フィンテックとは何か。分類されるビジネス・トレンドをご紹介。

最近よく耳にする"キャッシュレス"はフィンテックという世界中で進められている動きの一部でした。フィンテックというジャンルに分けられるビジネスの内容から、2020年以降フィンテックで注目されるトレンドの内容、今後の展望を予想。

フィンテックとは

フィンテック(フィンテック)とは、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語です。金融のサービスと情報技術を結びつけた革新的な取り組みのことを指します。身近な例でいうと、スマートフォンなどを使った送金もその一つです。しかし金融業界の関係者からは「ワードの意味が広すぎる」と指摘されているようです。たしかに、送金、決済、融資、投資、仮想通貨と、全く違うビジネスがひとつのワードに含まれていることになります。

暮らしに与えられるフィンテックの影響例1

これまでは現金・銀行振込・クレジットカードの3つが主な決済手段でしたが、最近ではモバイル決済が普及しつつあります。スマートフォンを機器にかざすだけで決済が完了でき、現金どころかカードさえも取り出さずにお会計ができるようなりました。今後、日本へのさらなる観光客の増加や、2025年の大阪・関西万博に向けてインバウンド需要に対応すべく、政府はキャッシュレス決済の普及を進めています。今後もフィンテックを活用した決済サービスの登場が期待されています。

暮らしに与えられるフィンテックの影響例2

決済・送金・会計以外にも、ビットコインなどの仮想通貨関連サービスがフィンテックに分類されることもあります。中央銀行を発行主体としない仮想通貨は、国境をまたいだ送金や決済に便利であるとして、2017年頃からバブル的な人気を博しました。現在はまだ決済手段として広く普及したとは言えないものの、一部の飲食店や家電量販店を始めとして支払いに使用できるという店舗も数多く存在し、増加し続けています。

フィンテックと呼ばれるビジネスの例は

一口に金融とテクノロジーを組み合わせたものとはいえ、フィンテックには様々な利用例や活用方法があります。ここからは上記のような影響を持つフィンテックの具体的なビジネスの例を挙げていきます。

スマートペイメント

具体的に、フィンテックはどんなビジネスから成り立っているのでしょうか。フィンテックの中で特に注目すべきテーマはスマートペイメントです。これは商取引において、現金や銀行での手続きを必要としない電子的な決済のことです。スマートペイメントを使用すればお札や小銭を持ち歩き、管理する必要がなくなります。そうすると銀行での手続きなどにかかる時間や手数料がなくなるので、より早くコストをかけずに消費者の支払方法の選択肢を広げることができるのです。

仮想通貨

仮想通貨は、特定の国家による価値の保証がない通貨のことです。主にインターネット上でお金のように取引され、専門取引所などでドル、円、ユーロ、人民元などの法定通貨と交換することでお金として手に入れることができます。一部の商品やサービスの決済に利用できる場合もあります。ビットコインをはじめとした仮想通貨は、簡単に送金ができることと、特定の組織に依存しないといったメリットがありますが、価格変動が激しいなどのデメリットもあります。

クラウドファンディング

クラウドファンディングとは、ユーザーが計画したプロジェクトに資金を提供してくれる人をインターネット上で募集し、資金を集めることです。大きく分けて「寄付型」と「購入型」の2種類があります。「寄付型」はリターンを求めない支援です。募金との違いは、支援がインターネット上で可能であることと、資金提供後のプロジェクトの進捗状況が確認できる点です。「購入型」はリターンを求める資金提供であり、リターンはプロジェクトによって生み出されたモノ、サービスのことです。具体的には集めた資金で開いたお店の限定会員券、劇場チケットの先行購入ができたりなどのさまざまなリターンがあります。資金提供者は少額からの支援が可能なため、ユーザーは支援金をとりこぼすことなく集められるというメリットがあります。代表的なクラウドファンディングサービスはJapanGiving、Makuake、Readyfor、CAMPFIREなどです。

デジタルで完結する投資・資産運用

アプリやwebで簡単に投資できるサービスや、投資・資産運用で利用する分析ツールサービスなどを販売するビジネスも広まっています。資産運用を企業やソフトに任せるタイプと、自分で投資先を選定するタイプの2つに分けることができます。前者は、AIを使った解析によって資産配分や金融商品の選定、リバランスなどを自動で最適化するものもありロボアドバイザーと呼ばれます。後者はスマホから投資できるOne Tap BUYや、テーマ別投資のFOLIOなどがあります。

融資(レンディング)/トランザクションレンディング

ここでいう融資とは企業からの融資を意味しています。主にトランザクションレンディングと呼ばれるもので、楽天などのECサイトに蓄積されている取引データ(売上実績)をもとに融資するというものです。数値データなどを使用し与信の手間や審査期間を短くすることができ、融資を申請する前から蓄積されたデータをもとに事業者与信を行うため通常の銀行からの融資と違い審査期間が圧倒的に短く、決算書の情報も不要という特徴があります。

送金・割り勘

主に個人間でのモバイル端末による送金と割り勘ができるというサービスのことを言います。基本的にはクレジットカードからアプリ内に残高をチャージし、割り勘で払うべき金額を残高から送金・決済します。Yahoo!ウォレットやLINE Payは資金移動業者として登録されているので現金化することができますが、割り勘アプリのpaymoに関しては資金決済法で管轄されていないため、あくまで決済の一部である割り勘のための現金化は可能、というものです(レシートの画像も必要)。このように現金化できないサービスもまだ複数ありますが、今後さらに発展していくサービスの一つと言えるでしょう。

法人向けサポート

このカテゴリには、主に企業の会計業務をサポートするサービスが含まれます。これらは数値や画像をクラウド上で管理することにより領収書の集計、請求書作成、確定申告、決算書作成などの業務をサポートします。また、福利厚生サービス(給与の前払いなど)、法人向け送金サービスもこちらに分類されます。このようなサービスを活用することで、正確性が必須で時間のかかる経理関連の業務を効率的に行うことができ、企業の生産性向上に繋げることができます。

PFM(個人財務管理)

PFMはPersonal Finance Managementの略で、銀行や証券、保険など複数の口座情報を集約して一元的に表示させるサービスです。日本でのPFMは主に家計簿アプリとして普及しており、レシートの読み取りやネットバンキングとの連携を通して、お金の管理ができるというメリットを提供します。以前はそれぞれの口座にログインして残高照会をしなければ、資産の状況を把握することができませんでした。そこで各金融機関のAPI(Application Programming Interface)やスクリーンスクレイピングという技術を使って、利用者一人が持っている金融機関それぞれの複数の口座情報を集め、ひとつの画面に表示することで、一元管理を可能にしました。

フィンテックが急成長した理由

フィンテックと呼ばれるビジネスが急成長している理由で最も大きなものは、スマートフォンの普及です。フィンテック事業者は、戦略をスマートフォンに特化したUIを提供するアプローチに変えてきました。さらにハードウェアの計算性能が上がり、ベンチャー企業でも簡単にデータ解析(ビッグデータの流れ)を利用し、与信判断などを行うようになりました。中国、米国、イギリスといった国々で金融庁を中心とした関係省庁がフィンテックに力を入れています。こうした国々では銀行やカード会社といった、既存の金融機関とベンチャー企業が協業する土台ができてきたようです。

フィンテック領域のトレンドについて

今までの生活様式が脅かされた2020年のこの状況下で、フィンテックがどのような環境にあり、どのような変化を求められているのかを改めて整理していきましょう。ここからはフィンテック領域のトレンドについてご紹介していきます。トレンドを把握することで、フィンテック関連企業のこれからの戦略などを理解するヒントになることでしょう。

従来の金融産業の衰退

伝統的な従来の金融機関システムは、私たちの想像以上に時代遅れとなっているようです。とある調査で、他産業と比較して金融機関は圧倒的にデジタル化が遅れを取っており、国内の50%以上の銀行がデジタル化を充分に達成できていないといわれています。外出自粛が原因で支店サービス・ATM利用は激減し、代わりにモバイルバンクが台頭しています。ほぼ全ての銀行がオンラインでサービスを届ける手段を模索していることでしょう。そこでフィンテック企業は、銀行向けに新しいデジタルシステムを提案することができます。古びた銀行のシステムをウェブやモバイル、クラウド世界に拡張させていくことができるのです。

セキュリティリスクを軽減するサービス

今年急速に広まったリモートワークですが、金融機関が最も懸念しているのは、セキュリティリスクの増大です。VPN(仮想プライベートネットワーク)を活用し安全な通信の確保に務めるのはもちろん必須です。るこの状況は、ハッカーが機密データへのアクセスをしやすくするチャンスを作ってしまっています。今後はマルウェア攻撃の検知システムなどの需要も高まっていくでしょう。

オンラインのカスタマー対応ツールの需要

金融及びフィンテック企業は顧客が実店舗に来る機会が激減したため、店舗にて相談やセールスをすることが厳しい状況です。そこで必要となるのが、完全オンラインで顧客とコミュニケーションを取る新しい手段です。一般的にはコールセンターの拡充やZoomを利用するなどの取り組みが考えられますが、より先進的な方法として、AIチャットボットの導入が増加しています。既にAIチャットボットを実装済みの企業も多くあります。これに続く形で、古い制度やシステムからなかなか抜け出せなかった金融機関も今後はAIチャットボットの導入に踏み切ることが予想されます。

RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)

RPAとは、従来ホワイトカラーと呼ばれるビジネスマンたちが行っていた作業を、AIを搭載したソフトウェアが代行・自動化する概念です。以前からも注目を浴びていたコンセプトでしたが、新型コロナの感染拡大によって、企業は一層の作業効率化・自動化を余儀なくされており、RPAの需要も増加しています。最近では、Kryon社のRPAのように、「何のタスクを自動化すれば良いか」という判断を自動的に決定し、その上で自動化プロセスを実行するソフトウェアもあります。

デジタル・アイデンティティ

銀行情報や医療情報、位置情報など、自分自身に関する全ての情報をデジタルIDに紐付け可能だとしたら、今最もなにが求められているでしょうか。おそらく、ウイルス感染拡大を抑制するトラッキングアプリの実装が一刻も早く求められることでしょう。完全オンラインでビザ申請を済ませ、デジタルIDにビザ取得証明データを紐付けることで、渡航をスムーズに行うことができます。医療情報と位置情報を紐付けることができれば、認証ひとつで自分が非感染者であることを簡単に証明できるかもしれません。

キャッシュレス

現在、キャッシュレス化が加速している要因は二つあります。一つ目は非接触型決済の増加。二つ目は中央銀行が発行するデジタルマネーの需要です。キャッシュ(紙幣及び硬貨)は、デジタルマネーと比較すると人間同士の直接的な接触を引き起こしやすい取引形態です。加えて外出自粛によりECやフードデリバリーの注文時、カードや電子マネーの利用機会が増えています。そして現在注目すべきは、今回のコロナ危機に対する経済刺激対策の一環として、中央銀行デジタル通貨(CBDC: Central Bank Digital Currency)の必要性が叫ばれている点です。もし米国が中央銀行デジタル通貨を実現させることになれば、フィンテック業界に与える影響はさぞ大きなものになることでしょう。

金融モバイルアプリの台頭

ここまでも述べてきたように、コロナ危機の状況下では人々は銀行支店営業が困難であり、かつ利用者もこれまでとは同じように支店へ足を運ぶことは難しい状況です。そこで代替策として利用されているのが、チャレンジャーバンクなどと呼ばれる金融モバイルアプリです。ドイツ発のチャレンジャーバンク「N26」の各地はATMの利用が半減する代に変わってきたということです。今後のフィンテック市場の成長にも期待が高まります。

フィンテックの展開と未来

フィンテックのキーワードが広がりはじめた当初は、ビジネスにとってそこまで大きな脅威とはみなされていませんでした。しかしテクノロジーが成長するにつれアンバンドリング(最適化されたテクノロジーで、金融機関のサービスをフィンテック企業が迅速に低コストで提供すること)の影響も次第に大きくなっています。フィンテック企業は開発力を生かして事業を水平方向に展開しています。ビジネスを行う"場所"(ネットと実店舗)が異なっていたため競合関係になかった企業同士が、同じ土俵となり競争が激化していくことが予想されます。消費者にとってはより良いサービスの選択肢が増えることにもなります。

スーパーアプリの発展と競争

中国および東南アジアでは、すでに多くの人がウィチャット(WeChat)やグラブ(Grab)、といったスーパーアプリを利用しています。スーパーアプリとは、決済や送金機能を中心としてライドシェアやホテルの宿泊予約、デリバリーなど日常生活と結びついた色々なサービスをスマートフォンから利用できる統合型アプリのことです。アジア各国は経済成長により観光客が増加し、国境問わず利用できるスーパーアプリの価値が年々高まっています。日本と海外スーパーアプリ勢との競争が本格化し、日本もフィンテックだけでは収益化が難しくなるでしょう。クロスボーダーの経済力取り込みが重要なトピックとなっていくことが予想されます。

ハイパーパーソナライゼーション

近頃、クレジットカードやローンを提供するフィンテック企業(また与信ロジックの提供企業)が与信のためにプロファイルされた収入などのさまざまなデータを活用し、結果としてマイノリティや収益性が低い立場の人を差別的な傾向に陥る可能性が指摘されています。フィンテックにおいてもプライバシーを侵害したり、差別につながるような行き過ぎたデータ活用は規制されるようになっていくでしょう。このような最適化は「ハイパーパーソナライゼーション」とも呼ばれますが、フィンテックにおいても真にパーソナルアシスタントと呼べるサービスが登場することが期待されています。

フィンテックの影響が本格化するのはこれから

フィンテックは、今後も決済・送金・会計などを中心として私たちの生活に深くかかわりながら発展していくことが予想されています。キャッシュレス化が進むと、現金の使用率が減って決済の手間が格段に削減されるでしょう。飲み会のような多人数の集まりの場でも、スムーズに支払いを済ませられるようになるでしょう。また節約や家計改善の分野でも、預貯金額の推移や支出の管理、無駄遣いなどのアラートを出したりと、今よりもさらに簡単に把握できるようになります。まだ知られていない分野での活用やサービスなども登場しているため、今後より一層フィンテックという言葉が浸透していくことでしょう。

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