【VR展示会】テクノロジーの力でファッション業界に変革を。ブランドの“世界観”で勝負する、新たなる価値の創造

ECサイトやショッピングモールなどの店舗出店が相次ぎ、プラットフォーム化が進むファッション業界。さまざまなブランドの服を一度に比較できるようになり、消費者からすれば利便的に進化しているようにも思えます。しかし、ファッション業界を牽引するアパレル企業にとって、プラットフォーム化は“安さ”や“カメラ写り”で戦う市場を狭め、本来のブランドイメージを損なうことにもつながりかねないのです。

そんなファッション市場に一石を投じたのは、子供服のファッションブランドとして十数年の歴史をもつ『toitoitoi (トイトイトイ)』(運営:株式会社マザーリップ)とVRの企画・制作を行う株式会社エドガ。
まだVR(ヴァーチャル・リアリティ)という言葉が世間に浸透していなかった2017年の春、世界中のバイヤーに向けて発信された『VR展示会』がメディアでも話題になりました。今やプロモーション活動の一環としても活用される場面が増えた最新テクノロジー。今回は、その先駆けとなった施策の企画者である株式会社エドガの代表取締役・米本大河さんに当時のお話を伺いました。

※本記事は、『drop:フィジタルマーケティング マガジン』で、2019年5月28日に公開された記事を転載したものです。

ブランドの世界観で勝負する。世界初の『VR展示会』実施の背景

▲株式会社エドガ 代表取締役 米本大河さん

▲株式会社エドガ 代表取締役 米本大河さん

――『VR展示会』実施に際して、気をつけたことはありますか?

制作にあたって最も強く意識したのは、「ブランドの世界観を表現する」ということでした。ブランドのコンセプトは、ヨーロッパ調のハイエンドなイメージだったので、あえて振り切ってゴッホが手がけた絵画「アルルの寝室」を展示会の会場として再現しました。

現実では到底再現できない世界観を、VRでは表現することができます。三次元になったゴッホの部屋の世界観と服が持つブランドイメージを合わせて、うまくブランドの世界観を表現できたと思います。
▲ゴッホ絵画「アルルの寝室」を再現したVR空間(CG製作者: ruslans3d)

▲ゴッホ絵画「アルルの寝室」を再現したVR空間(CG製作者: ruslans3d)

――現在の技術で、洋服の生地感などの細かい部分まで表現できるのでしょうか。

生地感に関しては、かなり高精度なカメラを使って洋服を三次元データ化したので、目視でその素材が何で作られているかが伝わるくらいには表現できていました。ですが、限りなく本物に近いリアルを求めるなら、現段階ではさらに高い技術とコストがかかり、あまり現実的ではありません。

したがってVRを活用した施策では、「本物」とは違う付加価値をもたらすことが重要だと考えました。そこで展示会のテーマが春物ファッションだったので、窓からフワッと桜が舞い込んでくるとか、美しい音楽が流れてくるとか……服を見せるだけではなく、空間全体でブランドの世界観を表現できるのがVRのおもしろさだと思っています。
▲春に実施された『VR展示会』。窓の外には桜が咲く

▲春に実施された『VR展示会』。窓の外には桜が咲く

――VRだからこそできる演出ですね。

本来、展示会でできることは限られているんです。当然予算がありますし、希望の場所を確保するにも、フロアを装飾するにも限界があります。だけどVRは、コンピューターグラフィックスの世界なので、どんな装飾・演出でもバーチャルに表現できます。ですから、ブランドの伝えたい世界観を表現できるファッションとVRの組み合わせはすごくマッチしていると思います。

VR活用の意義は、“企業ブランディング”と“課題解決”。最新テクノロジーがもたらすふたつの効果

▲展示会場で実際にVRの展示を見ている様子

▲展示会場で実際にVRの展示を見ている様子

――展示会当日の反応はどうでしたか?

『VR展示会』は、通常の展示会場の隣で行っていたのですが、やはり誰もがVR未経験で、声に出して感動される方もいらっしゃいました。リアルの世界では、買い物やウィンドウショッピングに行って感動することなんてないと思うんです。それを服やブランドイメージを通して、今まで出会ったことのない感情と衝撃を与えられたのを感じました。クライアントである父も、最初に来てくださった何人かがVRで感動している姿を見て、終わる頃には「やって良かった」「おもしろい取り組みだった」と口にしていましたね。

――印象に残っているエピソードはありますか?

おもしろいなと感じたのは、普段いらっしゃるようなアパレル関係者以外の方がブランドを見に足を運んでくださったことです。展示会に来られた方が、別の方に声をかけて……というような連鎖が口コミで広まっていったようです。

――やはりテクノロジーの注目度は高いですね。

今はさまざまなWebメディアに掲載してもらえることが増えましたが、展示会のときもVRがトリガーになって、自分たちが想像していなかったメディアに掲載していただいたり、仕事のご縁につながったこともありました。実施してあらためて最新テクノロジーが持つパワーや影響力を感じました。
今は『VRを使って何かをする』ことが、興味喚起を促したり、雇用の促進になったりと企業ブランディングにつながります。でも、私たちが大切にしているのは本質的な課題解決という部分です。

――今回の施策の本質的な課題解決は、「ブランドの世界観を伝える」ことに紐づくのでしょうか。

はい。ブランドにはそれぞれ世界観があって、伝えたいメッセージがあります。だけどそんな世界観のある洋服も、ECサイトでは数枚の写真で判断されてしまうし、ショッピングモールでは施設の世界観に合わせて企業プロデュースをしなければなりません。そうなれば服のカメラ写りだったり、安さで勝負しなければいけなかったり……もう戦う土壌が出来上がっているんです。ですから、「ブランドの世界観を伝えたい・体感してほしい」という思いを抱えているアパレルブランドがVRを活用すると、今まで戦えなかった部分で訴求することができると思います。

2年越しに『VR展示会』を振り返って思うこと

――あの頃は、まだ『VR』という言葉すら認知されていなかったのではないでしょうか。

そうですね。当時はほとんどの方が「VRって何?」という状態から入るので、普及という観点で言えば、実施時期はまだ早かったのかもしれません。ですが『VR展示会』は、最新テクノロジーを使ってこんなことができるんだというのを示せた施策でした。

しかし、2年経って思うのは、普及は急速に進んでいるということです。今まではVRをひとりに体験してもらうために、パソコン機材とヘッドセットで金額にして30万円程の設備が必要でした。それが今では2万円程で似たようなことができるようになっているんです。

――そうしてテクノロジーの発展が進めば進むほど、ファッションという分野は活用の幅が広がりそうですね。

そうですね。もともとファッション業界は、テクノロジーに疎いジャンルですが、このふたつを掛け合わせることにはすごく重要性を感じています。今はインスタグラムやECサイトで買い物をする全盛期にいますが、これがあと5〜10年先になるとテクノロジーがさまざまなところに活用されるようになって、今までとはまったく違う新しい購買体験が実現できるようになるはずです。

実際にどうなるのかは分かりませんが、例えば「洋服が欲しい」とあるデバイスに音声入力をすれば、3Dの洋服がパッとそこに現れて、その場で買い物ができるようになるかもしれません。ファッション業界に限りませんが、今までスマホや雑誌などの2Dでしか見られなかったものがより臨場感をもって情報を受け取れるようになっていきます。

最新テクノロジーがおもしろいなと思うのは、AR、VR、IoT、AIなどの技術が統合されることで、世の中が三次元化していくことなんです。そうなったときにこの施策を振り返って、あのとき世界で初めて実施した『VR展示会』がビッグバンのひとつだったと実感できる日が来るのではないかなと思っています。

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