独自技術とIP戦略で日本発世界へ。産業用ドローン市場に挑むスタートアップに迫る。

未来の物流、モビリティのデバイスとして注目されているドローン。2017年に設立された株式会社エアロネクストは、ベンチャー企業として初めて「CEATEC AWARD 2018 経済産業大臣賞」を受賞するなど、その革新的な技術から業界内で注目を集めています。同社のもう一つの特徴は特許やライセンスモデルを事業の中心に据えた「IP経営」。レバレッジの効くユニークな経営手法で描くドローンの未来とそのための戦略とは。お話を伺いました。

重心制御の独自技術でドローン市場に参入

――まずは御社の事業内容を教えてください。

産業用の無人航空機ドローンの機体構造の研究開発を行っています。もう少し平易に説明すると、機体そのものの製造ではなく、特許を中心とした知的財産の開発、ライセンス管理を行なっています。コアとなるのは「4D GRAVITY®︎」という独自の重心制御技術で、分離結合構造とも呼ばれます。プロペラやモーターなどの飛行部と、カメラや荷物などの搭載部を物理的に切り離すことで、機体バランスが安定するのが特徴です。身近な例で言えば、出前で食べ物や食器を運ぶのに使われている箱である岡持ちが傾かない原理と同じです。

軸がぶれずにバランスが安定すると、壁や天井に張り付いたり、ドローン同士を合体させ上空でバッテリー交換ができたりと、これまで難しかった動きも可能になり、幅広い用途開発が可能になります。これまでも重心を安定させるための技術開発は進んでいましたが、どれもソフトウェアで制御するアプローチでした。それに対して我々は、機体フレームなどハードの面から抜本的な技術開発を進めました。実はドローンの機体フレームは30年前の登場以来変わっておらず、だからこそチャンスだと思ったんです。

――グローバルで競争が進むドローンの分野ですが、市場はどのような状況でしょうか。

ドローン市場においては中国のDJI社のシェアが圧倒的で、今さら他の会社は勝てないと言われていました。ただ、DJI社と我々とでは狙っている市場が全然違うと思っています。DJI社は一般家庭用ドローンの販売がメインで、特に撮影機能に特化した機体を作っています。コンパクトな機体で操作性も良い反面、産業利用するには課題があると言われていました。

一方我々の技術を組み込んだドローンは、機体の傾きに対して安定した作業が可能で、産業での利活用がメイン。DJI社の狙う市場とエアロネクストの狙う市場とでは求められる性能が全く違うのです。

――1月に行われたCES2020(Consumer Electronics Show 2020)では人が乗れるドローン「空飛ぶゴンドラ」の開発も発表されました。

はい。4D GRAVITY®︎を応用したもので、人が乗る機体でも我々の独自技術が使えることを示す狙いがありました。2023年には遊園地や観光地で景色を楽しむ乗り物として、空飛ぶゴンドラを社会実装したいと思っています。

数年前から全世界で「空飛ぶクルマ」実現のための技術開発が進んでいますが、私には少し遠い未来の議論すぎて、直近での実現可能性は低いと感じています。検討されているどの技術もお金がかかりすぎたり、そもそも飛ぶのが難しかったりで、今の所ヘリコプターのリプレースのような形しか実現の可能性がありません。

技術的な課題より大きいのは、ユーザーが空飛ぶクルマを身近に感じられていないことです。もし、空飛ぶクルマが実際に完成しても、すぐに乗りたがる人はいないでしょう。これまで経験したことのないものに、わざわざ乗るモチベーションが湧かないのです。移動するだけなら車でいいじゃん、となるんですよね。

ユーザーにドローンで空を飛ぶことを身近に感じてもらうためには、毎日のようにドローンで物が運ばれて来たり、自分がドローンで物を運ぶ経験をする必要があります。その上で、ドローンで空を移動した人が千人、一万人、一千万人と増え、多くの人が体験した先にようやく、移動手段として空飛ぶクルマが利用されるようになると考えています。

特許をとってから製品化、知財開発を内製するというIP戦略

――御社のビジネスモデルについて教えてください。

自社が開発した技術を利用するドローンメーカーからライセンス料をもらうビジネスモデルです。電子部品に組み込まれているテクノロジーを開発し、半導体企業にそのライセンスを提供するArm社やインテル社と同じような戦略です。

――IP(知的財産)を中心にした経営を推進されているとのことですが、具体的にはどのような戦略をとられているのでしょうか。

エアロネクストでは特許を中心とした知的財産の開発、ライセンス管理を行なっています。現在250件ほどの出願特許、30件以上の登録特許があって、毎日のように特許庁とやり取りをしています。おそらくあっという間に成立特許は100件になり、1000件になると思いますが、多分中小・ベンチャー企業でこんなことをやっている会社はないと思います。

これまでの特許の常識は製品を作り、その製品を守るために取るものでした。一方で、特許の取得には弁理士に依頼すれば1件100万もコストがかかります。さらに、その特許が自分たちの技術を正しく反映しているか判断するのが難しい。そこで、私たちは真逆のアプローチで、特許をとってから製品にするという順番にしたんです。すごい技術が特許になるのではなく、誰も思いついていない新規性と進歩性が重要です。まだ誰も発表していないもので、誰もが容易に思いつく論理性がない新しいもの。これが特許になると考えると、あるべき論としては、製品になるその遥か前の時点で取っておくべきなんです。

そのため、我々は表裏二つの動きをしています。まずは、表面で権利範囲の広い基本特許を取る。そして裏側で、より解像度を上げて下位概念を埋めていく。迂回技術で回避されないように工夫していくんです。我々のもう一つの特徴は知財開発を全て内製していることです。具体的には、発明家とIPポートフォリオを構築する専門家がチームで動いています。

知財戦略を司るIP部門のトップにはCIPO(chief intellectual property officer)という経営メンバーをおいています。今でこそCIPOという役職は増えてきていますが、おそらくこの役職を本格的に導入した最初のベンチャー企業はエアロネクストだと思います。CxOの登用はその会社が何をコアコンピタンスにしているかのメッセージだと考えているので、エアロネクストとしてはIPを経営資源の中心に置くというのが対外的なメッセージになります。
知的財産のような無形資産を中心に据えると、ヒト・カネ・モノという、これまでビジネスに必要だと言われ続けてきたものから解放されます。すると、経営者として多くの労力を使ってきた人手不足やステークホルダー関係や売上利益の課題からも解放されるんです。そういった意味で、IP経営はベンチャー企業に向いていると思います。

ドローン産業の中心で評価されるための海外展開

――中国への展開を精力的に進められているのですよね。

はい。中国市場に力を入れています。この技術を世界に最速で広めるためには、ドローン産業の中心に行って評価されなきゃいけないと思ったんですよね。この技術を世界にアピールするためのショーケースとして中国を選びました。昔から、ドローン産業は中国の産業であるという認識があり、実際に我々の想定するユースケースの市場規模は中国がダントツで大きい。だからこそ、まず関係を作り、現地法人を作り、現地の産業ドローンメーカーと組んで、世界に向けてこの技術を発表しました。

日本はこういった新しい技術を社会実装するのに向いていません。法制度の問題や環境の問題など、なかなか不自由で難しい。特にドローンは空を飛ぶので、機体が落ちて人が死んだら産業としてはもう終わりという世界です。それに対して中国は特別な国で、そういった未完成な技術でもどんどん社会実装していこうという方針なんです。かつドローンに関してすでに長い歴史があり、エンジニアもたくさんいて、環境的にもラボと飛行場が併設されていつでも飛ばし続けることができる。

ドローンの技術を磨くのに一番重要なのは飛ばせる環境です。それを手に入れたくて深圳の大学と組んで共同ラボを作りました。日本のドローン産業が10時間飛行させるのに苦労する中で、中国のドローンメーカーは量産機体を10,000時間とか普通に飛ばしているんです。この環境差では絶対に敵わないなと思いましたね。だからこそ、中国展開を重要視しています。

市場ポテンシャルを最大化し、グローバルでの展開を

――最後に、今後の展開について教えてください。

今よりもっと産業用ドローン市場を大きくしたいです。中国市場へ進出した際、周りからは「技術を盗用されるのでは」と消極的な声もありましたが、私はむしろ真似されたいと思っていました。

特許の穴をつき、技術が盗用されるリスクよりも、そもそも本来であれば何百兆円というポテンシャルがあるマーケットが100億円市場で終わりました、という未来の方が怖いと思っていたんです。我々がこの技術の発表をすることで参入する企業の数もその取引金額、市場規模ももっと大きくできると考えていました。

重要なのは、自分たちから技術を売り込みに行くのではなく、世の中の空気を変えること。技術の優位性を伝え、我々の技術を必要不可欠な状況を作ることを意識していました。そのためにこれまでたくさんのベンチャーピッチや国際展示会などに出展し、その結果、多くのドローン関係者に我々の技術が注目してもらえました。

次のフェーズでは、実体化と海外展開により注力します。実体化とは我々の特許技術を使ったドローンが実際に利活用されている状態を作ることです。あれもこれもと手を出すよりは、我々の技術が一番フィットしそうで、かつ大きな市場になりそうな業界に絞って開発を進め、そのカテゴリーの中で名を上げたいと思っています。特に今は物流宅配領域での活用を考えています。

今後の展望を叶えるためにも、我々の独自技術を搭載した機体を量産化する体制を強化したいと考えています。実は開発と量産では別の能力と経験が必要で、その両輪が揃えば、自社の独自技術をグローバルに展開していけると確信しています。
田路 圭輔(とうじ けいすけ)
1991年、株式会社電通入社。1999年、電通と米国ジェムスター社とで株式会社インタラクティブ・プログラム・ガイドを共同設立し代表取締役社長に就任。電子番組ガイド「Gガイド」を開発。2017年、ドローンの知財管理を専門とする株式会社DRONE iPLABを共同創業。資本業務提携を機に株式会社エアロネクストに参画し、2017年11月より同社の代表取締役CEOに就任。

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