抱え、それも完全にオンラインでプログラムを進めるなかでは、運営側にもさまざまな苦労があったのではないでしょうか?泉さんいかがですか?

泉:至らない部分も多々あったと思いますが、プログラムのなかでプログラム自体がどんどん進化できたという手応えもあります。例えば、要件定義を学ぶ際には、どんな順番でどこまでの情報を提供すればいいのか。これ一つをとっても、実は明確な答えはなく、我々自身がプログラムのなかで試行錯誤しながら設計を進めていきました。

齊藤:まさにプログラム自体がアジャイルだった、と。最後に、プログラムのファウンダーである小泉さんから、全体の所感を伺えればと思います。

小泉:先ほどからお話に挙がっているような、コミュニティをどのようにデザインしていくか、ケーススタディの難易度をどうやって調整していくのか、といった議論はこれまで「教育」という文脈のなかでは、決して主役として語られてこなかったものだと思います。こうした切り口に到達できたことに、非常に大きな可能性を感じています。

齊藤:まさに新しい学びの入り口が見えてきたように感じました。これからの展開も非常に気になるところですが、ここで一旦、次のトークセッションへと移りたいと思います。

AIが社会に「信頼」されるために必要なもの

齊藤:いよいよ本日最後のトークセッションです。タイトルは「AIの社会的信頼『普及にむけた今後の展開』」。ゲストは一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)理事であり事務局長を務める岡田 隆太朗様です。岡田さんとともに、マクロな視座から今後のAIの普及について議論を深めていきたいと思います。
岡田:ありがとうございます。まずはJDLAについて、簡単に説明させてください。私たちはディープラーニングの社会実装を目指して2017年に設立された団体です。アワードや出版、勉強会などを通じて先行事例の情報発信に努めています。

ほかにもAI人材のスキルを可視化するために、エンジニア向けの「E資格」とジェネリスト向けの「G検定」という二つの資格試験の策定・運営にも取り組んできました。検定の合格者向けに、CDLEというコミュニティも運営しています。昨年はSIGNATEにプラットフォームをご提供いただいて、ハッカソンを開催するなど、まさに学び合いの場、オープンイノベーションの場として機能しています。

2019年からは高専生を対象にしたディープラーニング活用のビジネスコンテスト「DCON」も開催。2020年大会の優勝チームは、企業から4億円を超える評価を受けるなど、新しい才能の創出にも積極的に取り組んでいます。
齊藤:活動を展開されるなかで、特に意識してきた部分はありますか?

岡田:まずはビジネスマン全体のAIリテラシーを向上させたいということですね。AIについて正しく理解している人が増えれば、意志決定の速度も上がります。ジェネラリスト向けの「G検定」を設けているのも、まさに非IT人材のリテラシーを向上させることが狙いです。

検定制度を設けたことのメリットは、G検定やE資格が会社の募集要項のなかに記載されるようになりつつあることで、少しずつ実感しています。

齊藤:企業にとっても貴重な判断基準ですよね。知識量や技術力が保証されることで、心理的な安全性にもつながる。AI人材の活躍を後押しする制度だと思います。最後に、岡田さんの今後の展望をお聞かせいただけますでしょうか。

岡田:AIという技術を社会全体としていかに受け入れていくかをさらに議論していかなくてはならないでしょう。例えば、AIをコアとしたプロダクトの開発を依頼するとしたら、どのような契約書が適切なのか、品質はどのように保証されるべきなのか。そういった観点からの議論も必要になるでしょう。

齊藤:なるほど。製造業がそうであるように、プロダクトのクオリティだけでなく、品質保証もセットで、価値の担保が求められるようになる、と。まさにAIがほかの産業と同じフェーズに立ちつつあるということですね。岡田さんありがとうございました。
これで本日のセッションはすべて終了です。駆け足になってしましましたが、AIの社会普及を実現させていこうと、今まさに奮闘されているフロントランナーの皆さまにお話を伺う貴重な機会となりました。ここから未来につながるアイデアが生まれるのではないかと期待しています。ありがとうございました。

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