日本5社目のユニコーンと報じられた「Opn」。世界を舞台に急成長を遂げるフィンテック企業の展望とは

伝説の幻獣である「ユニコーン」になぞらえて、企業価値評価額の高いスタートアップを評する言葉、「ユニコーン企業」。アメリカや中国でその数が増え続けている一方で、日本では未だ、少ない状況にあります。そんななか、2022年5月にシリーズC+ラウンドで1億2,000万ドルを調達し、日本5社目のユニコーンと報じられた企業があります。それが創業からグローバルを視野に事業を営み、東京やバンコクなどアジア6カ国を拠点とするフィンテック企業、Opn株式会社です。
さらに資金調達と同時に、ビジョンと戦略を刷新。無駄を削ぎ落し、鋭さの増した同社の成功を支える組織とプロダクトの強み、次に目指す世界について、創業者であり、代表取締役CEOを務める長谷川 潤氏にお話を伺いました。

ざっくりまとめ

- Opnは、「決済をシームレスに」「決済をボーダーレスに」の二点に集約して事業を展開。

- 起業に必要な要素「ビジネス」「資本」「組織」が揃うタイでビジネスをスタート。

- 主力事業「Opn Payments(旧Omise)」は現在、50種類の決済手段に対応。国単位の規制をクリアしたプロダクトの使い勝手のよさに絶大な支持が集まっている。

- 新サービス「Opn Tag」は、以前から存在する“タッチ・アンド・ゴー”形式の決済を再び身近にするだけでなく、サービスのパーソナライズ化も同時に実現。

- Opnは既存市場の10倍の価値を生み出すような、世界中にインパクトを与える企業を目指す。

SYNQAからOpnへ。リブランディングの背景とは

――まずは、5月に行ったリブランディングについて、その意図を聞かせてください。

当社はこれまで、ペイメントの「Opn Payments(旧Omise)」とDXに特化した「Opn(オープン)」という二つの事業会社があり、それらを束ねるホールディングス会社として「SYNQA(シンカ)」がありました。また、過去にはブロックチェーンに特化したサービス「Omise Go」もありました。ただ、最終的にいつかは上場という通過点を通る必要があり、消費者や機関投資家などに事業やサービスを説明するにあたり、三つそれぞれをご理解いただくのが難しいことから、ブランドを「Opn」へと一元化した、というのが意図です。

ビジョンには、「Access to the Digital Economy for Everyone(すべての人々にデジタルエコノミーへのアクセスを)」を掲げていますが、これには二つの要素があります。 一つは「シームレス」です。決済はいろいろなシーンに介在していますが、その裏側は複雑です。そこで、僕たちはあくまでもシンプルであることを重視し、シームレスを追求したいと考えています。もう一つは、「ボーダーレス」です。この10年のあいだにインターネットは大きく進歩していますが、サービスの提供の仕方も一つの国に留まらず、グローバルへと進んでいます。そのなかで、決済は切っても切り離せないアクションですから、僕たちのサービスでボーダーレスにサポートしていきたいと思っています。

――来年は、創業10年の節目に当たります。振り返ると、どのようなことが思い浮かびますか?

創業当初、Eコマースからペイメントにビジネスをピボットしたことは大きな決断でしたし、2016年に大きなペイメントゲートウェイを買収したことを機に、これまでの中小企業向けからエンタープライズ向けのソリューションへとサービスを切り替え、カスタマーのサイズ感が変わったことも、当社にとって大きなことでした。

加えて、当社はグローバルを常に意識してきました。僕たちのスタンスは「日本の企業が海外に進出している」ではなく、「グローバルビジネスの一つの展開として日本にも進出している」ですから、採用でも組織を成長させていくのにふさわしいグローバルな人材を迎えることを念頭に置いています。実際、この春Appleの幹部として活躍したクリス・ミズナーに参画してもらいました。

必要な要素が揃っていたタイで起業。東南アジアから世界を目指す

――長谷川さんが起業の地としてタイを選んだ理由を聞かせてください。

事業を始めた2013年当時を振り返ると、日本ではスタートアップに対するエコシステムができていなかったことが大きかったように思います。具体的には、スタートアップと事業提携を行う大手企業がいなかったこと。スタートアップを成功に導く「資本」という部分での、投資家のマインドが海外とは違っていたことが挙げられます。つまり、スタートアップに対する投資の重要性が高まっておらず、「ビジネス」はさることながら、「資本」「組織」をつくる難しさを感じました。そんなとき、20年来の親友であり、当社のCo-Founderでもあるエズラ・ドン・ハリンスットの誘いを受け、タイに渡りました。彼はニュージーランドとタイにルーツがあるので、人とのつながりも豊富で、マーケットも熟知しており、起業に必要な要素がそろっていると感じられたことが、タイでの起業を選ぶきっかけになりました。
 
――「ビジネス」「資本」「組織」の3点から見たとき、日本との違いはどういった点に感じられたのでしょうか?

タイには、既存のインフラが整っていないという根本的な問題があり、それがビジネスチャンスともいえます。更地に家を建てるのは簡単ですが、ライフラインの整った充実した家を建て直すとなると、ものすごく大変ですよね。日本はいわば、こうした既存のインフラの上でビジネスを行わなければなりませんが、タイは“更地”なので自由につくることができます。既成概念にとらわれることへの恐れもなければ、失敗もありません。そういう意味で、ビジネスを進めやすい土台があったことは大きな違いです。

また、タイは環境がよいので移住者も多く、グローバルな人材を獲得するのは日本ほど大変ではありません。資本という意味でも、当時からCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル) がたくさん起ち上がっていますし、スタートアップを支援するVCもたくさん進出しています。東南アジアのマーケットは勢いよく伸びているので、中国の企業をはじめ、海外投資家がお金をどんどん入れていくような環境があったこともふまえると、タイでビジネスを始めるという選択はとてもよかったと思っています。

東南アジアは、一つひとつのマーケットが日本のように大きくないので、最初からグローバルに出ることを目標にしないとそれなりのスケールサイズが取れません。ですから、グローバルなマインドを成長させるという意味で、東南アジアは非常に面白いと思います。

グローバル企業の決済を裏で支え続けるOpn Payments、四つの強み

――オンライン決済サービス「Opn Payments」が、東南アジアを中心に支持されています。その理由は何だと考えていますか?

大きく四つあります。まずは導入のしやすさです。当社では、プラグインと呼ばれる、ノーコードでシステムを導入できるパッケージを用意しています。これが非常に構築しやすく、どの程度かというと、YouTubeに「カップラーメン VS Opn Payments。3分間でどっちが先にできるか」というコンテンツを公開したほど。そのくらい簡単に導入できることが非常に受けています。
         
二つ目はシンプルなプライシングです。Opn Paymentsには、“見えていない費用”が一切ありません。お客さまの商品が売れ、決済が行われてはじめて当社は手数料をいただく、というモデルなので、win-winの関係が構築できています。
   
三つ目は徹底的なローカライゼーションです。当社は、その地域の商習慣や決済手段に合わせてプロダクトを用意しています。たとえば、タイは所得が低いため、クレジットカードの使用率も低く、クレジットカード決済の機能を設けても、ほとんど意味がありません。そこで、僕たちは独自のインターネットバンキング、ウォレットサービス、そして、国独自のQRシステムといった、クレジットカード以外の多数の決済手段に対応することで、タイの人がオンラインで買い物をしやすい環境を構築しました。現在、約50種類の決済手段に対応しています。

四つ目はボーダーレスです。事業会社が他国でサービスを展開するにあたり、利用するソリューションの開発導入コストを抑えることは、とても大切です。ただ、ペイメントは国ごとにライセンスを取得する必要があり、そのためには各国のセキュリティ基準を満たさなければならず、非常に大変です。その点、当社はさまざまな国のライセンスを取得しており、これらを同じ仕組みのもとシステム構築しています。たとえば、僕たちの顧客のバイトダンス社は、いくつかの国で同時にOpn Paymentsを導入していますが、開発テストは一度で済んでいます。さらに、僕たちは一つのダッシュボードで、どこの国でいくら儲けているのかが一目で分かるオペレーションも提供しています。
   
――躍進の続くアジア地域で、Opn Paymentsは今後どのような展開を考えられていますか?
   
「シームレス」「ボーダーレス」を実現するべく、サービスを東南アジア全体に広げることを考えています。いまは、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシアの展開ですが、今後はベトナムとフィリピンでのサービスインを目指しています。その上で、東南アジア全域にビジネスを広げているグローバルマーチャントはどこなのかを精査し、その加盟店にOpn Paymentsをご利用いただくことを実現したいです。これは、僕たちが成長を遂げる上でも、サービスを利用してくださるお客さまにとっても重要だと考えています。

NFC技術を活用した決済サービス「Opn Tag」で、新しい決済体験を創出

――続いて、新サービス「Opn Tag」がどのようなサービスなのか、教えていただけますか?

レストランやホテルなどの事業者が、NFC技術(※)やQRコード技術を通じて支払いを受け取ったり配送手配を行ったりできる、非接触型のプラットフォームです。レジやテーブルにデジタルメニューやカタログ情報を搭載したOpn Tagを設置すれば、お客さまはそこにスマホをかざすだけで情報を読み取ることができ、表示されたメニューやカタログから注文や決済、配送といったアクションを簡単に行うことができます。

※NFC技術:近距離無線通信規格の一つ

――開発のきっかけと狙いを聞かせてください。

日本はNFCが至るところにある環境なので、国民の多くはタッチして買い物することに慣れているはずです。ですから、「NFCよりもQRコードのほうが、決済手段として多く使われるようになりました!」というニュースを見て、「いやいや、喜んでいちゃだめだ。これは退化じゃないか」と、驚きました。Suicaをはじめ、タッチ・アンド・ゴーですべてが完結する世界に歩みを進めるはずがいまや、スマホのパスワードを解除して、アプリを起動し、カメラを開いて、フォーカスを合わせて……って、決済のステップが2倍にも3倍にも増えて、不便になっているんですから。そこで、以前の利便性を取り戻したいと思い、Opn Tagの開発へと至りました。コロナ禍で人が触ったものに触りたくないという風潮も追い風です。

――ユーザーの反応はいかがですか?

現在、タイと日本でパイロットテストを行っていますが、この前、タイのカフェでお客さまが注文する姿を何度か見かけました。消費者にとって新しいデジタルタッチポイントでもあるので、「あるなら使ってみよう」と、面白がって使っているな、と感じました。本当にタッチするだけの最小限の動作で済むところは傍から見ていても非常に便利だなと思い、手ごたえを感じています。

――Opn Tagが普及した世界を、どのように想像されていますか?

サービスのパーソナライズ化が進んでいくと考えます。たとえば、僕は丸の内の決まったコーヒーチェーンで、毎回、同じドリンクを注文するのですが、その時にOpn Tagをタッチしてメニューを呼び出し、注文して、カード情報を基に決済してもらいます。その次に銀座の同じチェーン店でタッチしたときには、いつも注文しているものが最初に表示されるようになります。最終的にはどこのコーヒーチェーンで使っても、これが実現する世界をつくろうとしています。そうなると、たとえば、アレルギーのある人は、特定の食材が使われているメニューを表示させない、という使い方も可能です。つまり、タグの設置場所やメニューはバラバラでもユーザーを中心にサービスが展開される、ということですね。これは、カスタマーセントリックといわれる手法です。事業体が違ってもその人にとって最適な情報を常に提示することで、利便性を高めることを目指しています。

「世界をマーケットにシェア拡大を目指せるビジネス」の評価が資金調達を実現

――今年5月、シリーズC+のラウンドで1億2,000万米ドルもの資金調達をされ、日本で5社目のユニコーン企業と報じられました。どのような点が評価されたのでしょうか?

コロナ禍でもよい成長を遂げることができていること、「決済をすべての人に提供したい」「どこでも利用できるものにしたい」というシンプルな事業メッセージが評価されていると考えます。

どこでも利用できるようにするためにはマーケットサイズを拡大していかなければならず、実際は難しいものです。その点、当社は東南アジア6カ国+日本という市場で勝負しているので、1%のシェアを取っただけでも日本の1%とは比べ物にならないほど大きなインパクトがあります。すると、「それだけ伸びしろのあるビジネス」という可能性を見てもらえるので、“成長の見込めるグローバルカンパニー”である点もまた、評価につながっていると感じています。

なお、調達した資金は、プロダクト開発、そしてフットプリント(占有領域)の拡大に向け、M&Aやライセンス取得のための費用、インフラ費用として活用する予定です。

既存の10倍の価値を生み出すテクノロジーで、世界中にインパクトを与えたい

――最後に、次の10年に向けて抱負を聞かせてください。

本当の意味での、グローバル企業になる。ここに尽きると思います。どこにいてもOpnが提供する決済サービスを利用できる状況をつくることが、僕たちの目指すところです。

Uberがサービスインした当時、タクシー業界は「我々のビジネスを奪っている」として、Uberを訴えました。このとき、タクシー業界の売上は月100億ドルほど。しかし、Uberはすでに1,000億ドルもの売上を上げていたといいます。つまり、Uberは奪ったパイの10倍もの新しい市場を生み出したわけです。Opnもまた、このようなビジネスをしないことには、人々の生活にインパクトを与えられるテクノロジーにはなりえません。僕たちのプロダクトによって、人々はさらなるビジネスチャンスをつかむことができる。そして、消費者にもよい影響を与えることができる。そんな企業を目指していきたいです。

長谷川 潤

Opn株式会社 代表取締役CEO

1981年生まれ。東京都出身。
経営者の両親の元で育つ。高校時代に単身渡米しWebサービス開発を経験。
ライフログアプリ「LIFEMee」で2009年TechCrunch50のファイナリストに選出。
複数の起業を経て、2013年タイでECサービスを開発するOpn(旧Omise)を設立。
ワンストップペイメントの決済機能開発へのピボットが好機となり、タイ財閥系携帯事業社との業務提携を経て、マレーシア、シンガポールなど東南アジア全域展開を収める。
Forbes JAPANの「JAPAN’S STARTUP OF THE YEAR」の常連優勝者でもあり、「日本の起業家ランキング2020」で4位に選ばれる。

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